病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

セファゾリンNa供給不足に関する追加情報.ニプロ お前もか.

これだけ世間を騒がしているセファゾリンですが,6-7割近いシェアをもつ日医工が供給停止に陥り,もう一つの後発品メーカーであるニプロの製品も,この度供給に支障をきたすことになったと説明がございました.

 

ニプロ製品を採用していない施設でも案内いただいておりますが,日医工の影響程ではないですが,タイミングが悪すぎますね.

 

正式な案内文書はHp上にはないようです.印刷した用紙をいただきました.

 

f:id:RIQuartette:20190423204442j:plain

不足

 

 

今回の製品供給に支障をきたした理由は

 

製造しているセファゾリンNa注射用1g,2g 「NP」の,原薬の製造が一時中止されていた時期があり,その影響との事でした.

でました,またもや原薬,の文字.

 

ここ最近,本当に医薬品の供給,原薬にまつわるトラブルが多く,非常に現場としては混乱しています.

上記の通り,セファゾリンのシェアはほとんどが日医工なので,先日の供給停止によるあおりを受けている施設は,もうあまり影響のない話なのですが(もちろんセファゾリン自体が使えないという問題が残っていることに変わりはないですが),それを回避してきたニプロ製品を使用している施設には大きな問題です.

 

セファゾリンが大切な医薬品である理由

 下記にまとめました.

 

www.riquartette.tokyo

 

 

未だにこの薬剤が供給不安定で,病院で治療せよ,というのは,適正使用というにはあまりに厳しい状況です.

過去に例を見ない状況なのには変わりありません.

 

今回の対象となるセファゾリンは…

 ニプロ製品ではセファゾリンNa注射用1g「NP」,2g が対象となります.

お,そうすると   

0.25g,0.5gとセファゾリンNa点滴静注用1gバッグ「NP」は対象外なら,大丈夫じゃないの?1gバッグが使えればべつに1g,2gがなくなっても…

 

というのが通常の思考かと思います.その通りです.そう思いたいです.

ところが,上記案内の,1g/2g製剤の原薬の製造が中止していたということが原因とありました.

 

セファゾリンの最も多く使われる用量は?

 

SSIガイドラインにおけるセファゾリンの用量は下記になります.

http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/jyutsugo_shiyou_jissen.pdf

 

予防抗菌薬 1 回投与量

通常は1 g,体重が≧80 kgの場合は2 g,≧120 kgの場合は3 gとされています.

最近は高体重の方も増えてきていますが,ほとんどは1gの投与が多いかと思います.

手術中の追加投与は,セファゾリンの半減期が正常腎機能者で1.2-2.2時間とされており,3-4時間ごとの追加投与が推奨されています.

成人で最も使用する1回量は1gとなるかと思います.

 

血流感染治療の用量

サンフォード治療ガイドでは,MSSAの菌血症に本邦ではNafcillinがないため,セファゾリンの治療となります.正常腎機能では1回2gを8時間ごとが推奨されています.

 

添付文書での用量

いつも添付文書の問題になりますが,

セファゾリンNa注射用1g「NP」添付文書より,

 

セファゾリンとして、通常、1日量成人には1g(力価)、小児には体重kg当り20〜40mg(力価)を2回に分けて緩徐に静脈内へ注射するが、筋肉内へ注射することもできる。

症状及び感染菌の感受性から効果不十分と判断される場合には、1日量成人1.5〜3g(力価)を、小児には体重kg当り50mg(力価)を3回に分割投与する。

症状が特に重篤な場合には、1日量成人5g(力価)、小児には体重kg当り100mg(力価)までを分割投与することができる。

また、輸液に加え、静脈内に点滴注入することもできる

 

 

添付文書上は5g/日 が上限となっておりますが,それについては

251 セファゾリンナトリウム水和物(感染症16)|社会保険診療報酬支払基金

より,

 原則として、「セファゾリンナトリウム水和物【注射薬】」を「現行の適応症の重症例」に対し「1回2gを8時間毎、静脈内に投与」した場合、当該使用事例を審査上認める。

 

となっています.社会保険診療報酬支払基金のHpに掲載があります.

最終更新日:2016年9月14日 となっておりますが,いまだに添付文書が改訂されないため,春先など職員が変わった際などに問い合わせがまだあります.

当施設でもセファゾリンを正しく使っていただくために,2g 8時間ごとを推奨しています.

保険上で問題になったことはないです.

1日5gと6gで治療効果に違いはあるのか?と聞かれるケースはないですが,

1日5gの処方は,どうやったらいいのか?

「1g×5回だと,何時間おきになるの?」

「2g-1g-2gという投与方法でよいですか?」

 

という質問も過去何度もいただきました.その問い合わせから1日6gにしてもらうことも多いです.添付文書,変わってくれるとありがたいです.たかが1gかもしれませんが.

 

というわけで,セファゾリンの1回1-2gが最も成人では使用が多い量となります.

1g/2g製剤の原薬のみがトラブルになり,他の規格が全て問題なく供給,という事であれば,それほど大きな案内でなくても事足りそうな気がします.

 

でも,1g/2gがなくなるなら,当然他の用量を使用しますよね.

その供給量は分かりませんし,他の規格も含め,とても安心できるような内容ではないかと思います.

現時点で7-8月中旬が厳しいようです.しかしながら原薬の製造はもう行っているようなので,秋以降には影響がないとの事でした(ニプロ製品に限ってという事ですが)

 

なぜあえてこの状況で記事を書いたのか

 

そもそもニプロを採用している施設では,今までもおそらくセファゾリンを使えている事でしょう.そしてそうではない施設,日医工を使用していた施設では,とっくに代替品の購入でセファゾリンが供給再開するのを凌いでいる状況です.

そうです,すでにセファゾリンの代替品は,多くの施設で使用されています.

すなわちセフォチアム,セフメタゾール,セフトリアキソン,アンピシリン/スルバクタム,クリンダマイシンなどになりますが,こちらもほぼ規制がかかってしまっています.

そうすると,今からセファゾリンの欠品を招いてしまうと,本当に代替品の供給が厳しくなる可能性があります.

どうしようもなくなってしまう可能性,があり得るかもしれないのです.

 

 

どのように対応すべきなのだろうか

 

正直,様々な対応を考えても,これはどうしようもないという風に諦めたくなります.

あまりに現場に与える影響が大きく,医療従事者は本来の力を発揮することができず,

医薬品の確保に日々追われ,なかった場合の代替の提案なので大きな時間をロスしています.

 

よく,様々なトラブルの際の経済的損失といった発表がありますが,この薬剤については,医薬品の単価もそれほど高額ではなく,手術の予防に必要で,根拠がしっかりとしており,

使用量も多く,本当に欠品してはいけない医薬品だと考えています.

 

代替の医薬品を考慮する,在庫の確認をする,電子カルテシステムの変更や修正を行う,医師に情報提供するなどなど,日々の業務以外に行わなくてはいけない項目が非常に増え,影響がとても大きい薬剤です.

 

この問題に費やされた医療従事者のマンパワーは,日本国内でとてつもない時間にのぼるでしょう.

誰にこれを請求したらいいのでしょうか?

 

そして代替となる医薬品は,どれもセファゾリンよりも高額です.

セファゾリンは1g「日医工」バイアルでは,109.00です.

今規制がかかってしまいましたが,つい最近まで使用可能だった

フルマリン静注用1gは,1,263.00です.

実に11.5倍です.

 

使わなくてもよい,高額な医薬品を使わなくてはならず,その変更や説明などで非常に多くの時間が費やされている,とてもばかばかしいですが,しっかり対応しなくてはこの問題は解決しないのです.

 

今回の問題は,起こってしまったことで,解決策は講じていても,無理だったのかもしれません.規模が大きすぎるためです.

日医工の管理上の甘さかもしれませんし,今回のニプロのお話しも,本当に勘弁してほしい状況になっているのが現状ですし,対策に追われ,疲弊しきっています.

そして多くの医療従事者が,ここに時間をとられてしまっています.

 

薬価が安く設定され過ぎているのでは,という指摘もあります.私自身,使えて当たり前,まさかなくなるという事を,今まで考えたことはありませんでした.

もう少しいくつかの製薬会社でシェアを分けられるように(薬価なども配慮して),国が主導すべきなのでは,という意見も当施設でも挙がりました.

 

前回も書きましたが,今回の供給不足問題で,予防投与で使用している人には,なるべく短期間での使用が可能であれば,見直していただき,適切に薬剤が使用できるよう,対応する機会になったのは良いことかもしれません.

しかし,現在は,それ以上の問題が出てしまっています.

 

このような大切な薬の事で,右往左往しなくてはいけないことは,非常に残念です.

落ち着いたころでもいいです,今回は何が問題で,どうすべきだったのか,どうすれば回避できたのか,今後起こらないためにはどうするのか,という事を行政,製薬会社,現場も含めて話し合う必要性があると感じています.

 

 いかがでしょうか?