薬学の病院実習は大変、と聞いています・・・
病院の薬剤師の仕事はいまいちわからない・・・
患者さんと話が上手にできるか不安です・・・
当施設でも実習が始まる前によく挙がるコメント達です。
どれも不安な気持ちを表していますし、みんな始めはそうです。そんな学生さんたちと、受け入れる側へのメッセージも含め、紹介していきたいと思います。
さて、新年も始まり、新たな気持ちで迎えている方も多いでしょう。実務実習を控えている学生さん、それを受け入れる側の指導薬剤師。
立場は異なりますが、同じ実習に関わることになるため、特に心得ておきたいことをまとめます。
- 実習経験による差も初めはありますが・・・
- 薬学実習のストレスとは
- 男女差はあるのか
- 不安を受け入れてみる
- 実習中のストレスを感じる時期は
- ストレスの種類
- ガンバレ薬学生
- ステキな薬剤師を探そう
- 指導者側も薬学生をしっかり受け入れよう
- 実習するには,マナーは大切
- 薬学生は,学ぶ権利がある
- 言葉にしにくい「やる気」
- 就職先が違うので,実習は意味ないんじゃないの・・・
- 新しい力,若い薬学生に期待すること
- そうはいってもトラブルになりそうなときは...
- 薬学生でもプロ意識を持とう
実習経験による差も初めはありますが・・・
病院の実務実習にあたり、保健薬局での実習を先に経験しているかは大きく異なります。これは主に、知識面というよりは態度面です。
当たり前ですが、社会的な経験をしているために、同様の態度で実習を行えば、スムーズです。知識や技術、というよりは、まず態度が、学生実習にとって最も大切なものであることに変わりはないでしょう。
薬学実習のストレスとは
下記に示します、日本大学の藤原先生が、薬学教育に投稿された論文では、薬学実習におけるストレス調査について分析されています。
この傾向は、おそらくどの施設であっても同様の傾向でしょう。
学生に、実習後に生の声を聞き取るのは、実は次につながる大切な意見となりますので、こういったアンケート結果というものは、とても重要です。
学生さんたちが、どのようなところでストレスを感じ、悩んでいるのか、を知ることが、指導者側にも必要です。
学生さんにとっては、先輩方がどのように苦労されて実習を行ったか、という事は、直接聞ける人にも限界があると思いますので、有用でしょう。
この論文を基に、少し現状も踏まえてご紹介いたします。
・対象は、日本薬科大学の平成27年度の実務自習を行った学生108名(男性55名女性53名)
・アンケート調査
・服薬指導などのコミュニケーション関係の不安が強い
・注射調剤の不安も強い
・医師や医療スタッフへの情報提供、薬剤管理指導業務実践、医療チームへの参加、処方提案や支援の関与などのコミュニケーションに関する項目と、計数・計量調剤は、男子学生より女子学生が不安を感じていた
・TDMに不安を持っている学生は、注射箋調剤や中毒にも不安を持っていた
上記の結果を見ると、なるほど、と思う点が多いですが、そうではない部分も感じます。病院の薬剤師は、保険薬局での実習と異なり、医師・看護師を含めた医療スタッフとの業務が多い。当然その部分のコミュニケーションは必要になります。
ただ、実習中はそうですが、仕事となると、少し異なっている場合も。
実習はもちろん話しかけるといった、コミュニケーションは大切ですが、業務となると、それだけではなく、日々の実直さ、仕事ぶりというのも大切になります。
医療は、ミスが起こってはいけない場所なので、信頼関係をいかに築くか、という事も大切です。そこがおろそかになる事のほうが困るので、いかにそこをマネジメントできるか、のほうが、大切になります。
何かおかしい、というところに気づけるところ、でしょうか。
そうはいっても、コミュニケーションが取れているからこそわかる情報も多いのですが。
男女差はあるのか
当施設にくる学生さん、男女差はあまり感じませんが、まぁ色々と困る場合は男子学生が多いかもしれません。どちらかというと、性格も含めて、未熟であるがゆえに、といった場合が多いです。
女子学生は上記の通り、不安をより感じている、真剣に考えている、とも取れるでしょうか。ただ、その不安から、しっかり準備をしてくる学生さんが多いのも事実です。実習前、実習中であっても、何らかの不安はつきものと思っています。
不安を実習前、実習中問わず感じる事、それがすべて悪い方向に向かうわけではないということも理解しておきましょう。
これを言ってしまうと色々なところから怒られるかもしれませんが、私も男性として情けない限りなのですが、薬学女子は素晴らしいですし、とくに病院薬剤師は女子の力がないと成り立たないのは事実です。色々な仕事がきめ細やかですよね。男性は、残念ながら、そういった部分では女性には勝てないのです(私だけかもしれませんが)。
私も色々とやってみたいのですが、残念ながら、自分のできない部分をある程度把握できているつもりです。比べたくはないですが、そういった不安も持っているわけです。
不安を受け入れてみる
また話がずれてしまいましたが、必ずしも実習を行うにあたり、全く不安がないという心理状況で実習を行っているわけでもなく、また、不安があるからこそ、それを少しでも和らげようとする努力につながることも事実なので、それも受け入れての実習でよいのではないのでしょうか。
最後のTDMに関する部分は、それに関する注射箋調剤、中毒に不安を覚えるというのもうなずけます。TDMは病院薬剤師が大きく関わるところになるので、不安はあるでしょうが、ぜひ経験していただきたい実習科目の一つになります。
TDMの勉強にはこちらがおススメです
中毒はある程度特殊な実習ですし、注射せんに関しては、お恥ずかしい限り、私のブログでも紹介した通り、仕事を始めてからでもビビることはあります。
多少の不安はあっても、若さでその実習をものにしていただきたいと思います。
実習中のストレスを感じる時期は
・ストレスを感じた時期として
病院では初日、1週間目、3週間目あたりにピークがあり、その後少しずつ減少しているのに際し、全部、というのが4割
薬局実習ではその値が少し異なり、全体の割合が2.5割になり、初日、1週間目、2週間目にシフトしている。全体的なストレスを感じている割合が多いのが病院となっている
病院実習は、調剤・注射箋、製剤などのセントラル実習以外にもいろいろな部署があり、病棟も含めると、色々と回る分、最後まで慣れにくい部分があるのかもしれません。
色々な経験ができる、という意味ではよいのでしょうが、最後まで不安やストレスをもって学生さんたちが実習をしているというのは、指導者側は理解しておく必要があると思われます。そろそろ慣れてきたから大丈夫だろう、という先入観よりも、少しケアをする必要もあるのでしょう。
ストレスの種類
・ストレスの種類として
指導薬剤師に対する不満が34%
実習施設の設備や環境 23%
実習時間が長い・不規則 22%
施設のスタッフに対する不満 21%
となっています。これはかなりリアルな数字だと思います。指導薬剤師への不満などは面と向かって言うこともできないであろうし、当然ではありますが、ストレスになっている原因の第1位になってしまっているというのは、指導する側としてはなんともつらい結果となっています。
この結果を見ると、実習施設の設備は変えるのは相当難しいでしょう。実習時間に対しては、ある程度の時間は致し方ない部分もあるでしょう。それがよかれと思って指導している場合もあるかと思いますが。
薬剤師、指導薬剤師への不満、というのは、きっとどんな環境であっても、出てくるのは致し方ないでしょう。
少なくても、指導者側は、教えてあげているんだぞ、という気持ちが強すぎないように、
そして学生さんの側も、教えてもらって当然という気持ち(当然なのですが、忙しい中での教育という事もあるので、そこはくみ取っていただき)だけで実習をするのではなく、お互いの立場を少しでも理解して、実習が円滑にできるような環境としたいですね。
日本薬科大学における薬学長期実務実習でのストレス調査、藤原 邦彦ほか、薬学教育、2017
https://doi.org/10.24489/jjphe.2017-008
ガンバレ薬学生
現在の6年生実習は、各大学によっても異なると思いますが、学習成果基盤型教育(Outcome-Based Education、OBE)の考え方に基づき、どのような薬剤師になれるのか、というゴールを設定し、教育が行われています。私が薬学部で学んでいた時は、当然このような考え方はありませんでした。その到達点をGIOとして設定し、評価を行う形で実習は進んでいきます。
下記のガイドラインには指導者側、学生側からみてみるとよくわかるため、一度は目を通しておきたい資料になります。
ステキな薬剤師を探そう
私も完全に理解しているわけではないが、これから実習を行う際に、学生さん側であれば、その病院薬剤師の中で、目標とする薬剤師を見つけ、実習中になるべく近づけるような実習ができればよいのではないかと思います。
当然大学ごとに評価項目が決まっているので、それを実習中にクリアしていくことは必要です。ただ、1つずつの目標をクリアするのもよいですが、それと同時に、この薬剤師スゴイ!という人を実習中にぜひ見つけてください。
数人いれば、一人(?)くらいはいるでしょう。すべての期間でなくてもよいです。
私を含む指導者側は、ぜひ頑張ってこの中の一人に入ってください。学生とのコミュニケーションを図るのも、もちろんですが、それだけではなく、薬剤師の威厳(?があれば)や、日々の、薬剤師としての仕事を十分に見せてあげたり、経験させてあげましょう。忙しい中では、少しスケジュール調整が必要になるかもしれません。
参考:薬学実務実習に関するガイドライン
http://square.umin.ac.jp/yby/_info/info_1502101.pdf
指導者側も薬学生をしっかり受け入れよう
指導者側がここで認識すべきことは、目の前の学生は、薬学生なのです。
自分たちの仕事に興味をもってくれれば、就職も考えてくれるでしょう。考えてくれる、という中に自施設が入ってくれるというのは、とてもありがたい事です。
かつて、自分も実習をし、就職したように、必ずしも良い部分だけではないと思いますが、色々な部分も含めて、実習の先にあるものを見てもらえるような、実習の受け入れ態勢が必要かと思います。これは、自戒を込めて、ですが。
忘れないように心がけたいものです。
実習するには,マナーは大切
少し話がずれましたが、なるべく有意義なものにするためには、それぞれお互いが気持ちよく実習するためのマナーや決まりごとが必要です。これは実習を受け入れたことのある施設であれば、もう決まっています。大学でも新設校でなければ、ほぼ出来ています。
そしてこれは、どこも同じようなもので、あまり特殊な決まりごとばかりがある施設は、少ないでしょう。
それを一言でいうと、
社会人のマナー
これにつきます。というより、これしかありません。
これだけ守っていれば、実習中とんでもない失敗しようが何をしようが、薬学生1人のために、現場が医療訴訟だの、事故に発展することは極めてまれです。
薬学生は,学ぶ権利がある
何より、薬学生は、学生です。学ぶ権利があるのです。あまり過度な自信や、教えてもらって当然、という横柄な態度は問題になりますが、通常の態度で接していれば、問題になることはないでしょう。
学生さんが心配する、あの人コワい、怒られる、といった問題になりそうな実習の指導者は、学生さん個人の問題ではないので、気づいた時点で助けを求めることや、学生さん自身の問題ばかりとして受け止めないようにしましょう。
おおむねそういった方は、どの人(学生)に対しても、同様の対応です。自分ばかりが、と悩まないようにしましょう。
言葉にしにくい「やる気」
実習で、マナーとともに大切なものは、やる気でしょう。なんだか精神論ぽい事ばかりで申し訳ないのですが、学生さんと話をしていると、学生さん同士でも、
「あいつは勉強ができるからかなわない」とか、「あの子はできが違うから」
といった言葉もよく聞きます。それは謙遜からくる言葉かもしれませんし、そうでないかもしれません。
しかしながら、病院の実習にあたっては、ある程度の学力は当然ですが、それはCBTなりOSCEである程度担保されているわけですから、どの学生さんもほぼ同じです。なのでよい実習ができるのは、全て学生さんの気の持ちようなのです。
11週間の実習は、長いでしょうか、短いでしょうか。たかが11週、されど11週。そこで就職など、人生の大きな転換を迎える学生もいます。
私は短いとも長いとも言えないのですが、実りある実習ができるのであれば、それは短く感じるでしょう。
就職先が違うので,実習は意味ないんじゃないの・・・
調剤薬局に就職を希望しています
MR希望です
研究をしてみたいです
という薬学の学生であっても、病院実習を受けています。上記の希望があれば、病院実習をする意味はあまりないのかもしれません。
しかしながら、将来その道でずっと行くのかもわかりません。調剤薬局であっても、今後は相当厳しい診療報酬改定が待っています。MRであっても、早期退職とともに最近はある程度数を絞っているところもありますし、何より薬学出身でなくても務まります。研究も同様です。
そこまで考えての実習はしなくてよいかも知れませんが、MRになったら、おそらくその道から病院薬剤師になることは、なかなかないかもしれませんので、その職を全うしようと思ったら、逆に今しか実習はできないのです。
そう考えると、実習期間は長いようで短い気がしませんか?
実習のレベルは、4年生の時に比べて相当あがっています。変わらないんじゃないの?とかいう方もいらっしゃいます。うまくいかない理由の一つは、現場と大学の乖離だというかともいますし、色々な意見があります。
新しい力,若い薬学生に期待すること
考えてもみてください。新しい薬がどんどん開発され、臨床で応用されています。PD-1抗体など数年前は想像できませんでした。実に様々な薬剤が出てきています。抗菌薬PK/PD理論を学んだのは、私は社会人になってからでした。
でも、今の学生のほとんどは知っています。
指導者側も教育することができる人、将来の薬剤師を育てるだけの人間力、とでもいいましょうか、そういったものを備えている人が教育する立場になるのだと思っています。
大学の求めている薬剤師像、それを実現できているような薬剤師、理想を持った薬剤師になりたいものです。
そして、実習は決してイヤイヤ行うものではなく、学生さんたちが、将来薬剤師となった時に役に立てる、または、そういったものを目指そうと思ってくれるような実習であるべきだと考えています。
そうはいってもトラブルになりそうなときは...
こちらでは、鹿児島県薬剤師会からのリンクになりますが、学生と指導薬剤師用の、薬局実務実習トラブル事例集を見ることができます。
困った時の対応などが挙げられています。見なくて済むことに越したことはありませんが、何かあった時は一人で悩むのはあまり良い事ではありません。解決できる方法なども掲載されていますので、一度確認しておくとよいでしょう。
https://app.box.com/s/2mphkksnco5mv1c7frivdrcone6rfjug
薬学生でもプロ意識を持とう
最後に、ぜひ学生さんに覚えて起きていただきたいことがあります。実習に関する態度、という事になるかもしれませんが、プロ意識を持って実習に臨んでいただきたい、という事です。上記のまとめみたいなものになってしまい、これも精神論的なものになってしまいますけど。
病院には、疾患を抱えた患者さんが入院しています。
健康な学生さんは、かかったとしても診療所で、入院したことがある人のほうが少ないかと思います。
病院は体の弱った方が、治療するために、外来通院ができずに、家に帰れずに入院しているのです。そういう場所なのです。
実習に臨む学生さんは、自らが健康で、健やかである必要があります。
二日酔いや、インフルエンザで、無理して実習をするのは、学生さんであってもプロ意識に欠けるといわざるを得ません。
実習期間中の2日酔いは、ならないために自分で制御できるでしょう。
インフルエンザは、感染率が高いので、かかってしまう事は避けられないかもしれません。健康成人で命の危機に瀕するような場合は稀でしょう。しかし、病院には、それが命にかかわることになる方もいます。インフルエンザはワクチンの接種、また発熱時は実習を行わない、しっかり休息する、という意識が必要です。
病院内で自分が患者さんたちに病原菌をばらまいてしまう、といった事は、実習中で何か過誤などを起こしてしまう事よりも、はるかに重たいこととなります。
そのためには、実習中の体調管理、特に睡眠には気を使って、プロ意識をもって体調管理を行う、という事も大切です。これは最後に、ぜひ心にとめておいていただきたいと思います。
いかがでしたでょうか。
病院実習にあたり、少しでも不安が軽くなるような気持ちで、そして有意義な実習となることを願っております。