病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

薬剤師免許取得後の医療機関での研修は必要なのか

2019/7/10に開催されたの中医協での総会で,日本医師会の常任理事の方の発言が,日経DIで話題となっております.

記事の冒頭で

 

「医療機関の薬剤師不足は深刻。薬局が訪問薬剤指導を行うことを前提とするならば、薬剤師には国家資格取得後の医療機関での勤務、研修を義務化するなど臨床医並みの薬剤師教育の進化が必要であると思う」

とあります.

 

今回の発言が日本医師会の方からの発言であること,そして上記の意味する言葉を少しでも前向きに理解してみたいと思います.

記事は下記です.

 

medical.nikkeibp.co.jp

 

病院薬剤師の立場からですが,この件について少し考えてみたいと思います.

 

関係する発言がたくさん出ています.それぞれの経験,立場で大きく異なることとは思いますが,敢えて取り上げてみました.

 

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学ぶ

 

 

今回の話題となった会議の内容は・・・

 

2019年の中医協の資料は,厚生労働省のHpより確認できます.

 

中央社会保険医療協議会 総会(第418回) 議事次第

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00032.html

 

地域づくり・まちづくりにおける医療の在り方についての議論がなされていて,医療機関と薬局の連携を巡っての発言の中で挙がったものとされています.

  

以下日経DIからの引用です.

 

松本氏は、「大病院が地域へ患者を戻すことに一層取り組むことを前提としつつ、まず薬局の数と偏在の是正が必要と考えている。過度に営利化された調剤薬局チェーンが浸透してしまったので、非営利の医療機関との連携が難しくなっている」と指摘した上で、冒頭の発言をした。

 

 さらに、病院薬剤部の実態に言及し、「一部の大病院は外来患者に対応しきれないために、患者を門前薬局や敷地内薬局に誘導している。これは今後の大きな課題であると思う」と強調した。

 

 

かなり強烈なご意見です.

医師側から見た薬剤師,はきっと多かれ少なかれ,このような見方をされているとは思っていましたが,読んでみると,結構衝撃的です.

 

気になる部分を強調してみました.

保険調剤薬局へは,過度に営利化されているところ(儲け過ぎ),

病院薬剤部は,外来処方に関われていない(仕事していない),

というところでしょうか.

 

保険調剤薬局の目線で…

私は経験が少ないので,生意気なことを書いてしまうことになりますが,少し書いてみたいと思います.実際今でも働いている知人の意見も,少し取り入れて書いてみることとしました.

 

保険調剤薬局の社長が,高額納税者のランキングにでていたりすることも,気になっているのでしょう.

病院は非営利,というイメージが大きいかと思います.もうけ過ぎてはいけない,というのが今の医療の根底にある気がします.

 

そしてこの考えが,このままだと,保険診療に深刻な影を落とすのではないかと考えています.

 

今回のこの発言があった,中医協で話し合われていた,地域における情報共有・連携について,という資料の中では,

具体的な情報共有・ネットワークを用いたものが紹介されています.

 

電子カルテの導入状況というものが報告されています.

 

特定機能病院では100%となっているのに対し,療養型では30%程度と報告されています.

医療情報連携ネットワークへの参加も特定機能病院では60%となっており,その他も電子カルテ導入も同様の傾向で,さらに低くなっています.

 

何が言いたいか,という事なのですが,

今回のこの中医協で話し合われた地域連携ネットワークに関する議論においては,

情報通信技術(ICT)をいかに有効に利用できるか,という事がポイントになっています.

 

これらがうまくいっている地域では,そのICTを生かし,様々な取り組みを行っています.

 

個人の薬局とチェーンの調剤薬局も,これと同様にしてはいけないかと思いますが,

現時点で非営利と思われる,公立病院に準じるような薬局というものはないかと思います.

 

個人の薬局に比べて,チェーンの調剤薬局は資金もありますし,人手も多いでしょう.現時点で,個人的な資金力に左右されてしまうICTの導入は,上記病院の傾向と同様,チェーンの調剤薬局の方が,個人の調剤薬局より進んでいると思います.

 

全く個人的な見解ですが,この情報共有,連携についての大きな部分を占めるのは,このICTの整備かと考えています.

そしてそれには,多くの費用が掛かります.

いかに効率的にこのようなものを利用できるか.

その資金を準備できるのか.

国が準備してくれるのか,個人で準備するのか,などなど.

 

チェーン調剤薬局も,保険診療のもとで業務を行っているので,それを他の方から言われることはそもそもおかしいのではないかと考えています.

決められたルールを守り,違反しているわけではないからです.

国が決めた保険制度に則った業務を行っているため,咎められる理由は無いわけです.

 

現在,保険調剤薬局で行われている業務が,ただ儲けているかそうでないか,という視点から見られているのだとしたら,とても悲しいことだと思います.そのための企業努力はされていますし,製薬会社がもうけ過ぎ,というのと同じことになってしまいます.

 

そしてその業務について何か意見があるのであれば,その調査を行い,改善を求める,診療報酬を検討すべきかと私は考えています.

 

現に今回の資料の中でも,医療情報連携ネットワークの代表として,大分県臼杵市,長崎県の例が報告されています.

 

現在も行われている優れた取り組みで,こういったうまくいっている取り組みを分析し,しっかりとした基盤を整理して,本邦でもこのような取り組みを進めていく必要があると感じています.

 

そして現実を見てみると,チェーン調剤薬局の方が,このような取り組みに積極であるのは事実でしょう.

何よりチェーン薬局内では情報を共有することが容易なはずです.

今できていなくても,クラウドや法的な整備などが進んでいけば,電子化されていない様々な薬局のデータを紐づけていくより,チェーン調剤薬局の強みを生かした取り組みが最も現実的かと思います.

 

病院薬剤師の目線で…

外来患者の調剤を,病院内で行っている,いわゆる院内調剤を行っている大規模な病院は,都内でもいくつかあります.

どこの薬剤部も,調剤室が戦場,とまでは言い過ぎですが,多忙を極めた業務となっていることを実際見てきました.当施設でも院外処方せんを発行するまでは,同様の状況でした.

 

そして悲しいことに,院外の保険調剤薬局で行われているような,丁寧な服薬説明,というものは,現実的になかなか行えていない,というのが現状です.

当施設でも,病院内の薬剤部で薬が欲しい,といった場合に対応する場合もあるのですが,限られた人手の中での説明は,本当に最小限になってしまっているのが現状です.これはどの施設も同様の傾向かと思います.

 

上記の通り,門前薬局や敷地内薬局に…と言われてしまっても致し方ない現状です.

しかし,特定の薬局に,病院薬剤部も含め医療機関は誘導することはできませんので,その部分は異なりますが,言われているご意見はほぼ正解なのかもしれません.

 

病院薬剤師の,外来患者さんへの関りが少なすぎる,というのは事実かもしれません.

 

ここも人手の問題,が大きく関わってきます.

病院も非営利,という印象がかつて私もありましたが,

国公立病院でも経営改善が求められている以上,

病院薬剤部も,加算がつく,といったところに人手を配置せざるを得ず,

その他の部分は,安全管理との天秤にかけてしまうというのは辛いですが

今の病院薬剤部の現状です.

 

深刻な薬剤師不足というのは…

これは,悲しい現実かもしれないのですが,

正確に言うと,薬剤師はうまく国が主導してくれれば,何とかなる要素をたくさん持っています.

女性が多い職業柄,結婚や出産を機会に退職してしまう方も多く,その後,そういった方たちの今までの経験を生かした再就職を,上手くいかせれば,という事です.

 

当施設でも,最近は産休を取得される方が増えてきていますが,それでも退職される方もいます.

子育ては大変ですし,少し落ち着いてきたら,今までの経験を生かして,という事を考えている人は,私の周りでもたくさんいます.

そしてその中には,かつて病院での中心的な業務を行い,病棟業務においてもコミニケーションを含む,素晴らしい活躍をしてくれた方たちがたくさんいます.

そういった有用な方を,上手く呼び戻すことができるような働き方,今までの経験を生かせるような方法を,なんとかできないものでしょうか.

 

給与面,時間の配慮が必要で,数年間のブランクはあるとはいえ,新しい薬剤の勉強を追加して学べるシステムなどをウエブで開放する,そういったことなどを行い,生かせる人材を配置するシステム.

高齢化社会,貴重な人的資源を生かすシステムの構築も必要ではないかと考えています.

 

つまり,現在の深刻な薬剤師不足,といわれてしまうのは,

しっかりと業務ができる薬剤師が不足している

という事になるかと思います.

 

私のような働かない,へっぽこな薬剤師ではなく,しっかりと薬剤師業務を全うできる薬剤師が不足している,という事かと思います.

 

他の職業に比べて,少ない人数という事もありますが,これからのAIとの業務のすみわけなどにより,人が行うべき薬剤師業務が明確になってくるかと思います.

そのすみ分けは,もうすぐそこまで来ています.

 

薬剤師不足,すなわちしっかり働ける,優れた薬剤師の不足,というのは,

薬剤師として仕事をしている以上,言われるととてもつらいことなのですが,

他職種から見ると,エールと受け取ってよいのか分かりませんが,

心して耳に入れるべき言葉かと思います.

 

 

医学教育と薬学教育

医学部,歯学部の6年生教育の歴史は薬剤師6年生教育より長いですが,現時点では手探りの状況となっていた薬学部も,

モデルコアカリキュラムの改定など,より実践的な薬剤師教育に向かっていると感じています.

今の薬学教育に大きな影響を与えている医学教育ですが,現在,専攻医制度が動き始めています.

他の職業の教育体制については,なかなか分からない部分もありますが,本年度から専攻医制度が開始となっています.

 

私も知らない部分が多いですが,冒頭の記事である,

薬剤師には国家資格取得後の医療機関での勤務、研修を義務化するなど臨床医並みの薬剤師教育の進化が必要

 

と発言されているのが医師であるため,

医師の医学教育,研修医がどのような教育をされているのか,今後どうなっていくのかを知っておくことは,その発言を読み解くのに必要かと思います.

 

下記に専攻医に関する情報があります.

日本専門医機構Hp

日本専門医機構について

 

概要ですが,簡単に記します.誤っていたらすみません.

一部現在の専攻医の方や,上級医にお聞きしたことも含まれております.認識がずれているかもしれません.

 

専攻医制度が本年度より導入されました.

理念等は上記Hpにありますが,臨床研修医を終了して,その後専門医を目指す場合は,今後専攻医を経ないと,目指すことができない.

その専攻医にはカリキュラムがあり,より高い専門医となるために,専攻医となる必要性がある.

 

そして,専攻医は枠が決まっており,全ての研修医が目指すことができないようです.

これは何を意味しているのでしょうか.

 

医師として,国家試験を合格,研修を行い,その後の専門課程を目指すために必要となる専攻医になるための門が,研修医全ての人数分が準備されていない.

 

医師は,その専門性を最も標榜できるであろう専門医というものを,その取得を目指すための臨床研修医全てが希望できない,

すなわち,専攻医が選抜される時代に突入した,という事になります.

 

薬学6年生を卒業,大学の教育課程は,現在円熟しつつあるように思えます.

少なくとも自分が薬学部で学んでいたシステムとは比べ物にならないくらい,様々な取り組みが行われています.

学ばなくてはいけない項目が増えているのも現実です.

 

しかしながら,上記の専攻医は,現実として,とても厳しいようにも見えます.

 

そしてそれが意味するところは,

医学教育,今後の医師のキャリアプランも含め,本格的に改革がなされ始めたことを意味すると思います.

 

このあたりを踏まえると,

医師が,医療の一端を担う薬剤師に期待するものとして,

同様の目線で発言するという事は,私はある意味当然の事であり,

今回の事が,必ずしも一部の方の意見で,特殊なのかというと,

そうではない気がしてきています.

 

話がかなり前後してしまいますが,

医師はその後のキャリアプランに大きく影響するであろう専攻医システムを,

今後の医師の質の担保のために,大きくかじをきったと私は認識しています.

そしてそこには,並々ならぬ決意が見受け取れます.

 

医学教育がここまで大きな変革を遂げようとしているのです.

 

医師と薬剤師は職能も異なる,医学教育と薬学教育を比べるのはおかしい,それはまっとうな意見でしょうし,私もそう感じます.

 

今回の発言,

医療機関の薬剤師不足は深刻.薬局が訪問薬剤指導を行うことを前提とするならば,

 

とあります.

これからの調剤薬局の薬剤師業務の中で,大きなウエイトを占める可能性のある業務です.

私は,この記事,この前提は,

これからの薬剤師業務を考えるにあたって,より高い臨床スキルを担保できなくては,薬剤師として認めるにはいかない.

と言われている気がしたのです.

 

卒後の医療機関での研修は…

これについては,私はどのように考えていくべきなのか,悩んでみましたが,

結論は出ませんでした.そもそも研究も含め,薬剤師業務につかない方もいますし.

 

薬剤師は社会一般の方から見ても薄給です.

病院薬剤師は特にそうかもしれません.

現在臨床研修医の無休医問題もありますが,

現実的には6年生を卒業した薬剤師に,医療現場での研修を必須とするのは無理があるでしょう.

 

6年生になったことは,教育の面で様々なメリットがあったと

思いますが(少なくとも今当施設で勤務している6年生卒の薬剤師の優秀さは,私も含めた4年卒の薬剤師より優秀です),

その後の研修という意味では,少し厳しいです.

 

米国のような,卒後研修も含めてうまく道筋が立っているところもありますが,

国内の現状ではかなり難しいでしょう.

 

個人的には,調剤薬局での経験が少ない私は,

必ずしも卒後医療機関(この場合は主に病院を意味するかと思います)に縛られず,

保険調剤薬局での研修というのも行ってみたいと感じています.

同様の事を感じている病院薬剤師は多くいると思います.

 

卒後の教育システムは,薬剤師レジデント制度がカリキュラムもできつつあり,

6年生の薬剤師を卒業した薬剤師が,効率よく研修できる制度かと思います.

現在様々なシステム,制度が病院ごとに整備されつつあり,

薬剤師レジデントフォーラムというものが開催され,議論がなされています.

日本薬剤師レジデントフォーラムについて | 日本薬剤師レジデント制度研究会

 

 

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卒後,薬剤師としてどうしていくのか

現時点で,卒後の薬剤師の質を担保する客観的な指標は存在しません.

薬剤師国家試験は,最低限を担保するものであって,

卒後はその人ごとに左右されてしまいます.

 

冒頭でありました,卒後薬剤師の教育,研修については,

現在のところその質を担保するものもないので,そのような発言をなされても,

反論することもできないのが現状でしょう.

 

上記のレジデント制度も,その時はみっちりカリキュラムがあれば,

研修できるでしょう.

しかし,ご存知の通り,薬剤師の業務,薬剤は日々進化しています.

医療は日々同じことばかりだけでは,取り残されてしまいます.

そして医学教育も,将来を見据えて大きく変革しつつあります.

 

卒後の質を保つために,今後様々な提言がなされるでしょう.

国家試験を定期的に行うことや(これは受からないかもしれませんが),免許更新制にするなど,です.

 

そしてこのような,質を担保する話しが挙がって,最も困るのは,

努力を怠っている薬剤師です.

実際更新制になったら,私もうろたえますし,

はっきり言ってイヤなシステムです.

 

しかし医療は,知らない事,アップデートしないことは,

色々な弊害を引き起こすということは事実です.

これから行っていくべき,在宅医療での薬剤師業務においても,です.

 

薬学教育は,まさしく今,様々なことが問われています.

 

そしてこれをうまく乗り越えることができなければ,

医療を受ける国民を始め,他の医療スタッフからの信頼は得られないでしょう.

 

今何をすべきでしょうか.

 

薬剤師の認定制度もいくつかありますが,

e-learningの座学の単位取得だけで取得できる認定は,

今後意味合いが薄くなってくる可能性もあります.

 

情報のアップデートという意味では有用ですので,

行った方が勿論よいという事に変わりはないでしょうが,

やはりそれ以上に,客観的な評価システムが必要になってくるかもしれません.

 

上記の専攻医では,その評価の一つに,

他職種からの評価というものが含まれると聞いています.

他職種からの評価が,自分のキャリアアップに影響してくる可能性がある

と言っても過言ではないでしょう.

 

薬剤師としての業務を,薬剤師だけで勝手に解決,

見えない仕事だからとあやふやにしてはいないでしょうか.

見えるように,何をしているか分かるように,というアピールも必要になってきます.

 

薬剤師の専門,認定などの制度もありますが,

私個人としては,このような制度にあたっては,

乱立しすぎていることもあり,できればもう少し狭き門にする,

質を担保するという意味で,

医療機関でのある程度の研修(癌領域では既にありますが)が

必要ではないかと感じています.

 

当然病院薬剤師であれば,関連する保険調剤薬局での研修を含む,という意味で,

必ずしも保険調剤薬局の薬剤師が,病院などの医療機関の研修を,

というだけではありません.

 

最後に

非常に長くなってしまいました.

今回の件について,医学,薬学教育と今後について,私見を述べさせていただきました.

薬学の教育,薬剤師の卒後の質の担保についてについて,

薬剤師からではなく,公的な場面で,医師からの発言であったことは,とても意味があるものと私は受け取りました.

 

ICT技術の進歩はめざましく,それをうまく活用できるようなシステムづくりや,

その部分で補えないもの,人が相手となる職業であることから,

その部分も踏まえて客観的に評価が行えるようなシステム作りや,

研修プログラムなどが必要になってくるかと思います.

 

当然,金額的な手当てや,

そしてそもそもそれを行うに見合った成果が期待されるのか,というところも議論されるべきでしょう.

私個人的には,ここが否定されると辛いので,これからの期待を込めて,

様々な議論がなされることを期待しています.

 

医学,医療は日々進歩していきます.

薬剤師として,卒後をどのように過ごすべきでしょうか.

専門的な知識に特化することもそうですが,

やはり広い知識の習得という事が基本になっているかと思います.

深く掘り下げた知識も必要ですが,

それ以上に知らない領域,苦手な領域を少しでも少なくする,日々の努力は続けていきたいものです.

 

最後に,長文となってしまい,失礼いたします.読んでくれた方に感謝いたします.