病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

病院の中でマスクができなくなる日

通常でもマスクがない,という報道がありますが,いよいよ病院にも

その状況が迫ってきています.

マスクが無くなることはないと信じたいですが,今の状況を考えると,

病院内で,感染対策上も,マスク不足による深刻な問題になってきていることが

浮き彫りになっています.

 

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マスク

 衝撃だった京都大学の報道

下記の報道がありました.

 

「1週間に1枚」マスク不足深刻 京都の病院、他の感染症リスク懸念|社会|地域のニュース|京都新聞

3/23の記事ですが,報道の内容は衝撃的でした.

病院でもマスクが不足してきています.

手指用の消毒用アルコールも不足気味ですが,当施設でもマスクはひっ迫してきているのは同様です.

 

この内容,気になる点は下記です.

 

・京都大学医学部付属病院で起こっていること

・原則1週間に1枚

 

京都大学医学部付属病院という,日本国内の屈指の大学病院であっても,

このような状況になっていること,そしてその使用の方法が,

本当に厳しい状況を表しています.

3月上旬のようで,少し回復してきているという報道ですが,

感染対策上,マスクが交換できずに使用し続けられている現状は,

非常に厳しい状況だと思います.

 

病院内のマスクを有効に使う

限られている医療資源を有効に使う.

当施設でも分類を分け,いち早くマスクの優先度を考慮した分配としました.

 

①呼吸器系の暴露が多い部門

 集中治療室や救急センター,呼吸器疾患病棟・検査室,手術室などを含む部門の

 医師,看護師が中心

②ほどではないが,患者さんと接する部門

③患者さんとの会話程度にとどまる,もしくは接しない部門

 

という形に分類しました.

病院にはどのような方が来られるかわからない状況ですが,

暴露の状況などから,施設内で検討,

優先的にマスクを使用いただくという方法です.

 

数施設にお聞きしてみましたが,

どの施設も同様に対応しているようでした.

原則として肉眼的にも汚染されたマスクを使い続けるのは非常にリスクも高く,

病院という場所では,ほかの方に移してしまう可能性もあります.

それでも1日1枚に制限されるような状況で,

呼吸器系疾患の患者さんに接する医療従事者は,

厳しい状況に追い込まれています.

 

当薬剤科のマスク状況

上記の振り分けに従うと,②③のどちらかになります.

調剤の際に,散剤の業務にかかわる担当者は,

衛生的な業務の関係上,マスクをしないで行うわけにはいきません.

また,同様に抗がん剤の調製,高カロリー輸液の混合や無菌製剤の

業務にあたる薬剤師に優先度をつけ,

マスクを使用してもらうことになります.

そうすると,薬剤科長とDI室担当者は,

③の分類になるため,マスクを着用することは

現時点で優先度は低くなるため,行わなくなりました.

 

各部門の部門長,科長に当たる方たちは③に分類されることが多いため,

偉い人達の会議ではみなマスクなしで会議が行われるというような

状況になっているようで,少し不思議な状況ですが,

現場を優先するという判断は正しいように感じます.

 

施設内でも,ただ医療スタッフなので,

なんとなくマスクをしているような医療事務の方(ご本人談)も

いらっしゃいましたが,

この状況で病院内でのすみわけすることで,

限りあるものを有効に使う,

ということは本来行っておくべきことだったのかもしれません.

 

患者さんはどのように感じているのか

入院している方にお聞きしてみた際,何とか清潔に使用するように使っていると

教えていただいたり,

それこそお前はマスクをしていなくて大丈夫なのか,とも言われたりしました.

 

少し衝撃だったのが,食堂で並んでいる際に,

ご家族の方の会話で,

「朝早くから並んで買ったから,自宅にはたくさんマスクはあるわよ.1年分くらいは大丈夫」という会話を聞いてしまったことでした.

 

トイレットペーパーの報道もありましたが,

現状はマスクも同様のことが起こっていて,

報道の影響なのかはわかりませんが,

少なくとも必要以上に購入をしてしまっている方が

いることは現実のようです.

 

マスクは何のためにつけるのでしょうか.

そしてそれを自宅にたくさんため込むという行為をしてしまう心理も含め,

コロナはいろいろな問題を私たちに投げかけています.

 

マスクについての正しい理解を

マスクの供給不足,買いだめの話が出たときに,

田舎から連絡がありました.

どこかで売っていないだろうか?という話とともに,

たくさん買っておいたほうがいいだろうか,という連絡です.

 

トイレットペーパーの時と同じですが,

必要性より,なくなるという強迫概念にとらわれて購入するのは,

本当に必要な方が,使えなくなってしまうという状況に

追い込まれてしまいます.

 

厚生労働省からマスクについてのお願いというものが出ています.

これが最もわかりやすく,知っていただく必要があることになります.

いま改めて知っておく必要があるので,

リンクとともに,加工せずにそのままを掲載させていただきたいと思います.

 

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マスクについてのお願い


 

https://www.google.com/url?client=internal-element-cse&cx=005876357619168369638:ydrbkuj3fss&q=https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000594878.pdf&sa=U&ved=2ahUKEwjQ6L7LtrXoAhWHGaYKHYyRBs0QFjABegQIBBAB&usg=AOvVaw34AtsWHBoJVvBdfEnbHFrC

 

この中には,マスクを使用する際の大前提として,

マスクの使い方を考えることを目的として分かりやすく書かれています.

 

マスク不足からくる,必要な人に,必要な分を,

ということが最も大切なことかと思いますが,

その必要な人はどんな人なのか(風邪や感染症の疑いのある人)が書かれています.

 

自分がマスクを必要としているのは,

ただの予防のためではないか?

マスクをすることで他に困っている人に影響しないのか,

ということを考える必要があると思います.

 

マスクの転売

県立病院職員がマスク転売 倉庫から持ち出し10倍で―岩手

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020022900560&g=soc

この2月末の報道も,衝撃的でした.

臨時職員の方が,病院のマスクを持ち出し,

フリマアプリで売却した,という報道です.

 

2020/3/11に,マスク転売についてのQ&Aも厚生労働省,

経済産業省,消費者庁より出ています.

転売については取り締まりがなされるようになりましたが,

こんなことが日本でも起こるのかというほど,

コロナウイルスとマスクの状況は,

今まで普通に過ごしていた生活を,

いろいろな意味で壊し始めています.

 

当施設もこの報道前後から,マスクの管理を厳しく行うようになりました.

部門の管理は配給のような形で庶務部門から薬剤科へ配給.

1日の数の確認などもあり,

病用によっては看護師長がカギ付きのロッカーで管理している病棟もあります.

 

医療従事者と病院にいらっしゃる患者さんを守るマスクが,

自由に使用できないというのは,

手を洗える環境が整っていないから,手を洗わない,

となるように,非常に危険な状況になりつつあります.

 

マスク転売は,報道も多少は影響があるかと思います.

明らかに病院でしか使用されていないメーカーであろうマスクも,

売りに出されているというような報道は,

現場も混乱していてしまいます.

 

日本国内であまり経験しない,不足に対する不安

私も含め,日本国内で生活されている方のほとんどは,

いろいろなものにあふれていることもあるでしょう,

何かが不足して生活に困るという経験はほとんどなかったかと思います.

 

私も病院薬剤師になって,ここ最近の医薬品供給に関するトラブルが,

最近非常に増えてきていることを実感しています.

それは様々な原因があるので,一概には言えませんが,

余裕がないことも大きな原因の一つかと考えています.

 

極端なコスト削減などによる余裕のなさ,

とでもいうべきでしょうか.

それは致し方のないことかもしれませんが.

 

不足した時こそ,その使用が必要な方に優先されるべきであり,それはどのようなものであっても同じかと感じています.

 

医薬品の場合は,現在の日本において,

その処方に当たって医師の指示があるため,

ある程度修正や代替への変更なども,診断がなされることで,

一定の質を担保することができています.

 

その点,不足した際の影響などの対応においても,

ある程度の規制の中でも,

パニックになるようなことは少ないと思います

(ほんとは見た目上平静を装っていますが,

かなりパニックになっていますけど).

 

日常品を含むものは,その購入に当たっては,

お金と時間があればだれでも購入することができ,

規制などは難しいと思います.

そしてそのようなことに注力する必要もなかったわけです.

 

今は世界中が,今まで経験したことのないような状況に追い込まれています.

そしていくつかのことについて考えてみると,

そのパニックに陥っているのは,不足する,足りなくなるという

恐怖などもそうですが,

使用について,正しい理解ができていない

ということにつながっていると思います.

 

自分も含め,一般の方に,正確な情報を理解いただくための報道の在り方,

というのは今回いろいろな方が感じていることかと思います.

 

当然未知のウイルスに対する対応なので,

だれも正しいことはわからないと思います.

新しい事実が出てきた際に,

固定概念を除いて順応する必要もありますし,

困ったことがあったときには誰かのせいにしてしまって,

早く解決したいというような流れになっていたのも事実かと思います.

 

知人がドラッグストアで働いています.

マスクの話を聞くと,うんざりしていました.

 

下記の資料にある通り!とうなずいていたアンケートがこちらです.

http://www.super.or.jp/wp-content/uploads/2020/03/nsaj20200324covid19.pdf

 

一般社団法人  全国スーパーマーケット協会からまとめられている

新型コロナウイルスの影響に関する実態調査になります.

2020 年 3 月 11 日(水)~19 日(木) の調査期間で,

調査対象件数:966 社(スーパーマーケット名鑑掲載企業),

回答率23%となっています.

 

少し抜粋してみます.

マスクだけではないようですが,

 

(商品入荷不足)

・メーカーも従業員不足等のため、入荷できなくなっている商品が多数出て来ている。

・商品入荷薄の為、2 週間のチラシの中止を実施。

・マスクの入荷が無く、目処もたってない。

 

 

(顧客対応)

・SNS のデマ拡散による一部商品の過剰購買行動が発生し、従業員の対応が増え、負担が増加している。

・毎日、マスク等を求めて、開店前に行列ができているので、開店時の多忙な時間帯に、誘導係に2~3人をかけなければいけない。

・マスク、紙類に対する品薄から、苦情が増加している。  

・開店前に並ばれるお客様や、商品問合せの電話対応(マスク、除菌関係)。

 

 

(業務用マスク、衛生用品の不足)

・生鮮作業室のマスク、アルコール類の不足が深刻で今後の製造に影響も。

・マスク着用を義務つけているが、在庫があと少ししかなく、入荷の見込みがないのが課題

・衛生上マスクをつけての接客をしておりますが、各自の在庫にも限りがあるので、そこが苦労しております。

 

 

このあたりの内容が,眺めていて

とてもうなずいていた部分です.

 

少し聞いた限りででてきたお言葉です.

・業務中に呼び止められるのもつらく,ないことに関して責められ,時間も取られる

・マスクは扱いたくない

・国がマイナンバーカードを使って制限できるようなシステムにしてほしい

・同じ人が何度も買いに来ている

 

などなどです.

精神的なダメージを受けているのがよくわかりました.

下記のような記事もありましたので,同様に感じている方も多いでしょう.

 

ひどすぎる「マスク切れ」のクレーム 従業員を疲弊させるお客の“迷惑行動”が明らかに (1/2) - ITmedia ビジネスオンライン

 

私は病院での勤務のため,マスクをお売りするようなことはないのですが,

これではドラッグストアを含む小売業の方たちは疲弊してしまいます.

 

マスク報道に求められるもの

今回のマスク不足騒動,いろいろなところでマスクの

製造を開始という報道が出てきてい,すこしほっとしています.

 

正しく使ってもらう,使ってもらいたい方に使ってもらい,

不要かもしれない人には遠慮いただく,

という本来あるべき使い方に戻ることを願っております.

 

そのための努力は,別に誰が行ってもよいと思います.

 

当施設でも,正しいマスクのつけ方をしていない医療従事者には,

感染対策チームが厳しく指摘しています.

 

どの施設にも感染マニュアルに織り込まれていると思われる,正しいマスクのつけ方.

下記はわかりやすいです.

メディコムジャパン|正しいマスクの着用方法

 

マスクが必要な方はどのような人なのか.

そしてその方たちにしっかりマスクが届くように,不要と思われる人には使用しないことも認識してもらうこと.

使うのであれば正しく使ってもらうこと.

 

もうこの程度でよいのではないでしょうか.

 

街中でN95マスクを鼻だして使用されている光景を見たときは,

倒れそうになりました.

しっかりすると,息苦しいマスクです.

それを必要としている方なのかはわかりませんでしたが.

 

不足をあおるような報道より,

正しいつけ方,必要としている方に届けるための購入者への啓蒙.

 

厚生労働省が作成している資料を,ただひたすらに報道で流す.

 

面白味もないかもしれませんし,

きっとスポンサーもつかないでしょう.

現実的ではないかもしれません.報道は自由ですし.

 

しかし,少し振り返って考えてみると,

今回のキーワードに出てくる,行動変容,という言葉は,

まさしくこれが起こることにより,

今のパニック寸前の状況を回避できる可能性があると考えています.

 

マスクの供給を含む報道だけでは,影響は少ないでしょう.

 

CDCの資料などを見ても,マスクは健康な方にとって,

過剰に期待するようなものではないということを,

しっかり報道いただきたいです.

マスクを必要としていない方たちが,朝から並んで,

売り切れたら定員に怒鳴り散らかしているという行動は,

いろいろな方を疲弊させているだけでなく,見ていてもつらいです.

 

Prevention of Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) | CDC

 

If you are NOT sick: You do not need to wear a facemask unless you are caring for someone who is sick (and they are not able to wear a facemask). Facemasks may be in short supply and they should be saved for caregivers.

 

 

病気でない場合:病気の人をケアしていない限り(フェイスマスクを着用できない場合),フェイスマスクを着用する必要はありません.フェイスマスクは不足している可能性があり,介護者のために保存する必要がある.

 

不足した時こそ,必要な方に,必要な分を.

 

医薬品と同様の考え方で,マスクも行き届いてほしくて,

少し脱線する部分が多かったですが,書かさせていただきました.