病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

インドメタシンが必要とされる理由

先日,インドメタシン製剤である,インテバンSP25 /37.5 が,製造販売中止として

案内がきておりました.

 

2019年03月15日の日付となっております.

 

https://www.teikoku.co.jp/archives/002/201903/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%90%E3%83%B3.pdf

 

帝国製薬の発売で,25mgは1974年から,37.5mgは1976年から発売されている,歴史ある薬です.

インドメタシン,古くからある薬ですが,少し勉強しなおしてみましょう.

 

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インド

 

インドメタシンは…

 

ご存知の通り(?)インドメタシンは下記の構造です.

みんな大好き(!?)インドール骨格を持つ,アレです.

 

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インドメタシン

 

 

詳しくは下記日本薬学会 薬学用語解説をご確認ください.

 

ベンゼンがピロールに縮合した芳香族複素環式化合物。

融点52℃、沸点253℃の固体。

ピロールと同様に塩基性を示さず、反応性も類似している。

インドールを有するものとして生体構成成分であるアミノ酸のトリプトファン、神経伝達物質のセロトニン、さらに抗炎症剤のインドメタシン、抗高脂血漿薬のフルバスタチンなどがある。

トリプトファンを出発物質とするインドールアルカロイドは天然物に多く存在し、その中には血管収縮作用を持つエルゴタミン、抗がん剤にも用いられるビンクリスチンなどがある。染料であるインジゴもこの骨格を有する。

 

ベンゼンは皆さんご存知の,有機化学の申し子,泣く子も黙る,ベンゼンです.

知名度とその環構造の美しさから,他に類を見ない,その名もベンゼン.

説明の必要はないですよね.

有機化学の御専門の先生はみんなベンゼン環書くのが上手です.

ベンゼン環への愛を感じます.

 

ちょっと脱線しましたが,そのベンゼンが,ピロールに縮合した芳香族複素環式化合物が,インドールです.

 

有機化学を学び始めた時に,

ベンゼンにくっついたピロールが

というところで,どうも笑いがこらえられず

有機化学をニヤニヤを耐えながら過ごしていた,学生生活が思い出されます.青春の苦い思い出ですよね.

 

きっとそのような学生生活を,皆さんも過ごされていたと思います.

 

どんどん声に出して発音していきたい化合物の一つ(?)ですよね.

 

超有名なベンゼン環を持ちながら,

その上声に出すと何とも言えない雰囲気を醸し出す,

ピロールを兼ね備えた構造,

それがインドール骨格です.

もうこれだけで,ワクワクする構造ですよね!

 

どこかカレー臭のするインドールという響きも素敵です.

そしてそのインドールを含むインドメタシン.

抗炎症作用を持つニクイやつです.

古くから今日まで,多くの方の痛みをとってくれていました.

 

かなり個人的な偏見ばかりになってしまいますが,

インドメタシンのスゴさが少しでも伝わって頂ければと思います.

伝わりましたでしょうか?

 

インドメタシン製剤

古くからあるため,様々な剤形があります.

 

内服として,インフリーカプセル,インテバンSP(こちらは製造中止になってしまいました)

外用として,インドメタシン坐剤,軟膏,ゲル,外用液,クリーム,パップ,テープとほぼすべての外用剤に姿を変えて,痛みをとってくれる薬剤として使用されています.坐薬はERCP後の膵炎予防にも,という話題もありました.

 

そして,注射薬もあります.当施設でもほとんど動きはないですが,注射の適応は

未熟児の動脈管開存症の適応で,

新生児疾患を専門に扱う習熟した医師のみが扱える薬剤になります.

 

そんな中,上記の通り,内服薬の一つであるインテバンSPが製造中止となってしまいました.

上記案内文章にもあるように,代替品としてはインフリ―になります.

 

インドメタシンが必要とされる理由

 

ある診療科の先生に,

「インドメタシン製剤をなくすなんてアホか(意訳)」

 

とのお言葉をいただきました.

 

採算が取れなくなってくる医薬品に関しては

致し方ないものと考えておりますので,

 

「だってセンセ,1錠10円くらいのお薬なので…」と言い出しかけたとたん,

 

ドドーン,と皮膚科の辞書のような医学書をおもむろに見せられまして

 

「この疾患には,インドメタシンが必要なんだよ」と一言.

 

これでお話しは終わりました.

カッコよすぎました,皮膚科の先生.

 

古くからあるインドメタシン,代替のNSAIDsも沢山あります.

インドメタシン製剤が一つなくなったからと言って,

それほどの影響があるのかを理解していない自分が恥ずかしくなりました.

 

薬を見てばかりいて(あまり見ていなかったかもしれませんが)

患者さんの事を見ていない自分がいました.

恥ずかしくてすぐ対応を考えました.

 

インドメタシンが著効する,インドメタシンが有効な疾患,それは

好酸球性膿疱性毛包炎,という疾患です.

 

インドメタシンに関する報告は古くからなされています.

 

 

好酸球性膿疱性毛包炎とインドメタシン

 

日本語での報告も多数でており,いくつか見てみましても,

インドメタシンが奏功するという記載が多く.

生検できない場合の診断の一つとなることも報告されています.

診断が困難な疾患であることが分かります.

 

 

好酸球性膿疱性毛包炎は,1970年にOfuji先生らが提唱された疾患です.

 

顔を中心に掻痒を伴う丘疹を呈し,病理組織学的に好酸球を主体とする細胞浸潤を特徴とするとされています.

現在はHIV患者のほか,免疫抑制患者でも報告されており,

その中でもOfuji先生の報告のような患者さんを古典型と分類,インドメタシン製剤が有効とされています.

 

原因は様々な理由があるようですが,感染や薬剤,

何らかの抗原に対してTH2サイトカインを介した好酸球増殖及び活性化がおこり,

病態に関与しているとされています.

 

今日の皮膚疾患治療指針第4版でも,インドメタシン内服が第1選択 

とされています.2週間以内に効果が発現,有効率94.6%という報告もあります.

 

インドメタシンが有用でありますが,その機序として

①プロスタグランジンE2の過剰産生を阻害することで,

 間接的にTh2細胞への分化を抑え,Th2サイトカインによる好酸球遊走を抑制する

 

②好酸球のCRTH2発現が低下することで,それを介しプロスタグランジンD2の

 合成が抑制され効果を発現する(インドメタシンがプロスタグランジンD2

 受容体CRTH2のアゴニスト)

 

といったところが報告されています.

 

①は他のNSAIDsでも作用機序は同じですので,報告があるようです.

 

皮膚疾患ですが,外用薬はあまり効果がないという記載もあります.

シクロスポリンの内服も有効とありますが,副作用等を考慮すると,

なかなか処方しにくい薬かと思います.

 

古くからあり,治療経験もある,インドメタシンが汎用されているという事でしょう.

 

参考; 

・ニキビ 鑑別疾患 好酸球性膿疱性毛包炎,寺木 祐一,治療,99,1027-1028(2017)

・写真で学ぶアレルギー これがEPFだ!,宮地 良樹,皮膚アレルギーフロンティア,12,53(2014)

・好酸球遊走に対するインドメタシンの効果 好酸球性膿疱性毛包炎における作用機序について,片岡 直子,アレルギー,60,1384(2011)

・専門医のためのアレルギー学講座 好酸球増多を主徴とする疾患 好酸球性膿疱性毛包炎と好酸球性蜂窩織炎,信藤 肇,アレルギー,60,667-674(2011)

 

インテバンSPが製造販売中止になる影響

 こちらにありますように,インテバンSPは製造販売中止になります.

 

https://www.teikoku.co.jp/archives/002/201903/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%90%E3%83%B3.pdf

 

 

インテバンSP25,37.5共に製造販売中止となります.

経過措置も2020年3月末日のため,残っていても保険請求がこの日以降はできなくなるという事になります.

 

同効薬として挙げられているのは

インドメタシンファルネシルとして インフリーカプセル100mg,200mg

ジクロフェナクナトリウムとして ボルタレン錠25mg,SRカプセル37.5mg

ロキソプロフェンナトリウムとして ロキソニン錠60mg

 

となっています.

 

インドメタシンとしてはなくなってしまいますが,

インドメタシンファルネシルがあるので,代替になるかと思います.

 

上記の通り,インドメタシンは必要な患者さんが存在します.

 

日本皮膚科学会からも下記の情報提供がでております.

 

インドメタシンの内服がなくなるという現実から,

皮膚科の先生方の現実的な対応や保険などについても

しっかりと情報提供されています.

 

国内で発見された疾患,その治療に全力を注いでいる

日本皮膚科学会の力強さを感じます.

 

そして保険についても下記の情報が出ています.

 

上記の製造中止での対応が出たのが2018年11月で,

下記の保険の部分での対応が2019年9月と,

しっかりとした対応がなされています.

 

 

329 インドメタシン ファルネシル②(皮膚科16)|社会保険診療報酬支払基金

329 インドメタシン ファルネシル②(皮膚科16)

最終更新日:2019年9月30日

 

 

使用例

原則として、「インドメタシン ファルネシル【内服薬】」を「好酸球性膿疱性毛包炎」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。

 

 

お恥ずかしいですが,本ブログで勢い余って

インドメタシンについての記載をしてしまい,

そしてこの日本皮膚科学会の紳士的な対応を見るに及び,

本当に恥ずかしくなりますが,

本ブログはあくまで一薬剤師が自由に書いているものとして,ご容赦ください.

 

インドメタシンの量は…

 

【インドメタシン】インテバンSPは通常25mgを1日2回です.

【インドメタシン ファルネシル】インフリーは,適宜増減はありますが1回200mgを1日2回とあります.

 

用量にずいぶん差がありますね.

 

インテバンSP25 2カプセル 1日2回 朝夕食後 1回1カプセル

⇒          

インフリーカプセル200mg 2カプセル 1日2回 朝夕食後 1回1カプセル

 

となると,インドメタシンすごく増えてない?

ダイジョウブ?50mgが400mg??

 

となる気持ちも分かります.

 

少し調べてみましょう.

 

インテバンSPの吸収.体内動態

体内動態になりますが

インテバンSP25mg添付文書(2014年 7 月改訂 第13版)より,

健康成人での体内動態です.

 

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インテバン体内動態

 

Tmaxは約2時間となっています.インテバンSPも徐放で,

インドメタシンの急激な上昇とは抑えられ,持続性が認められるとされています.

吸収部位は小腸上部との記載がありますが,吸収率などは記載がありません.

 

Up to date

Indomethacin: Drug information では,

90% over 12 hoursとありますので,吸収はかなり良い

考えられるかと思われます.

 

古い論文ですが,下記の報告でも,

注射25mgと内服25mgのAUCの比較では,ほぼ一致している.

そのため,25mgの経口のバイオアベイラビリティはほぼ完全であるとされています.

Pharmacokinetics of indomethacin.

Clin Pharmacol Ther. 1975 Sep;18(3):364-73.

 

高齢者の記載が下記の論文にあります.

若い成人(平均36.9 歳)ではバイオアベイラビリティが1.0に対して,

高齢者(平均79.5 歳)では0.77とされているため,

高齢者では25%に維持量を減らすことも示唆されています.

 

Pharmacokinetics of indomethacin in the elderly.

Clin Pharmacokinet. 1993 May;24(5):428-34.

 

いずれにしても,経口の吸収は90-100%として考えてよいかと思われます.インドメタシン恐るべし.

 

1回の吸収は25mg服用であれば12時間でほぼ吸収されることになります.

90%としても 25*0.9 = 22.5mgとなります.

 

インフリーの吸収.体内動態

インフリーは,インドメタシンとファルネソール(イソプレノイドの一種)の

エステルで,強い効果を有すると同時に安全性の高い薬剤の開発を

目指して開発された,となっています.

インドメタシンにファルネシルというものが結合しているため,

このような構造です.

 

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インフリー構造式

分子量を計算いたしますと,

 

インドメタシンは上記インテバン資料より,分子量:357.79

インフリーは分子量:562.15 となります.

 

インフリーの吸収率はIFより

約 20%と推定される。

とあります.

 

意外と悪いですね.

 

インフリー200mgを服用すると,理論上のインドメタシンは

357.79/562.15 × 200mg × 0.2 = 25.4mgとなります.

 

そうすると,大ざっぱですが

インテバンSP25mgはインフリ―200mgと同等

と考えられます.

 

好酸球性膿疱性毛包炎とインテバンSP,インフリー

上記日本皮膚科学会のHpにある論文で

下記論文では,

 

Systemic indomethacin (25 – 75 mg), acemetacin (90 – 180 mg), indomethacin farnesil (200 – 400 mg).

とあり,経口の

【インドメタシン】インテバンSP(25-75mg),

【インドメタシンファルネシル】インフリーカプセル(200-400mg)

という記載ですので,同じ治療に用いる用量としての記載になっています.

 

Eosinophilic pustular folliculitis: A proposal of diagnostic and

therapeutic algorithms.

J Dermatol. 2016 Nov;43(11):1301-1306.

 

こちらでもインフリー400mg/日での治療が報告されています.

 

Eosinophilic pustular folliculitis clinically presenting as orofacial granuloma: successful treatment with indomethacin, but not ibuprofen.

Acta Derm Venereol. 2015 Mar;95(3):361-2.

 

まとめ

インドメタシンは古くからある薬剤ですが,

一部のお薬品が製造中止になることは致し方ないですが,

必要性がある医薬品は,ぜひ今後も使用できる医薬品として製造が継続されることを望みます.

 

 

この薬ではないといけない方が存在している限り,医薬品として存在し続けてほしいと思います.