病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

絶対に欠品してはいけない医薬品,その理由.④人免疫グロブリン製剤

 病院で治療する医薬品の中でも,欠品や出荷調整などで,薬剤の供給が滞ることが許されない医薬品があります.

 

今回は,人免疫グロブリン製剤の献血ヴェノグロブリンIHが,供給制限になる可能性についての案内がございました.

 

医療関係者ですか?「はい」「いいえ」|(JB)日本血液製剤機構 医療関係者向け

「献血ヴェノグロブリン IH 5%・10%静注」の品薄状況へのご理解のお願い

2019/06/24に追記になっておりました.

 

正式な報道は出ていないのですが,現状から少し考えておく必要があるかと思いまして,ご紹介させていただきます.本当に取り越し苦労であってほしいものです.

決して混乱させるための記事ではございません.

不備や問題となる記載がございましたら,削除いたします.

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血液

 

 

免疫グロブリン製剤とは

 

免疫グロブリンは,抗体です.血液中に最も多く存在するIgGは,液性免疫を担っています.Y字型をしていて,開閉可能で,様々な細菌や病原体などに結合し,中和することで体を守っています.

抗体が結合することで,その後マクロファージなどが貪食しやすくなるとされています.

こちらのHpが非常にわかりやすいです.

免疫グロブリンについて 一般社団法人日本血液製剤協会

 

免疫グロブリン製剤とは?|川崎病 免疫グロブリン療法を受ける患者さんと保護者の方へ

 

献血ヴェノグロブリンIHインタビューフォーム2018 年 12 月改訂(第 34 版)に,その歴史などが書かれています.

以下引用です.

 

・免疫グロブリン製剤の開発は、1944 年ハーバード大学の Cohn らのヒト血漿たん白の低温エタノール分画法に始まる

・静注用人免疫グロブリン製剤は、初期に開発された酵素処理製剤、次世代の化学修飾処理製剤を経て、現在では第Ⅲ世代ともいえる intact 型(非修飾型)製剤が汎用されている

Intact 型製剤は血中半減期、オプソニン効果等において生体内の IgG とほぼ同等であることから、理想的な静注用人免疫グロブリン製剤であるといえる

 

 

免疫グロブリンについて,私は入職時からほとんど勉強したことがありませんでした.そしてその使い分けなども…

 

そして出会った,正岡先生の書籍.上記Hpの解説などもされていて,免疫グロブリンの神様です.

下記の書籍を書かれています.この記事もかなり参考資料として引用させていただいております.奥深く知りたい方,ぜひ.

静注用免疫グロブリン製剤ハンドブック

 

 

 

こちらに出会ってから,免疫グロブリン製剤の奥深さを知りました.

 

エラそうなことは書けないのですが,少し引用させていただきながらご紹介いたします.

 

・免疫グロブリン製剤は,筋肉内投与から静脈内投与するために様々な処理が行われてきた

・酵素処理やPEG処理,pH4処理,イオン交換樹脂処理などによる製剤が発売されている

・HIV,HBV,HCVの除去,不活化するための処理が行われている(原料が人の献血に由来するため)

 

 

血漿分画製剤は,現在までに様々な問題を抱えながら製造,使用されてきました.使用歴は20年保管することとなっています.

使用前の十分な説明も必要な薬剤です.

人の献血由来である医薬品であることから,通常の化学合成が難しい薬剤と

なっているため,現時点では,まだ遺伝子組み換えによる

免疫グロブリン製剤の製品化はなされていません.

 

近年,遺伝子組換えのVII因子,VIII因子製剤の登場,アンチトロンビン製剤も

発売されてきていますが,まだ免疫グロブリン製剤は,人の血液から分画され,

製品化されています.

今回の供給制限に影響を与えている一つが,この製造方法にあります.

 

適応となるのはどのような疾患なのか

献血ヴェノグロブリンIH5%製剤は,間違え探しみたいですが,

10,000mg製剤(200mL)には,

IgG2値低下を伴う,反復する急性中耳炎等,の適応がないとなっています.

それ以外の効能効果は同様となっており,

実に12疾患の適応を有しています.

そして現時点でも適応追加の動きもある状況です.

 

・低並びに無ガンマグロブリン血症:

通常,1回人免疫グロブリンGとして200〜600mg(4〜12mL)/kg体重を3〜4週間隔で点滴静注又は直接静注する.患者の状態によって適宜増減する.

・重症感染症における抗生物質との併用:

通常,成人に対しては,1回人免疫グロブリンGとして2,500〜5,000mg(50〜100mLを,小児に対しては,1回人免疫グロブリンGとして100〜150mg(2〜3mL)/kg体重を点滴静注又は直接静注する.症状によって適宜増量する.

・特発性血小板減少性紫斑病:

通常1日に,人免疫グロブリンGとして200〜400mg(4〜8mL)/kg体重を点滴静注又は直接静注する.なお,5日間使用しても症状に改善が認められない場合は,以降の投与を中止すること.年齢及び症状に応じて適宜増減する.

・川崎病の急性期:

通常,人免疫グロブリンGとして1日に400mg(8mL)/kg体重を5日間点滴静注又は直接静注,若しくは人免疫グロブリンGとして2,000mg(40mL)/kg体重を1回点滴静注する.なお,年齢及び症状に応じて適宜減量する.

・多発性筋炎・皮膚筋炎における筋力低下の改善(ステロイド剤が効果不十分な場合に限る):

通常,成人には1日に人免疫グロブリンGとして400mg(8mL)/kg体重を5日間点滴静注する.

・慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(多巣性運動ニューロパチーを含む)の筋力低下の改善:

通常,1日に人免疫グロブリンGとして400mg(8mL)/kg体重を5日間連日点滴静注又は直接静注する.なお,年齢及び症状に応じて適宜減量する.

*・慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(多巣性運動ニューロパチーを含む)の運動機能低下の進行抑制(筋力低下の改善が認められた場合):

通常,人免疫グロブリンGとして「1,000mg(20mL)/kg体重を1日」又は「500mg(10mL)/kg体重を2日間連日」を3週間隔で点滴静注する.

・全身型重症筋無力症(ステロイド剤又はステロイド剤以外の免疫抑制剤が十分に奏効しない場合に限る):

通常,成人には1日に人免疫グロブリンGとして400mg(8mL)/kg体重を5日間点滴静注する.

・天疱瘡(ステロイド剤の効果不十分な場合):

通常,1日に人免疫グロブリンGとして400mg(8mL)/kg体重を5日間連日点滴静注する.なお,年齢及び症状に応じて適宜減量する.

・血清IgG2値の低下を伴う,肺炎球菌又はインフルエンザ菌を起炎菌とする急性中耳炎,急性気管支炎又は肺炎の発症抑制(ワクチン接種による予防及び他の適切な治療を行っても十分な効果が得られず,発症を繰り返す場合に限る):

人免疫グロブリンGとして初回は300mg(6mL)/kg体重,2回目以降は200mg(4mL)/kg体重を投与する.投与間隔は,通常,4週間とする.

・水疱性類天疱瘡(ステロイド剤の効果不十分な場合):

通常,1日に人免疫グロブリンGとして400mg(8mL)/kg体重を5日間連日点滴静注する.

・ギラン・バレー症候群(急性増悪期で歩行困難な重症例):

通常,1日に人免疫グロブリンGとして400mg(8mL)/kg体重を5日間連日点滴静注する.

 

適応と用法用量は,太字になっています.

最も多い400mg/kgという量ですが,50kgの方に使用するとなると

400 mg/kg × 50 kg = 20,000 mg となります.1000,2000 mgもあります.

1000 mg/kg × 50 kg = 50,000 mg

2000 mg/kg × 50 kg = 100,000 mgとなります.

100,000 mg の場合,5000 mg製剤の場合,20本となります.

高用量の必要性が分かります.

 

米国の状況などは?

免疫グロブリン製剤は米国でも高用量で使用されています.

400mg/kgが主で,GVHDの予防では500-1000mg/kg/週という記載もあります.

 

Up to dateを見てみても,米国でもかなり適応外使用という記載付きで

様々な疾患に用いられているようです.

 

ギラン・バレー症候群が適応外というのも意外でしたが,CD腸炎などでも用いられているようです.

 

上記の正岡先生の本では,

米国での免疫グロブリンの製造量は年間40000kgで,その使用量は日本の約7倍とされている,とあります.

現在,かなり国内の使用量も増えていると思いますので,少し古い資料かもしれませんが,米国では日本とは異なり,かなりの量が製品化されているようです.

そして米国でも適応外使用が60%とされています.

 

疾患がかなり複雑なこと,他に治療方法がないことなどもあるかもしれませんし,

正岡先生の書籍では,米国での適応が6疾患とされていますので,それが理由でしょう.

いずれにしても,米国,国内共に,免疫グロブリンに救われている方は多いという事になるかと思います.

 

高用量,高濃度製剤の発売

今回の話題にあがっている献血ヴェノグロブリンIHは,

5%の0.5g,1g,2.5g,5gというラインナップのですが,

2013年2月より,大量投与の機会が増えることから,10g製剤を発売しています.

上記の計算のとおり,大量投与の用法用量が増えてきているという事になります.

 

現時点で10g製剤があるのは,献血ポリグロビンN10%静注10g/100mLとなっていますが,

こちらも同様の製薬会社が発売しており,

献血ヴェノグロブリンIHに移行していくという事も聞いています.

 

投与が高用量化していくこの製剤では,

より高用量製剤が,点滴の交換の手間が少なくなることや,

点滴時間の短縮化などから,要望が高くなってきています.

 

そしてそんな中,献血ヴェノグロブリンIHは2017 年 2 月に「献血ヴェノグロブリ

ン IH10%静注」の10%製剤の発売に至っています.

 

上記の通り,高用量化してきている免疫グロブリン製剤,5%から10%製剤への高濃度製剤の発売は,

・投与液量が半分になるため,投与液量に関わる心臓への負担軽減が期待できる

・推奨投与速度を 5%製剤と同一に設定していることから,投与時間の短縮が可能

 

と,10%製剤は5%製剤に比べてメリットが大きくなっています.

 

当施設も,この条件をみて,切り替えない理由がありませんでした.

メリットしか感じられない状況です.

患者さんの輸液量の負荷の軽減,点滴時間.5%から10%に切り替えたほうが,メリットが多く,デメリットがない.その通りかと思います.

しかししかし...

 

供給状況は…

現時点(2019/6/6)時点で,国内では,まだ供給が切迫したという公的な報道,案内は出ていません.

しかしながら,上記の10%製剤にデメリットを感じず,切り替えを行った施設は,

当施設だけではなく,非常に多くの施設が5%から10%製剤への切り替えを行ったようです.

上述のとおり,免疫グロブリンは,製造の元が人の献血である以上,

大量生産は難しいです.

そして人の由来であるため,ウイルスの除去など,安全性の確保も,薬剤の確保と同様,最も大切なことの一つになります.

 

当施設でも,10%製剤にしたところ,

供給が厳しく(ほかの施設も同様に切り替えたため,製造元の予想を上回った需要となってしまった),

再び5%へ戻すような話と共に,

製造元は5%から10%製剤の切り替えのために,5%を製造する工場を縮小しているとの事でした.

 

何だかよく分からない状況ですが,献血ヴェノグロブリンIHは,

供給が制限されるような状況に陥っているようです.

 

これは献血ヴェノグロブリンIHに限った問題なのか

今回,この話を聞いたとき,

献血ヴェノグロブリンIHがいつまで制限されるのか?

5%の製造をすぐやめて,全力で10%製剤を製造すれば,何も問題はないのではないか

など,かなり端的な考えを持ってしまいました.

 

浅い考えですね.でも,そうとってしまいませんか?

 

メリットがある,高用量化のための10%製剤を優先して製造する.

それで解決する問題ではないのか,と.

 

血液製剤は,献血で本邦はまかなわれています.

海外では,売血から製造されている国もあるため,供給が保たれていると聞いたこともあります.献血で,ということがポイントです.

 

献血してくれないと,これらの血漿分画製剤は,製造することができないのです.

 

 

原料の血液が足りなくなってきている?

下記資料をみて,焦りました.

 

必要原料血漿量の予測について(PDF:4MB)

平成30年度第4回血液事業部会運営委員会(ペーパーレス)資料

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000209697_00003.html

 

本資料の条件はいくつか制限があります.

 

・医療機関への供給量ではなく,製造業者から作成

・免疫グロブリンの供給量は徐々に増加している

・保管中間原料(冷凍保管していたもの,らしい)の取り崩しが概ね終了した

・必要量の予測が高まっている

・製造業者のシェア予測では,新たな適応拡大の需要増は含まれないとされている

・今後さらに調査を行う

 

 とされています.

 

神経内科の医師のコメントが,現場の医師の意見としてとても参考になります.

一度ご確認しておくことをお勧めします.

 

何回も書きますが,現時点で欠品となる話は出ていません.

そして供給制限となるのは献血ヴェノグロブリンIHですが,公的な案内は来ておりません.

 

むやみに大騒ぎするのは混乱を招くだけなので,

無理な注文をするなどの暴挙は控えるのはもちろん,

無駄な在庫は置かないのが最も懸命な対策でしょう.

 

しかしながら,血漿分画製剤は,現時点における本邦での製造方法が,

献血のみに由来していることから,

国内品はもともと限度があることも知っておくべきでしょう.

そして疾患の特性などから,必要時には欠品することがあってはならない薬剤です.

 

現時点での免疫グロブリン製剤の適応(主な3品目)を簡単にまとめました.

 

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適応1

 

 

 

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適応2


欠品ではないですが,制限がかかっている以上,

当施設では,ヴェノグロブリンIHはその適応のみに限っての使用としていくような

対応とせざるを得ません.

供給制限がかかっていなければ,現時点では問題ないでしょう.

 

他の免疫グロブリン製剤で,適応が異なっていながらも,準備できるものは準備する必要があるかもしれません.

 

ヴェノグロブリンIHは6割程度のシェアを持っているとされています.

以前,化血研の問題があって,ベニロンが流通しなくなりました.

その際は,適応が異なっていても ,別のグロブリンで一時的に保険上も問題なく使用できる案内がありました.

 

しかしながら,今回は,欠品しているわけではないので,適応通りの使用となることは明らかです.

 

今回の供給制限が,私の取り越し苦労であってほしい,

大騒ぎになるような状況にならないでほしいという事を願って,書いてみました.

 

このような薬剤が欠品するなど,考えたくないです.

 

とりあえず献血に行こうと思います. 

 

2016/06/26追記

正式な案内が 

医療関係者ですか?「はい」「いいえ」|(JB)日本血液製剤機構 医療関係者向け

「献血ヴェノグロブリン IH 5%・10%静注」の品薄状況へのご理解のお願い

2019/06/24に追記になっておりました.

 

効能効果の追加承認により需要が増えている,という事がかなり影響している状況も読み取れます.2019年7月から,他社製品への代替についての記載があります.

  

この文章を読み取る限り,やはり品薄状態という事であっても完全な欠品ではなく

市場からなくなる事ではないので,以前の化血研の問題のような,

適応取得がない投与については認められないと考えるべきでしょう.

 

すでにグロブリン製剤は出荷調整のお話しもききます.

抗菌薬に加えてグロブリン製剤の供給制限.

現場はかなり混乱しています.

 

抗菌薬と異なるのは,現時点ではグロブリン製剤が血漿分画製剤で,その製法が,一般的な薬剤と異なり,人の血液に由来しているという点です.

 

安全性の確保,という観点でも,過去の取り組みから,二度と起こらないような厳密な管理が行われています.

そして,薬剤として流通されるためには,時間がかかることを認識しなくてはなりません.

 

先が見えないのが気になるところです.

 

情報をまた集めていきたいと思います.