すでに報道にもありました,オルベスコの出荷調整.
「オルベスコ」の出荷調整、医療機関に周知 帝人ファーマ | 日刊薬業 - 医薬品産業の総合情報サイト
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出荷調整になったのは2020/3/5なので,しばらく経ちましたが,
私達の施設でも,通常の月間の使用量から,
割り当てなどのお話がございました.
来るだろうな,と思いながらも,いざ来るとうろたえる,このニュース.
マスクやトイレットペーパーで,
日本人の影響のされやすさに驚きながらも,
私自身,冷静に報道を見ていたつもりですが,
医薬品にも影響があるのかと思うと,とても悲しくなりました.
供給制限になった経緯は・・・
こちらはもうわざわざ記載するほどでもないですが,
下記の報告になります.
http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_casereport_200302_02.pdf
今回の供給制限になった理由は,報道から,
単純にCOVID-19に有効,という部分のみを受け取ってしまった
ということに他ならないと思います.
論文は7ページからなっています.
初めから最後までお読みになってから,
行動を移されたのかが,非常に疑問です.
私の周りでも,
「コロナにオルベスコが効くらしいよー」と,
この論文を本当に読んだとは思えない発言もありました.
単純化すると,そうなのかもしれませんが,
この論文には大切なことが,
たくさんちりばめられているのです.
まず,しっかり論文を読んでいただき,
この状況で筆者たちが述べたかったことを
一つ一つ確認しておくことが大切かと感じました.
呼吸器科の先生と話していたのですが,
「症例が3症例であることから,それを広く適応するにはまだ早すぎるし,まっとうな医師はそんな処方しないでしょ」
という,ごく普通のお答えをいただきました.
本当にその通りで,論文にもそう記載があるのです.
私が
「いや,実は当施設でもオルベスコの割り当てなどのお話が…」
とお伝えすると
少し発狂気味になってしまわれていました.
先生ゴメンナサイ.
未知のウイルスに有用であるかも,と投与が行われた
ロピナビル・リトナビルの継続ができなかった方への投与や,
高齢者での有用性という意味では,
とても意義がある論文かと思います.
このような貴重な症例発表を,
速やかに日本語で御発表いただいたということも,
医療従事者として素晴らしいと思います.
効果に関する考察の部分で,しっかりと下記の記載があります.
6 例の肺炎患者中シクレソニド導入前の 3 例中 2 例が人工呼吸器管理を要し、導入後の 3 例は軽快しているが、当然ながら疾患背景が異なっておりこの症例数のみで効果を論ずることはできない。
そしてこれはまだこれからの治療であって,投与に際しては,
各医療機関のご判断で、倫理委員会に諮ったうえでご使用いただくこととなります。
ということも,しっかり論文中に記載されています.
オルベスコの添付文書(2017年9月改訂(第9版))には,
禁忌(次の患者には投与しないこと)
1.有効な抗菌剤の存在しない感染症、深在性真菌症の患者[症状を増悪するおそれがある。]
2.本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者
とあり,オルベスコがプロドラックであり,
吸入ステロイドの局所的な作用ということなども考えてみても,
医薬品であることは間違いなく,
とてもじゃないですが,なんとなく吸ってみる,というような薬剤ではないことはご理解いただけると思います.
オルベスコは処方せん医薬品です.
処方せんが必要になる医療用の医薬品であるため,
個人で購入ということではなく,そこには医師の診断,処方が伴います.
それであっても,患者さんからの要望が処方医に与える影響というのも,
私も少しは理解しているつもりです.
医師が複数いる大きな病院と異なり,
患者さんからの要望が評価に直結する開業されている先生の立場も
分かっているつもりです.
普通に考えると,上記論文は非常に有用性が高いと考えます.
そしてその論文の内容を見ると,
しっかりとした医師の判断で,
しっかりとした取り決めを守って処方する,
そして効果をしっかり見極めることで,
COVID-19の重篤化を回避することができる可能性がある,有用な知見であることが理解できます.
しかしながら,この何とも言えないような閉塞感のある状況,
日々報道されるネガティブな報道・・・
その中で,
このような有益な情報を,その有用性をしっかり得るために守らなくてはいけないことも考えずに,有効かどうだという判断は,決して行ってはいけないと考えています.
診断,治療は,医師に与えられているものであり,
その領域について,数日で見たニュースなどから,
この薬剤を希望する,というようなことについて
あれこれ言うこと自体がナンセンスなわけです.
私たち薬剤師も,そのような認識の方には,
しっかりお話しする必要があるかと思います.
私も親戚や知人からこの件について聞かれました.
軽い気持ちで聞かれましたが,それを判断するのは医師なので,
余計なことは考える必要はないと伝えています.
しっかりとしたこの論文の限界(臨床研究の段階であること)や,
医療についての正しい認識(怖いから喘息でもないのに医師にオルベスコを処方して下さいなどとは言わない)を理解していただくのが難しければ,
自分の言動が,ほかの人に影響が出ることも伝えました.
本当に必要な人に,オルベスコが行き届かなくなる影響を考えなくてはいけないから,です.
オルベスコはどんな薬?
IFの内容をざっとまとめると,下記になります.
・1日1回投与の吸入ステロイド
シクレソニドとして100〜400μgを1日1回吸入投与する。なお、症状により適宜増減するが、1日の最大投与量は800μgとする。
また、1日に800μgを投与する場合は、朝、夜の1日2回に分けて投与する。
通常量で1回,高用量では2回に分けての吸入になります.
通常量は1日1回の吸入でよい,という特徴があります.
・肺で活性化される局所活性化型吸入ステロイド
・小児気管支喘息の適応がある
あたりでしょうか.もっと素晴らしい情報もあるかと思います.
成人の喘息のガイドラインでも,吸入ステロイドは治療ステップ1から
低用量吸入ステロイドは推奨されています.
供給制限になった際の対応はどうすればよいのだろうか
まだ処方の停止などにはなっておりませんし,これを書いているそばから,
ミクスで下記のニュースが流れてきました.
帝人ファーマ 吸入ステロイド薬・オルベスコで2万本確保 新型コロナの臨床研究で | ニュース | ミクスOnline
「気管支喘息の患者の安定供給を確保したうえで実施する」と強調している
とあるので,大丈夫なのでしょう.
これ以上の混乱がないことを願っています.
私たちの施設でも,オルベスコの代替などの資料を準備しました.
ガイドラインの記載から,同量の換算などを準備しました.
喘息薬は専門の医師が処方するため,不要かとも思いますが,
持参された薬剤なども含め,
対応については準備しておく必要があるかと思います.
意外と吸入ステロイド(加圧式定量吸入器(pMDI)),それも単剤のものは少ないことに気づきます.
実際はキュバール,フルタイドエアゾールしかありません.
pMDIの吸入ステロイドは,
換算のステロイド量が同じなので分かりやすいと思います.
本当は,これは見られることなく,
資料としてはお蔵入りになってもらいたい資料です.
掲載などには許可が必要なため,ご案内のみにしておきますが,
下記の日本アレルギー協会Hpに,
災害派遣医療スタッフ向けアレルギー疾患対応マニュアル | 公益財団法人 日本アレルギー協会 - JAANet Station
災害派遣医療スタッフ向けアレルギー疾患対応マニュアルが公開されています.
成人,小児で吸入ステロイドの用量対応表があり,
喘息管理ガイドラインとともに非常に有用な資料となります.
ぜひ参考になさってください.
喘息の方での吸入ステロイド,発作を抑えるためのコントローラーとして,
オルベスコはなくてはならない医薬品です.
なんだかよくわからないけど,COVID-19に有用そうなので,
オルベスコが欲しい,というような考え方にならないように,
機会があれば説明をする必要があります.
たとえ処方があったとしても,患者さんが,喘息ではないのに,
何かあったときのために,というような状況で持っておくものではない,
ということを説明すべきだと感じています.
オルベスコのほかにも,韓国の資料などを眺めてみると
予備的な資料のため,診療などを誘導するものではないという
注意書きがある条件で,オルベスコ以外にも
ジギトキシン,ジゴキシン,レゴラフェニブ,ネルフィナビル,ベニジピンなどが
挙がっているようです.
どれもとても試しに服用してみようとは思えない薬剤ですが,
情報の扱い方によっては,今回と同様の方向になる可能性もあります.
そうならないように,少なくとも医薬品を扱う薬剤師として,
しっかりとした認識を持って対応していきたいです.
様々な情報が,一瞬で手に入るようになり,
今までは専門の医師だけが知っていればよい情報が,
良くも悪くも一般の方にも手に入れられる時代となりました.
そして報道の在り方によっては,
様々な認識の違いから,混乱を生じてしまう可能性というのを,
今回は身をもって感じました.
医薬品としては影響ないだろう,と勝手に考えていた私は,認識不足でした.
医薬品の流通や在庫確認のほか,
医薬品の正しい情報を伝えるという難しさも,今回学びました.
医薬品の情報を正しく理解して,正しく扱うこと.正しく伝えること.
必要な薬が(喘息の薬が),
治療中の患者さんに(喘息の患者さんに)届くようにすること.
薬剤師の大切な仕事の一つだと感じています.