病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に備えて、薬剤師が準備しておくこと

壮大なタイトルになってしまいました。

本来は日本薬剤師会、病院薬剤師会といった所が出すような見解かも知れません。

 

ご存知の通り、本ブログは個人的な見解での内容ですので

余り大したことは書けません。通常通り気楽にお読みいただければと思います.

 

多くの施設で、この未曽有の感染症に対して、

何かできないか、色々とお考えの方も多いかと思います。

できることは限られていますが、どんなことができるでしょうか。

 

少しでも情報を収集し、自施設も含めた現場に貢献できるように、準備しておきたいと思いまして、すこし書かせていただきます。

 

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ウイルス

 

 

 

 

現在治療中の方の薬剤についての不安を取り除く

私たち薬剤師が接する方は、健康な方より、疾患を抱えた方が圧倒的に多いと思います。

そして、様々なところで報告されている通り、

 

・重症例は主に⾼齢者で認められていること

・重症化しやすい要因として、⾼⾎圧などの循環器疾患、糖尿病、喘息や COPD などの呼吸器疾患、がん、各種免疫不全、⼈⼯透析など

 

 

とされています。

 

参考:医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド、⼀般社団法⼈  ⽇本環境感染学会

「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第2版改訂版 ver.2.1)」の公開について|日本環境感染学会

 

すでに基礎疾患を抱えている方たちにとっては、基礎疾患の治療を薬物療法で行っている中で、よくわからないウイルスが流行しているという状況です。

そして、服用している薬が、新型コロナウイルスに悪影響を与えるのではないか、という事も気にしています。私も相談を受けました。

 

高血圧の代表的な薬剤、ACE-I、ARBで、下記の論文が出ました。論文がLancet Respir Med だったので、衝撃的でした。

 

Are patients with hypertension and diabetes mellitus at increased risk for COVID-19 infection?

https://www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(20)30116-8/fulltext?fbclid=IwAR2oRXHweQuw3CLmgJuAh7q556SJ83lnw4m8_G9LK8GtppeAPUtwGG1Fn9o

 

https://doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30116-8

 

内容は原著をあたってほしいですが、概要として、下記のような内容かと思います。

 

・コロナウイルスは、ACE2を標的として結合する

・ACEもしくはARBを服用している1型もしくは2型糖尿病の患者では、ACE2が増加する

・ACE2が増加すると、コロナウイルスへの感染が促進される

 

 

この話題は、私たち職場で聞いてみても、知らない人のほうが多かったです。

知らなければ、別に恐れる必要もないのです。

 

知らなければ、です。

 

今は、良くも悪くも、色々な情報が容易に収集できるようになっています。上記の論文もフリーで見ることができます。

 

本文の最後には、Caブロッカーではそのような報告がない、代替になる可能性があると記載されています。しかしながら、中止をするべきとは書かれていません。

 

記事のとらえ方かと思います。

 

私は、たまたま日本で生まれ、母国語は日本語です。

英語圏の論文など、必要に迫られなければ、読みません。

これはほとんどの方がそうではないでしょうか。

 

しかし、日本で生まれても、そのような人ばかりではないですし、

英語圏の情報に容易にアクセスし、世界の動向をいち早く感じている人も、

多くいます。

 

そのような方が、たまたま自分の身の周りに居ないので、

気づかないだけなのかもしれないのです。

 

私も以前、病棟で患者さんとお話ししている際に、

「君はFDAのアラートなどは見ているか?この薬は欧米では普通に使っているが、日本で使用できるのはいつになるか知っているか?」

 

など、本当にうろたえることになるような話をされた経験があります。

 

長い海外勤務のため、米国の情報が一般的となっているこの方の発言には、

とても驚きました。私は、うろたえ、プライドも何もボロボロになりました。

別な方に、FDAの情報から、米国のラベルの情報をみて、

自分なりに話したこともありました。

クロピトグレルの警告などの話だったと思います。

 

私が知らない情報を、得られる人は、

私の力を借りなくても、自分で解決できるでしょう。

 

私は薬剤師ですので、薬の情報は、出来ることなら、

どんなことでも、誰よりも集めて、吸収して、自分なりの見解を持ちたいと考えています。

 

著名な先生の受け売りでも、初めはいいのかもしれないのです。

 

色々な薬剤の、不安になる様々な情報から、

その患者さんに見合った情報を見つけ、

提供できるようにする必要があるかと思います。

 

上記のACE-IとARBと、コロナウイルスの関係ですが、

EMAで分かりやすく解説が出ています。

 

・上記LANCETの報告もあるが、体内のRAASとの関係は複雑で、解明されていない

 

そして、自己判断で中止しないよう、継続して服用することを推奨しています。

 

https://www.ema.europa.eu/en/news/ema-advises-continued-use-medicines-hypertension-heart-kidney-disease-during-covid-19-pandemic

 

このような記載もあります。

 

・疑問があったり、薬について不確かなことがある患者は、医師または薬剤師に相談する、まず最初に、医療の専門家に相談せずに、通常の治療を中止しないことが重要である。

 

医師または薬剤師、と書かれています。

 

患者さんから聞かれた際に、コロナウイルスとの関係を聞かれた際に、

薬剤師として正しく対応できるでしょうか。

薬のプロフェッショナルとして、患者さんに正しい情報を伝えられるでしょうか。

よくわからないから、主治医に聞いてください、

と簡単に思考停止に陥っていないでしょうか。

 

不安になっている人の不安を、取り除くために、

役立つことはできるでしょうか。

 

日々の情報収集と、正しい理解も必要で、

自己研鑽を怠ってはいけないと思います。

 

NEJMにもこの話題がありました.

Renin–Angiotensin–Aldosterone System Inhibitors in Patients with Covid-19

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsr2005760?query=RP

 

COVID-19とRAAS(RENIN–ANGIOTENSIN–ALDOSTERONE SYSTEM)について

アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)は,まだ不明な部分もあり,解明できていないメカニズムもありそうです.

心疾患の既往を持つ高リスク患者さんのRAAS阻害剤の突然の中止は危険,

という上記と同じような記載です.

 

 

イブプロフェンの情報もありました。こちらの方が話題になったかもしれません。OTCでアセトアミノフェン製剤が品薄に、というお話も聞きましたが、これもEMAで報告がされています。

https://www.ema.europa.eu/en/news/ema-gives-advice-use-non-steroidal-anti-inflammatories-covid-19

 

こちらは厚生労働省のHpにまとめたものもあります。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00004.html#Q22

 

色々な情報を収集する、全ては患者さんのため、です。

不安になって,今服用している薬を自己中断することの無いように,不安を取り除くことが大切かと思います.

 

新型コロナウイルスに罹患すること

こちらは治療に関する事ではなく、罹患した人に対して偏見を持たない、

という事です。

当たり前かもしれませんが、これはいつも心にとめておく事かと思います。

 

患者さんの治療は、医師を中心に行われます。

 

そして治療の経過で、私たちも関わることになります。

 

薬局でも、当然ですが、来局することになるでしょう。

 

医療従事者であっても、感染する事がありますし、

かからないという事はないです。

自分もかかるのは怖いですし、いつそうなるかもわかりませんが、

医療従事者である事を常に忘れないようして、行動したいと考えています。

 

そして、疑われる場合には、しっかり自己管理をする。

症状があって、勤務する事の影響を考えることも大切かと思います。

私は、医療機関に勤務している、という事を認識し、

薬剤師としてのプロフェッショナリズムをもって

業務にあたっていきたいと考えています。

 

自分が罹患する、ということを考えてみます。

 

それによってどのような影響があるのでしょうか。

 

一般の方が罹患した時と比べて、何が違うのでしょうか。

 

自分が,うつしてはいけない人に、うつしてしまうかもしれない。

それを避ける為に何をすべきなのかを考えることでしょう。

 

新型コロナウイルスに関しては、罹患した人が問題ではないのです。

それに対して偏見を持つこと、忌み嫌ってしまう事、

これを避けなくてはいけません。

 

コロナウイルスに対策を取るべきであって、

罹患した人を軽蔑する事ではないのです。

 

あの人が感染した、という事ばかりにとらわれてしまう事は、

避けなくてはいけないです。

 

人権などについても、令 和 2年3月28日 の、

新型コロナウイルス感染症対策本部決定での資料になりますが、

新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針 に書かれています。

こちらが全般的に書かれているので、一度確認しておくことをお勧めします。

 

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000614803.pdf

 

普段何気なく過ごしている人が、突然ウイルス感染し,

どこで何をしていたのか、など確認することになります。

 

それも必要なことでしょうし、戸惑うことになるでしょう。

 

私たちはいつその立場になるかということにおびえながらも、

けっしてその方たちを、軽蔑してはいけないですし、

なりたくてなっているわけではない、

流行性の疾患という特殊性も配慮して、

業務にあたる必要があると考えています。

 

正しく怖がる,という表現になるのでしょうか.

医療従事者としての心構えをもう一度思い返しています.


薬剤師の視点から

保険薬局で勤務していようが,ドラッグストアで勤務していようが,

病院で勤務しているようが、薬剤師として働いている限りは,

場所は関係ないと思います.

 

薬剤師として,薬に関する情報は,得ておかなくてはいけません.

 

特に今回は,ワクチンもない,今まで経験したことのない疾患です.

どのような薬が,効果があるのか,全くわかっていない,

新型コロナウイルス感染症.

どのような薬を使用するかは,医師の判断になるかと思いますが,

その選択のための資料や,情報を知っておくことは大切でしょう.

ワクチンができるまでの間,様々な薬が検討されることになります.

 

相手がウイルスであることから,

変異なども考慮すると(新型コロナウイルスの薬剤耐性などの知識はないので想像です),これがあれば,という1薬剤にならない気がします.

 

全世界で,やはりもっとも動きが早い薬剤師の集団は,ASHPでしょうか.

 

COVID-19関連治療のエビデンスの評価の一覧を公開しています.

https://www.ashp.org/Pharmacy-Practice/Resource-Centers/Coronavirus

 

考えたくはないです.大流行のことは.

 

震災と同じかもしれません.

しかしおこってしまった時に慌てるよりは,

少しでも,余裕のある今の時点で,情報を押さえておくことは大切でしょう.

 

上記ASHPの資料に挙がっている薬剤は,国内でも挙がっているものと同じような薬剤です.

現在までの情報で,どの程度の裏付けがあるのか(有効性に関する臨床試験)などの記載もあります.

情報についての注意点もあります.情報として必要かと思います.

ASHPは本当に素晴らしいところです.

米国の病院薬剤師としての地位も含め,

いろいろなことの違いを思い知らされる,圧倒的な情報提供能力があります.

 

そして,下記のような声明を出しています.

AMA、APhA、ASHPがCOVID-19医薬品に関する共同声明を発表

https://www.ashp.org/News/2020/03/25/AMA-APhA-ASHP-Issue-Joint-Statement-About-COVID-19-Medications

 

個人的に,私はこの声明にも注目しました.

今回の件もそうですが,医薬品はパニックなどで,

買い占められたりすることは絶対あってはならないと考えています.

 

抜粋してみます.誤っているかもしれませんので,リンク元をご確認ください.

 

・COVID-19の治療法として,現在特定の医薬品(クロロキン,ヒドロキシクロロキン,アジスロマイシン)の報告について

・一部の薬局や病院では,COVID-19の予防と治療に使用する可能性を見込んで,これらの薬を過剰に購入しているという報告がある

・この組織はこれらの行動に強く反対する

・これらの薬剤の備蓄,過剰なオーダーによる供給の枯渇は,その地域で薬剤が入手できない場合,ループスや関節リウマチなどの状態の患者に,重大な結果をもたらす可能性がある

・医療機関は,COVID-19と診断された患者に,必要となる可能性のある新しい処方と,既存の患者に対して,定期的に薬を服用する必要がある患者のバランスをとる必要がある

限られた資源の管理をすることは必須である

 

 

あまりうまく訳せないのですが,

もともとCOVID-19のための薬剤ではない以上,

それに備えての実薬の備蓄は,既存の治療の方に影響がある,

という認識は常に持っておく必要があるかと思います.

 

いつ起こるかわからないから,まだ何も起こっていないのに,

何十人分の準備をする,使わなかったら返品で,

というような思考を停止した対応は,絶対避けなくてはいけないと思います.

もちろん,十分量に賄えるほどの医薬品が流通していれば,

それに越したことはないのですが.

オセルタミビルなど,自治体での備蓄などの方が

珍しいと思います(これは期限切れも問題になりましたが).

 

米国は供給状況についてもFDAで情報発信していますし,

国が大きいからでしょう,薬剤の欠品などの内容を見てみると,

結構深刻な薬剤が挙がっていたりします.

 

日本国内は,薬剤の流通は,非常に恵まれていると思います.

米国には卸の在庫管理なんてないと,

留学されていた方からお聞きしたことがあります.

 

メーカーから直で医療機関へ届くため,

欠品などは結構日常的であったと.

 

今の世界最高水準の医薬品供給状況に

なれてしまっていることは,非常に贅沢なことなのでしょう.

 

それゆえに,日本国内であっても,

やはり医薬品を自施設のことだけを考えて過剰に備蓄することは,

避けなくてはいけないと感じています.

 

医薬品情報の収集を怠ることもそうですが,

医薬品の安定供給を妨げるような行為は,

やはり薬剤師として,避けなくてはいけないことになるかと思います.

 

有益な情報先を知っておく

厚生労働省の情報をしっかり確認すること,

まずできるところから日々行っておくことが大切ではないかと感じています.

 

感染症学会のHpには,治療の例なども挙げられています.症例が報告されているので,非常に貴重な情報です.

新型コロナウイルス感染症|感染症トピックス|日本感染症学会

 

今回のブログを書くにあたり,参考にさせていただいた情報は下記です.

 

日々の情報収集,自分なりの判断が必要になるケースも出てくるでしょう.

少しでも多くの有用な情報を知っておくことも,

大切なことだと感じています.

 

 

最後になりますが,先日かなりご高齢の方とお話を致しました.

印象深かったことをすこしモディファイしますが,記載します.

 

「私は戦争も経験していて,いろいろなものが戦時中はなくて,それを生き残ってきたので大抵のことはへっちゃらだよ.でも今回のコロナウイルスは,目に見えないし,怖いね」

 

今回のことは,この数週間,数か月で,

予想できないような状況を引き起こしています.

おそらく,言い方はよくないですが,戦争と同様に,

後世の歴史の教科書に刻まれることになるでしょう.

 

あまり意識はしていませんが,私たちは今その瞬間を生きていることになります.

あとで思い出して,あまりに嫌な思い出ばかりになってしまうのもつらいです.

 

私たちは今生きているのです.

そして陰ながら,私も医療従事者の一人として,

患者さんのために勤務しています.

 

上記のように,戦争という未曽有の状況を乗り越えてきた方でも,

肌で怖いと感じている,これは事実かと思います.

 

私もそうですが,閉塞感やら何とも言えない空気感,

塞ぎ気味になっています.

あまり具体的ではなく,おおざっぱですが,

自分に何ができるかを考え,

薬剤師としてできることを少しずつ準備しておくこと.

 

これに尽きるのではないでしょうか.

 

個人でできるところから,始めてみます.

 

一日でも早い収束を願っております.

 

以下はリンクです.

 

厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html



日本感染症学会

新型コロナウイルス感染症|感染症トピックス|日本感染症学会



日本薬剤師会

新型コロナウイルス関連肺炎に関する情報 |日本薬剤師会



日本病院薬剤師会

日本病院薬剤師会

 

CDC

Cases in U.S. | CDC

 

WHO

Coronavirus disease 2019

 

EMA

Coronavirus disease (COVID-19) | European Medicines Agency

 

ASHP

https://www.ashp.org/