持続性選択H1受容体拮抗・アレルギー性疾患治療剤 デザレックス錠5mgが回収となりました.クラスIIとなっております.分類についてはPMDAの下記を参照ください.
重篤な健康被害はまず考えられないという事なのですが,今回は全ロット回収という事なので,処方停止といった対応をすることになります.
(参考)クラス分類について
クラスIIとは、その製品の使用等が、一時的な若しくは医学的に治癒可能な健康被害の原因となる可能性がある状況又はその製品の使用等による重篤な健康被害のおそれはまず考えられない状況をいう。
MSD 抗アレルギー薬デザレックス、使用期限内全ロットを自主回収 販売元の杏林「業績影響精査」 | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnline
回収情報(医薬品) | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
デザレックスは2018年4月にも一度供給不安定に陥っています.需要予測が,予測以上であったとの事でしたが,花粉シーズンの際の供給不安定にはどこの施設も対応に苦慮されたかと思います.
そして今回,であります.
回収の概要・数量と金額予想
対象ロット、数量及び出荷時期 の資料を見ますと,
製造数量(箱)とされています.お昼休みに計算してみました.
概算で約143万箱 100錠,140錠,500錠,700錠の包装がありますので,ロットなどの情報から概算してみましたが,1億6,000万錠が回収になる計算です(間違っていたらすみません).
スゴイですね.過去この規模の回収はあったでしょうか?1錠65.5円ですが,100億円をこえることになってしまいます.
下記はその計算です.
当施設の実際の対応
さて,実際の当施設の対応ですが,
①2019/1/7 薬剤部で情報を確認(製薬会社からの詳細な連絡は未)
②処方状況などを調査
③2019/1/8 MRより正式な対応についての連絡あり
④処方医の情報を共有,各医局への案内もあわせて依頼
⑤得られた情報から院内回覧を作成,電気カルテ内に掲示
処方停止,一般名処方や代替薬の提案など
⑥院外保険薬局,薬剤師会へ連絡などの対応
⑦院内での患者さんの対応について
と,ほぼ1日がかりの対応になります.
処方している医師の患者さんへの説明,現在服用している患者さんへの対応,保険調剤薬局での対応などを考えると,あまりに大きな回収であることは想像がつくでしょう.
ちなみに,⑤の代替薬については先日フォーミュラリの件で記事
でも書きましたが
を参考に提案しています.以下その資料になります.
H1受容体拮抗薬(H1RA)の推奨薬リスト【2018年12月Release1】
経口剤
第1推奨 ロラタジン(後発医薬品) OD錠10㎎,ドライシロップ1%
第2推奨 フェキソフェナジン(後発医薬品) 錠30㎎,60㎎
とあるため,ロラタジンで代用の対応となりました.
デザレックスの開発の経緯と特徴
デザレックス(デスロラタジン)の開発の経緯,特徴などは下記です.
・デスロラタジンはヒスタミン H1受容体に選択的に結合する化合物
・広く使用されている第二世代抗ヒスタミン薬であるロラタジンの主要活性代謝物
・非鎮静性で長時間作用型の第二世代抗ヒスタミン薬
・2017 年 4 月現在、米国、欧州をはじめとする 120 以上の国や地域で、通年性及び季節性アレルギー性鼻炎、慢性特発性蕁麻疹の症状緩和を適応として承認されている
・1 日 1 回投与で食事に関係なく服用できる
その他,下記資料では,
・各抗ヒスタミン薬のヒスタミン H 1 受容体に対する競合結合作用の Ki 値がデスロラタジンはロラタジンの約80倍(デスロラタジンの方が親和度が高い)
・中枢抑制作用,特に添付文書の自動車運転に関する記載がない(ビラスチン,フェキソフェナジン塩酸塩 / 塩酸プソイドエフェドリン,フェキソフェナジン塩酸塩,デスロラタジン,ロラタジン)
・Tmaxがロラタジン(2.3時間)に比べてデスロラタジンは1.75時間に短縮,即効性が期待できる(ロラタジンはプロドラッグのため肝臓での代謝が必要,デスロラタジンは活性代謝物のため短い)
・半減期は長い(10時間以上)
とされています.ロラタジンで事足りるというお話しもありますが,有用な薬剤の一つであることには間違いないでしょう.
注目の新薬[持続性選択H1受容体拮抗・アレルギー性疾患治療剤] 一般名:デスロラタジン デザレックス錠5mg,太田 伸男,鈴木 貴博,医薬ジャーナル,54巻増刊,484-493(2018.02)
アレルギー薬 抗ヒスタミン薬,猪又 直子,Medicina,55巻4号,400-404(2018.04)
薬剤師の反応は・・・
さて,今回,Twitterなどを眺めていると,このデザレックス報道にはかなりの薬剤師が反応しております.
どれも秀逸なつぶやきがみられております.今回は過去の医薬品の中でも優れたものが多いと思ったのは私だけでしょうか?
この薬剤に関して,注目度が高い,という認識の表れではないでしょうか.愛されている薬,とも言えます.
当然MRさんより早い情報でした.Twitterって本当にすごいですね.
追加情報
ミクスからデザレックス関連の追加情報がございました(2019/01/11).
厚労省 MSDに行政指導 有効期間超の試薬とデザレックス原薬問題で | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnline
ニューモバックスの件も含めて,デザレックスの話題がありました.
厚生労働省の資料では,ワクチン分科会の事なので,ニューモバックスの資料しかございませんが,
第27回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 資料
その中でデザレックスの問題についても話し合われたというのは,やはり今回の影響が相当大きいことを物語っているかと思います.
ニューモバックスは,製造で使用される際の試薬の,有効期間を延長する手続きが,取られずに,流通を続けていたため,問題となっています.
MSDのHpをみてみますと,ニューモバックスに関するお詫び,が掲載されています.
それに対し,デザレックスは,MSDのHpには見つからないような気がします.
今回の件も,デザレックスに関しては,販売している杏林製薬には資料が掲載されています.
内容を見ても,杏林製薬というよりは,MSD側の問題が大きいと,私は感じました.
MSDのホームページには,デザレックスが見当たらない(2019/1/11現在)のですが(私が見つけ出せないだけかもしれませんが),
「ザバクサ®配合点滴静注用」の製造販売承認を取得,やキイトルーダの情報はすぐ見つかります.
当施設にもご案内に来ていただきましたが,MRさんはあまり事の重大さを理解されていないようなのか,すこし半笑い気味で
「杏林さんにご案内はお任せしております.ご迷惑おかけします」
といったお話しで,どの程度医療機関で混乱されているのかも特に聞くこともなく,上記にもあるザバクサ発売のPRをされていきました.
MRさんとしては,やることはやったのでしょう.優秀なMRさんかもしれません.でも,何か違和感を感じます.
デザレックスの対応をしているそばで,空いた時間のアポイントで,その話もあまり触れず,「そんな錠数が回収になるのですね」,といった程度でザバクサのお話し.
そしてプレバイミス点滴静注240mgの供給停止の案内.
本ブログのタイトルにいれた,違和感,というのは
まさしくここです.
私の感想は最下段の通りです.
ミクスの記事にもある,
同日の検討会では、釜萢敏委員(日本医師会常任理事)が、「会社として重大だと認識しているのであれば、何らかの誠意ある対応ある回答を示してもらって当然と感じた」と苦言を呈す場面もあった。
これはニューモバックスの件についてのお話しなのかもしれませんが,今回色々と感じることが多かったのは,私だけではないと思いました.
今回感じた報道の違和感
さて,今回の報道で,少し気になったものを最後に.少し違和感を覚えたのは私だけでしょうか?
持続性選択H1受容体拮抗・アレルギー性疾患治療剤 「デザレックス錠5mg」MSD の自主回収決定による当社業績への影響について|2019年のニュースリリース | ニュースリリース|キョーリン製薬
こちらは杏林製薬のHpからの情報になります.
持続性選択H1受容体拮抗・アレルギー性疾患治療剤 「デザレックス錠5mg」
MSD の自主回収決定による当社業績への影響について
下記は一部抜粋です.気になる方は上記のHpをご確認ください.
当社としましては、早期の供給再開に向け、MSDに対して製造販売元としての責務を果たすよう、強く要望し、今後とも製薬企業の使命である医療現場への供給責任を果たすことに全力で取り組みます。
ここまではよろしいかと思います.ここから先です.
〔製品の概要〕
一般名:デスロラタジン
販売名:デザレックス錠5mg
効能・効果等:アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症)に伴うそう痒
製薬企業: 販売元 杏林製薬、プロモーション提携 科研製薬、製造販売元 MSD
販売実績:49億円(2018年3月期)、28億円(2019年3月期第2四半期)
業績予想:81億円(2019年3月期)
〔業績への影響〕
当該製品の自主回収に伴う業績への影響は、現在精査中であり、確定次第、公表致します。
タイトルも業績への影響,となっているので,別にいいんですけどね.
検索した時にまず引っかかったのが,こちらの報道でした.
製造販売元がMSDで,今回はそのMSDの原薬保管施設に関わる薬事手続きに不備が確認された,ということなので,杏林製薬としても,製造されたものを販売しているのに,その大本がこんな管理をするから,当社は被害を受けた,といったようなものかと思うので
当然かもしれませんし,業績に関わるのは製薬企業としては大きな問題かと思いますので,いいんですが,
なんというのでしょうか,服用している方や,今回の対応で説明をせざるを得なくなった方,影響を受けた人(私も含む)からみると,
「そうなんだろうけどさ,もっとやることあるんじゃないの?」
という印象はぬぐえません.
上記の回収の概算から考えると,私の想像する以上の金額となっていますので,その方面での対応も必要かと思います.それもわかります.
しかしながら,
医薬品は,服用している人がいるという事を常に忘れてはいけない
と感じた次第です.いかがでしょうか.
デザレックス,再開になっても,処方されるのでしょうか.
信頼って,失うと,回復は難しいんですよね.
ちなみにMSDは,本日プレバイミスも欠品とのお知らせ.
https://www.msdconnect.jp/static/mcijapan/images/prevymis_20190108.pdf
アゼプチン錠0.5mgも溶出率の低下による回収
新年早々,色々なことが起こりすぎています・・・