病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

後発品自主回収から感じる様々な影響

最近医薬品回収が続いていますが,今回の件については少し気になる部分がありました.

なかなか公にできない部分があるのも承知しているつもりですが,

これからのことを考えると,医療現場では少し整理していただきたい,

と感じることもありまして,書かせていただきました.

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Don't Panic

 

今回対象となった医薬品

PMDAより,2020/7/27付で,

沢井製薬の

(1)エダラボン注射液 (2)オザグレルナトリウム注射液 (3)グラニセトロン塩酸塩注射液 (4)ゾレドロン酸注射液 (5)リネゾリド注射液 のバッグ製剤,

東和薬品の

エダラボン点滴静注30mgバッグ「トーワ」が自主回収となっております.

医薬品等の回収に関する情報 2020年度クラスII(医薬品)

 

多いと感じるか少ないと感じるかは,それぞれでしょう.

共通なのは,点滴用のバック製剤,という事になります.

 

詳細はミクスに詳しくあります.そちらも引用させていただいて

少し対応について,問題点も踏まえ,提言させていただければと思います.

あくまで個人的なものですが.

 

今回の回収の対象となった理由は・・・

沢井・東和 エダラボンなど共和クリティケアの受託製造品を自主回収 環境モニタリング試験に不備

沢井・東和 エダラボンなど共和クリティケアの受託製造品を自主回収 環境モニタリング試験に不備 | ニュース | ミクスOnline

 

上記ミクスの資料より,

環境モニタリング試験(浮遊微粒子、付着菌・浮遊菌・落下菌)に不備があった

 

とされています.

 

PMDAからも7/27付でクラスⅡの回収がでています.

 

薬品の製造工程は,様々な工程があります.

今回は薬品充填時の問題となっておりますが,

その後の工程で滅菌等が行われていることから,

出荷判定試験には適合している,という事のようです.

 

少しややこしいですが,

  • ソフトバッグ製剤の薬液充填エリアなどで環境モニタリング試験に不備があるが
  • 全てのロットで出荷判定試験に適合している

 

とありますので,

①製造工程の一部では不備が(原因確認中,現在工場は製造ストップ)あるが,

②最終の出荷の段階ではOKになっているという,

なんとも難しい状況のようです.

 

今回沢井製薬が判断した理由でも,

製品品質への影響がないことを完全に否定することができないことから、自主回収

という,リスクマネジメントを考慮した対応となっております.

 

ここで感じる違和感

上記ミクスの報道,またPMDAの情報(PMDAだけではわかりませんが)をみてみると

 

沢井・東和 エダラボンなど共和クリティケアの受託製造品を自主回収

とミクスの記事にもありますように,

共和クリティケアとありますが,自主回収になっているのは共和クリティケアの製品ではなく,沢井製薬,東和薬品の薬剤です.

 

今回対象の沢井製薬,東和薬品の各医薬品の添付文書を見ても,

共和クリティケア株式会社の名前はありません.

 

ミクスの記事でも

製造委託先の共和クリティケアから、ソフトバッグ製剤の薬液充填エリアなどで、2017年1月以降に行った環境モニタリング試験(浮遊微粒子、付着菌・浮遊菌・落下菌)に不備があったとの社内調査の結果報告を受け、事態が発覚した

 

 とあります.

 

具体的には,沢井製薬,東和薬品の添付文書情報には,共和クリティケアで製造されているような情報が読み取れません.

私はてっきり沢井製薬,東和薬品それぞれが,

それぞれの工場で製造しているものと勝手に考えていました.

 

私が感じた違和感の一つが,

沢井製薬,東和薬品の対応が早かった(7/27)のに比べて,

問題となったであろう共和クリティケアからの情報が遅れていること,

そしてどの薬品が回収を含めた対応になるかが想像できない,という事です.

 

 

沢井製薬Hp

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沢井製薬Hp

東和薬品Hp

 

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東和薬品Hp

共和クリティケアHp

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共和クリティケアHp

本日7/28になり,夕方にアップされていますが…

ちょっとわかりづらいですね(失礼かもしれませんが)

Hpといい意味で同化してしまっていると感じるのは私だけでしょうか.

(しばらくデザインかと思って見つけられませんでした.)

下の部分に表示されるかと思っていたのですが・・・

真ん中部分にあります.

 

7/28時点では,

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共和クリティケア回収7/28

アセトキープ3G注          

エスロンB注      

グルアセト35注             

ソリューゲンG注             

ハルトマン-G3号輸液   

リネゾリド点滴静注液600mg「KCC」             

レボフロキサシン点滴静注バッグ500mg「KCC」

 

の6品目,輸液は250mLのものになっています.

レボフロキサシンのバッグは使用頻度がある程度あるかもしれませんが,

リネゾリドもそれほど多いわけではないと思います.

そして250mLの輸液.通常は500mLの輸液の方が成人の治療には必要ですので,

これらに共通しているのは,

使用頻度がある程度少ないもの

と感じました.

 

沢井製薬の

エダラボン注射液,オザグレルナトリウム注射液,グラニセトロン塩酸塩注射液などに比べると,処方状況は圧倒的に少ないものとなります.

 

これは何を意味しているのでしょうか?

私はHpを見たとたんに,なんだか少し力が抜けました.

 

沢井製薬の回収品目と同じような品目が対象となると,

それが共和クリティケアの製品全般になるからではないかと思っていたので,

ちょっと拍子抜けしてしまいました.

 

ミクスの記事では

 

収製品はいずれも共和クリティケアの厚木工場で製造されたもの。輸液や注射剤を専門に受託製造しており、他の製造品への波及を懸念する声が早くも聞かれる。

 

とあります.

 

共和クリティケア株式会社: バッグライン

共和クリティケアHpでも,ソフトバッグ製造ラインが紹介されています.

当施設でもバッグ製剤を使用させてもらっています.

コンパクトで丈夫,当施設でも使用させていただいている限りでは,

ソフトバッグについての使用感なども含めて

共和クリティケアの製品は評価が高く,

液漏れ等のトラブルも私は経験がないです.

他社と比べても優れた技術があることが予想できます.

 

そう考えると,単純に,きっとたくさん製造しているのであろう

という思考になります.

 

今回の対象はどこまで広がり,どうなるのか?

ちょっと想像できません.

 

共和クリティケアの製造販売で,“バッグ”のついているものは

アシクロビル点滴静注液250mgバッグ100mL「アイロム」

エダラボン点滴静注30mgバッグ「アイロム」

オザグレルNa点滴静注80mg/100mLバッグ「IP」

グラニセトロン点滴静注液3mgバッグ「アイロム」

グラニセトロン点滴静注バッグ3mg/50mL「HK」

 

これらになります.まだほかにもあるかもしれません.

 

グラニセトロンの3mgは光製薬のものも含めて2つ扱っていますし,

アシクロビルはここには載っていませんが,

もし使用制限となると,脳神経内科や皮膚科などの治療には

欠かせない医薬品です.

これらが大丈夫なのかは気になるところです.

 

私が感じる違和感と今後

ちょっと抜けてしまいましたが,

ゾレドロン酸点滴静注4mg/100mLバッグ「サノフィ」となっているものも,

 

共和クリティケア株式会社が扱っています.

 

ゾレドロン酸点滴静注4mg/100mLバッグ「サノフィ」

と書いてあれば,サノフィに電話してしまいますよね.

 

後発品メーカーは,名称を付ける際には,一般名の後に屋号,

と勝手に覚えていたのですが,どうやらそれも違うようです.

変更は大変な手続きが必要と容易に想像できます.

なかなか変更も難しいのでしょう.

 

そしてそもそも,ですが,

私が今回対応をしていて最も感じたことは,

どの製品が今回,影響を受けて,どの製品が影響を受けないかが,全く想像できない,

という事です.

 

当施設も第1報を聞いてからの対応ですが.

 

  • 「あれ,沢井と東和の品目が一部回収?」

  ↓

  • 「ほかの沢井,東和製品は大丈夫かな?」

  ↓

  • 「え?これらの医薬品,共和クリティケアが受託製造している製品なの?添付文書見てもそれはわからないよー」

  ↓

  • 「え?ゾレドロン酸点滴静注4mg/100mLバッグ「サノフィ」も共和クリティケアなの?どの製品が対象になるの?」

  ↓

  • 「共和クリティケアのHpアップされてたよ.でも全然関係ない医薬品の方が多いしよく分からない」

  ↓

  • 「いったい何の医薬品が対象となって,どれなら大丈夫なのだー」

 

 という感じです.

 

医薬品の安定供給は非常に大切な問題です.

一つの工場で問題があった際に,ほかの工場でバックアップしたり,

他社製品でバックアップする,というのはとてもありがたいです.

私たちは最終的に,治療に必要な医薬品を,

安定的に確保するのも大切な仕事の一つになります.

 

今回の後発医薬品3社を巻き込む医薬品自主回収,

私はどの情報を見て,その薬剤が不足するのか,

どれくらいの期間なのか,全く対応に予測が建てられませんでした.

 

共和クリティケアの発表した医薬品リストも,7/28時点ですが,

影響の少ないもののみを提示しただけのような気もします.

 

しかしながら,エダラボンがすべて回収などとなった場合の影響は,

計り知れないものがあります.

 

製造工程の最終段階をPASSしている医薬品であるので,

それは当然出荷してもよい医薬品という事になるでしょう.

その前の工程の不備の対応を考慮した,沢井製薬,東和薬品の対応も

現状としては何かあった際,患者さんのことを考えると,

妥当な対応かと思います.

 

そして,この共和クリティケアの工場で起こった問題は,

まだ不明な部分も多いですし,とてもこれだけの問題で終わると

安易に考えてしまってよいのかもわかりません.

 

今ある情報では,ここまでしか考えられないのですが,

だからといって,明日から共和クリティケアのアシクロビルのバッグや,

エダラボンのバッグの流通がストップすることなど,

治療のことを考えるとあってはならないこととも感じています.

 

代替品となる医薬品がないことによる影響も,考慮しなくてはいけません.

 

共和クリティケアの方に全て確認できたわけではないのですが,

製造と供給の部分は,それぞれのメーカー間での契約があって,

公開できない部分もあるようです.

 

今回の沢井製薬,東和薬品のほかに,

共和クリティケアが受託製造している医薬品メーカーが

どの程度あるのか?

これがわからないような医薬品業界は,特殊でないといえるのでしょうか?

 

私にはあまり理解できませんでした.

 

供給を安定するために,様々なところと連携をするのも理解できます.

製造はできるが,販売がうまくできなければ,それは医薬品であっても,

企業である以上,製造を続けることができなくなるという事も理解できます.

 

ただ,医薬品に問題があった際や,何かのトラブルで,

どうしてもはっきりしたことを知りたい場合,

それを知ろうとすることはできないものでしょうか.

 

医薬品を安定供給するために必要な情報,

と私が感じていたことが,

今回の件では,うまく情報が整理できませんでした.

 

後発医薬品は,先発医薬品と異なって,

製造販売などが複雑になっている気がします.

良い意味でも悪い意味でも.

屋号から想像しにくい販売元であったりもします.

 

後発医薬品はこれからも使用を推進し,

使用されていくべき医薬品とも感じています.

もう少しわかりやすく,と感じてしまうのは,私だけでしょうか.

 

これだけで,今回の自主回収が解決するのかはわかりません.

これからも注意深く,情報を集めようと思います.

 

追加情報

2020/07/30追記

PMDA クラスⅡの確認をしてみると…

 

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回収情報追加

医薬品等の回収に関する情報 2020年度クラスII(医薬品)

あれ,増えてる!!

 

本日2020/7/30付けでも増えています.

ゾレドロン酸,エダラボンなどを中心として,バッグ製剤が目を引きます.

PMDAメディナビも,クラスⅡは配信していただけない(設定で可能かも) ような

気がするので,日々チェックしているつもりなのですが...

 

そして,共和クリティケアのHpは,まだこれらの回収は掲載されていません.

 

安心してよいのかわかりませんが,ミクスに早速衝撃的な記事が…

 

ソフトバッグ製剤の一斉自主回収 ライン新設時から試験に不備の可能性 共和クリティケア

ソフトバッグ製剤の一斉自主回収 ライン新設時から試験に不備の可能性 共和クリティケア | ニュース | ミクスOnline

 

ちょっと気になった部分をかいつまんでみます.

 

・環境モニタリング試験の不備がソフトバック製剤ラインの新設以降、生産管理部門長交代直後の調査で問題が発覚するまでの間、3年半続いていた可能性が指摘

・ソフトバック製剤の受託製造を手がけた初期の段階から不備があった

・すでに10社以上の企業が同社への受託製造品の自主回収に

・親会社だった共和薬品も、当該製品の自主回収

 

 

かいつまんだつもりが,衝撃的なことばかりで,

ほぼすべての文章になってしまいました…

 

なんだか前代未聞のニュースになってきているような

予感がします…

 

そして私も感じている,今回の課題が,

ミクスの下記記事にも書かれています.

 

共和クリティケアの受託製造品で相次ぐ自主回収 エーザイ、ケミファ、第一三共エスファ等複数社に拡大 | ニュース | ミクスOnline

  

◎ソフトバッグ製剤問題から浮かび上がる課題 委託製造や共同開発が混在する実態

 

この問題から、ソフトバッグ製剤をめぐる国内の安定供給の課題が透けて見える。本誌の取材によると、

・エダラボンの製造は、共和クリティケアのほかニプロなど、少数の企業に集中

・後発品の参入により薬価は引き下がる一方で、ソフトバッグ製剤の設備投資はかさむ

・さらに、細かい特許が残る部分があり、企業が単独で製造するハードルを指摘する声も

・委託製造や共同開発などが混在していることも、複数企業の複数製品に波及する要因となり、問題をより複雑化しているようにも見える

 

 この最後の部分です.どの会社のものが,どこまで影響があるのか.

 

普段であればこのような委託製造などは,

安定供給やコスト削減などに有効なのでしょう.

 

しかしながら,その関係があまりに複雑になると,

今回のように,どの製品が影響を受けて,どの製品が影響を受けないのかが

全く分からないという状況になります.

 

工場のある神奈川県や,国と協議しながら,

対策をとっているのでしょうし,

慎重な対応にならざるを得ないのも納得できます.

 

しかしながら,あまりに多い,対象となる薬品.

 

自分がその対象となる薬剤で治療をされているとしたら,

どのように感じるでしょうか.

 

現時点での私達の施設の対応は,

対象となるバッグ製剤の振り替えは決まっていません.

大丈夫なところに聞いても,

「当社は独自の工場なので今回のことは影響ありません.ただ,既存先の供給を優先するので,新しいところはお受けできません」

というような回答ばかりです.

 

この感覚,つい最近セファゾリンの時に感じたものと,同じ印象です.

 

在庫があるところにはある,それが偏ってしまう可能性.

 

治療に影響が出ないことを願います.

ここまで対象薬品が多くなってくると,

もはや各施設の担当者レベルで納入などを対応するのは,

限界に達しているのでは,と感じます.

 

共和クリティケアの医薬品の対応がどうなるか,

まだ気になるところです.

どれも治療には必要な薬剤です.

急性期に使用する薬剤も含まれてます.

 

いつものことながら,医薬品の安定供給に関する懸念事項は,

日本国内で,現在起こっています.

 

昨年のセファゾリンの問題が解決し,

リュープリンの供給にも先が少し見えてきた現在,

新たな問題が出ています.

セファゾリンの時と違って,

リュープリンと今回のバッグ製剤は,原薬の問題ではありません.

医薬品を製造する,工場での指摘となっています.

 

日本のモノづくり,医薬品に関する信頼を損なうようなことだけは,

これ以上起こってほしくないと思います.