病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

MRさんたちの不要不急ではない訪問とは?

新型コロナウイルス感染症の影響で,様々な企業が会議をインターネットを利用,自宅勤務としている報道が出ています.

 

ミクスの記事でも,

武田薬品

武田薬品 新型コロナで「可能な限り在宅勤務」を推奨 MR活動は各エリアで判断 | ニュース | ミクスOnline

アステラス

アステラス MR活動、訪問先医療機関の意向確認を指示 新型コロナで | ニュース | ミクスOnline

マルホ

マルホ 新型コロナ感染拡大でMRを含む全社員の医療機関等への訪問自粛 | ニュース | ミクスOnline

 

などの製薬会社でも話題となっています.

 

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訪問

病院への医薬品情報提供のための訪問

私が把握している限りでは,武田薬品の報道が最も早かったと思います.

 

ミクスの引用記事ばかりさせていただきますが

医師側のアンケート結果でも,評価が高く,国内の優れた医薬品製造メーカーとしてのイメージがあります.

ミクス医師調査・優れているMR 武田薬品が首位奪還 | ニュース | ミクスOnline

 

そのように感じている方ばかりではないのかもしれませんが,

一流企業としての判断が早い,マネジメントもできていることが

わかる報道でした.

 

武田薬品のニュースに戻ると,

 

「可能な限り在宅勤務」を行うことを推奨するガイダンスを発出したと発表した。出勤が必要な場合は通勤ラッシュのピークの時間帯を避けることも推奨した。MRも基本的にこの方針に沿うが、陽性者が出ていない地域もあることから、各エリアでの判断を重視する。

 

とあります.

 

さて,むずかしいのは,各エリアの判断,というあたりでしょうか.

 

この記事は少し前の状況なので,陽性者が出ていない地域もありますが,

現時点では国内でも,いろいろなところから陽性者の報告が出ています.

 

私はMRの勤務経験はありませんが,医薬情報室勤務のため,

様々なMRさんとお話しすることが多いです.

 

そしてこの今の時期.

 

どのように対応することが望ましいでしょうか.

 

MRさんたちの仕事

色々な仕事があるでしょう.詳細までは書けませんが,

私たちから見た,最も重要で,一般的なお仕事の一つは,

医療機関への訪問,医薬品の情報提供,になるかと思います.

 

何人ものMRさんとお話しさせていただきましたが,

私は病院の薬剤師の立場から,今回の件について,

すこし私見を述べさせていただきたいと思います.

 

というのも,このような状況になっているにもかかわらず,

当施設にも,たくさんのMRさんがご訪問いただいています.

 

そしてここ数日ご案内いただいた内容が

これから発売される医薬品(後発医薬品を含む)の

情報が非常に多かったということです.

 

新薬の承認が多かったこと,下記のミクスの記事では新薬10製品が承認とされています

厚労省 新薬10製品を承認 不眠症薬デエビゴ、アトピーに用いるJAK阻害薬コレクチム軟膏など | ニュース | ミクスOnline

 

そして後発品も,

厚労省・後発品承認 初後発は14成分 メマリー、セレコックス、ザイザル、アボルブにAG | ニュース | ミクスOnline

 

メマリー,セレコックス,ザイザルなど各社の主力製品の

後発品が発売される,と紹介されています.

 

これらの医薬品が発売されるに際して,

そのPRのために当施設に訪問されていました.

 

病院の薬剤使用の手順 

ここで気になるのは,新薬が発売された,そのタイミングで,

不要不急の訪問は避けていただきたいのですが,

いくつかの製薬会社が

訪問せざるを得ない状況に,

病院側がしてしまっているかもしれない,

という状況です.

 

新薬を病院で申請するためには,

どの施設もそのための委員会があるかと思います.

薬剤審議委員会,薬審,薬事委員会ともよばれているかと思います.

 

そしてその会議は決まっていて,

発売してもすぐ使用できるようになるわけでもなく,

この委員会を通過してから,ということになるため,

まず病院の薬剤科にそのような相談をされに

訪問されているということになります.

 

例として挙げてみます.

  • 新薬として製造承認を取得
  • 病院内での医薬品審議のための資料準備
  • 医局への訪問,説明
  • ヒアリング
  • 薬剤審議会資料準備
  • 薬剤審議委員会
  • 処方

 

というような流れです.

 

厚生労働省が,医薬品として認可しているものなので,

薬剤としては有効性・安全性も含めお墨付きがなされているわけですが,

その施設,診療科に合った薬剤であるか,

というのは当然その施設で検討することになるわけです.

 

今ある,安価で裏付けもしっかりした医薬品があれば,

新薬を使用しなくても良い病院,診療科もあるわけで,

発売されたからすべての医薬品を使用できるようにする,

というのは在庫管理なども含めて現実的ではありません.

 

そしてその初めのハードルの一つである,

病院の薬剤科へのヒアリング,

これを行うために,訪問いただいているということになります.

 

これは施設によっていろいろあります.

私の知っている限りでも,医師・医局への説明は薬剤科が必ず事前に,

内容を確認することが病院のルールとして決められている施設や,

そのようなことは全くないところまで,様々です.

 

新しい医薬品に期待されること

新しい医薬品は,今までの医薬品に比べて,画期的な部分もありますし,

治療を望んでいる患者さんのために,

その手段が増えるという意味では大きな意味を持っています.

 

そして,近年発売されてくる医薬品に,

画期的な医薬品が多いのも事実です.

 

それを,医師が必要である,と判断した際に,

準備をしておくことは,

私たちの最も大切な仕事の一つになりますので,

薬剤科でも新薬の情報をしっかり集め,

吟味し,準備を進めるということを行っています.

 

医療が進歩し,それを支えているのは

新薬であるのも間違いありません.

 

しかしながら,新しい医薬品は,実臨床で用いるには,

情報が不足しているケースもあります.

特に,臨床試験で安全性が問題にならなかったような優れた医薬品でも,

実臨床になると想像されていなかった処方のされ方などがあり,

ブルーレターが出たというケースもあります.

 

記憶に新しいのは,

ビクトーザや,

https://www.pmda.go.jp/files/000143373.pdf

プラザキサ

https://www.pmda.go.jp/files/000143273.pdf

ランマークあたりでしょう

https://www.pmda.go.jp/files/000148439.pdf

 

どれも臨床試験では素晴らしい治療効果,

安全性が評価されています.

新しい作用機序,という部分でも優れた医薬品です.

 

しかしながら,発売後安全性が懸念された結果,

ブルーレターの発出に至りました.

 

いまではRMPなども策定されていますので,

いろいろな薬剤の安全性情報がわかるようになりましたが,

それでも新しい薬品は,未知なる副作用を含む,

不確定な要素が多いのも事実です.

 

そのため,その施設状況などを鑑みながら,

慎重に新しい薬剤を準備する手はずを整える,

ということになります.

 

病院薬剤科の反省点

これは,私個人の反省点です.

べつに新薬の情報を急がない場合と,

必要な場合(例えば,本日適応追加となった,食道がんに対するオプジーボ)

があるということを,私たち自身が整理する必要があります.

 

下記参照

https://www.ono.co.jp/jpnw/PDF/n20_0221_1.pdf

 

薬剤が限られた中で,この薬剤を心待ちにしている方もいらっしゃいます.

疾患が疾患である以上,検討を行い,速やかに導入の準備をすること,

それも1日でも早く.

このような場合は,優先して情報をいただきたい,

と個人的に感じています.

 

それに対して,私たちが行わなくてはいけないかもしれないこととして,

発売までに余裕がある医薬品,早くても4月発売の医薬品(現在は2月です),

それは,今のこの状況で,わざわざご訪問,ご説明いただかなくてもよい,ということを

私たちから製薬会社,担当MRさんにお伝えしなくてはいけないということです.

 

MRさんたちとお話ししていると,

とてもまじめな方も多いことに気づきます(偏見は私だけでしょうか).

会社から,しっかり新薬の説明をするように言われていて,

しっかりと準備をし,説明に臨んでくれています.

少なくとも私が接するMRさんはとてもまじめで,

不明な点をしっかり確認,後日回答してくれます.

 

お仕事ですから,当たり前でしょう.

そうなのです,当たり前と私は思ってしまっています.

 

そしてそれが延長して,このような現状であっても,

新薬のプロフィールを説明しに来てくれること自体が,

当たり前の業務の一つになっていると,

錯覚してしまっていました.

 

当たり前ではないですよね.

 

これは,私たちの方からも,

製薬企業側へ伝えなくてはいけないことなのです.

 

少し余裕をもって情報提供いただいてもよい内容であれば,

社の指示に従ってください.

対面による説明が必要と判断した場合にのみ,ご訪問ください,

ということです.

 

訪問し,情報提供を行う仕事を,

当たり前のようにこなしている方たちに,

当たり前ではない状況になっているので,

無理して訪問しなくてよいです,

という意思表示を医療施設側から提示しないと,

いつまでたっても訪問されてしまうのです.

それがお仕事ですので.

 

私たちの施設も,すぐに意思表示を行いました.

簡単な文章ではありましたが.

なにより,MRさんたちにもご家族がいらっしゃいますし,

病院は様々な患者さんがいらっしゃいます.

元気な方は病院に来ないわけで,

そのようなところへの,延期できる訪問なのであれば,

延期いただくよう,

こちらからお願いする必要があったわけです.

 

人と人の面談がなくてもよいのか

面と向かってお聞きした情報は,いろいろと記憶に残ります.

電話での情報などとは違いますし,生きた情報など,

実際に患者さんを助けていただく一助としての情報も,

今までたくさんいただきました.

 

しばらくは面と向かっての情報提供は,少なくなるかと思います.

 

そのうちテレビ電話(ネット回線の会議)などでも,代用できるのかもしれません.

 

そしてそうなってしまったら,MRさんの訪問も不要になるのではないか,

とも考えてしまいました.

 

しかしながら,現時点でネットによる会議などでの印象ですが,

対面でお時間いただいて説明いただく情報は,

インパクトもあり,私個人は,このような情報が,

人を介して得ているほうが,まだ印象的です.

 

医師と話していると,

MRさんたちのイメージについての話もよく聞きます.

話し方や態度のほか,人柄なども,

人と人があっているため,その印象により,

薬剤の印象が変わってくるというのも事実なのです.

 

いずれ,IT化で変わるかもしれません.

そしてこの不要不急の,という観点から,

もう少しIT技術,情報ツールなどを生かした

情報提供を考える時期に来ているかもしれません.

 

ましてや医療機関への立ち入りは,

いろいろなリスクを負っているということも,

考えておかなくてはいけないと思います.

 

今回のことで,少し訪問いただくこと,

について改めて考え直すことができました.

 

情報は必要であれば,自ら収集します.

しかしながら,それだけではまだ限界があるのも事実です.

e-learningのようなシステムも効果的でしょう.

しかし,私はまだ,人と人を介する情報提供は,

必要と感じています.

 

人込みになるべくいかない,

外出も不要不急の場合は避ける,

ということを国全体として推奨している以上,

私たちの業務も,今すぐ対応し,

整理していかなくてはいけない状況かと思います.

 

人と人が合うということは,

お互いがしっかり健康な状態であること,これが大前提なのかもしれません.

 

そのためにできること,私たちができることを,

相手側の立場に立って考えてみることも

大切なのではないでしょうか.