病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

プラルエント販売停止に感じる違和感

完全ヒト型抗 PCSK9のプラルエント皮下注75mg・150mgペンが販売停止になる案内が参りました.

 

PCSK9に関連する薬剤はもう一つ,レパーサ皮下注(製造販売(輸入)/アムジェン株式会社 発売/アステラス製薬株式会社)が発売されていますが,今回の販売停止になった経緯は,こちらのアムジェン株式会社が関連しているとのことです.

 

プラルエント皮下注 | 添付文書(副作用・効果・効能) : [e-MR]サノフィ株式会社

 

 

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停止

 

  

 

プラルエント皮下注:アリロクマブ(遺伝子組換え)とは

作用機序

 IFにとても分かりやすい図があるのですが,文字だけだと添付文書のとおり,下記になります.

 

アリロクマブは高い親和性及び特異性でプロ蛋白質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)と結合し、PCSK9のLDL受容体(LDLR)への結合を阻害することによってLDLコレステロールの除去に利用できるLDLR数を増やし、その結果、LDLコレステロール値が低下する。

 

 PCSK9は肝細胞表面にあるLDL受容体数を減少させ,血中LDLコレステロールを増加させます.

そのPCSK9にアリロクマブが結合して,LDL受容体の分解を抑制することで,

血中LDLコレステロールを低下させるとされています.

これはプラルエントもレパーサも同様です.

 

適応など

家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症

ただし、以下のいずれも満たす場合に限る。

・心血管イベントの発現リスクが高い

・ HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分、又はHMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない

 

 HMG-CoA還元酵素阻害剤が,副作用などで服用できない方でも

プラルエント,レパーサが適応となりました.

 

その効能効果の追記は,レパーサが2019年06月に効能効果を取得したのに対し,プラルエントはそれより早い,2018年11月に変更となっています.

 

また,レパーサは発売当初からシリンジタイプもありますが,プラルエントは使いやすいペン型のみの発売となっていました.

 

今回発売停止に至った理由

アムジェン社が保有する特許を侵害している,という特許侵害で

輸入や販売の差し止めを訴えた判決で,それに対してサノフィ側が

不服として最高裁判所に上告,2020年4月24日にこの上告が

棄却されたため,ということのようです.

 

https://e-mr.sanofi.co.jp/-/media/EMS/Conditions/eMR/products/praluent/downloads/info2020_01.pdf

 

内容については少しわかりづらいので,色々とみてみましたが,

日経メディカルの記事がわかりやすかったです.経緯などについてあります.

 

抗体医薬裁判の行方「1抗原1薬剤」の未来も(2ページ目):日経メディカル

 

 

私の理解が正しければ,

アムジェンは,PCSK9とLDLレセプターの結合を阻害する,多数の抗体(特定のアミノ酸だけではない)を含む機能的なものを特許としているため,

その一つであるプラルエント(アリロクマブ)も特許の侵害にあたる,

ということとなったようです.

 

誤っていたらすみません.

 

残念ながら,これは判決となるので,発売が継続できなくなってしまったということのようです.

薬剤の原薬や安全性に,問題があったというわけではない,ということになります.

 

分かってはいても感じる違和感

完全に個人的な見解ですみません.

これは根拠のない個人的なものですのであしからず.

 

医薬品が発売され,患者さんに投与される際,その安全性などから,

実際患者さんに適応となるかを医師が判断し,

様々なことに注意しながら慎重に投与がなされています.

薬剤師も投与の際に,様々な説明を行いますが,

新しい作用機序の医薬品にはより慎重に説明を行っています.

 

今回のこれら薬剤は,同系統で代替もある,という意味では

販売中止になっても現場は大きな混乱はないのかもしれません.

 

しかしながら,投与の際には厚生労働省からもガイドラインが作成されています.

高額であることなども話題となりました.

 

これらのことも踏まえて,患者さんにこの薬剤が

投与されているということになります.

 

今プラルエントを使用されている方に,どのように説明をすべきでしょうか.

患者さん用の説明文章も出てくるでしょうし,

対応が書かれていることを望みます.

次回からレパーサに切り替えてください,という内容になるのでしょう.

 

少し難しくしているのは,サノフィからプラルエントは出荷がされなくなります.

それは決まったことなので仕方ないです.

しかしながらすでに医薬品卸,病院や薬局に置かれてあるものは,停止とならず,使用できる,ということになっています.

それは廃棄すべきなのでしょうか?

事前に患者さんのために準備してくれている薬局では,どうでしょうか.

冷所保管のため,返品はできない医薬品になるかと思います.

発売停止になるけど,在庫がまだあるので投与できます,

というような説明,患者さんは納得できるものでしょうか?

 

あくまで差し止めとなっているのは,この特許に関する部分なので,

医薬品自体に不具合があったというわけではないことになります.

 

この薬剤は,適応の通り,心血管イベントの発現リスクが高く,

キーとなる医薬品である HMG-CoA還元酵素阻害剤が

使用できない患者さんにも使用されている医薬品です.

 

今まで使用されていた方に,

特許の関係でこの薬剤は投与できなくなります,というだけでは,

やはり説明が足りないような気がしてしまうのです.

 

これが認められたことが意味するもの

この連絡があった際に,当薬剤科でも話題に挙がったのが,

同様に抗体製剤は,これからも特許の関係で発売停止になり得るのではないか,

という疑問です.

 

知人に弁理士の方がいて,いろいろな話を聞く機会もあります.

私も理解できない部分も多く,法律で決まっているもの,

守られているもの,という意味では

このような対応は正しいものなのでしょう.

 

今回のことに関しては,日本でこのような事例は

なかったのではないかと思います(私が知らないだけかもしれませんが).

 

医薬品の開発に莫大な時間,金額がかかることは理解しているつもりですし,

それが守られるべきものであることも理解しているつもりです.

 

しかしながら,それを理解したうえでも,

現在発売されている医薬品が,特許の関係で,突然今日から出荷できなくなります,ということには,動揺を隠せません.

患者さん,医師,製薬会社の方,医療従事者に至るまで,医薬品の投与に関しては,様々な人が関わっています.

 

医薬品の成分や原薬などでトラブルになったり,

調達できなくなった(採算などを含む)ために製造が継続できなくなる,

ということが最近多くありましたが,

このような理由での発売停止は違和感が残りました.

 

全く個人的な意見で申し訳ないのですが,

発売される前に,何とかならないものでしょうか?

 

医薬品が発売され,使用されると,必ずそこには投与されている患者さんが存在することになります.

国も適応を認めている医薬品なので,当然ながら,発売後の突然の発売停止は,大きな混乱を招くことになります.

 

抗体製剤,バイオ構造品なども発売されてきていますが,

これからどのようになるのでしょうか.

 

高分子の医薬品は,これで合わないけど,別なものなら,

というケースもあるかと思いますし,

いろいろな薬剤が選択できるほうが,

臨床的には有用であると個人的に考えています.

 

欧米と異なり,日本にはまだ破綻はしていない,

優れた保険制度があります.

その中では,患者さんのために,先人たちが守ってきた仕組みがあります.

特許に関すること,と言われればそれまでなのですが,

今後どのような形になっていくのか,見守っていきたいと思います.

 

とりあえず,私には私のできることを行います.

少しでも患者さん,主治医に混乱の無いよう,

この件に関しては,少しでもスムーズに対応できるよう,

情報を集め,努力するつもりです.

 

切り替えの現状について

2020/05/11追記

気になっていたのが,プラルエントからレパーサに切り替える際の説明と,

レパーサの使用に関する部分です.

 

説明には,レパーサに,というものはサノフィ側からも作りづらいと思いますが

現状はそうなるでしょう.

 

それぞれ添付文書を見ていると,用法なども同様で,

もし同様のペンで切り替えが可能な方は,説明に関しては混乱がない印象です.

 

プラルエント,レパーサの説明の際,同じ感じで行っているかたも多いかと思います.

私も直接ご説明する機会は限られているのですが,

切り替えを行う方は今までいらっしゃらなかったので,

具体的な説明については考えたことがありませんでした.

 

ペンであれば外観も同じで,ということでよくよく見てみると,

デバイスが同じ? ではないですか.

製品の写真を見ると,左右が逆ですが,反対にしてみましょう.

 

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レパーサペン

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レパーサペン反対向き

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プラルエントペン

少し写真の大きさは異なりますが,レパーサペンの反対向きとプラルエントペン,
おー,ほぼ同じですね.

  

これは認識していなかったです.IFみても大きさも書いてないし,容器の材質みても記載が

実薬を用いた説明を行ったことがなかったためです.

外箱でお渡しする機会の方が多いかと思います.

箱を開けて,というのは使用する直前が多いため,

やはり実薬の確認をしておくということは必要ですね.

 

説明手順を見てみます.下記からの一部抜粋です.

参考;プラルエント 取扱説明書,レパーサ 自己注射の方法

 

行程もほぼ同様です.

 

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プラルエント使い方1

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レパーサ使い方1

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プラルエント使い方2

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レパーサ使い方2

 

注意点も同様ですし,これならスムーズに説明できそうです.

 

念のため担当MRさんに聞いてみました.

 

両薬剤ともに,ペン(薬剤以外の外側のデバイス)を作成している会社が

同じとのことです.

 

プラルエントからレパーサに切り替える際に,

同じペンであれば使いなれている方であれば問題なさそうです.

少しでもスムーズに,患者さんのために準備をしておくことは必要かと思います.

 

RISFAXを契約していないと下記は閲覧できませんが, 
サノフィ プラルエント販売終了、アムジェン特許で28年まで供給不可能

https://risfax.co.jp/risfax/177659

 

とあります.現実的にはやはりプラルエントの販売継続は厳しいようです. 

 

現在治療されている方に,少しでも影響が少ないよう,対応できることはありそうです.混乱の無いような対応が望まれます.

 

医薬品には,アドヒアランス改善のために,様々な優れたデバイスが開発されています.

そのようなものであっても,切り替えの際や,初めて使用するものは,正しく使用するための説明は必要かと思います.

 

吸入のデバイスもそうですが,切り替えには神経を使います.使用される患者さんはそれ以上かと思います.

私たちにできることを,しっかりと行う.一つ一つ行っていこうと思います.