病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

いまやめるべき薬,とは

Yahooニュースにもありました,下記記事,

 

医師が提言する「いまやめるべき薬」、ウイルスに備えるために

 

https://t.co/H6TBuvj9pR

 

について,いろいろなご意見が挙がっているようですが,

薬剤師としての視点から少し述べさせていただきたいと思います.

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今回の記事は…

「女性自身」2020年3月24・31日合併号 掲載

医師が提言する「いまやめるべき薬」、ウイルスに備えるために,という記事です.

 

医師が提言する,という記載だったので,

このような時期に,と思いまして内容を見てみますと,

この記事を書かれているのは薬剤師とのことでした.

 

安易に薬を飲むことで、不用意に免疫力を下げてしまうことを危惧している。

 

とあります.

 

安易に!!というところが気になりましたが,内容を見てみます.

 

ウイルスについての記載もされています.一般的な記載かと思いますが,

記事自体は

女性自身に掲載されたものなので,詳細は省きます.一部のみ引用させていただきます.

 

今、医療現場で従事者たちが予防として行っているのは、“頻繁にお茶を飲むこと”なのだそう。

 

 

??

 

「お医者さんたちは、ひとり診療を終えるたびにお茶を飲んでいます。口内にウイルスが入ったとしても、胃まで流し込めば、胃酸の力で殺してしまえるからです」

  

???

 

 

 

本日外来をされていた,当施設の医師とお話しすることができました.

 

私「今診察ごとにお茶を診療ごとに飲むことでウイルス予防をされているという記事が…」

 

医師「喉乾いてるだけでしょ」

 

 

現場からは以上です.

 

診察中は忙しくてそれどころではない場合が多いかと思います.

いろいろ気になる記事ですが.

 

私が気になったのはその下の記事です.胃薬をやめておきたいとして挙げた後に,

 

ほかにも今やめるべき薬がある。

 

という部分です.

 

やめるべき薬として挙げられているのは…

 

【抗生物質】

【鎮痛剤】

【解熱剤】

【ステロイド】

 

が挙げられています.

ひえー,お願いだからこんなこと書くのはやめてくれー

 

さらに減量についての記載も・・・

 

「まずは主治医に相談し、それぞれの薬を4分の1量ずつ減らします(錠剤の場合は、くだいて量を調整)。1~2週間、様子をみて、問題なければ、さらに4分の1量を減らして元の半分にし、症状が悪化したら戻してかまいません」

 

 

!!

 

 

なんてことでしょう.

 

薬剤師は,医師の処方通りに,患者さんに薬剤を説明,

納得していただき,しっかり服用していただくことを担うのが

基本的な仕事の一つであると,私は認識していました.

 

この記事では,記事のスペースの関係もあるでしょうが,

あまりに誤解があるような書き方になってしまっています.

 

薬の副作用が怖くて,ステロイドを勝手にやめたり,

自己判断で減らしたり・・・

 

そのようなことがないよう,私は患者さんの目線に合った,

少しでも納得できるような説明を行い,

副作用については,怖がり過ぎないような,

それでいて初期対応などについて理解いただくよう,

時間をかけて説明を行っているつもりです.

 

ここに挙げられるような薬剤は,症状によって

自己調節可能な指示がある医薬品もあります.

鎮痛剤,解熱剤などはそのような指示があることもあります.

 

私が気になったのは,この中に,

【抗生物質】,【ステロイド】が入っていることです.

これらの薬剤も,やめるべき,

ととらえられてしまう書き方になっている点です

 

抗生物質

抗生物質は,当然症状が落ち着いたからといって

簡単に中止してしまうと,感染症の再発という,

最も避けなくてはいけないことに至る可能性があるのは明らかです.

 

抗生物質の予防的な投与はありますが,

それは医師が判断の上で,リスクを勘案して処方しているものです.

 

抗生物質は,本邦においては,

海外の自分でOTCとして購入することができる国と比べて,

耐性菌は少ないことがわかっています.

 

医師の処方通りに服用することで,

素人判断で抗生物質を服用するより,

耐性菌が抑えられている事実があります.

 

この苦労を踏みにじるような,私としては,

とても理解のできない記事に思えました.

 

耐性菌を生み出さないような,

AMR対策が国策として行われています.

ウイルス性の風邪には,

抗菌薬は効きませんし(その後発症した細菌感染には有効ですが),

処方された抗菌薬は,医師の指示通りに服用することが大前提で,

耐性菌を生み出さないためにも,自分で薬を減らしたり,

調節することは最も避けなくてはいけないことの一つになります.

 

AMRリファレンスセンターでもその大切さが書かれています.

処方された抗菌薬は医師の指示通り服用しましょう | 私たちができること | 一般の方へ | かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使ってAMR対策~

 

ステロイド

これが出てきた時点で,私はこの記事を読んでいて

倒れそうになりました.

 

薬剤師が本当に書いているのかも怪しくなりました.

 

本当の意図はどこにあったのか,全く分からなくなってしまいました.

 

副腎皮質の機能が抑えられ、免疫力まで低下してしまう。

 

 

とあります.当たり前です.それが薬効です.

そしてそれを上回るような作用があるからこそ,医師はこの薬剤を,

適切に診断し,より慎重に投与しています.

 

ステロイドに副作用があるのは,薬学を志す学生も含め,

薬剤師であれば,だれもが知っています.

 

学ぶ上で,盲目的に覚える副作用もあります.

 

実際の治療では,その副作用すべてが発現するわけではないですし,

短期間であれば,リスクによっては,

副作用予防を行わなくてもよい場合もあります.

 

そして何より,この薬剤を服用しなくてはいけない患者さんにとって,

「ステロイド」,という言葉の受け取り方が様々です.

 

そのような背景がある中で,医師はこの薬剤を,

治療に必要であるために,処方しています.

副作用予防の説明も薬剤師は行います.

いきなり薬が一気に増えて混乱する方もいらっしゃいますし,

入院治療で慎重に導入,減らす際にも非常に慎重に行われる薬の一つです.

 

それほど大変なステロイドという薬を,

治療上必要がある方のために,医療従事者はチームで協力し合って,

少しでも安全に,服用により治療が継続できるよう,

この薬剤を扱っています.

 

もう書くことがなくなるくらい,あきれてしまうのですが,

免疫力を高めるための生活は,できる方は行っていただくほうが良いでしょう.

そのことに関しては別に何も言いません.

 

しかしながら,疾患を患い,薬をしっかり服用し,

治療をしている方も見ているような記事に,

免疫が下がるから,やめるべき薬,ということを薬剤師が言っているとしたら,

私は同じ薬剤師として,当然賛成できません.

 

今の医療を踏みにじっていますし,いろいろな方を不安にしてしまいます.

 

 

どんなことを伝えたかったのだろうか?

一通り拝見いたしましたが,

私はこの記事に納得できる部分は非常に少なかったです.

 

薬をたくさん服用している,ポリファーマシーを挙げ,

減薬できるものがあれば,という記事であったと思いたいです.

 

あまりに衝撃的過ぎて,印刷したものを見ながら,

この記事を私は書いていました.

 

そしてwebで見ようとすると,すでに記事は削除されていました.

 

表現の自由は認められると思いますが,

健康に関すること,特に薬についての記事というのは,

大きな影響がありますし,

とらえ方によっては大変なことになるというのは,

十分ご承知だったのではないかと思います.

 

記事の削除に,少し安心したところですが,

なんだかわだかまりというか,

しっくりしないものが自分の中に残っています.

 

ご本人は,きっと健康な方なのでしょう.

抗生物質をしっかり服用しなくてはいけないような

感染症に罹患されたこともなく,

免疫が下がるステロイドを

服用する治療を受けたことのない方なのでしょう.

 

でも,この記事を書いていたのは薬剤師なのです.

なんだか悲しくなりました.

 

不要な薬を減薬するのは,今のポリファーマシーの現状から考えると,

正しい方向性かと思います.

しかし,その不要かどうかを勝手に判断してしまうような記事は,

やはり望ましくないと考えます.

そしてそれを語る際に,薬剤師という肩書を持っていてはいけないと思います.

 

 

薬剤師法は下記です.

 

第一章 総則

(薬剤師の任務)

第一条 薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。

 

 薬剤師の肩書でどのようなことを発言するかは,

その方のモラルに依存しますが,

この薬剤師法第一条だけは,

どんなことがあっても忘れたくはないものです.

 

今回の私が拝見した記事は,

私が感じる限り,第一条に見合っていかは判断できませんでした.

誤解のされやすいような記事だったと思います.

 

薬の記事については,それが多くの方に影響し,

そして健康にも影響しうるということを

強く認識する必要があると感じた次第です.