病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

終末期の苦痛を和らげる

 

疼痛緩和に関するニュースが出ていました。痛みというのは非常に評価が難しいと思います。その理由の1つが、なかなか評価は客観的にできないと言うことにあると思われます。

痛い、かゆいといった神経的な要素は、なかなか数字化するのが難しいかと思います。自覚症状に伴う訴えというのは、様々な評価尺度が開発されてきたりしていますが、検査値のように、数字で客観的に出せるものではないので、なかなか悩みどころでもあります。

「今まで一番痛いときを10として、今どのくらいでしょうか?」という事もお聞きしますが、本当に痛いときは、それどころじゃない、と聞きながらも思ってしまいます。

今が痛いんです。昔の痛みと比べられます?と私自身も感じてしまうのです。

 

  

f:id:RIQuartette:20181230010115j:plain

下記の通り、ニュースになっています。

https://www.m3.com/news/iryoishin/650244

終末期「痛みを感じた」患者は3割 緩和ケアの必要性高まる 国がんが患者遺族に初調査 | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnline

 

 

国立がん研究センターの調査の概要

今回の記事は、国立がん研究センターが、患者さんの遺族を対象として、終末期について初めて調査した結果となっています。「患者が受けた医療に関する遺族の方々への調査」という調査結果として、公開されています。

https://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/sup/project/090/result/index.html

 

以下、Hpから一部抜粋になります。

・亡くなる前の医療に関する予備調査

・ご遺族の方を対象としたアンケート

・実態を把握するための調査で、今後本格調査を行う

・医療者が苦痛を取り除こうと速やかに対応している

・医療に対する満足度も高いが、必ずしもすべての人が十分な苦痛を取り除けていない可能性

資料も含めると50ページを超える資料となっております。

 

苦痛は十分にとれていない?

上記報道によって少し異なっていますが、3-4割の方で十分な苦痛の除去ができていない可能性が示唆されています。

 

実際医療現場で働いていると、そこまで多いという印象はないのですが、上記で示した通り、痛みというのはなかなか評価が難しく、私たちがお聞きしたことをそのまま信じて勝手に数字化し、評価して、というだけである可能性も十分にあります。

医療従事者には話せないような痛み、我慢をしているという、そしてそれを見せないようにしているという可能性もあるわけです。

 

今回のニュースは、医療者側の教育の見直し、という事も必要になってきていることも示唆されています。

 

薬剤師の立場から

薬剤師が様々な病棟業務の中で、アドバイスや介入などを行いやすい領域として、感染症領域や疼痛緩和領域があります。

感染症領域は比較的病棟で聞かれることもあり、知識も含めてかなり精通した薬剤師が多く、ある程度人気がある領域と考えられます。

若い薬剤師が薬学生と話をしていると、やはりそれ以上に人気があるのが、緩和領域と感じています。

医療従事者(薬剤師も含む)を目指す理由の1つとして、患者さんのために何かしてあげたいと言う気持ちが根底にあるかと思います。

この事は、実はとても大事なものの1つになります。すなわち医療機関、薬局、いずれのところで勤務するとしても、患者さんの社会的背景や心理状況など、患者さん側の場に立った上での薬物治療、提案などをできるという視点を持つ事は。非常に大切だと思います。

またこれは忘れてはいけないことだと考えています。

 

現在は様々な医療技術が進み、薬剤以外にも神経ブロックなど疼痛を緩和するような治療はいくつか選択できるようになっています。

しかしながら、全ての痛みを全くなく、0にできるという医療は、残念ながらかなり難しい、というのが現状です。

 

漠然と、自分が将来、人生の最期を迎えるときに、痛みだけは取り除いてほしい、となんとなく考えています。しかしながら、同時に、それは現実的では無いのかもしれない、という事も、心の中に存在しています。

 

今回のニュースは、様々な疾患で、本来は除痛すべきである状況で、それが満足に行えていないのではないかというアンケートの結果となっています。

 

誤解もあるかと・・・

私は病院での勤務をしておりますので、緩和専門の病棟での経験はございませんが、患者さんの痛みに関するアセスメントに関して、医療従事者は、最もそれを大きな問題の1つとして捉えているという事は、知っておいてていただきたい事実になります。

 

終末期医療と言い方はあまり好きではないのですが、もうなす術がないといったような、手の施しようがないような患者様に対して、医師を含めた医療従事者が、興味がなくなっているのではないか、という疑問を持つ人がいるのは事実だと思います。

 

医療スタッフの中ですら、そのような状況を考えてしまうような場合も、あるのかもしれません。

 

私が尊敬している医師,チーム力

私が尊敬している医師は、疼痛緩和の診療科を標榜する医師ではありませんが、緩和領域の知識はもちろんですが、様々なコンサルト能力に長けた医師です。疼痛緩和科でははなく、外科医です。

 

痛みは様々なメカニズムによって起こります。疼痛に関する基本的な本というのは様々なところから出ています。その中でも今回のニュースにあったような、癌性疼痛が最も痛みが強いとされています。現在の緩和医療の中で最も重きが置かれている領域かと思います。

当然ですが、難治性の疼痛や、慢性疼痛であったり、骨の変形などによる痛みといった、様々なものがあります。

 

話は戻りまして、病院内でも様々な緩和医療ケアチームというのができており、主にそういった診療科の医師を中心として、現在では精神的なケアも含めた専門的なスタッフが入りながら、痛みのケアと言うものに取り組んでいます。

 

緩和ケアチームは、様々な職種がそのチームに入っていることにより、それぞれの専門性を発揮し、より痛みのコントロールを上手に行えるような取り組みというものが行なわれています。

 

しかしながら、疼痛緩和専門の医師というのは、全国でまだまだ多いわけではなく、ホスピスといったようなところにはいても、通常の病院においてはあまり多くいないというのが現状かと思います。

しかしながら、患者さんは存在しているわけなので、少しでもそこの領域の、その分野に長けた方々を、その知識や経験を持ち寄って、チームでなるべく補っている、というのが病院の今の現状かと思います。

 

薬剤師の活動,プロ意識を持つ

下記の資料でも、薬剤師がチームとして活躍している状況が報告されています。

緩和ケアチームによる取り組みとその評価、松本 佑美ほか、 日本病院薬剤師会雑誌、50巻2号 Page185-189(2014.02)

緩和ケアチームによるオピオイド回診の効果 過去4年間のオーディット研究、瀧田 敬子ほか、 Palliative Care Research 、10巻2号 906-910(2015.06)

 

 私が尊敬している外科医は、先ほども述べましたが、原疾患の解剖的に、痛みの出る理由などを把握し、それに対する方策を考えると言う能力に長けています。それは外科医ならではの視点というのがあるかと思います。

 

薬物療法においては、内科医が行うことが多いですが、薬剤師に対しても、信頼していただいています(と思いながら仕事しています)。

その外科医は、知識も経験はもちろんありますが、それ以上にその臨床経験を自らの処方で行うとう以上に、そこはしっかり薬の専門家である薬剤師に任せたいという意識が強い先生です。

 

「それは俺たち外科医にでもできるけど、薬の説明、副作用の部分、詳細な話、それを患者さんに分かりやすく、なおかつ余計な不安を与えないように説明をするというのは、お前たち薬剤師がやるべきであり、それがお前たちの仕事だよな」

ということを面と向かって何度も言っていただけています。

 

これを実際現場で言われると、本当にプレッシャー以外のなにものでもないです。

 

しかし、私たちの働いてる施設は、そこまで外科医に求めてしまうと、医師の業務が成り立たなくなってしまいます。外科医は外科医にしかできないことがあるので、それをなるべく行っていただく。そのために、分担できることを皆でうまく分担しながらやることで、1番良い方策を考える、という方法を、皆に伝わるようにリーダーシップをとってくれる、そういった能力に長けているのです。

 

がん治療においては、がん治療がもちろん中心となるわけであって、それは診療科の主治医が行います。通常であればそこに緩和ケアもその診療科の主治医が行うと言うことになります。しかしながら、疼痛を緩和する薬剤というのは、当然ですが副作用を伴うものも多くあります。

そして様々な痛み、肉体的なものや精神的な痛み、社会的な痛みまで含めると、それを診療科、なおかつ特定の主治医にお任せするというのは、やはり負担が大きすぎるというのが実は今の医療の問題点でもあります。

 

その中で、薬剤師は何ができるのか、というのを考えさせてくれる、そういった方向に持っていってくれる、強いリーダーシップがあるその医師に、私は尊敬と敬意を持って接することにしています。

 

ご家族への対応

月刊薬事の2011年の報告になりますが、家族への対応をしっかり行うことにより患者さん本人の疼痛緩和のコントロールが良くなった症例、ということで報告されています。入院患者さんへの疼痛緩和の対応というのは、基本的にはその患者さんの面談や、主治医への薬剤提案といったことが薬剤師の主な業務になってきます。

ここでケースレポートとして出されているものは、その患者さんの家族、特にキーパーソンとなるご家族に、理解をしっかりいただくことで、患者さんのご家族も含めて、御本人にしっかり治療を行っていただく、誤解を解くことで治療に協力的になり、うまく進んでいったとされています。ご本人への治療とともに、ご家族の方への配慮、フォローを行う大切さがよくわかる報告です。

Case Report 緩和 家族への対応によって疼痛緩和が可能となった一症例、遠山 幸男、 薬事、53巻4号 Page579(2011.04)

 

薬学生にも期待

話が少し変わりますが、当施設でも薬学部の実習を行ってもらっています。様々な疾患の方に薬学部の学生として、しっかりと担当してもらいます。

 

その中では、がん患者さんを担当する薬学生もいます。今までに聞いたことがないような話であったり、現在の痛みの状況など、おそらく実際に初めて聞く話ばかりで、事前の実習では経験したことのないようなことばかりで、戸惑う薬学生も多いかと思います。

 

しかしながら、そういった患者さんに対して、学生が実習させていただく際に、私たち薬剤師や医療従事者が接することができないような時間を、彼らはうまく使っていることがよくあります。

 

病院の医療スタッフは、その業務に追われることが多く、なかなかゆっくり患者様の訴えや、通常の考えてることなどを聞く機会が、実際の業務の中ではあまり取れなくなってきてしまっているというのは、残念ですが事実の1つです。

 

薬学生は、様々なレポートをこなしながら、病院内での実習を行ってもらっていますが、その実習の中で、やはり病院スタッフよりも、患者さんとのコミュニケーションがスムーズに取れるような時間を、彼らは上手に使っていたりします。孫くらいにあたる薬学生が、医師・看護師・薬剤師が知ることができなかった訴えや、情報など、次なる治療へのステップとして、とても貴重な情報を聞くことができているケースがあります。

 

今の日本の問題でもある,人手不足

病院では、医療従事者が、患者さんの治療を行うにあたり、最適な治療を選択するというのは当たり前のことであり、それが行われているのが病院である事は事実です。

 

しかしながら、米国も含めた海外の病院等と比べると、医療スタッフははるかに少ない人数で、患者さんの治療に当たっているのは、紛れもない事実になります。

 

今回の報道を見ていても、患者さん側からしてみると、やはり終末期の疼痛管理というのは、決して満足がいっているような事情ばかりではない、というのは、残念ながら事実なのかもしれません。

 

すでに申し上げましたが、これは医療従事者、医師を中心とした様々なチーム医療が行われている中で、決して患者さんの疼痛緩和に対する医療従事者の認識が薄れているという事ではないのです。

 

急性期病院であれば、急性期の患者さんにケアが集中する、というのは当たり前のことであります。また治療抵抗性の様々な疾患に対しては、いろいろなことを考えながら、様々な手段を考え治療が行われています。

 

残念ながら、疼痛緩和のみを行うような専門病棟というのは、一般の病院ではあまり存在してないと思います。

疾患の治療をしながら、痛みの治療を行うというのは、今の病院のスタイルの中では最も一般的な方法になるかと思います。すなわち、痛みの原因を精査し、そこの治療を行いながら痛みを取るということになるわけです。

 

これから高齢化が進み、様々な疾患を合併した方というのが増え、入院患者さんの年齢も上がっていくことになります。その中で、限られた時間の中で、上手にその痛みの管理を行い、それを治療に生かしていく、というのは、もしかしたらこういった薬学生や看護学生といった、より患者さんに寄り添える時間を持っている学生達が、担ってくるのかもしれません。

 

本ブログを読んでいただくのは、医療従事者、特に薬剤師が多いかと思いますが、薬学生の皆様であっても、是非この緩和領域に、多くの薬学生が興味を持って、1人の症例にしっかり向き合って、実習を経験していただければと思います。

 

私が経験した,何とかしてあげたかった患者さん

私は20代の時に、スキルス胃がんの患者様を担当しました。20代の患者さんで、進行がとても早く、入院している間に何回か、薬の説明のために訪問しましたが、進行が早く、何もできない自分が悔しかったです。

 

その方と最後にお話をされた際に、「なぜ私だけがこういったことになってしまったのか、何か悪いことをしたのか」、などということを質問され、私は言葉に詰まりました。

 

そして痛みをなんとかとってあげるような薬剤等について、主治医、看護師とともに情報共有をし、最良の治療を行うための全ての提案を、自分が持っている知識、先輩にアドバイスもらったりしながら行いました。このように必死で調べ、提案し、評価をし、少しでも満足の行く除痛が得られるための努力を続けられているのは、その経験がもととなっています。

 

信頼関係の素晴らしさ

祖母も、亡くなる直前、痛みはないと言っていましたが、もともと大正生まれの女性は、色々なことを経験してきており、家族皆を心配させないように、多少なりともガマンはしていたのではないかと思っていました。

その時は、主治医に対する信頼感がとても強かったのを記憶しています。「あの先生がこう言ってくれた、あの先生が忙しい中、出してくれた薬なので、しっかり飲むよ」

多少の痛みはあったのでしょうが、祖母はきっと、満足した鎮痛が得られていたのでしょう。そしてそれは、薬理学的なものだけではない効果、というべきものが働いていることを強く感じました。その施設の医療スタッフは親切で、自分も安心できたのを記憶しています。

人にしかできない、信頼関係を、祖母は最後にしっかり構築できていました。

私はその時は家族側でした。アンケートを受ける側でした。そしてその経験も生かして、今は医療側に立って仕事をしています。

 

本調査であります、がん患者の療養生活の最終段階における実態把握事業「患者が受けた医療に関する遺族の方々への調査」、においては、

医療に対して満足が高い一方で、必ずしも全ての人の除痛が取り除かれていない、という現状がわかりました。

除痛が少しでもされるように、その割合を上げるための努力が、これからも継続して行われることになるでしょう。

 

医療従事者ができること

そこで、私たち医療従事者は、大げさにはなりますが、患者さんの痛みの訴え以外に、何か我慢している事はないか、ということなどをうまく見つけ、少しでも満足の得られる除痛を得るための配慮をすべきではないかと感じました。

 

この部分は、まさしくAIでは対応が難しいのかもしれません。

人と人、信頼することによる痛みの緩和や満足度の上昇。肉体と精神的な痛みは、どちらかだけを除痛できてもうまくはいかないと思います。

 

私たちは、患者さん、ひいてはご家族も含めた痛みのケアを担う際に、今置かれていることを再確認しましょう。

 

 人としての尊厳を守る、痛みに関しては、なるべく除痛が得られるような、様々な配慮を医療従事者として、これからも行っていきたいと思います。