病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

メトホルミン含有製剤のNDMAの対応を,薬剤師の視点で考える

厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課と厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課より,2019年12月9日付で,「メトホルミン塩酸塩における発がん物質の検出に対する対応について」の情報がでております.

 

https://www.pmda.go.jp/files/000232925.pdf

 

薬剤師の視点で,この問題を考えてみたいと思います.

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今回の経緯

厚生労働省の上記資料内にもありますが,シンガポール保健科学庁(HSA)の報告が元になっています.

HASのリンクは下記です.詳細は下記をあたっていただきたいのですが

 

HSA Recalls Three out of 46 Metformin Medicines

 

概要をまとめますと(訳間違ってたらスミマセン)

・HASは46あるメトホルミンをすべて調査,そのうち3つをリコール

 N‐ニトロソジメチルアミン(NDMA)が国際基準を超えていた

 43のメトホルミンは影響なし

・Product nameはこちら

 Glucient XR Tablet 500mg

 Meijumet Prolonged Release Tablet 750mg

 Meijumet Prolonged Release Tablet 1000mg

・3つのメトホルミン製剤を服用している患者のリスクは低い

 その理由は,NDMAの長期服用することに関連するため,今回の薬剤が昨年から短期間しか供給されていないため

・メトホルミンを服用している患者が,メトホルミンを突然中止すると,血糖が上昇,微量含まれるNDMAより健康上のリスクが高くなるため,自己中断しないことを提案

・影響を受けるメトホルミン製剤を服用している患者に対してはなる早く交換するよう助言,懸念がある場合は医師,薬剤師に相談することができる

・企業や国際機関と協力して汚染の状況を検証する

・電子メールか電話での対応が可能

 

メトホルミンが3種対象になっています.ロットも確認されているようで,対応が進んでいる状況がわかります.

 

少し脱線しますが,国内では徐放製剤のメトホルミンは発売されていません.

消化器症状が強い薬剤なので,徐放製剤が日本でもあったら,

と感じることはよく遭遇します.

 

いずれにしても,NDMAの汚染は,先日来のラニチジンの問題もあり,

気になるところです.

 

NMDAとは

こちらも上記Hpにあります.

・食品や環境に含まれるニトロソアミンの一種

・加工食品などでもみられる

・近年一部の医薬品にニトロソアミンが入っていることが発覚,世界的なリコールに

・許容されるニトロソアミンは,ナノグラムの単位(10億文の1グラム),70年間取り続けた場合に安全とされる.

・検出されたレベルでのNDMAによってもたらされる追加リスクは非常に低い

 

となっています.

 

厚生労働省の資料によりますと

 

HSAは、検出されたNDMAの量は一日許容摂取量(0.0959µg/日)を

上回るものの極微量であり、回収対象となっている製剤を短期間服用した

ことによるリスクは極めて低いとしています。

また、FDAは、一日許容摂取量のNDMAを 70 年間毎日摂取した場合

であっても、発がんリスクの上昇は懸念されないこと等をアナウンスして

います。

 

 

一日許容量が決まっておりますが,

現時点でのメトホルミンに関してのNMDAは,

よくわからないけどアブナイ,がんになる物質が入っているメトホルミン

ということではなく,

結果が出るまでは自己中断するリスクが大きいと思われます.

 

 

FDAの情報

さて,少し読みごたえはありますが,FDAの報告もぜひ確認しておきたい内容です.

 

https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/statement-janet-woodcock-md-director-fdas-center-drug-evaluation-and-research-impurities-found

Statement from Janet Woodcock, M.D., director of FDA’s Center for Drug Evaluation and Research, on impurities found in diabetes drugs outside the U.S.

下記が概要ですが,こちらも私の個人的な訳のため,原文を参照ください.

 

米国外の糖尿病薬に含まれる,不純物に関する,FDAの薬物評価・研究センター長Janet Woodcock博士の声明

 

・FDAは他国のメトホルミンのNDMAの含有レベルは低いと認識,一部の水や食品で自然発生している範囲内

・現時点での米国内のメトホルミンのリコールはなし

・1日許容量の96ngを超えているか調査中

・糖尿病の管理にはメトホルミンの服用を継続する必要がある

医療従事者に話すことなくメトホルミンの服用を中止することは危険

・現在はまだ調査中のため,メトホルミンの代替がないことから,臨床的に適切な場合にはメトホルミンを推奨

 

・改善された技術により,医薬品の微量な不純物の検出が可能となった

・これにより,より多くの製品において,少量のNDMAを確認できた理由かもしれない

・国際的な機関と連携して,調査を継続している

 

・FDAは調査を継続しているが,NDMAが薬物に存在する理由が複数あることに注意が必要

・以前,NDMAの原因は,製造工程や化学構造,保管や包装の条件に関係していることが判明

・食品や薬物が体内で処理(酵素処理?)されると,NDMAを含むニトロソアミンが形成される

・FDAはその可能性のある原因を調査している

 

・ニトロソアミンが許容される1日量を超える場合,ラニチジンのように,市場から除外する方法をとっている(市場にあるものは1日許容量を超えていないことを消費者に確認してもらう)

 

・メトホルミンの調査では,薬剤の医学的な必要性,どの程度必要な人がいるのか,大体があるのかなどを考慮

・調査には時間がかかる

・FDAの目標は,患者と医療従事者に,できるだけ明確な回答を提供する

・FDAは科学的な情報をできるだけ一般の方に知ってもらうようにする

・患者を守ることはFDAの最優先事項

・我々もまた患者であり,私たち,家族,友人,同僚,そして何百万人ものアメリカ人が健康のために頼っているすべての医薬品の品質,安全性,有効性の高い基準を維持することに取り組む.

・FDAは人,動物用の医薬品,ワクチンや医療機器などの安全性,有効性を確保することで公衆衛生を守っている.

  

一部抜粋で,少し変かもしれませんが,ゴメンナサイ.

この声明,ぜひ原文をご確認ください.

FDAとしての使命や,プロフェッショナリズムが非常に伝わってくる文章です.いつもそうなのですが,米国は力強いですよね.

 

EMAも見てみよう

FDAの見解と厚生労働省の内容が見られればもうOKという方はとばしてください.

そんな気もしますが.

 

Nitrosamine impurities overview | European Medicines Agency

 

・2018年にNDMAを含むニトロソアミンの不純物が「サルタン」を含む高血圧治療薬で発見された

・いくつかのリコールが行われ,医薬品の厳格な製造条件が設定された

・その後ラニチジンでも検出された

 

・ニトロソアミンは動物実験に基づいて,人の発がん性物質として分類される

・発見されたニトロソアミンは人にがんを引き起こすリスクは非常に低い

・EMAでも製造中のリスクを軽減するための予防措置を講じるよう製造販売元へ

・EMAはEUの外部の当局と協力して,医薬品中のニトロソアミンの監視を継続し,

有害な結果に対処するための迅速な解決策を見つける

 

・リスク評価を実施,Nニトロソアミンの汚染リスクのある製品を特定し,遅くとも2020/3/26までに結果を報告する

・EUの医薬品で,影響があるデータは現在(2019/12/6)時点ではなし

・EMAは,EUにおける患者に,糖尿病を治療しないことによるリスクが,試験で見つけられた少量のNDMAの影響をはるかに上回るため,メトホルミンの服用を続けるよう助言

 

他にも記載がありますが,力尽きました.原文を参照ください.

期限を設定して取り組んでいること,メトホルミンに関しては服用しないことのリスクが書かれています.米国と同様の方向かと思います.

 

メトホルミンの位置づけは

 

国内と海外が少し異なっているのはいろいろなところで挙がっております.ここではその話は抜きにして,メトホルミンの位置づけだけ簡単に.

 

米国・EMAの現状

こちらに分かりやすくあります.

欧米は何といっても2型糖尿病においてはメトホルミンが第一選択です.

メトホルミンと包括的生活改善となっています.

 

Standards of Medical Care in Diabetes-2019. Diabetes Care 2019; 42: S1-S193

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ADAガイドライン

 

その前の2015年のガイドラインでも,

単独治療としてメトホルミンは推奨,有効性は高く,

低血糖リスクは低く,体重は維持もしくは低下,

副作用としては消化器症状,アシドーシスの記載があり,

コストも安いとされています.

これはメトホルミンの特徴を上手に示していると思います.

 

欧米では,2型糖尿病の第一選択であり続ける以上,

市場から回収するには影響が非常に大きい薬剤ということになりますので,

リスク以上のメトホルミン服用のメリットがあると,現時点では判断されています.

 

国内の現状

 

糖尿病ガイドは薄くて比較的安いため,毎年知識の確認のために購入していますが,無料で一部も見ることができます.

 

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有名すぎる図なので,もう覚えてしまっている方も多いかと思いますが,国内では

2型糖尿病の病態に応じて,機序も含め経口降下薬が推奨されています.

 

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糖尿病ガイド

ビグアナイド,メトホルミンはインスリン抵抗性改善薬に分類され,近い位置づけとしてチアゾリジン薬が記載されています.

国内では欧米に比べて肥満の方の割合が少ないことや,様々な要因からこのように分類されています.

 

病態から医師が選択できるようになっているため,選択肢の一つ,ということになります.

 

現時点では,日本国内での治療に当たっては,こちらを指標として治療が行われているかと思います.

 

メトホルミンの位置づけが,国内と海外で若干異なっているのが現状です.素晴らしい薬に変わりはありませんが.

 

医療従事者が本情報を得て行うべきこと

いろいろ書きましたが,本件で私たち薬剤師は,どのようなスタンスでこの情報に向かい合うべきでしょうか.

 

「メトホルミンにNDMAかぁー,これは大変なことになりそうだー」

「危険そうな薬なら,中止して他に変えればいいんじゃないの」

 

あたりの話は当施設でもチラホラ聞こえましたが,この一連の流れで

“よくわからない,はっきりした見解が出ていないので,メトホルミンはやめておいたほうがよい”

という短絡的な考え方になるのは,非常に危険です.

 

厚生労働省資料の対応は下記です.

メトホルミンは血糖降下薬の中でも重要な薬剤の1つであり、服用の中

止により様々な併発症のリスクを生じる可能性があります。

現時点において、日本国内のメトホルミンを含有する製剤からNDMA

は検出されておらず、医療機関等に対しては、従前のとおりメトホルミンの

処方を行っても問題ないこと、患者から相談を受けた場合には、糖尿病に対

する治療の必要性について改めてご説明いただくとともに、服用を中止し

ないよう回答いただきたいことについて、周知方お願いいたします。

なお、FDAは、医師や薬剤師に相談なく服用を中止しないよう注意喚起

を行っています。また、EMAは、服用の中止により様々な合併症のリスク

が生じる可能性があること、このようなリスクは微量のNDMAによる影

響より極めて重大であること等をアナウンスしており、服用を中止しない

よう注意喚起を行っています。

 

 

“よくわかんないから,処方した医師に聞いてください(丸投げ)”

ということに近い発言も当施設でありましたが,

このような発言をしてしまうような方は,

もはや医師に丸投げしてしまったほうが,トラブルにはならないかもしれません.

 

しかし,よく分からないので,思考停止してしまう,ということは

最も避けなくてはいけない状況かと思います.

 

多忙な医師に,この説明まですべて押し付けてしまうのは,

やはり医療従事者としてはどうなのでしょうか?

 

医薬品に関することですよね.

 

薬剤がその患者さんに必要かどうか,という判断は医師の仕事です.

 

その成分などの情報や,上記にある健康被害の可能性についての情報は,いかがでしょうか?

 

FDAでは医療従事者,となっています.

今回の発端となったHASでは,医師とともに薬剤師の記載があります.

厚生労働省の資料では,だれが,ということは記載がありません.

もちろん主治医,患者さんの意見が優先されることは揺るぎのない事実ですが,

薬剤師として,情報を収集,整理して対応することは

できるのではないでしょうか?

 

当施設での対応

お恥ずかしい話ですが,具体的な対応などは明確ではなく,まだ取り組みが始まったばかりです.

 

情報収集後,当施設のメトホルミン製剤の処方状況の確認,院内回覧の作成というところになっています.

残念ながら,まだ本件につきましては,製薬会社側からの連絡はいただいておりません.これからかもしれないですし,来ないかもしれません.

 

薬剤部内では,情報を共有し,上記の通りですが,

・発がん性物質の報道があったことのみを誇張して,薬剤の服用を不安にさせるような発言は避けること

・薬剤師としての対応に不安があった場合は,速やかに上長へ連絡,対応を仰ぐこと

・医師と協力して対応すること

 

などを共有しています.

 

FDAの見解が,私は最も素晴らしいと感じています.

 

・患者を守ることはFDAの最優先事項

・我々もまた患者であり,私たち,家族,友人,同僚,そして何百万人ものアメリカ人が健康のために頼っているすべての医薬品の品質,安全性,有効性の高い基準を維持することに取り組む

 

あたりのことになりますが,

“自分がメトホルミン製剤を服用しているとしたら,どのような助言が必要なのか”

という,患者さん側に立った気持ちを持った対応も必要ではないでしょうか.

 

むやみに発がん性のことを話す人はいないとは思います.

そう思いたいです.

ラニチジンの件もあるので,同様に,この情報がまだ確定していない状況で,

メトホルミンは回収されるかもしれない薬,と勝手にレッテルを貼ってしまうことだけは避けたいです.

 

現在,国内でも情報を収集している状況です.

厚生労働省の資料でも,取り扱いのある国内メーカーが連名で記載されています.

 

海外は海外,としての資料をどうとるかも個人ですし,解釈は人それぞれでしょうし,それに対する責任を本ブログがとれるわけではありません.

 

日本糖尿病学会からも,同様の見解が出ております.

 

メトホルミン塩酸塩における発がん物質の検出に対する対応について:日本糖尿病学会 The Japan Diabetes Society

 

 

医療従事者の皆様におかれましては、患者さんに対して本事務連絡に沿った対応をお願いいたします。

 

 

とあります.

 

 

今回の件は,まだこれからの対応となりますが,患者さんのことを第一に,

よくわからないと思考停止に陥らいらないよう,

適切な情報提供を心掛けたいですね.

これからも情報を適宜収集していきたいと思います.