病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

「この薬は口座がないので,出せません.」は何なのか.

この文言,同じような内容を、病院薬剤師では言ったことがある方もいらっしゃるでしょう.

むしろ言われたことのある,保険調剤薬局の薬剤師の方は,少なくないのではないでしょうか.

 

私も,病院薬剤師の業務の1つとして,電子カルテの薬品マスターなどを準備している側になりますが,ずいぶん歯がゆい思いをしていることの一つになります.

今回は,こちらの問題について,現場の状況について少し考えてみたいと思います.あまり期待するような解決策などはないのですが.

 

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くすり

 

 

病院で処方するためのシステムなど

現在,オーダリングシステム,もしくは電子カルテシステムを使っている病院がほとんどかと思います.当然ですが,外来処方する際には,薬剤を入力し,それを処方箋として発行することが行われています.これについては,医師が診察,診断を行い,処方する際にこの入力を行っています.

 なお,今回は便宜上,下記のように文言を定義させていただきます.

・オーダリングシステム・・・処方をするためだけのシステム

・電子カルテシステム・・・オーダリングとは異なり,処方された情報が様々な情報とリンクするシステム

 

オーダリングシステムは,処方をするためだけのシステムで,相互作用や禁忌などの情報は,オーダ時にチェックがかかり,電子情報として履歴が残ります.そして次回診察時などに,その履歴の情報から,Do処方が可能となっています.あくまで処方をするために特化したシステムです.

それに対し,電子カルテシステムは,そのオーダした情報を,入院患者さんなどで実際投与する際にも確認できたりするような,他のシステムと連携して,一つのカルテとなっているシステムです.

 

もちろんこれは原則で,実際には異なっているシステムを運用している施設などもありますので,この限りではありません.

 

あくまで,概要になりますが,このようなシステムで動いています.

 

薬剤の処方は,当たり前ですが,診察し,診断,処方は医師のみが行える業務となります.

施設によっては,秘書さんや医療事務などが,入力の代行などをする(医師の指示のもと)ところもあります.

多忙な医師の業務軽減のためには,この部分もうまく対応できると,限られた人的資源,医師のみが行える部分にシフトできると考えられます.

 

実際の処方にあたって

世の中には様々な医薬品があり,その中で医師が保険診療の範疇で処方できる医薬品というものは決められています.

世の中にあるすべての医薬品を,全て処方できるという病院はほとんどないでしょう.

なぜなら,病院内であれば,院内にある医薬品の在庫がなければ処方ができません.あくまで病院の中に限ってのことになりますが.

 

病院の中(入院されている患者さん)の処方は,上記のように,病院内に薬がなくては,その薬を調剤することができませんので,ある程度医薬品の数を絞ったりする必要があります.

 

外来の処方箋は,当施設でも,そのほとんどが院外処方箋として発行されています.都内の大きな病院では,まだ院内処方というものが残っているところもあります.

近年,施設内薬局や,院内処方などの話題も挙がってきていますが,厚生労働省が推し進めている医薬分業の観点からは,

院外処方箋を発行している施設の方が多い(全国平均74.8%,2017年社会医療診療行為別統計の概要,厚生労働省)という現状です.

外来の処方のほうが処方日数等も多いので,複数規格ある医薬品などは準備する必要がありますし,施設によっては外来の処方はどんな医薬品でも処方可能という施設まで様々です.

何でも,というのは少し語弊があるかもしれません.ただ、ある程度しぼらないと,保険薬局での在庫の問題などもあるかと思います.

 

入院している患者さんが,退院する時は,次の外来までの日数の薬剤を,病院から退院処方というかたちでお渡しします.

その後,通常は自施設の外来となるので,患者さんが病院に来院し,医師が診察後,症状が大きく変わらなければ,入院中に飲んでいたお薬からなど,症状等確認し,処方箋を発行します.

それは内容として,入院時に服用していた薬に準じて処方することが多くなります.

 

病院のシステムは様々ありますが,私たちの施設では,病院の中の薬と,病院の外(外来)で出せる処方の薬の種類を分けています.

あまり大きな理由といった理由は無いのかもしれませんが,上述のように,入院した患者で使う薬は,当然よく使う薬剤を準備する必要がありますが,

病院の在庫の観点から1薬品が高額なものも含めて,あまり多くの種類の医薬品を準備することができない現状もあります.

 

何だかややこしいシステムが…

例えば,ある医薬品の規格が,20mgで,半分に割れる割線があるとします.

そうすると,10mgの処方をする場合には,病院の中では20mgに割線があれば,そこで半分にわって,10mgの調剤をすることで,病院の中の医薬品の在庫は20mgの規格が1つあれば,準備できるということになります.

外来処方と異なり,病院内の処方は1週間程度の調剤が平均なので,薬を半分に割るというところに費やされる,人件費などはほとんど考慮されてしない,というのが現状です.

 

もちろん,この薬がよく処方される薬であれば,2つの規格,10mg,20mgを病院に置いておけば良いかと思います.

 

しかし,頻度などから,そうでない場合に関しては,20mgのみを病院内におくということになります.

 

また反対のパターンでは,10mgを採用としておけば,必要事2錠処方することで,20mgの処方にも対応できます.薬価は10mgを2錠服用したほうが高額になるのが一般的です.

ですので,病院内は,処方状況などを考慮して,全体的に1番多く服用されるかといった観点から,病院の中では採用の規格などを選択しています.

 

ここでの問題は…

病院では,薬剤の適正な在庫管理,という観点から,薬の数を絞っています.

これはあくまで当施設の方法ですが,近隣の病院の薬剤師の方と話していても,同様に行っている方法なので,ほぼ同様のやり方で行っている施設が多いことでしょう.

新しい薬剤が一つ発売になると,それを病院内で使用できるためには,使用頻度が少なくなった薬剤と交換する,といった対応をとっています.薬の数が増えすぎないようにするためです.

 

例を挙げますと,

薬剤A 10mgを病院内で使用するために採用,代わりに同効薬で使用頻度の少ない薬剤Bを,使用不可として交換する,といった具合です.

 

あまり良い目線ではないですが,自分が製薬会社の担当者だったとしましょう.

薬剤Bの担当だったとします.

ある時期から,処方が全くされなくなり,売り上げは下がります.

 

本来,薬剤は,その治療にあたり,医師が診察の基,処方されるのであり,製薬企業のためではありません.そしてその治療には,患者さんの命がかかっているのです.

 

ただ,これは,薬剤AとBが,明らかに効果に違いがあれば,問題にはならないでしょう.誰が見ても,納得してもらえるかと思います.

 

問題は,効果や薬価などがほぼ同等であって,同じような薬剤がたくさん発売されたときです.

SGLT-2阻害薬が発売されたとき,ほとんどの施設が,その使い分けや違いについての位置づけに苦慮したことでしょう.

今は少しずつエビデンスが蓄積されて,位置づけなどができつつありますが,

だからと言ってそうでない医薬品を使用不可としてしまうと,それを服用している患者さんにも影響がある,という,難しい問題にも発展します.

 

それをある程度しぼるために,病院には薬事委員会,という

医薬品に関する委員会などが設置され,公正に評価され,

その施設での薬についての評価が行われています.

 

ふと思うのですが,でも,これって,厚生労働省が行ってくれないの?と感じることは多いです.

治療の選択が増えるということは喜ばしい事ですが,その違いなども含め,

使い分けがよくわからないような薬剤を,全て承認するというのは,現場は混乱してしまうのです.

 

話を元に戻すと…

病院で処方される薬は,上記の通り,オーダリング,電子カルテ,といった処方システムでオーダされます.

オーダリングの場合は,基本的に処方することに特化したシステムなので,上記の,薬の口座がない,といった事でも,その薬品マスターを作成,登録すれば,対応可能かと思われます.

当施設でも,そうようにオーダリングの際は対応していました.

その薬剤マスターがないと,院外処方箋の発行後に,医師が手書きで記載する,ということも発生してしまいます.

 

この手書き処方,というのが問題になることもあります.

医師が記載したのであれば,問題はないのですが,睡眠剤などが欲しいために,

患者さんが自分で書き足してしまう場合などです.

それを防止する意味でも,電子入力を全て行う必要があるのですが,当然そこには,薬品マスターがあるものしか,処方できなくなってしまうという事案が出てきます.

 

オーダリングは,処方に特化したシステムなので,速やかに対応することも可能かと思います.

処方修正もできるかと思いますが,当然薬品マスターというのはすべての人が自由に閲覧,作成できるわけではなく,ある一部の限られた人が作成しています.

どのシステムもそうですが,根本となるものは,あまりさわらないほうが良いので,そのようなシステムになっているわけです.

その担当者や医師がいれば,対応できる場合も多いかと思います.

 

電子カルテは,先ほどお話ししたとおり,その情報が様々なところにつながっているため,薬品マスターを作成した際は,整合性をとるため,

電子カルテシステムのプログラム配信というものを行うため,少し煩雑になります.

 

口座がない,処方できない,というのはこのような状況になってしまっているのが原因かと思われます.

 

それではどうすればよいのかを考える

病院薬剤師は,その業務の多くを,病院内の薬剤について割いています.

なかなか外来処方箋の対応に,十分に時間をさけないのも事実かと思います.

それゆえ,忙しさに流され,思考停止してしまうと,本タイトルのような言葉がでてきてしまいます.

 

外来処方で,

薬剤C 20mg 0.5錠 60日分

 

という処方が,先発医薬品でされた場合,その医薬品に10mgというものがあっても,勝手に10mgに変えることが,現在ではできません.

 

施設によっては,外来の薬の数も決まっているところもあるので,上記のように,変更できないので,このまま調剤,となってしまう場合もあるかと思います.

これは病院側もそうですが,保険調剤薬局,患者さんにとってもメリットよりデメリットのほうが多いでしょう.半分にして調剤する時間もかかってしまいます.

 

そして,これは解決しない問題なのかもしれません.国としてもこれを何とかする動きを進めていただきたい,と感じることもあります。

後発品や一般名処方であれば,問題ないのですが.取り決めとして作成して、運用している施設もあります.

 

上記の通り,薬品マスターの問題や,限られた口座数の問題などもあります.

 

しかし,私の考えている最も大きな問題点は,この問題に対する認識の温度差にあるかと思います.

実際,上記のような薬剤を,30錠を分割し,分包する工程は,薬剤師ならわかるわけで,ただそれを,そのまま処方通りに行えばよい,というように思考停止してしまうのが,問題なのです.

 

医師に確認できるのであれば,当然,10mgがあればそれで,ということになるでしょう.その用量が服用できることが治療の最も大切な部分なのですから.

 

病院薬剤師,保険薬局の薬剤師の,業務の相互の理解,は必要かと思います.

当施設も,院外処方箋に関しては,近隣の薬剤師会の方と,定期的に勉強会を通じて,意見をいただける機会を作っています.

 

処方の際の,用法に関する問題などは,上記の電子カルテの場合,院内での薬剤投与にもかかわってくるので,あまり特殊なものは作成しづらいのも現状としてあります.

 

その辺りなども話し合いながら,処方のシステムで無駄な疑義照会が出ないようなシステムづくりに向けた取り組みも行っています.

 

薬薬連携,というのは,なかなか建前通りに,うまくいくことばかりでないものもあります.処方医や患者さんのために,よりよい処方について,薬剤師同士で時間をとり、考えてみる必要があるかと思います.

 

お恥ずかしい話ながら,当施設でも,このタイトルのようなことは起こっていました.今回はその反省も含めて書いたのですが,その原因は上記以外にも色々あります.

 

院外処方箋による問い合わせを病院の薬剤部で受けているところもあれば,直接診療科外来で受けている場合もあります.

薬剤部で受けている場合でも,上記の対応で困った際に,その対応が共有できていれば解決の方向に向かいますが,思考停止をしてしまって,電話口で上記の回答をしてしまうと,そのあとも同様の対応ばかりになってしまいます.

外来で直接対応している場合でも,忙しいからそのままで,と言われてしまえばそれ以上発展しないでしょう.もう問い合わせしても無駄だ,この病院の処方はもうこのままで,となってしまっているかもしれません.

 

私たちの施設は,問題となりうる処方などをピックアップし,処方状況を調査し,採用なども含め,病院で解決すべき問題を薬事委員会で報告しました.

 

委員会は,外来処方を行っている医師が多かったので,具体的なデータを示しながら説明したところ,特に異論は出ませんでした.

 

ミネブロ錠という薬剤が今後発売になります.

ミネブロ錠1.25mg/ミネブロ錠2.5mg/ミネブロ錠5mgという規格ですが,

開始用量2.5mg,効果不十分はの場合は5mgまで増量可能,中等度の腎機能障害の患者さんなどでは1.25mgとなります.

頻度などから,おそらく2.5mg錠を採用,処方する施設が多くなると思います.

 

上記のように,外来処方では,1.25mgの処方となると,2.5mg 0.5錠という処方となりえます.

当施設でも,糖尿病科,腎臓科より,1.25mgの処方が予想されます.

これから検討段階になりますが,なるべく今までの経験を踏まえて,よりよい方向になるように,病院内の院内処方だけでなく,院外処方も配慮した対応を考える予定です.

 

これから進む道は

病院のシステムなどで,色々な処方における問題が挙がってきています.申請があった同効薬などを全て認めるという,厚生労働省にも,薬価なども踏まえた差別化もお願いしたいです.

フォーミュラリも重要な位置づけになってくるでしょう.根拠ある薬剤を推奨する.地域で行う.これが進まないと,もはや日本の医療費は押さえられない状況にもなってきています.薬の種類をある程度しぼることで,余分な在庫や期限切れなども起こさなくて済みます.

 

 

www.riquartette.tokyo

 

今回の表題のような問題は,今おこっている医療の全体的な問題などからすれば,大きな問題ではないのかもしれません.

 

しかし,問い合わせをもらった際には,やはりそれなりの対応は必要かと思います.思考停止とならないよう,一つ一つをしっかり対応したいと思います.

 

そして,そのためには,色々な情報の共有が必要です.薬剤師間もそうですが,それ以外のスタッフとのコミュニケーションも重要です.

様々な問題点について,何を重視するか.

医師の処方,患者さんのメリット,安全性,コスト…

 

その状況によって,色々と変わるでしょう.一人での解決は難しいかもしれません.

 

システム的な部分は専門職へ依頼,問題を抱え込みすぎず,頼れる部分は頼ることで,解決する部分もあります.その中で,薬剤師としてできることを考え,行動する.今できることを行う.問題点となった部分を,データなどを基に評価する.

 

全ては安全な医療のため,と考えれば,可能でしょう.

 

 

長文となりましたが,これからも薬剤師として,なるべくスムーズに医療が進むようなシステム,対応を行っていきたいと思います.

色々な意見があるかと思います.ご意見などお持ちでございましたら,ぜひお教えください.