当直業務を行うにあたり,若かりし自分が,ちょっと戸惑った処方を紹介していきたいと思います.
簡単なものから色々と.
薬学生のかた,普段注射調剤に関わっていない方から,病院で当直することになりそうな方まで,ご参考になさってください.
第5回ヤクガクテキ処方箋鑑査
ずいぶん経ちましたが第5回目はこちらです.
それではどうぞ.
こんな処方が・・・
プレドニン錠5mg 10錠 3時
プレドニン錠5mg 10錠 9時
プレドニン錠5mg 10錠 15時
ファッツ!?
ステロイドはあまり用量については関係ないかもしれませんが,
プレドニン添付文書(2019年8月改訂)より,
用法・用量
通常,成人にはプレドニゾロンとして1日5〜60mgを1〜4回に分割経口投与する。
なお,年齢,症状により適宜増減するが,悪性リンパ腫に用いる場合,抗悪性腫瘍剤との併用において,1日量として100mg/m2(体表面積)まで投与できる。
川崎病の急性期に用いる場合,通常,プレドニゾロンとして1日2mg/kg(最大60mg)を3回に分割経口投与する。
ス,ステロイドは色々な使い方もするけど,
こ,これは…
と固まりました.
色々確認しようとカルテを見ると,
以前の造影剤の投与で副作用があったようでした.
ピンときた方は,正解です.
ヨード造影剤ならびにガドリニウム造影剤の急性副作用発症の危険性低減を目的としたステロイド前投薬に関する提言
2017年6月
日本医学放射線学会医療安全管理委員会
造影剤の安全性に関する小委員会
http://www.radiology.jp/member_info/safty/20170629.html
にあります.
<American Collage of Radiology Manual on Contrast Media に基づくプロトコール>
下記のいずれかを実施する。
1.プレドニゾロン50mg(プレドニゾロン錠など各社製品あり)を造影剤投与の13時間前、7時間前、および1時間前に経口投与する。
2.メチルプレドニゾロン32mg(メドロール錠)を造影剤投与の12時間前と2時間前に経口投与する。
そのままの処方でした.
上記のHpによりますと,
・急性副作用の軽減のためのステロイドは明確なエビデンスはないが試みる価値はある
・造影剤投与直前のステロイド投与より,充分前に行うのが望ましい.
⇒ふつうにタイプすると,“じゅうぶん”は“十分”とでます.これだと10分前と勘違いするからでしょうか,充分前,という記載になっていると考えられます.
・ステロイド前投与でも副作用が押さえられない場合もあるため,インフォームドコンセントが必要
当施設においても,造影剤による診断は病状の把握,
治療に大きな影響を与えるため,放射線科の医師を中心に,
各診療科でも造影剤のアレルギーには非常に慎重に対応しています.
下記資料などを見ますと,
・イオメプロールによる報告
・使用後7日目に全身の紅斑出現
・非イオン性は遅発性の報告例あり
・同系統の薬剤間では交差感作が多いことも
非イオン性ヨード造影剤イオメプロールによる薬疹の1例,堺 則康ほか,臨床皮膚科,57(11)984-987(2003).
とあるので,イオパミドールででたらイオヘキソール,
といった形で違う薬剤を選択しながらの診断・治療が行われているのが
現実かと思いますが,構造がそもそも似ているので
慎重な投与が望まれます.
European Society of Urogenital Radiology
EUSRのガイドラインでは,日本語でも確認できます.
こちらでは,
予防服用として,上記の2が記載されています.
急性の副作用の患者関連の危険因子として
以下の病歴がある患者さんが挙げられています.
1.過去にヨード造影剤に対して中等度ないし重度 の急性副作用(前記の分類を参照)を発現
2.喘息
3.治療を要するアレルギー
造影剤関連としては,
高浸透圧イオン性造影剤
となっています.
注射用ヨード造影剤に対するアレルギー様反応については,
ACRの Committee on Drugs and Contrast Media.があります.
下記で,無料で見ることができます.
https://www.acr.org/Clinical-Resources/Contrast-Manual
・イオン型から非イオン型へ変更になったことで,有害事象は大幅に減少した
・一般的な危険因子としては上記と同様の患者が挙げられている
特定の患者さんが,リスクが高いとされているが,予測は難しい
・重症筋無力症の患者さんもリスクとなりえる
重症筋無力症は色々と分からない部分があるようですが,
日本医学放射線学会の報告がまとまっており,分かりやすいです.
神経内科の先生方もよく気にされていますが,この疾患は睡眠剤なども含めて
使えない医薬品が多いため注意ですね.
・重症筋無力症(MG)患者での造影剤投与において問題となるのはクリーゼ
・過去の報告はイオン性ヨード造影剤の報告
・非イオン性ヨード造影剤とMG悪化の因果関係はまだ明らかではない
公益社団法人日本医学放射線学会|重症筋無力症患者に対するヨード造影剤の使用について
添付文書上では,現時点(2019年8月)で,重症筋無力症の方は,
ヨード造影剤の使用において禁忌とはなっておりません.
慎重投与にもないのですが,結構現場では慎重に対応されているかと思います.
今回参考にさせていただいた,日本医学放射線学会のHpには,非常に有用な情報がたくさんあります.
様々なガイドラインのほか,
上記で紹介した,
「ヨード造影剤ならびにガドリニウム造影剤の急性副作用発症の危険性低減を目的としたステロイド前投薬に関する提言」の改定について
公益社団法人日本医学放射線学会|「ヨード造影剤ならびにガドリニウム造影剤の急性副作用発症の危険性低減を目的としたステロイド前投薬に関する提言」の改定について
造影剤 製剤別適応一覧表(2019年4月改訂(MRI用造影剤製剤別適応一覧表は2017年4月改訂から変更無し))
http://www.radiology.jp/member_info/safty/20170418.html
こちらはPDFで適応症などの一覧が分かりやすく出ています.
一度確認しておくとよいでしょう.
イオン型,非イオン型とモノマー,ダイマー型の分類もありますし,
後発品の名前もありますので,とても分かりやすいです.
授乳中の女性に対する造影剤投与後の授乳の可否に関する提言
公益社団法人日本医学放射線学会|授乳中の女性に対する造影剤投与後の授乳の可否に関する提言
授乳中の造影剤のお話しもよく挙がります.以前妊娠・銃乳と薬について簡単に書きましたが,この内容も確認しておくとよいでしょう.
よろしければご一読ください↓
必ず全文を確認して回答すべきですが,日本医学放射線学会では,
特段の理由のない限り、造影剤使用後の授乳制限は必要ないものと判断いたします。
とあります.非常に有益な情報です.
そして当施設でもまるまる使用させていただいている,
ヨード造影剤(尿路・血管用)とビグアナイド系糖尿病薬との併用注意について
~ポスターの更新のお知らせ~
公益社団法人日本医学放射線学会|ヨード造影剤(尿路・血管用)とビグアナイド系糖尿病薬との併用注意について ~ ポスターの更新のお知らせ~
これは写真付きで非常に有用です.外来でも重宝されている資料の一つです.
更新もしっかりされています.
当施設では,緊急での造影剤も含め,
ビグアナイドとヨード造影剤による重篤な副作用の報告はないのですが,
注意すべきものです.
この資料は,何といっても分かりやすい!
以上,半分以上が医学放射線学会のHpの資料の
素晴らしさをただただ紹介するだけになってしまいました.
当施設には,優秀な放射線技師さんがいらっしゃるので,
よくお聞きしながら色々と進めています.
それにしてもこの学会のHpはスゴイですね.
さて,造影剤,診断・治療に必要な薬剤の一つですが,
ヨードがダメな場合はどうすれば…
よく悩みます.
過去の報告を見てみますと,
1.ヨードアレルギーを有する胆道疾患診断治療におけるガドリニウム造影剤(ガドペンテト酸ジメグルミン)の使用経験,夏目 まことほか,日本消化器病学会雑誌,110;5,825-832(2013)
2.ヨード造影剤アレルギー反応として急性心筋梗塞を発症した患者に対し慢性期にガドリニウム造影剤を用いて経皮的冠動脈形成術を行った1例,佐藤 俊也ほか,心臓,37;12,1036-1040(2005)
3.ヨードアレルギー患者に対するガドリニウム造影剤を用いた内シャント血管内治療,深澤 瑞也ほか,日本透析医学会雑誌,37;8,1617-1623(2004)
など,さらっとみて検索で挙がってくるのは
ガドリニウムでした.
当施設でも使用経験があります.
ヨードがダメな方で診断,治療に影響が出てしまうため,
適応外の判断になるかと思います.
当施設では倫理委員会の対象で,充分なICを前提に行われています.
今回はステロイドの処方から始まって,
造影剤に関するお話しでした.
診断・治療に関する造影剤の使用にあたり,より安全に使用できるよう,
情報をしっかり確認しておく必要があると思いました.
プレドニゾロン50mg/回 1日3回 って
ビビりません?
私だけでしょうか?
これからも勉強します.