病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

医薬品の流通、保管、管理について考えてみる

近年の医薬品の薬価高騰、医療費は増加の一途をたどっています。今回のお話は、そこまで大きな話ではないですが、病院、薬局での医薬品の管理について考えてみたいと思います。

 

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冷蔵庫

 

薬事日報、ミクスに下記のニュースがありました。

 

GDP国内導入でメーカー共同物流に機運 新薬メーカーや3PLに新たな動き | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnline

 

厚労省 医薬品GDPガイドライン導入 出荷後から納品まで流通一貫管理 温度管理、偽造品防止を徹底 | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnline

 

【旭川医大病院薬剤部】ニボルマブを約8000万円廃棄‐DVO実施で薬剤費削減に : 薬事日報ウェブサイト

 

この2つのニュースは、関係なさそうですが、少し関連づけて進めてきたいと思います。

 

 

 

医薬品GDPガイドライン

厚生労働省から、医薬品GDPガイドライン導入というニュースがありました。

医薬品の出荷後から、医療機関・薬局への納入までの流通を一貫して管理するということが目的のガイドラインとなっているようです。

これは製薬企業、医薬品卸に都道府県の事務連絡として通達されています。国が決めた手法となるわけです。

 

医薬品の流通に関しては、病院の現場で働いていると、あまり意識をすることはないでしょう。ほとんどの方が、あらゆる医薬品が製薬会社から医薬品卸、病院・薬局に届くまで、しっかり品質を保持されたまま導入される、それは当たり前のことだと思っていると思います。

 

そして、薬局も同様に、同じように保管・管理されているというのは、当たり前の事となるのでしょう。しかし、これができていないということが実際起こっていたため、本ガイドラインが策定されたとされています。

 

このガイドラインが策定された理由の一つは…

先日大きな問題になりましたが、医薬品の偽造品の問題です。

先日あった報道(2017年1月)では、C型肝炎の薬剤、ハーボニーの偽造品が流通し、逮捕者が出たとされています。

 

肝炎薬「ハーボニー」 偽造品販売容疑で2人逮捕:朝日新聞デジタル

 

「ハーボニー」偽造品流通から1年…再発防止 改正省令きょう施行「秘密厳守」根絶へ | AnswersNews

 

この薬はかなり高額(28錠で150万円以上)で、偽造品が国内で流通してしまいました。

近年発売されてくる医薬品は、特に新しい作用機序のものは、今までの薬剤と比べて、効果が非常に優れている一方、医薬品の薬価は高額になってきています。

 

優れた臨床試験の結果がある医薬品は、患者さんにとってもメリットがあることになります。この薬を待ち望んでいた方も多くいらっしゃいました。

 

この報道で、医療従事者が最も懸念したことは、この薬剤は、1日1回、12週間経口投与することで、C型肝炎のウイルスをほぼ検出できなくなるまでの治療効果が得られるという優れた薬剤です。

しかし、それは、正しい薬を12週間服用したということが前提になっています。多少の服用し忘れ等を考慮しても、偽造品を服用してしまって、それが治療にどのような影響を与えてしまうのか、という、今まで経験したことのない問題に発展してしまったわけです。

当時の私たちの施設も、肝臓内科医と情報を共有し、主治医から患者さん個々に連絡を取るという方法をとっていただきました。

医薬品を偽造する、ということは、その治療を行っている患者さんはもちろん、その治療に携わっている医療従事者も含め、多くの人を巻き込んでしまう、重大な問題に発展してしまうのです。

 

医薬品はなぜ高額になるのか?

医薬品の開発は莫大なコストがかかってしまいます。臨床試験は、あまり良い言葉では無いのですが、医薬品をヒトで試験するということになります。

しっかりとした臨床効果を期待できる医薬品、というのは、それなりに開発に時間もお金もかかっています。公的な所で開発がされていない以上、薬価が高額になるというのは、ごく普通のことであると考えます。

薬以外でも、よいもの、新しいものが開発されるのは、そういった仕組みが成り立っているからであり、高いことが悪いというわけではないということになります。

そして薬、というのは直接ヒトに使用されることになるため、より慎重な試験が必要となってくるわけです。それにはコストがかかる、ということになってしまいます。

 

医薬品GDPガイドライン策定による影響

このように、今後も高額化している医薬品に対して、このような流通を一貫して管理するガイドラインが存在しない事は、上記の、医薬品の偽造といったことに、歯止めがかからなくなってしまう事を意味していると感じます。高額な医薬品でなければ、偽造する理由がないという観点からです。

 

もちろん今までも、医薬品の流通に対しては、ある程度の保証があり、行われていました。今回の偽造事件は、その中で、正体不明の個人から現金問屋を通した医薬品の流れが指摘されています。

その意味では、このガイドラインが策定され、医薬品卸などが順守することになるため、今後このような偽造品の流通は、ゼロというのは難しいかもしれませんが、極めて少なくなることでしょう。

 

薬品偽造がおこった背景の一つは…

医薬品を扱う病院、薬局、いずれにおいても、悩ましく感じることがあるかと思います。現金問屋、というものがうまく使えるのなら、と管理をしていて感じたことがある方もいらっしゃるでしょう。

それは、医薬品の開封後などで、薬が何らかの理由で処方されなくなった場合などです。

 

上記のハーボニーは、治療期間がきまっているので、薬を準備、提供する薬局では、ある程度準備をすることとなります。外来で次回の予約、処方を予測してあらかじめ準備することで、患者さんが来局された際に、薬をしっかりお渡しできるということになります。

 

しかしながら、医薬品は色々な包装がありますが、処方の日数によっては、残ってしまうこともあるわけです。それが1錠であっても、高額であれば、それだけで薬局の負担にもなってしまいます。必要経費、と割り切っても、それだけではなかなか解決できないこともあるのは事実かと思います。

 

今回、医薬品の偽造問題の窓口となった、現金問屋の存在も、そういった現状から、ニーズがあるわけです。

 

本ガイドラインの内容を見てみると

本ガイドラインでは、下記のとおりPDF(24ページ)で公開されています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000466215.pdf

 

責任者の任命、教育訓練についての項も存在します。施設的な管理ばかりかと思っていましたが、品質管理を適正に行い、上記のような偽造を防止する観点からの項目も入っています。

 

私がすこし項目を見ていて気になった部分としては、医薬品の適正流通のガイドラインということもありますが、返却された医薬品、という部分になります。

 

上記の通り、開封したものも含めて、医薬品の在庫管理は、現実的な問題です。その中で、この返品について、もう少し何とかならないか、と考えてみたいのです。

 

このガイドラインには、返品について、文書化された取り扱いを協議しておくこと、記録やリストを保存する必要があるとされています。その返却可能としての条件は厳しい内容となっています。省いてしまうと誤解を生じる可能性もあるため、下記にガイドラインの原文を示します。

 

ⅰ.当該医薬品の二次包装が未開封で損傷がなく、良好な状態であり、使用の期限内で回収品ではない場合

ⅱ.許容される期限内(例えば 10 日以内)に返品された場合

ⅲ.当該医薬品の保管に関する特別な要求事項に従って輸送、保管及び取扱いが行われたことが販売先によって証明されている場合

ⅳ.教育訓練を受けた者によって検査され、評価されている場合

ⅴ.当該流通業者は当該製品がその販売先に供給されたことを示す合理的な証拠(納品書の原本の写し又は送り状番号のロット番号又は製造番号等の参照)を有しており、その製品が偽造されたという理由がない場合

 

これは未開封品であれば、薬局に納入後も、しっかり管理することで、しっかりとした品質管理を保った状態で、対応できるということを意味していると思います。

 

下記にこれからの当施設の状況などもお示ししますが、適切な管理、というものができれば、もう少し医薬品の流通、管理で有益な部分がありそうです。

 

高額医薬品の代表、オプジーボ

薬事日報の報道で、旭川医科大学病院薬剤部からの報告がありました。北海道内のオプジーボの廃棄量が、薬価として8000万円にもなるということです。

バイアルの複数回使用で、その廃棄は減るということが報告されています。現在は体重あたりから、1人当たりに用量が変更されたため、廃棄量はほぼなくなっているかと思いますが、用量設定がすこし多いので、今後は再度検討する意義もありそうです。

 

この調査、研究の大きなインパクトは、この薬価ベースの廃棄量、金額もそうですが、

今の医療で普通に行われている、廃棄という問題が、これだけ医療費を増加させているかもしれない、ということに視点を持たせてくれたことであると、私は感じています。

 

北海道は広く、医療機関がどの程度あるか分かりませんが、全国規模で調査すれば、すでにもう廃棄されてしまっていますが、医薬品の廃棄金額は億単位となっていることが簡単に予想されます。

これはだれが払っているのでしょうか。

 

同じようなことは、当施設でも起こっていました。どこの病院でも同様かと思います。そしてそれは、普通のことだと考えられ、普通に廃棄されていました。

 

これは使用途中の薬剤なので、使いきれない場合は廃棄、は致し方ないでしょう。

 

未使用薬の廃棄となった医薬品は…

少し前置きが長くなりすぎてしまいましたが、私たちの施設も含め、現在医薬品を扱っている薬局で、最も問題になる対応の一つが、「冷所保管」となっている医薬品は、医薬品を一度病院・薬局に納入した後は、返品を受け付けない、という問題です。

 

この問題は根深く、例えば血液疾患などが多いのですが、まれな疾患で、高額な医薬品を使用することになる際、初めの場合は状況を確認しながら、慎重に購入の有無を考えて納入します。これは返品ができないためです。

 

医薬品を用いた治療は、当然ですが、何が起こるかは予想ができません。予期せぬ副作用などで治療継続ができなくなる場合もあれば、病状の進行で薬剤が効かなくなってしまう場合もあります。治療中に不幸にもなくなってしまった場合なども同様です。

 

これはどこの施設・薬局も同じかと思いますが、どのような医薬品であっても、使用予定で間際に購入し、使用直前に使用しなくなる、ということは起こりえます。

 

そしてその薬剤が稀な疾患であった場合、他の対象の患者さんが来ることがなければ、その薬剤が「冷所保管」であった場合は、返品もできず、ひたすら期限が切れるのを待つことになってしまうことがありえます。

 

これも、必要経費とされているのかもしれません。しかしながら、医薬品の購入費の総額が月に億単位での購入をしている施設では、10万円程度の金額といのは、誤差程度なのかもしれません。

しかしながら、これが自分の財布だとすると、とても許容できるような数字ではないかと思います。誤差としても大きすぎる金額ですよね。

 

今回私が、声を大にして申し上げたいのは、こういった医薬品の医薬品卸からの出荷後から、納品までの一括管理、温度管理のガイドラインができる点が非常に喜ばしいことなのですが、

冷所保管のものを病院に納入した際、その薬剤が何らかの理由で未使用になってしまった場合、その医薬品が返品できないということです。

 

そしてそのような冷所保管、高額な医薬品が、使用される廃棄になる可能性がある、というのは、どうしても、薬剤師として看過できないのです。

 

医薬品卸の言い分としても、病院の中の管理、特に温度管理は、それを明確に保障できるものがない以上、返品を受け入れることができない、とのことです。

 

当施設は、医薬品の管理を、ほぼ卸さんにお任せをしてしまっている状況です。病院によっては当施設と同様に、在庫管理をある程度任せてしまっている施設も多いかと思います。

最近はやりの、物流システムを導入している施設のお話は、多く聞きます。

 

そうすると、医薬品卸から、病院に納入され、確認後そのまま即冷蔵庫に入れ、保管されます。そしてそのまま使用されなかった医薬品は、卸から病院の薬剤部の冷蔵庫に入っただけで、返品することもされず、そのまま医薬品が使われる患者さんが現れなければ、ただただ、期限切れを待つだけになってしまっています。何とも言えない、情けない現状があります。

 

病院内の医薬品に関して温度管理はできていないのか

治験薬などでは、冷蔵庫の温度が適正か、ということを、温度のログを取る装置を使用しています。数分もしくは定期的な時間ごとに無線で近くのパソコンに温度を送っています。

 

温度管理というのは医薬品にとって、非常に大切なものであることも十分理解しているつもりです。そのログをすべて取るということになると、上記治験薬と同様のものを準備すればよいのですが、当施設でも医薬品の冷蔵庫だけで10台はあります。

その冷蔵庫も、設定温度を逸脱すると、警告音のエラーがなります。そして始業、終業時に温度の確認を行い、記載しています。

当施設の管理、これだけではダメみたいなのです。これを、今回のガイドライン改定とともに、当施設も卸さんと話し合おうと思っています。

 

薬剤部に届けられた医薬品の温度管理の担保ができない、ということは、その薬が病棟なり、外来に届けられたり、使用される状況になる、「冷所保管」を一度でも逸した場合が想定されるからでしょう。

 

その対策は、確かに難しいかもしれません。医薬品を個々の患者さんごとの準備し、病棟の冷蔵庫に温度管理を保ったまま(これは上記ガイドラインのように、決められた運搬時の温度管理を守らなくてはいけないかもしれません)の搬送をしなくてはいけないということになります。

これは病院であれば、どこの施設も、ほぼ難しい状況でしょう。今後搬送ロボットなるものが普及し、冷蔵のまま搬送ができるようになったりすれば、可能かもしれません。

 

医薬品卸さんの立場から、薬剤の安定性や保管管理が、製造されたものと同様の状態を担保できないものであれば、その医薬品を扱えない、というのも理解できます。上記のように、病院内に納入された医薬品で、室温に戻された医薬品がある可能性がある以上は、です。

 

私たちの施設は、残念ながら、そのような状況についても、議論させてもらえる状況ですらありません。医薬品卸さんからは、この薬は「冷所保管」のため、一度でも病院に納入されると、返品は受け付けません、という一点張りです。

よっぽど病院内の医薬品の保管管理が信頼されておらず、そしてこちら側の手順なども含め、納得いただけない状況なのでしょう。

 

冷所保管が必要な医薬品の病院内での流通、保管、管理を再考する

前置きが長くなりましたが、私が病院で勤務してから、個人的にも色々と理不尽なこともあるな、といくつか(?)感じていますが、この冷所保管の管理に対する対応というのは、とても納得いくようなものではないと感じています。

 

特殊な患者さんの治療のために用いる、高価な冷所保管の医薬品。患者さんの治療のために病院に納入し、投与直前まで薬剤部内の冷蔵庫に保管されています。

 

諸事情でそのまま投与中止になった場合、薬剤にもよりますが、1-2日程度であることがほとんどですが、その医薬品は、その時点から、返品もできず、他に使用される患者さんが現れるまでの間、期限が切れるまで廃棄になるのを待つというのは、医薬品を取り扱う身としては、どうしようもない歯がゆさを感じてしまいます。

 

それが抗がん剤であった場合、処方予定だった医師に、この薬、高くて納入してしまったのですが、使用しなかったので、別な患者さんに使用できませんか?などと話ができるはずがありません。

そのような理由で治療の選択を依頼する事こそ、最も行ってはいけない行為だと思っています。

 

上記の旭川医大の報告では、調製時のニボルマブの安定性についての記載があります。

 

調製後のバイアル内に残ったニボルマブの蛋白質濃度とPD-1に対する結合活性の経時的変化を評価したところ、室温と4℃いずれの保存条件下でも開封後28日目まで有意な変化は見られず、長期的に安定性を保っていると考えられた。

 

適正な温度管理というのは最も大切なものですが、医薬品は、それほど安定性が悪いものばかりではないことも、実際の資料を見ていると感じます。適正に使用するためには、温度管理はもちろん原則であることには変わりありません。

 

医薬品管理に際して、適切な流通、保管、管理には、実に様々なシステム、人がかかわっているというのを日々実感しています。

ご意見なども立場によって異なるでしょう。第一は適正に使用されること、患者さんの立場に立つことが第一です。これについての異論はないでしょう。

 

今回のガイドラインの策定は、流通、保管、管理の部分のため、大きくは製薬会社からの医薬品に関する部分のため、医薬品卸さんがその対象となるでしょう。

実際病院の中の医薬品の管理についても、同様の対応が必要な部分もあるのではないかと思います。

 

医薬品は、人が、人のために開発した、有用な宝物です。医薬品が存在することで、多くの人の命が救われています。そしてその医薬品を、無駄にしないためにも、病院や薬局間、卸間での、温度管理も含めた共有できるようなシステム、偽造等が行われることのないようなシステム、が求められてきているのではないかと思います。

 

医薬品の薬価が高騰しているとともに、それはすなわち在庫管理、品質管理にとっても、なるべく古いシステムやしきたりを、大きく変えるチャンスなのかもしれません。

 

こういったガイドラインを基に、現場も含めた管理システムについて、国が主導してくれる、いつかこういった無駄がなくなるようなシステムと言うものが、普通となるような未来がくるの望んでいます。