病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

病院における薬品の管理と共有を考える

ここ最近,薬剤の供給不安定の報道が多いですね.

セファゾリンの問題はその中でも大きなニュースとして取り上げられています.

病院の中で医薬品を扱う薬剤師の今が問われていると思います.

医薬品管理と供給について,考えてみたいと思います.

 

薬事日報に下記のニュースがございました.

 

セファゾリン、病院間で融通‐厚労省が具体策を通知へ

yakunet.yakuji.co.jp

 

ミクスにも同様に出ています.

 

セファゾリンの安定供給へ 医療機関の理解下に製薬企業・医薬品卸の協力求める 厚労省

セファゾリンの安定供給へ 医療機関の理解下に製薬企業・医薬品卸の協力求める 厚労省 | ニュース | ミクスOnline

 

先日の感染症部会に,セファゾリンの供給での議案がございました.

その資料についての個人的な見解はコチラです.

 

感染症部会でのセファゾリンの資料を眺めてみる - 病院薬剤師のブログ


今回は,医薬品の供給,病院の状況を少しまとめてみたいと思います.

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流通



病院スタッフの医薬品在庫に関する認識は…

薄い,の一言でしょうか.まぁ,当たり前ですよね.

必要な治療をするのに,薬がないなんて,今の日本では考えられない,

という意見をお持ちかと思いますし,その通りかと思います.

 

通常,病院においては,薬は誰かが準備してくれるもの,

という認識がある医療スタッフが多いかと思います.

薬は薬局に行けばあるだろうし,病棟になければ薬局に,

ということで,

とても適正な在庫管理を考えていられる程,余裕のある人は,

なかなか病院の中にはいないのです.

 

病院薬剤師もほぼ同じようなものです.

特に病棟業務は,臨床薬剤師の業務の中で,適正な医薬品管理,

という保管管理上のものが大きいと思います.

麻薬であったり毒薬であったり,向精神薬であったり.

なにより,医薬品が置けるスペースがあれば,

薬をなるべく病棟に置ける方が,

薬局に取りに行かなくてよいので,便利なわけです.

 

薬剤の棚卸などを行うと,期限切れが近いもの,

というものを確認できます.

私も病棟の薬剤師の立場から考えると,

無いよりあった方がよいと当然のように考え

他の事を考えるのに時間を割きたい,と思ってしまいます.

 

ある程度の病院の管理部門の担当になると,

医薬品の在庫か管理に関わってきます.

そこでやっと,在庫管理,流通などに関わる必要性がでてきますので,

そのような立場にならない限り,

病院では(特にある程度の大きな病院),

なかなか医薬品在庫への認識が薄いのが現状でしょう.



病院での医薬品の管理の状況は

より安全を担保する,欠品を避けるような在庫管理...

これは致し方ないのかもしれません.

上記の通り,医療従事者は,患者さんの治療にあたっては,

誰もが最善の治療を行いたい,と考えています.

これはどの医療従事者でも同様でしょう.

 

そしてそのためには,ここは日本,

最適な医療が提供されるべきで,

そのための医薬品を十分に準備するのは当然,という考え方は,

当然といえば当然なのかもしれません.

 

欠品しないように,あらゆる患者さんに対応出来るように,

最新の薬剤からスタンダードな薬剤まで.

可能であれば,準備しておきたい.

 

それに対して反論できる方はいないでしょう.

 

患者さんの命がかかっている,という事が前提になっているからです.

 

患者さんのために,ということが根底があるからこそ,

医薬品の欠品に関して,医療従事者は,誰もが厳しい意見を述べることになります.

私もそうです.

 

欠品より,余って期限が切れても廃棄した方が…(ホントは廃棄したくないですが)

 

医薬品が不足するという事は,どの医療従事者にとっても

考えたくないですし,避けたい事の一つになっています.

 

不良在庫も…

使用しないで余った薬.困ったことも多いでしょう.

病院の在庫を絞るしか無いのかもしれません・・・.

しかしながら医薬品は,適切な管理が必要で,その担保ができない限り,

医薬品として使用することができません.

 

コンビニで買ったおにぎり,数時間過ぎただけで捨てる方も,

いらっしゃるかもしれませんが,普通は食べますよね

(昆布とかなら,翌日までは全然いける気がします).

 

何も根拠はないですが,加工品なら数週間は,とか

七味唐辛子に期限なんて存在するの?と年単位で切れているものを食べたりしておりますが,

医薬品ではそんなことは当然できません.

 

冷蔵保管のものは,その管理ができていないかもしれない,

という認識がされている(病院の薬局はどんなに信頼されていないのか,と思いますが)ので,

卸さんから病院に納入された,冷蔵保管の医薬品は,

病院の薬局の冷蔵庫に入っただけで,

2度と返品できないようなシステムとなっております.

 

これはどの施設も同じでしょう.

 

ちょっと過去の記事に書いてみましたが,温度管理,

もう少し何とかならないか,いつも考えてしまいます.

かなりいけてない,切れ気味の記事ですが,不快にならない方でしたらどうぞ.

 

www.riquartette.tokyo

 

 

医薬品は開封後も,使用が無かった場合は返品もできませんし,

ただただ廃棄となるのを待つだけとなってしまいます.

高額であっても,そうでなくても.

ひたすら虚しさを感じます.

欠品するよりはいいのか,と葛藤しています.



国内の供給を担保してくれる医薬品卸

すぐ使用しない医薬品は,常時の在庫はおかず,

在庫を0にしておくなどの対応をします.

もちろん,薬剤の緊急性に左右されます.

 

イダルシズマブ(プリズバインド)や

乾燥濃縮人プロトロンビン複合体(ケイセントラ)などは,

高額であっても在庫しておかなくてはいけない医薬品の一つです.

施設規模にもよりますが,三次救急病院であれば,

高額であろうとなかろうと,という事になります.

 

それ以外の,予め予定が分かっていれば,

それにあわせて購入する事も行っていたり,

急ぎでないものは,在庫を置かず,という対応を行います.

 

当たり前ですが,医薬品の在庫を絞ると欠品になる可能性は高くなります.

そして卸さんに急配をお願いすることに・・・

 

日本の卸さんを介した流通は,非常に優れていると思います.

 

病院に置かない在庫を,置いてもらっているという事になります.

 

医薬品卸さんでも,開封しないで期限が切れてしまう医薬品も

あると思います.

通常は期限は3年程度ですし,海外の医薬品で,

製造から船便で届くと,1年無いものもあります.

 

上記の通り,医薬品は患者さんに使用するため,

薬効が担保できていなくては,医薬品ではないため,

期限切れの薬剤を使用するのはありえないことになるわけです.



米国はどうなのだろうか

米国で勤務したことはないのですが,

留学していた医師のお話しを聞いたことがあります.

日本と異なり,医療アクセスも車がないとままならない地域をもあるようです.

 

その医師が勤務していた病院では,医薬品は日本のような卸などではなく,

メーカーから直接納入されるので,いろいろと医薬品が欠品したことは

よくあったと聞きました.

 

海外の感染症の本を見ていても,抗真菌薬などでは,

手に入らなかった場合はといった記載もあり,

医薬品が手に入らないということが,治療の部分に記載されているんだ,

と感じたこともあります. 

 

日本はこれだけ医薬品の欠品がないのは,

正直戻ってきて驚いたことの一つ,と話されていました.

 

FDAも結構欠品に対する対策をとっているようで...

何より広いし...

 

よくdrug shortageについての記事も見ます.

Frequently Asked Questions about Drug Shortages | FDA

 

抗がん剤に麻酔薬,救急に必要な薬剤や電解質なども

過去に欠品となったことなどが書かれています.

日本では考えられない状況ですが.

 

そしてFDAでも,古い医薬品の製造ラインについても懸念されています.

 

また,欠品などに対応する,CDER Drug Shortage Staff (DSS)という方がいらっしゃるようです.

 

今回のセファゾリンは,日本国内の大きな問題にまで発展しました.

日本国内での医薬品供給が脅かされた今回の件,

米国のような欠品の対応を行うような方が必要なのではないでしょうか.

 

もしかしたら,本邦でも,そのような方はいらっしゃるのかもしれません.

私が知らないだけかもしれません.

後発品の導入がこれだけ進んでいる現代,

採算などで供給停止にとなった場合の医薬品不足の対応は,

対応に専門的な人材が必要でしょう.

 

期限切れ,のところに対するFDAの記載もあります.

期限が切れていても,その後の期限以降のサポートするデータがあれば

FDAが検討し,

新たに生産が始まるまでの期限延長を承認する,とあります.

 

ここはうまく訳せないのですが,こんな感じでしょうか.

 

医薬品は基本的に安定性が高いものが多いです.

一部の酵素製剤などでは不安定なものもありますが,

3年以上の安定性が保てる医薬品も存在しています.

 

タミフルがその例です.

 

3年⇒5年⇒7年を経て,今は10年になっています.

国の備蓄のため(本当に必要かは別にしても),期限の延長が行われました.

廃棄してしまってはものすごい金額になってしまうからです.

他の抗インフルエンザ薬も長期保管が可能です.

 

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/kouen-kensyuukai/pdf/h28/kouen-kensyuukai_03.pdf

 

 

このような,保管期限の対応ができると,

もしかして他にも廃棄されている医薬品を少しでも救済でき,

適正管理や供給に役立てることができるのではないか,と感じています.

 

国レベルのことなので,

これはぜひ行政に,指揮を執っていただきたいことの一つです.

 

調剤薬局の不良在庫,欠品はどのような対応しているのでしょう

病院の薬局は,少し管理がオーバーかもしれません.

しかし,外来患者さんの処方錠数を考えると,病院内より,内服薬などは圧倒的に外来処方として使用されています.

 

友人に聞いてみても,無かった場合は,

近隣の薬局に借りに行く事は今でも日常的に行われているとの事です.

 

私が学生の時に実習していた薬局でも,

若者の仕事として,先輩が走っていました.

 

色々あったようですけど,そうやって助け合って,

欠品しないような努力をしています.

 

開封したものや,不良在庫はどうなっているのかを聞いたときに,

下記のようなものがあることを知りました.

 

リバイバルドラッグなるものが行われ,下記Hpでも紹介されています.

 

https://diamond.jp/articles/-/153522

 

https://www.revivaldrug.co.jp/profile/



これらの事が,薬品の管理を行う上で,必ずしも適切なのか,といった議論は色々なところでなされているかと思われます.

 

ハーボニーの偽造事件でも同様の話があり,その品質管理に大きな問題があることなどが露呈しました.

 

個人の薬局では,高額な医薬品が未開封,返品できないなどといった場合は,

大きな痛手になるのは現状として避けられない状況です.

 

当施設でもハーボニーを外来処方として院外処方とした際に,保険調剤薬局の方から,色々なご意見をいただきました.

 

こんな高い薬,院外に出すな,院内ででやってくれ(かなり偏った意訳)という意見もいただきました.

おっしゃる通りかもしれません.

 

保険調剤をされている薬剤師の方の方が,薬の説明と共に会計を行う事も多く,

現金やクレジットなどに触れる機会が多いわけで,

それなりに金銭感覚というものがつくのは,私も実感しています.



それに比べて病院は・・・

病院の薬剤師は,その他の医療スタッフも含め,会計,支払いが医療事務課で

行われるため,全く触れることがなく,認識が薄いのが現状です.

最近は無人の会計システムでの支払いもあります.

 

医師は,その専門領域の治療にあたっては,

保険なども含め,自己負担額などにも精通し,

説明の際に選択をしてもらう場合もあるかと思います.

 

それ以外のスタッフは,もしかしたら若い病院薬剤師も,

どの程度の薬価なのかも知らないで,

治療にあたっている医療スタッフがほとんどかもしれません.

 

コスト意識が低いのでしょうか.自分のお金ではないからでしょうか.

そしてなによりいつも襲いかかる【冷暗所保管】の薬剤

 

返品できない医薬品,高額化する医薬品…



そして今回の話題

病院薬剤師の,医薬品コスト,流通などの認識は,

保険調剤薬局の薬剤師に比べると低いのは否めません.

それは業務の体制の違いもありますし,一概に悪いとも言えません.

 

しかし,薬局間の貸し借りなどが行われることで,

欠品をさけるということが比較的行われている保険薬局と比べると,

病院の欠品に対する対応,病院間の薬剤の貸し借りなどは

とても胸を張って,上手く行っているとは言えないのではないでしょうか.

 

私は病院にて勤務しておりますが,在庫管理,という意味では,

あまり頑張っていると胸を張って言えるような事は行えておりません.

 

今回のセファゾリンの件で,上記のミクスの記事にもありますが,



大曲貴夫委員(国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター長)は、「納入実績のない医療機関に納入することには高い壁があるが、融通を呼びかけることで、変わると期待している」と述べ、卸の協力を求めた。

 

とあります.

 

病院の医薬品の納入は,その多くが実績です.

たくさん使用しているところには,たくさん入ります.

それが数字として残っていますし,それは決して効率の悪いことではなく,

最も合理的な方法かと思います.

 

抗菌薬を適正に絞って使用している施設で,

あまり制限なく使用している施設に比べて,

納入が滞ってしまったという報告もありました.

 

上記大曲先生は,日本国内の屈指の感染症専門医です.

その先生のお言葉からもあるように,卸への対応,という所が期待されています.

 

ただ,卸さんに医薬品を発注しているのは,病院です.

 

その発注を行っているのは,いまは

各病院の薬剤師がほとんどではないでしょうか.

 

発注自体をシステム化し,事務員が行っているとしても,

それを取りまとめているのは薬剤師でしょう.

 

病院間の医薬品の貸し借り,供給の問題を乗り切るには,

決して卸さんだけに,任せっきりにしてはいけない状況があると思います.

 

そして現時点では,病院薬剤師も,

すこし考え方を改めなくてはいけないと考えています.

 

それはすなわち,自施設が欠品しなければよい,という認識に他なりません.

 

とはいっても,薬がなければ責められるのが薬剤師

 

すぐには変わらないでしょう.

 

この問題はどのように解決するのだろうか

よくよく考えてみると,これを薬剤師がやろうと思っているのが,

そもそも無理がある気がしてきました.

決して悲観し,諦めたわけではないです.



これだけICTが普及し,電子データ,

医薬品の発注がオンラインでできている以上,

院内在庫もすべて電子化,各病院の薬品在庫を,

卸さんに把握してもらい,

そのシステムを近隣の病院で共有すればよいのではないでしょうか.

 

AIの出番でしょうし,そのやり取りも含め,

これは人が行うべき業務ではない気がしています.

 

医薬品の動きなどであれば,システムを持っているところが,

それを広めてくれれば,

 

あの薬剤部に電話して借りすのはちょっと…とか,

うちだけ欠品しないように確保しよう,とかは

 

無用になります.

 

病院間の医薬品をどのように運搬するかなども,まだまだ問題は山積みで,

すぐに解決する問題ではありません.

 

そのためにまず行うべきことを,粛々と行っていくしかないのでしょう.

 

あと数年後には,

オンラインで各医療機関,薬局等も含む在庫,

供給状況などが把握できるようなシステムが

出来上がっているのを夢見て,

 

明日からの,欠品と不良在庫に追われる現実的な通常業務を,

行っていこうと思います.

 

長文にお付き合いいただき,ありがとうございました.