病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

副作用対応とPBPM(これからの主役は薬局薬剤師)

最近PBPMの話題が増えてきています.これからの薬剤師業務を考えると,とても心強いニュースもあります.私見も踏まえ,ご紹介いたします.

 

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薬局

 

薬事日報に下記の記事がありました.

外用薬の開始を薬剤師が指示‐京都府南丹地域の病院と薬局、副作用早期対応でPBPM : 薬事日報ウェブサイト

 

京都のPBPMの取り組みについて紹介されています.

この記事は大変興味深いです.PBPMの最近までの情報なども含め,少しまとめてみます.これからの薬剤師業務の大切な部分になりえる記事だと感じました.

 

 

 

 

PBPMとは

 

平成 28 年 3 月 31 日に,日本病院薬剤師会からでている,プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)の円滑な進め方と具体的実践事例(Ver.1.0) が分かりやすく解説してくれています.以下,引用になります.

 

PBPMとは,プロトコールに基づく薬物治療管理(Protocol Based Pharmacotherapy  Management)とされています.

医師・薬剤師等が事前に作成・合意したプロトコールに基づき,薬剤師が薬学的知識・技能の活用により,医師等と協働して薬物治療を遂行することである.PBPM の実践は,薬剤師の専門性の発揮によって薬物治療の質の向上や安全性の確保,さらには医師等の業務負担軽減に寄与し,今後のチーム医療の発展に大きく貢献するものと期待される.

  

とされています.

http://www.jshp.or.jp/cont/16/0331-1.pdf

 

欧米ではすでに行われていますが,プロトコルを医師と作成することで,しっかりとしたチーム医療を行うこともできます.これから私たち薬剤師が力を入れ,国民の健康のためにも行ってくべきもの,と私は認識しています.

 

上記の日本病院薬剤師会の資料では,下記の事も書かれています.

 

・欧米でも医師不足の解消を目的としたCollaborative  Drug  Therapy Management(CDTM)が行われ,成果をあげている

 

・日本国内では,処方や検査オーダを薬剤師が行うことは認められていないため,国内にあったものとしてPBPMを行う

 

・具体的な取り組み,実践なども紹介されている.主に病院薬剤師の業務運用のため,病院内の運用,コンセンサス形成の標準フローなどと共に,具体的実践事例も記載されている

 

 

これまでのPBPMに関する取り組み

このPBPMに関する資料が日本病院薬剤師会から出されたのが平成 28 年 3 月 31 日です.薬事日報でのPBPM,プロトコールなどの記事を調べてみました.

 

①広がる薬剤師の代行回答‐プロトコルで疑義照会対応

2016年10月5日 (水)

東邦大学医療センター大森病院の記事です.

病院内の医師と事前に協議して作成したプロトコルに基づき,院外の保険薬局からの疑義照会について,薬剤部が医師に代わって回答する運用を開始.

一包化の依頼について医師への疑義照会を不要としてきたが,そのほかに,成分名が同一の銘柄変更,貼付剤・軟膏の包装・規格変更など7項目の疑義照会に関して,薬剤師が代行回答する取り組みを開始.

 

今では多くの病院が取り組んでいる内容かと思います.当施設でも行っています.これは大幅に業務が軽減した実感があります.これもPBPMの一つかと思います.

主に病院内でのコンセンサスを得て,病院薬剤師が対応,医師,保険薬局薬剤師にもメリットは大きいと思います.

 

広がる薬剤師の代行回答‐プロトコルで疑義照会対応 : 薬事日報ウェブサイト

 

②疑義照会不要で合意書‐市薬剤師会313薬局と運用

2017年2月22日 (水)

さいたま赤十字病院の取り組みです.上記の記事と同様,プロトコールを作成,さいたま市薬剤師会尾協議,▽成分名が同一の銘柄変更(変更不可の処方を除く)▽内用薬の剤形の変更▽内用薬における別規格製剤がある場合の処方規格の変更▽無料で行う半錠,粉砕あるいは混合▽無料で行う一包化▽貼付剤や軟膏類の包装・規格変更▽その他合意事項――の7項目の疑義照会を不要とする運用.

 

このニュースも衝撃的でした.疑義照会を不要,ということです.薬剤師の業務の範疇で,よりスムーズな運用となります.医師の負担軽減にもなると思います.

 

【さいたま赤十字病院】疑義照会不要で合意書‐市薬剤師会313薬局と運用 : 薬事日報ウェブサイト

 

こちらの2つの記事は,主に問い合わせの軽減,医師の負担に,病院薬剤師が関与し,行った取り組みです.

現在は同じようなと入り組みを多数の病院が行っていると思います.PBPMがこれから少しずつ,次のステップにつながる記事になっていきます.

 

③PBPMで抗菌薬適正使用‐中小病院の人員不足カバー

2017年4月12日 (水)

化学療法学会の記事です.

感染症専門医が不在の施設でも,標準的なプロトコルを作成,PBPMを実践しているという記事です.

感染症領域の薬剤師の活躍は,近年めざましいものがあると,私個人は感じています.

 

より重篤で,専門医がいない施設などでは,他施設などと共同し,マニュアルやプロトコルを作成,薬剤師が中心になっている施設もあります.

 

治療を少しでも標準化し,少ないマンパワーで効果を上げる,病院薬剤師の業務の中でも,大切な仕事の一つだと思います.

 

【化学療法学会】PBPMで抗菌薬適正使用‐中小病院の人員不足カバー : 薬事日報ウェブサイト

 

 

④吸入デバイス,薬剤師が選択‐患者指導から一歩踏み出す

2017年11月17日 (金)

京都桂病院の取り組みです.こちらの施設は,癌領域の発表などで有名ですが,

薬剤師が外来でCOPD患者との面談に時間を費やし,事前に医師と合意した基準に沿って最適な吸入デバイスの選択を行う,という取り組みが紹介されています.

 

この記事も素晴らしいですよね.

患者さんに見合ったデバイスを,処方前に薬剤師が提案する.

 

呼吸器内科の医師と話をしていると,内服薬と違って,吸入デバイスは少し変わるだけでアドヒアランスに影響する.各社同じデバイスにしてほしいくらいだが,それができない以上,なるべく選択肢を増やしてほしい,という話はよく挙がります.

 

実際,他施設で持ってきた吸入薬が,病院内になくて,別なデバイス変わった結果,吸入がうまくできなくなる,という事もあります.なかなか慣れたものでないと,と変えたくないという方も多いです.

 

薬剤特性やデバイスの簡便さも,もちろんそうですが,正しく吸入してもらわないと,薬効は発揮できません.

 

それを処方前に確認し,提案する.

すばらしい取り組みです.これからもこのような取り組みの病院が増えるといいですね.

 

【京都桂病院】吸入デバイス、薬剤師が選択‐患者指導から一歩踏み出す : 薬事日報ウェブサイト

 

こちらにも記事があります.

 

COPDの吸入療法にPBPMを導入 最適な吸入デバイスを薬剤師が選択する新たな試み | 事例:地域医療戦略 | 医療サポート | ベーリンガープラス | 医療従事者向けサイト

 

⑤抗癌剤の副作用重篤化回避‐薬局薬剤師が電話フォロー

2018年2月19日 (月)

 

そしてここからは薬局薬剤師が主役になる,外来での薬物治療管理の話に移っていきます.

 

厚生労働科学研究班「薬剤師が担う医療機関と薬局間の連携手法の検討とアウトカムの評価研究」の報告になります.

 

外来癌化学療法について,病院と薬局が経口抗癌剤の治療管理に関するプロトコールを交わし,合意に基づいて薬局薬剤師が次回来院時までの間に発生した副作用の有無等を電話でフォローアップすることで,副作用の重篤化を回避できる.

 

当施設でも,外来の患者さんに説明を院内でも行っていますが,自宅に戻られている間のフォローというのは行えていません.

何かあった場合の連絡先などをお教えし,速やかに医師が対応,もしくは外来受診を進める,という現状です.そういった施設が多いと思いますので,この記事の取り組みは素晴らしいです.

 

基本的に外来通院している方は,自宅(もしくは職場)で過ごす時間のほうが,圧倒的に病院通院,診察の時間より長いかと思います.

 

その部分をフォローできる,というのは,とても素晴らしいことです.

 

これは,中間解析の記事のため,おそらくしっかりとした結果が,今後出てくることになるでしょう.

次の記事もそうですが,プロトコル,PBPMでの具体的な薬局薬剤師のアウトカムというものがでつつあります.

 

薬剤師ならではのフォローにより,国民の健康に,具体的に寄与できる可能性が出てきています.

薬を説明し,渡すのも大切な仕事ですが,その先のフォローなどもこれからは必要な時代になってきました.とても楽しみな記事です.

 

【厚労科研で中間結果】抗癌剤の副作用重篤化回避‐薬局薬剤師が電話フォロー : 薬事日報ウェブサイト

 

⑥電話で副作用を早期発見‐薬局薬剤師の介入効果を検証

2018年10月31日 (水)

長崎大病院と県の薬剤師会の報告です.こちらも上記と同様に,病院―薬局が連携し,副作用の早期発見,という記事となっています.

そして対象となる薬剤が,テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤またはカペシタビンが含まれる院外処方箋を薬局に持参した癌患者となっています.

 

近年,これらの薬剤の発売により,外来での化学療法が飛躍的に進歩しました.かつての薬剤と比べて,素晴らしい効果を持った医薬品となっています.

 

しかしながら,重篤な副作用も報告されています.残念ながら,発現してしまうと,即入院,ICUでの管理が必要になってしまう場合もあります.

その副作用マネジメントが上手にできると,効果を発揮できる薬剤となっています.

 

経口薬の中でも,最も注意が必要な薬剤であるため,この取り組みも素晴らしいものとなっています.これからの薬剤師業務には,必須となるような内容かと考えています.

 

【長崎大病院/県薬】電話で副作用を早期発見‐薬局薬剤師の介入効果を検証 : 薬事日報ウェブサイト

 

⑦外用薬の開始を薬剤師が指示‐京都府南丹地域の病院と薬局,副作用早期対応でPBPM

2019年2月6日 (水)

そして今回の記事です.

京都中部総合医療センターの取り組みで,薬事日報の記事では,下記の通り紹介されています.

 

京都府南丹地域の基幹病院,京都中部総合医療センター(南丹市,464床)と同地域にある12薬局は昨年9月から「プロトコールに基づく薬物治療管理」(PBPM)に沿って,経口抗がん剤「カペシタビン」の副作用を早期に発見して対応する取り組みを開始した.同院の医師が予め合意した取り決めに基づいて薬局薬剤師は,患者の状況を電話などで定期的に確認し,同剤の副作用である手足症候群がグレード2に達したと判断した場合,その都度医師に確認することなく,ステロイド外用薬の使用開始を患者に指示する.

 

この業務の中心的役割を担うのは,病院薬剤師ではなく,薬局薬剤師です.

 

この最近の3つの記事の主役は,薬局薬剤師です.

 

このようなプロトコルを作成すると,それに賛同して対応できる薬局というのは,おそらく数件なのではないか,と私は考えていました.

どれも簡単なものではないですし,何より責任も伴います.

 

従来までの考えですと,処方せんに従い,医薬品を調剤し,安全で適切に使用できるよう,説明することが,薬剤師の最も重要な仕事と,とらえている方もいらっしゃるかと思います.

 

私もそう感じていました.

 

この記事では,この施設の近隣なのでしょうか,12薬局が手上げしているとされています.

 

この記事を読んでみて,どのように感じられたでしょうか?私は,とても頼もしく,将来性を感じました.

 

まとめ

PBPMは,日本病院薬剤師会から,2015年に具体的実践事例などの資料が掲げられ,病院の業務,医師の負担軽減などを中心として,病院薬剤師が様々なことを行ってきました.

もちろん,この記事に掲載されていないような内容の事も,すでにいくつか病院薬剤師はPBPMとして実行しています.

 

そして,勘違いしてしまいやすいのが,やはり医師の「医業」との棲み分け,になるかと思います.

薬剤師は薬剤師の業務の範疇内での業務を行うべきで,決して医師が行うような,診断や治療決定に関することについては,立ち入ってはいけないですし,それは行うことが法律上できません

 

提案,というととても聞こえがよいですが,何かあった際に,治療においては責任を担っているのは医師です.そしてその質の担保のために,医師は日々,私たちが想像できないような研鑽を積んでいます.

 

今回のPBPMに関する記事は,どれも先駆的で,これからの薬剤師業務に必要な要素をたくさん含んでいます.

次のステップに進むためには,若い薬剤師を中心として,このような取り組みができるように,準備をしておく必要性を感じます.

 

そして,PBPM,プロトコルを正しく理解し,そのための研鑽を合わせて行う.

知識や技能がないままに,責任も取れないような状況で,提案,干渉をするというのは,今の医療にはあってはいけないことです.

 

しかし,それをクリアしながら,今の医療をより良い方向に進めていくために,薬剤師のなすべきことは,まだまだ多いと感じています.

 

これらの記事は,どれも未来がある,大切な記事です.

プロトコル,PBPMは病院薬剤師が行うものと勝手に考えていましたが,最近の報道では,薬局薬剤師の方がニーズ,話題性共に高い印象です.それだけ今の医療に求められているものではないかと思います.

 

これから薬剤師を目指す方にも,ぜひ確認しておいていただきたい記事でしたので,私見と共に紹介させていただきました.