病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

病院の電子データを安全性のために生かす

電子カルテの導入は,様々な病院で行われていると思います.そのデータを生かし,医療安全に生かそうという取り組みがなされています.

 

用いるべきものを用い,できることを行う.これからの医療に必要な取り組みです.

 

今回薬事日報に,九州大学病院の報告がありましたので,こちらについて考えてみたいと思います.

【九州大病院薬剤部】電カルの診療情報解析を試行‐要注意症例の検出に活用 : 薬事日報ウェブサイト

 

 

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できる,へ

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病院の電子データシステム

電子カルテは,様々な情報を電子化し,相互にリンクすることが可能です.このシステムが本当にうまく働けば,様々な情報が相互にチェックされ,より安全な医療が行われるものと考えています.

これを始めに書いたのは,現場はまだまだその領域には至ってはいないためです.

 

国内では,大きく2つの電子カルテメーカーがあるかと思います.電子カルテの導入により,より安全な医療が行われるものと考えられています.

当施設では,おそらく日本のメインであろう,F社のものを使わせていただいています.

 

薬剤師が関係する電子カルテシステムの中で,やはり最もシステムのところで有用な部分は,相互作用・禁忌薬のチェックになるかと思います.

明らかに併用禁忌になっている薬剤同士のものは,処方の際にチェックがかかるのが1番安全です.

当然これは,人より機械の方が抜けもなく,信頼できるものだと思います.

 

電子カルテと医薬品情報

しかしながら,現在の添付文書は,医薬品の薬品名まで明確に提示されている医薬品ばかりではないというのが現状です.

薬剤は,その併用により,明らかに薬物の有害事象が発生することがわかっているものに関しては,併用禁忌という形で,併用しないということで注意することができます.

これは,体内動態も含めその根拠になるものが存在しているものになります.

 

しかしながら,同効薬はどうなのか,もしくは同じような代謝経路のものはどうなのかというのは不明な部分もあります.

 

さらに,相互作用は2つ以上の薬剤の組み合わせにより規定されますが,1つの医薬品から見た併用禁忌として設定されている医薬品というものもあれば,その逆の添付文書から見た薬剤は,曖昧な書き方である場合もあり,薬品として設定されていないという事も現実にはあります.

さらに,3剤以上の相互作用などは,何かが起こってみないと,予想すらできない状況というのも事実です.

 

これは,相互作用の情報を作成しているのが,製薬会社になるからです.新しい薬品が次々に開発され,発馬しています.新薬に関しては,より安全性に関する情報が調査され,併用により問題が起こりそうな医薬品は,併用注意・併用禁忌といった設定がなされます.

 

しかしながら,過去からすでに発売している医薬品というのは,新しい薬品との相互作用の確認などを,当然ですが行っていないわけなので,一時的に新薬のほうの薬剤のみに記載され,その後整合性を取る形で合わせられるというケースもあります.当然と言えば,当然のことになります.

 

薬剤の併用注意・禁忌薬剤に関する組み合わせは,こういったシステムでチェックが行われています.

ちなみに,当施設では,そのチェックに,医薬品の情報データベースを用いて行っています.そして,アナログなのですが,その情報システムの禁忌の組み合わせは,そのデータベースの会社の薬剤師が行っています.

意外と機械化がまだできていない,人の判断になりえる部分が,実はまだ存在しています.

 

今後,添付文書の情報,記載項目が変更になります.判断が難しかった原則禁忌,という項目はなくなる予定ですが,こういった項目があるために,どの情報を重要視するのか,相互作用をどこまでカバーするのか,というのは,まだ完全に機械化できておらず,意外と人に頼っている部分があります.

 

薬剤の併用禁忌以外は…

薬剤同士の併用禁忌でも,微妙な問題があるのですが,医療にはさらにもう少し難しい確認が必要な事項もあります.

 

それは,薬剤と疾患の禁忌など,もしくはある程度臨床検査値が低下している場合に,用量調整が必要な薬剤というものが,現時点で電子カルテでは自動的に減量,もしくは処方上の注意がかかるといったシステムが,開発されていません.

 

特に疾患による禁忌というものは,その患者さんの保険病名なども含め,それによる薬剤の禁忌までを電子カルテ内でチェックさせるシステムは,情報量も含めてなかなか難しいとされています.

その個々の患者さんによって,使用されるケースもなくはない,というのが現場の医療だからです.そしてその判断は,主治医に委ねられているからです.

 

ここは医師・薬剤師も含めた医療従事者に,その安全性のチェックというのが委ねられているのが現状です.

 

今回の報道の優れたところは…

薬事日報での報告は,九州大学病院薬剤部の,電子カルテでの診療情報を用いた,様々なチェックシステム,特に要注意症例の検出に有用ではないかという点です.

 

この九州大学のシステムでは,上記の疾患と薬剤禁忌などがチェックできるとされています.

 

薬剤同士の作用禁忌というのは,上記のとおりですが,このシステムは電子カルテ内でのチェックができるようになっています.これは比較的行っている施設もあるかと思います.

 

このシステムでは,薬剤が投与されていて,それに伴う検査値の確認などを行ったり,さらに最近話題になってきている腎機能が低下している患者に対して,減量して投与しなくてはいけない医薬品というものが設定されていますが,こういったチェックも行えるという記事となっています.

 

こちらのシステムでは,九州大学病院の薬剤部の方で抽出した情報を,用紙等で病棟薬剤師に配布し,病棟薬剤師はその内容確認モニタリングをする,または介入を実施しているとされています.

 

このシステムは非常に有用性が高いと考えます.現在,当施設でも,ある程度は電子システムでチェックを行い,あとは病棟薬剤師に委ねられています.それをシステム的に抽出し,もれが無いようにつなぐというのは,新人の薬剤師,経験が浅い薬剤師にとっても有用となるシステムでしょう.

 

しかしながら…

電子カルテの情報を,様々な情報から必要な部分だけを抽出し,確認する事は,非常に大切ですが,このような記事が現在特集されているとい言う時点で,これを行えている施設はまだまだ多くないのが,今の医療現場の実情かと思います.

こんなこと,と言ってはおかしいですが,これは当たり前のシステムではないのか?,何をいまさら,と思われる方も多いかと思います.

 

電子カルテも,これからさらに進化し,情報量を扱えるようになってくると,今こういったことを行っている,病院薬剤師が行っているような業務が,事前にAIなどでチェックできたり,処方する前などに,情報としてわかるようなシステム作りというのが,今後進んでいくでしょう.

 

しかしながら,現時点では,医療の電子カルテなどを用いた,チェックシステムにおいても,まだまだ安全性に関しては,決して満足のいくようなシステムが,大きな病院でもできているところの方が少ないかと思います.

 

ここ最近の医薬品の,禁忌や注意事項なども含めた,非常に情報が多い薬剤というのが増えてきているのも,そういった難しさにつながっている理由の一つかもしれません.

 

難治性の疾患でも,今までは薬剤がなく,治療がなかなか困難とされていた疾患に,その病名が少しずつ解明され,有用な薬剤というのが少しずつ開発されてきています.

 

この進歩というのは非常に早く,これからは様々な疾患が,個別化治療に進んでいくかと思います.

しかしながら,実臨床では,臨床試験のデータしかない中で,本当にその新薬が,実際に投与されないとわからないような副作用なども含め,何をモニタリングし,予想しえない様々な副作用や,検査値などをチェックすることになるわけです.未知なる部分も多い領域であったりもします.

それらも含め,電子カルテの情報などから,安全性を担保するための利用,というのはとても望まれている領域になります.

 

これからの電子データなどはどうなるのか

現在ある診療情報などから,複数の目でその安全性のチェックを行うという方向性は,これからも病院で進んでいく方向になると思います.

そしてこれは,入院患者さんであれば,薬に関しては担当医師担当と病棟薬剤師のみで行われていたものが,こういったデーターベースなどを用いることによって,第三者等から少しでもそれに関して注意が促せるようなシステムになっていくことが予想されます.今後,非常に期待されている分野なのではないかと思います.

 

九州大学では,すでに2018年の1月1日から稼働しているということで,病棟担当薬剤師が介入した症例の件数や,提案の件数,また受諾率などが出ています.

やはりこういったシステムを作ることだけではなく,それをうまく利用し,どのようにいかせたかというのを,しっかり出していただくことが,これからの医療の進歩に必要なのではないかと考えています.

 

電子カルテは,先ほども述べましたが,薬剤であれば処方をオーダーするだけのところから(いわゆる手書きの代わりにワープロ等を用い,それが電子記録として残っている)というだけのものから,様々な情報とリンクし,チェック機能が働くようなシステムに進みつつあります.

しかしながら,まだまだこちらに関してはすべての医療従事者がより安全にこのシステムを用いて医療が行えるようなレベルにはまだなっていない,というのが現状なのではないでしょうか.

そういったものが開発,運用されるまでは,病院に入院患者の受け入れができない,というわけにはいかないので,現状をうまく管理しながら,次なる更なる安全を求めたシステムの開発が期待されています

実際,様々な疾患の患者さんが,日中平日,夜間関係なく診察におとずれ,必要な治療が施されています.

その今現在進行している医療において,安全性が先になってしまうというのはあってはならないことになります.

 

現実としては,こういったチェックなどを人が行っている時点で,どうしてもマンパワーが必要になってきてしまいます.

今回の九州大学病院の取り組みは,こういったものを効率よくデータベースを使って抽出し,より適切なチェック項目を確認することで,より医療の安全に貢献できるシステムといえるでしょう.

 

こういったシステムがうまく稼働すれば,これはやはり病院の中だけではなく,電子カルテの標準装備のような形で,全国の医療機関で使ってもらいたいと私は感じています.

様々な電子カルテの取り組みなどが報告されますが,やはりそれはその病院独自で行っているだけでは決して良いとは思えないのです.

 

あまり言い方は良くないですが,九州大学病院に入院されている患者さんのみが恩恵を受けるのではなく,こういった取り組みをしっかり国の政策のような形で様々な医療機関に導入できるような手はずを整えていただきたいと,私は考えています.

 

このシステムは,処方が出たあとを確認する,といったシステムとして私はとらえていますが,より安全性を確認することに特化したシステムという点で,優れていると思います.

大きな問題がないようであれば,速やかにこういったシステムを様々な病院で導入できるような方策という事も,ぜひ考えていただきたいものです.

 

最後に,薬剤師は何をすべきか

安全性のシグナルを,電子カルテを用い,行っている報告は,すでに下記の論文でも確認することができます.

医薬品副作用自動監視システムによる副作用検出の評価,五十嵐 敏明ほか,医薬品情報学 ,20,2;66-71(2018.08)

 

こちらの福井大学病院薬剤部の報告でも,電子カルテの情報から,安全性のシグナルを決め,それを抽出することにより,より医薬品の安全使用に貢献できるという報告です.

 

病院薬剤師の業務というのは,決して患者さんに医薬品についての説明を行い,理解をしてもらう,そして間違いなく,納得して飲んでいただく,いうだけではないかと思います.もちろんこれはとても大切なことで,決して怠ってよいことではありません.

それと同等に,医師・看護師などの医療従事者へ,情報提供なども行うことが多いのですが,今回のように,電子データから,特に限られた時間で,医薬品の安全面に関する情報を効率的に収集し,医薬品がより安全に,適正に使えるため,薬剤師として関わっていくという事が求められていると思います.

 

これは,システムSEさんなどにお任せしておけばよいのでしょうか?薬に関することなので,薬剤師が関与すべきでしょう.私はそう感じています.

今回の報告も,入院患者さんがメインでした.これから色々な情報が電子化され,外来患者さんでも同様に対応が必要となってくるでしょう.

情報部の方たちと,うまくこういったシグナルを検出できないか,私たちの施設も少しづつ動き始めています.

まずは一歩踏み出すこと,が必要ではないでしょうか.