本書は、岸田直樹先生の著書で、タイトルの通り、感染症のコンサルテーションのための考え方を学ぶための書籍です。
そしてその対象は、感染症非専門医・薬剤師のための、となっています。
この書籍を改めて紹介させて頂こうと思った理由は、日々参考にしている、考え方を学んだ書籍なのですが、前回感染症の書籍紹介の際に抜けてしまっていたためです。
私のつたない文章では、当然本書の良さは紹介しきれませんが、病棟担当者で、特に関わりある疾患がある方は、一度目を通しておくことをお勧めします。
集中、救急領域での業務をされている方は特に必要ではないかと思われます。私も、そこでの業務の際の使用が多いためです。基本的な考え方など、本当に、読めるところからでもよいので、自分に合った読み方ができるのも、良書と感じる部分になります。
- 本書の使い方
- 病棟薬剤師に役立つ情報
- 本書の紹介
- 本書の特徴
- カルテ記載を考慮
- コンサルテーションに有用
- 感染症のパラメーターチェックリストの存在
- とても参考になる部分を一つ
- 購入後も何度も読み直してしまう理由は・・・
本書の使い方
自らの購入で繰り返し学ぶのもよいですが、ぜひ症例検討などで、若い方たちみんなで、ディスカッションができるととても勉強になるかと思います。
薬局の書籍に1冊あると、きっと色々なところで助けてくれる1冊となるでしょう。
感染症。病院の内外問わず、問題となることが多い疾患です。薬剤も限られていることが多く、専門医も十分な人数がいない事から、病棟でも薬剤師に情報提供の依頼をされることが多い領域になります。
当然ですが、できる範囲の情報提供を行う必要があります。私もAST(Antimicrobial Stewardship Team)が話題になる前から同様の業務を行っていましたが、この本に出会って、考え方が変わりました。そんな書籍です。
病院薬剤師の業務のなかで、最もやりがいのある、とされる病棟業務。いろんなイメージがあるでしょう。患者さんとの面談、薬剤の情報提供、医師、看護師への問い合わせ対応などなどでしょうか。
病棟業務は、他のスタッフに比べて薬剤師は少なく、そのためその担当薬剤師の責任も重くなってきます。
病棟薬剤師に役立つ情報
先日のブログにも書きましたが、病棟では色々な対応を薬剤師として行います。緩和領域なども薬剤師が薬剤の提案などで活躍することも多いですが、感染症が最も多いのではないでしょうか。その際に役に立つ書籍を以前まとめました。よろしければそちらもどうぞ。
本書の紹介
それでは本書の紹介です。
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ページをめくると、岸田先生の前書きが書かれています。岸田先生は、ご存知の通り、臨床推論のほか、薬剤師向けの書籍を執筆されています。感染症専門医であるとともに、その教育活動にも素晴らしいものがあります。
こちらは岸田先生の書籍ですが、どれも人気のある書籍ですね。
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本書の特徴
続いて本書の使い方が載っています。具体的な症例が19例掲載されています。
1症例につき、治療の考え方、患者情報、検査も含めた解釈、薬剤選択、フォローといった流れになっています。ここの冒頭部分で、診断のついた疾患の治療の大幅な流れを体験することができます。
何例も経験している、もしくは基礎的な知識は十分にある方は、少し飛ばしていただいてもよいでしょう。ホントは読んでいただきたいほど、色々な考え方が載っていますけどね。
カルテ記載を考慮
そ・し・て
本書の最も優れた部分の一つが、
カルテへの実践的記載例が書かれていることです。
薬剤師のカルテ記載は、もう必須になってきています。そして、医師の立場から、多くの医療従事者が分かるような、平易な文体で書くことなどの必要性も書かれています。
病院によっては、薬剤師の記録は、医師とは別に残ることになるため、少し見えにくい場所になってしまっている電子カルテもあります。
これは非常に残念です。見ようとしないとなかなか見られない、ほぼ薬剤師しか見れないような薬剤師記録。これでは全く意味がないですし、カルテに書いてあります、と言われても意味のないものになってしまいます。
そして、記録をすることは、薬剤師の自己満足になってはいけませんし、ただダラダラ書けばいいものではないのはないのはわかるかと思います(本ブログはカルテではないので、ダラダラ書いてますが、あしからず)。
色々な人に見られることにも耐えられるような記録を残す、この訓練をすることも必要ですし、口頭でうまく伝わらなかったことを、後で見返してもらえることもあるわけです。
このような配慮まである書籍はあまりないでしょう。感染症の書籍は多数あり、どれもその治療について、多くの方を対象としながらも、目の前の方をまず救うためのエッセンスが凝縮されてきている良書が多いのは事実です。そしてそれは、感染症の原因が、病原微生物である、生きたものであること、薬剤耐性菌などの問題などから、治療が変わる可能性もある事などから、誤った治療を行わないための最善策が提示されています。
本書はタイトル通り、そういった症例に対し、治療の判断をする主治医へ、コンサルトをされ、また提案するという事が前提の書籍となっているため、薬剤師はこの立場で診療に関わっていく以上、このコンサルト力、というものを確かなものにするために、この部分をクローズアップして、書籍にしていただいたのは、本当にありがたい書籍であるとしか言いようがありません。
コンサルテーションに有用
さ・ら・にですが、本書は
治療をスムーズに進めるコンサルエーテーションのコツ
が最後にまとめられています。
その中では、コンサルタントのつぶやき、がありますが、ここに書かれているのは、この書籍を手に取った薬剤師は、今までほぼ経験したことがあるであろう、共通の悩み、というかつぶやきが書かれています。私は病院薬剤師感染症コンサルあるある、と勝手に呼んでいます。
もうここの部分だけでも読んでみてください。面白いです、と言ったら失礼かもしれませんが、どの施設の方でも、同じような悩みがあるんだ、という事である意味癒される部分でもあります。
最後におさらい、という形のまとめと、そして引用文献。
感染症の症例をまとめたり、プレゼンしたりする場合は、この考え方に沿って行うのもよいでしょう。いろいろな使い方ができると思います。
感染症のパラメーターチェックリストの存在
そして、書き忘れました、本書の使い方の後に、
治療の指標となるパラメータチェックリスト
が掲載されています。
よくある、CRPだけの記載はありません。肺炎であれば何を見るべきか。これをある程度把握することで、医師とのディスカッションが全く変わります。
とても参考になる部分を一つ
個人的にとても参考になった部分を、あえて一つだけご紹介させていただきます。
ペニシリンアレルギーが疑われる患者での、問診のポイント です。
書籍を見ていただきたいので、詳細は紹介いたしませんが、
患者さんが、「昔ペニシリンでひどい目にあってね」とか
「蕁麻疹が出てね」
というお話は、よくよくあるかと思います。
何も考えずに、【ペニシリン禁】などとしようものなら、投与できる抗菌薬が限られ、困るというのは実際経験がある方も多いでしょう。
もちろん、医療安全の観点から、本当のペニシリンアレルギーを見逃す、もしくは知っていて投与することは避けなくてはならない事実です。
しかしながら、ペニシリンアレルギーの診断によって、βラクタム系薬剤の代替薬が使用されることにより、近年ではMRSAやCD腸炎のリスクになるともされており、その評価については慎重になる必要性も言われています。
BMJ. 2018 Jun 27;361:k2400. doi: 10.1136/bmj.k2400.
Risk of meticillin resistant Staphylococcus aureus and Clostridium difficile in patients with a documented penicillin allergy: population based matched cohort study.
PMID:29950489
本当にペニシリンアレルギーなのでしょうか、という事を考えながら薬剤師も問診する必要があることが書かれており、これは本当におっしゃる通りかと思います。
岸田先生の本はどれも目線が素晴らしく、また薬剤師向けのものありますので、ぜひ臨床医がどのような目線で、また薬剤師に何を期待して頂けているのかを、学び取ることができる書籍かと思います。
購入後も何度も読み直してしまう理由は・・・
まだまだ紹介したい部分はたくさんありますが、何度も書きますが、コンサルテーションに特化した書籍です。薬剤師は診断、治療の最終判断はできません。あくまで主治医が行うものになります。
しかし、そのコンサルトをどこまでできるのか、というのは、薬剤師の腕の見せ所であり、限界はないと思います。
そしてなるべく本書のように上手なコンサルテーションを数多く経験し、臨床薬剤師として、信頼される薬剤師がたくさん育っていただけるのを願っております。
私も、本書をもう一度初めから読み直すことにしたいと思います。