病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

フォーミュラリーを考える

フォーミュラリーの話題が最近出ています.少しまとめてみました.これからの薬剤師の業務に関して,おそらく大きな影響を与えるものだと思いますし,これをしっかり考えておかないと,薬剤師の存在意義にも関わるものではないかと個人的には考えています.

f:id:RIQuartette:20181227214120j:plain

 

フォーミュラリー,とは何か?

下記資料が総説的で理解しやすいです.
特に著者となっている先生方は,フォーミュラリーに関する先駆者の方なので,原著をあたっていただくことを推奨します.

 

・フォーミュラリーとは,使用する医薬品の選択基準や投与指針を含む「標準化した処方薬集」としてとらえることができる。

・フオーミュラリーは,単なる医薬品集ではなく,経済性あるいは有効性を重視した薬物治療が実践できる医薬品集である.

 

私が理解しているフォーミュラリー,というのは,上記の通りなのですが,やはり一般的には医薬品集,というイメージが強いのかもしれません.

医薬品集,であることに変わりはないのですが,それに掲載される様々な根拠を持っている薬剤のみが,フォーミュラリ―に掲載されます.ただ,日本ではまだ認知が少ないと感じます.


下記論文の中でも,米国におけるフォーミュラリーの状況が掲載されています.

その中では,申請プロセス,製品情報と共に,臨床的エビデンス,経済的エビデンス,薬剤経済評価モデル,というとことまでを評価しているとされています.

 

詳細な項目まで完全には見られませんが,医薬品の採用における評価が必要であること,そしてそれは限られた医療資源,保険診療で行われているため,経済的な評価は無視できないという事になります.

 

ただ,この評価を行うためには,論文の評価なども含め,かなりの時間と労力がかかることになります.実際,評価せよ,と言われても,どのようにしたらよいのかのノウハウがなければ,何もできません.

 

現在医薬品は本当に多数発売されており,約16,000品目とされています.
その中で,ジェネリックを含め,同効薬などを個人で評価するなど,無理な話にきまっています.


私も,後発医薬品の導入などは,施設単位で行う事でも対応できると思いますが,フォーミュラリ―に関しては,その施設状況,患者さんの状況なども踏まえたうえで,施設ごとが望ましいと考えますが,現状としてはもう少し大きなくくりで決めないと,影響も少ないですし,本来のフォーミュラリ―の意味をなさないような気もします.

 

下記論文を参考としました.
フォーミュラリーの考え方とその必要性 新薬およびジェネリック・バイオシミラーの適正使用を推進するために,青野 浩直,八木 達也, 見野 靖晃, 川上 純一,日本病院薬剤師会雑誌,54巻9号,1113-1116(2018.09)

病院薬剤師のさらなる飛躍に向けて 病棟薬剤業務の実践 現状と今後の展望 ファーマシューティカルケアに基づいた病棟薬剤業務の実践,増原 慶壮,医療,69巻12号 ,520-524(2015.12)

フォーミュラリー作成と薬剤経済学,赤沢 学,草間 真紀子, 津谷 喜一郎,薬事,53巻2号,175-181(2011.02)

 

最近ネットでも,フォーミュラリーの話題が多いですね.少し掲載いたします.

 

薬事日報2018年12月21日
【横浜市立大病院薬剤部】フォーミュラリーの運用開始‐PPIなど8薬効群に拡大、公的病院の役割を強く意識 : 薬事日報ウェブサイト

 

ミクス 2018/12/26 03:51

協会けんぽ静岡支部 地域フォーミュラリ導入で薬剤削減効果は最大13億5700万円 | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnline

 

ミクス 2018/08/27 03:52

PPIにフォーミュラリ導入で年間40億超の薬剤費削減可能に 日本調剤データでシミュレーション | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnline

 

ミクス 2018/08/02 03:52

協会けんぽ静岡支部 「地域フォーミュラリ」今秋策定へ データ作成業務を日本調剤が受託 | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnline

 

薬事日報2017年05月24日
フォーミュラリーで薬剤費減、1年間で約2000万円‐後発品の数量割合9割超に
聖マリアンナ医科大学病院

https://yakunet.yakuji.co.jp/index.php?PAGE=YR_DETAIL&TARGET_ID=105276

 

公開されているフォーミュラリ―

病院のHpにフォーミュラリ―を掲載している施設もあります.

昭和大学病院です.フォーミュラリ一覧として下記に公開されています

昭和大学フォーミュラリ一覧 | 昭和大学病院

 

ここでは,以下の品目について,第1推奨,第2推奨として挙げられています.

抗インフルエンザ薬の推奨薬,H1受容体拮抗薬(H1RA),アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I),アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB),カルシウム拮抗薬(CCB),不眠症治療薬,H2受容体拮抗薬(H2RA),プロトンポンプ阻害薬(PPI), P-Cabの推奨適応,スタチン製剤,ビスホスホネート(BP)

他施設の資料と異なり,実際の薬剤が例示されているので参考になります.

 

フォーミュラリ―の比較

現在ある資料で,聖マリアンナ医科大,横浜市立大学病院,昭和大学のフォーミュラリをPPIで比べてみます.

 

聖マリアンナ医科大
第1選択薬 「オメプラゾール」「ランソプラゾール」などの後発品

横浜市大 
第1選択薬 後発品「ランソプラゾールOD錠15mg」と「ラベプラゾールNa塩錠10mg」
第2選択薬 「オメプラゾール腸溶錠20mg」「タケキャブ錠10mg」「ネキシウムカプセル20mg」

昭和大学病院
第1推奨 
エソメプラゾールマグネシウム水和物
ラベプラゾールナトリウム(後発医薬品)

 

となっています.

裏付けとなると資料の解釈が難しいですが,エソメプラゾールの評価をどう考えるかが異なっているものと推測されます.

 

適応などを考慮するとランソプラゾールは使用しやすいです.薬価などを考慮したフォーミュラリーとなると,後発品が中心になるのは今後の流れでしょう.

エソメプラゾールはそこまでよい薬剤なのかは,様々な判断があるかと思いますが,現状の医療事情を考慮すると,他のPPIが推奨されるのではないかと個人的には感じています.

 

これからのフォーミュラリ―

これは地域もそうでしょうが,もはや個人病院,大学病院レベルというわけではなく,英国NICEのように,国として方向性を出し,さらに保険診療上の優遇などを行う,もしくはそれに見合ったものを策定するなどを行わないと,なかなか進まないと感じます.

 

フォーミュラリーは,作成,使用する際に,医師と協議できる事が,現在では必要となると考えています.もちろん,事前に打ち合わせなどをすることができるのが理想で,その薬剤特性に応じた薬剤選択を行ってもらうように,医師と薬剤師が納得するまで議論,検討することが必要かと考えます.

 

後発品が出たならどれでもいいよ,という医師もいれば,先発への信頼感が強い医師もいますし,PPIであれば,消化器内科とそれ以外の診療科,もしくは抗凝固薬,抗血小板薬を処方する診療科も異なる意見かもしれません.

一律の基準設定は難しいとも考えますが,そもそも,それぞれの薬剤特性を知らないのであれば,使い分けはできないと思いますし,それであればその施設の推奨薬が必要なのかもしれません.

 

地域となるとその情報の共有も煩雑になるでしょう.

 

あの先生はこれ,この先生はこれ,というものも処方権とは認識しています.

しかしながら,効果は病院単位でも何千万という資料から,地域では億単位になる試算出ている以上,今後ある程度の動きをしなくては国内の医療は成り立たないでしょう.

そして薬剤の事なので,薬剤師は積極的にかかわる必要があると感じています.

 

今回の薬事日報の横浜市大病院の記事,ミクスの協会けんぽ静岡支部の記事は,いずれも公的な施設,規模での発表であることが,そのインパクトの大きさを物語っています.

 

通常の病院や私立の大学病院では(今は公的病院も含まれる,と認識していますが),経営的な観点から,より経済的な部分を考慮した治療というのは避けて通れない状況です.


赤字では経営できないのは一般企業と同じであるため,公的病院よりはシビアでしょう.そのような施設からの発表が多いこともうなずけます.

 

どの病院でも,薬品に関する委員会,薬事審議委員会というものが設置され,様々な議論がされているでしょう.
当施設でも,G-CSFはフィルグラスチムBSとペグフィルグラスチムのみになっていますし(かなり苦労はしましたが),抗がん剤でも,適応が先発品しかないもの以外は,原則後発品導入を行っています.BSも導入しています.

 

地域の薬局の先生とお話しかことがありますが,門前薬局,などでは,医師とある程度そのような打ち合わせをすることが可能で,経済的な面からもフォーミュラリ―に近い形で運用している薬局があるのも事実です.

 

 

フォーミュラリ―は無理なのか?

日々の業務で忙しすぎて,未来のために使う時間など,今の薬剤師にはないのでしょうか?

忙しい,という事は誰もが認識していますし,その理由で何もできない,というのは,後から見たら,何もしていなかった,という事になるのではないかと考えています.

 

そのためには,強いリーダーシップ,薬局長,薬剤部長のビジョンが必要でしょう.別に私もその立場ではないですし,関係ないかもしれません.しかしながら,上記のオープンになっている情報なども考慮して,都度医師と話し合うようなことはできるのかもしれません.

 

在庫管理などにもよい影響を及ぼすかもしれませんし,良いことばかりではないかもしれません.

 

フォーミュラリ―は,欧米の成功例からみると,国が動き,保険会社が強力に推し進めればスムーズにいくのは明らかです.そしてそれを期待する傍ら,薬剤師としてもフォーミュラリ―に関わってみよう,という一歩を踏み出してみるのもよいのではないでしょうか.

 


 

 

薬剤師を継続していくこと

新しい薬の情報に,薬剤師は敏感です.今までの薬と何が違うのか,という点を勉強することに対して,苦に感じる人より,湧き上がる(?)知識欲というのか,なんと表現した方がよいかわかりませんが,最新の知識を得ようとする情熱を持った人のみが,薬剤師を継続できると考えています.


しかし,過去の古くてよい薬を,最新のものと比べてどの点が劣っていないのか,という事をしっかり知っておくことも,大切だと思っています.

 

新薬は,優れた臨床試験,安全性で,既存の医薬品に比べて,優れている事が多いのは事実です.

しかしながら,わずかながらの部分で,特に安全性におけるわずかな違いなどで使い分けが難しくなる薬剤は,それを今すぐ使わなくてはいけないのであろうか,という事を考える必要があると思います.


最近では,抗インフルエンザ薬でしょうか.

優れた部分もたくさんあることは理解しているつもりですし,ここでアレコレ言うことはないのですが,昔からある医薬品でも,今まで治療していたわけですし,必ずしも新薬を使用しなくてはいけない場面ばかりではない,という事を心に留めておく必要があるのではないかと考えています.

 

少し話が長くなってしまいましたが,フォーミュラリ―は,今後の医療の考え方の中心になっていくでしょう.

薬剤師としてなにができるか,まず一歩取り組みを始めてみようではありませんか.

 

続きを書いてみました.よろしければどうぞ↓

www.riquartette.tokyo