病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

【薬のお勉強】ダルベポエチン アルファ注シリンジ「KKF」

バイオシミラーとバイオセイム,最近よく話を聞きます.

これからも発売されてくるであろうこれらの薬剤ですが,一度整理をしておきましょう.

 

ダルベポエチン アルファは先発品ネスプ注射液のバイオセイムとされています.

バイオシミラーが最近認知されつつある昨今,

バイオシミラー(BS)と,バイオセイム(BS)と混乱するのでは

という意見もあったようですが,

厚生労働省の資料に,バイオシミラーとバイオセイムを含む,バイオ医薬品の資料があります.

 

https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000494001.pdf

 

こちらからも見られます.

 

中央社会保険医療協議会 総会(第411回) 議事次第

 

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とうせき

 

バイオシミラーとバイオセイム

混乱します.

バイオシミラーはバイオ後続品とされ,複雑な分子量のため,全く同じものではないが,臨床試験等により安全性,有効性が担保できている医薬品です.

バイオシミラーが発売した時に色々と話題になりましたね.

 

バイオ医薬品の本質であるアミノ酸配列は先行品と同一ですが、細胞株や培養工程は製造業者により異なることから、糖鎖や不純物の割合など先行品と完全には一致しないものの、厳格な品質試験、薬理試験、毒性試験及び臨床試験によって医薬品としての同等性/同質性(comparabilityの和訳:「品質の類似性が高く、品質に何らかの差異があっても安全性・有効性に影響を及ぼさないこと」)が検証されています。

 

参考;バイオシミラー協会

バイオシミラー(バイオ後続品)とは | バイオシミラー協議会

 

製薬協でも解説があります.

バイオ医薬品|くすりについて|日本製薬工業協会

 

  

バイオシミラーの例

発売してもうずいぶん経ちますが,エポエチン製剤を例にとってみます.

 

先発品 

商品名;エスポー注射液

一般名;エポエチン アルファ(遺伝子組換え)

本質;本品は、遺伝子組換えヒトエリスロポエチンであり、チャイニーズハムスター卵巣細胞で産生される。165個のアミノ酸残基〔C809H1301N229O240S5;分子量:18,235.70(タンパク質部分)〕からなる糖タンパク質(分子量:約37,000〜42,000)である。

 

先発品;エポジン注

一般名;エポエチン ベータ(遺伝子組換え)

本質;遺伝子組換えヒトエリスロポエチンであり、チャイニーズハムスター卵巣細胞で産生される。本品は、165個のアミノ酸残基(C809H1301N229O240S5;分子量:18235.70)からなる糖タンパク質(分子量:約30000)である。

 

バイオシミラー

商品名;エポエチンアルファBS

一般名;エポエチン カッパ(遺伝子組換え)[エポエチンアルファ後続1]

本質;エポエチン カッパは,遺伝子組換えヒトエリスロポエチンであり,チャイニーズハムスター卵巣細胞で産生される。エポエチン カッパは,165個のアミノ酸残基からなる糖たん白質(分子量:約28,000)である。

 

国内初のバイオシミラーと認識しておりますが(たしか),

バイオシミラーなので,先発品と同様,臨床試験が行われて,

有効性と安全性が担保されている医薬品になります.

 

さてこのバイオシミラー製剤,商品名はアルファと言っているのに,

一般名はカッパとは何事だー,と当時の混乱を振り返ってみましたが,

IFの名前の由来をみて,ははー,となった記憶もよみがえりました.

 

名称の由来:バイオ後続品に係る一般的名称及び販売名の取扱いについて薬食審査発第0304011 号に基づき命名

 

とされています.アルファ,ベータとあるのでカッパになるのは分かりますが,

メーカーさんが適当(悪い意味ではなく)に決めたわけでないのなら,

致し方ないです.分かりました,それで覚えます.

かなりの脱線ですが,バイオシミラーはこのようになっています.

 

今回発売となるバイオセイム

これはバイオシミラーと違ってバイオ医薬品の先発品とまったく同一で,包装のみ異なるもの,になります.AGと同じ認識かと思われます.

バイオ製品なので,同じもの,バイオセイムと命名されていますが,

なんかややこしいですよね.

 

今回も子会社が作るので,本当によく似ています.

当施設でもよく処方のある,120μgの製剤写真を見てみましょう.

 

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ネスプ120

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DA120

 

ネスプの名前が長くなっただけで,ほぼ同じですね.多規格ありますが,同様の色のラインナップとなっております.

 

PMDAでも一般名は同じです.

 

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同じ一般名

 

協和キリンのHpでも,『ダルベポエチン アルファ注 シリンジ「KKF」』は「ネスプ」のオーソライズドジェネリック,とされています.

 

オーソライズドジェネリックとは、先発医薬品の特許権を有している会社から特許実施許諾を受け製造販売される原薬・添加物・製造方法が同じ後発医薬品と想定しています。

持続型赤血球造血刺激因子製剤『ダルベポエチン アルファ注シリンジ「KKF」』国内製造販売承認取得のお知らせ|ニュースリリース 2018|協和キリン

 

シリンジも同じ大きさなので,ほぼ外見のシールなどを張り替えたもので,

中身は同じ,という認識でよろしいかと思います.

 

バイオシミラーとバイオセイムをみて感じるのは...

上記の資料を眺めてみると,

バイオセイムがあれば,バイオシミラーって必要ですか?

という疑問がわきませんか?

 

上述のとおり,バイオシミラーは臨床試験も行っています.

それなりに開発にお金もかかり,安全性も確認されています.

体内動態などで承認される後発医薬品と異なり,

その安全性と有効性を担保できているのが

バイオシミラーという認識を持っている方も多いと思います.

 

バイオ製剤はその複雑な構造から,その製品間の中でも,

ある程度のばらつきがあるとされています.

先発品の中でも,ある程度のばらつきが,

製品の中になるというのは否めないと思います.

分子量も大きく,約,となっていたり,幅もあります.

化学合成された,均一な医薬品というわけではないということになります.

 

それを踏まえると,上述のとおり,

そこまで手間のかかるバイオシミラーを申請しなくても,

バイオセイムがあれば事たりるのでは,という考えにたどり着くのは当然でしょう.

 

上記厚生労働省の資料にも,やはりそのような懸念があることが資料としてあります.

 

バイオセイム(後発バイオ医薬品)が,バイオシミラー(バイオ後続品)より

低価格で薬価収載されると,

バイオシミラー自体の開発が行われなくなる可能性がでてきます.

 

これはその通りでしょう.

 

先発品の医薬品が発売され,特許が切れるあたりに,後発品対策のために適応を追加したり,というのはよくあることです.

先発企業の生き残りなどにも影響してくる特許と後発品の問題.

医薬品の開発には高額な投資が必要で,

そのためにはその回収をある程度担保しないと,

新しい医薬品の開発が進まないというのは

ある程度致し方ないのかもしれません.

 

今回のバイオセイムの発売時期は

今回ダルベポエチンアルファのバイオシミラーが,本邦でも申請されています.そろそろこちらも発売となるでしょう.なぜバイオセイムの後?と思いました.

 

バイオセイムのほうが承認申請は早かったようですが,上記の通り,

バイオセイムが発売させるのが分かっていれば,

バイオシミラーの開発は行われていたでしょうか.

 

薬価がどのようになってくるかも気になります.

 

厚生労働省に資料では,バイオセイムはバイオシミラーと同様と扱うことなどが対応案として出ています.

 

先発のバイオ医薬品が使用され,そのバイオシミラーが開発されるという中で,

先発メーカーがバイオセイムを発売するかなどは当然分かるはずはないですし,

企業戦略と言ってしまえば,それまでかもしれませんが.

 

ただ,今回のように,バイオセイムがバイオシミラーより先に発売されてしまうと,

何も考えずに,バイオセイムに変える施設が多いのではないでしょうか.

 

供給もほぼ同じ状況で製造できているでしょうし,

欠品などの恐れも少ないでしょう.

 

バイオセイムがよいか悪いか,

バイオシミラーがよいか悪いかという問題ではなく,

 

そもそもバイオセイムが簡単に認められるのであれば,

バイオシミラーの開発のために費やす時間やお金が,

無駄になってしまうのではないか,と感じたのです.

 

こちらは厚生労働省の資料の中にもありますので,

今後議論がされていくことでしょう.

 

バイオシミラーの開発が滞る,というより,

開発しなくてもよさそうなものにお金と時間をかけるのであれば,

別なところにかけたほうがよいのでは,と思ってみたりもします.

 

かなり個人的な考えなので,

その開発費などに関わる大きさなどは,配慮していない意見なので,

異論をお持ちの方もいらっしゃるでしょう.

でも,なんとなく今回違和感を感じるのは,この部分なのです.

 

開発された医薬品のお金は,使用した人にかかってきます.

 

本邦ではそれが保険という体制の中で行われているので,

それは間接的に,税金などから支払われることになるでしょう.

 

決してこれは,企業の問題という形で終わらせる問題ではないように感じます.

 

透析医療の現状

今回のこれら医薬品は,透析を行っている方へ投与されるケースが

多い医薬品です.

2016年末時点の,慢性透析患者数は329,609人とされ,

 

人工透析に係る医療費

1人月額 約40万円

年間総額約1.57兆円

 

とされています.

 

命をつなぐ透析医療は現在ここまで進歩し,

様々な方の努力,研究の成果で,これだけの医療が行えるまでに

透析治療は進歩してきました.

腎代替療法の進歩は,大きく医療を発展させたものといっても

過言ではないでしょう.

 

病院では,透析医療はまるめとなっている施設が多いと思います.

その中に医薬品も含まれるため,

医薬品自体は低額で同じ薬効が得られるのであれば,

それはよりよいと経営的にも判断されるわけです.

 

限られた医療資源,上記のような右肩上がりの

医療費の高騰を考えると,

今回のバイオセイムは,

発売と同時に殺到することが予想されます.

 

バイオシミラーの発売もあることも承知していても,

今回のバイオセイムの発売はインパクトが大きいです.

 

発売する医薬品メーカーにも,相当な努力がなされていることは理解できます.

医薬品費が65%程度軽減されるというのは,

現在の病院経営上,とてもインパクトが高いものと考えられます.

 

当施設の状況は

専門の透析施設とは異なるかもしれませんが,

高額な医薬品であることには変わりないので,

当施設でも発売後速やかに導入が予定されています.

 

添付文書を眺めてみると,

効能又は効果で

ダルベポエチン アルファ注シリンジ「KKF」は腎性貧血のみ,

ネスプ注射液は腎性貧血と,骨髄異形成症候群に伴う貧血

の適応があります.

 

ですので,血液疾患の診療がされている施設では,

全てのネスプを切り替えることはできません.

当施設でもこの適応で2-3割の方が使われているので,

両薬剤を使い分けることになります.

 

具体的には,血液腫瘍科の処方では,

【骨髄異形成症候群に伴う貧血】に用いられます.

通常、成人にはダルベポエチン アルファ(遺伝子組換え)として、週1回240μgを皮下投与する。なお、貧血症状の程度、年齢等により適宜減量する。

 

とあるので,

40,60,120,180μgあたりをネスプとして,在庫しておくことになる状況です.

 

消費税10%の話もあります.

保険点数は変わらないのに,病院で使用する医薬品には

消費税がかかるというのは,いまだによく理解ができません.

しかし,現実は現実として受け止め,

様々な事を考えていく必要があります.

 

同効薬を見直すチャンス

今回,高騰する医療費の削減のためにも,バイオセイムの導入は,

ほぼすべての施設で行われるでしょう.

自施設においても,経営は保険診療で行われている以上,

その中で行わなくてはいけません.よりよい医療をルールに則って行う,

効率よく行う.

そのために何ができるかを考えてみることは大切でしょう.

 

話しはここまでとなる予定でした.

ある医師から,同効薬についての話しもいただきました.

 

この薬剤,ダルベポエチンアルファを病院の標準薬として,

原則この薬剤での治療を推奨する,ということです.

 

フォーミュラリーにも近い考えでしょうか.よろしければ下記記事もどうぞ.

 

www.riquartette.tokyo

 

www.riquartette.tokyo

 

エポエチンベータ ペゴルも当施設は使用されています.

こちらはダルボポエチンアルファと比べて,

より高用量の200,250μgがあります.投与期間なども異なりますし,

専門医が使い分けているのですが,上記のような意見も出てきています.

薬価でみても若干高い傾向です.

 

切替などの話も出てきています.

同様な効果を示すのであれば,より効率的な医薬品の選択をすべきであろうし,

標準的な医薬品を設定,それをまずしっかり使用いただく.

医師に経験を積んでもらいながら,標準薬としての認識を持ってもらう.

 

切替などについても具体的な話しが挙がっています.

国内の下記の報告によると,国内の試験では様々な結果となっていますが,

ダルベポエチンアルファとエポエチンベータ ペゴルは

ほぼ1:1,

0.8-1.2程度で切り替え可能であったとまとめられています.

 

DAとCERAの使い分けと切り替え法,満生 浩司, 平方 秀樹,腎と透析,3;401-409, 2013.

 

 

現在病状,治療が安定している方の治療を変更するのは

とても勇気のいる事でしょうし,

無理に行うべきではないと思います.

 

患者さんの害になるのかもしれない,という事であればなおさらです.

しかし,実際の治療を行っている医師側からも,

新規導入はなるべくダルベポエチンアルファ,

そこで反応が悪かったりした際の選択としてエポエチンベータ ペゴル,

というような考え方も挙がってきているのが現状です.

 

今回のバイオセイム,これからの日本の医療に,

様々なインパクトを与える医薬品と私は認識しています.

ただのバイオ後発品というわけではなく,

これからのバイオ製品のあり方や,その扱いに関する考え方を少し学べた気がします.

 

日本の寿命は,様々な医療の進歩によって伸び,

そして高齢化社会に突入しています.

より有用な医薬品の供給状況や保険上の考慮など,

様々な問題と共に,期待が持てる医薬品なのではないかと感じました.

 

それにしても,ほぼキリンの子会社が発売するこの状況

色々なこと(先発品からの切り替えや,供給状況,情報提供などを含む)を考えても,

最も無難で,不安要素が少ない医薬品なのではないかと感じています.

そしてそれでも骨髄異形成症候群に伴う貧血,の適応がそろわない,というのは

なんだかまだ理解ができていません.

 

2024年の終わりごろではないかとの事ですが,

このあたりを合わせてしまうのは法的にも問題があるのでしょうが,

それもそうですが,医療が破綻してしまわないように,

何とかならないものでしょうか.

 

 バイオ医薬品は間違いなく,これからの医療にとってはならないもので,

 これまで通りの効果を期待され,それをになっていく医薬品です.

そしてその効果と共に,薬価も高額となっています.

 医療費の上昇や,より効果的な医薬品の開発など,

今後の医療にも,様々な影響を与えうる医薬品ではないでしょうか.

 

バイオセイムとバイオシミラー,しっかりその特徴などを理解して,準備しておきたいですね.