病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

AIと医療,処方の最適化をAIが行う時代がやって来る?!

AIと医療については,本当に日々新しい話題が出てきていますね.いよいよ処方に関する記事がでてきました.読んでいるのが楽しいです.

 

f:id:RIQuartette:20190226205643p:plain

糖尿病


当施設でも電子カルテを使用しておりますが,糖尿病リソースガイドに,札幌医大と富士通が,AIによる血糖降下薬の処方最適化,治療効果の予測を共同研究しているという記事が掲載されていました.

AIで糖尿病の経口血糖降下薬の処方を最適化 どの薬が最適かをAIが提示 札幌医科大学ら | ニュース/最近の関連情報 | 糖尿病リソースガイド

 

札幌医大医療情報部のHpでも,その取り組みが紹介されています.

医療情報部 |中央部門案内 |札幌医科大学附属病院

 

 

 

 

糖尿病とは

糖尿病は,言わずと知れた,国民病の1つです.日本糖尿病学会の報告によりますと,2016年の国民調査では糖尿病患者が1,000万人となり,糖尿病予備群を合わせると,日本国内に2,000万人にのぼると推定されています(日本人の6人に1人).

その背景には,肥満の増加があり,糖尿病患者が増えているとされています.

 

高い血糖が持続する糖尿病自体でも,癌も含めた様々な予後に影響があるとされていますが,その中でもやはり問題になるのは合併症かと思われます.

大血管症(脳梗塞,心筋梗塞)微小血管症(糖尿病性腎症,網膜症,神経障害)などが主な合併症とされています.

 

合併症は,ずいぶん昔に私も覚えましたが,医療が進歩してきた現在でも,まだ重要な合併症と位置付けられています.なかなか予防が難しいことを示していると思われます.

 

これまで本邦でも,様々なアクションプランなどで,糖尿病の早期診断,早期治療についての取り組みが行われています.

様々な学会が,連携しながら,日本の糖尿病患者の治療にあたっているのですが,

残念ながら,今や糖尿病は国民病の1つとして広く認知され,

また治療方法があるにもかかわらず,患者さんが増加の一途をたどっているという病気として認識されているかと思います.

 

糖尿病患者さんが抱える様々問題とは

 

血糖値が高い,ヘモグロビンA1cが高いなど,日本人は何かと糖尿病に敏感な民族かと感じていますが,そもそも血糖は,生命を維持するために必要です.

低い血糖も問題となりますが,高い血糖が持続してしまうと,上記の通り様々な血管の障害,合併症を引き起こしてしまいます.

治療の基本は,食事療法と運動療法が基本になっているにもかかわらず,それを怠って薬剤に頼っている方,というのも多く見られるのが現状ではないでしょうか.

あくまで食事療法・運動療法が治療の柱になるというのは,糖尿病科医師の話で必ず出てくる内容になります.

そして食事運動療法を行っても,血糖コントロールができない場合について,薬物療法になります.

しかし,なかなか理解されず,これらを行わずに薬物に薬物で何とかするという考え方の方が多いのも,現状かと思います.

私の身内でも,糖尿病の方がいますが,全てわかった上で,薬剤を飲み,

そこに期待をしているという方もいます.

食事を楽しむ,好き嫌いもその人の人生,病気に左右されて嫌いなものを食べる,嫌な運動をするよりは,その分を薬に頼る.

ライフスタイルにも影響するので,贅沢病と言って,まとめてしまうような病気でもないと考えています.

人によっての考え方や,生活習慣,致し方ない理由などもあり,なかなか治療は難しくなっているのではないかと感じています.

 

糖尿病の治療

上記の通り,食事運動療法がまず治療の柱となります.これらを継続して行うということが,最も重要なことではありますが,医師が判断し必要と診断した場合に,薬剤の投与というのが行われます.

外来等の通院で,経口薬などから始められるケースもあれば,異常な高血糖により入院,糖毒性を解除し,インスリンなどを使いながら治療するといった形もあり,様々です.

薬物治療は,糖尿病のタイプにより1型糖尿病,2型糖尿病がありますが,糖尿病であっても,どういったタイプに,どういった薬剤が効きやすいかというのが,ガイドラインの中でも記載されています.

 

日本糖尿病学会では,糖尿病の治療ガイドやの一部を公開しています.その中では,糖尿病の専門医が治療にあたるような際に用いるガイドラインを一部無料で閲覧することができます.

糖尿病治療ガイド2018-2019(抜粋):日本糖尿病学会 The Japan Diabetes Society

 

特に糖尿病治療ガイドは毎年改定をされており,値段もそれほど高額ではなく,基本的なところから手に取って読むのにはとっつきやすいので,結構持っている方も多いかと思います.

文字の大きさ,色使いもわかりやすく,非常に見やすい冊子となっています.

 

 

基本的に,糖尿病の診断治療は,内科医もしくは糖尿病の専門医が行うことになります.糖尿病の全体的な治療を学ぶこと,また薬剤が新しく発売されてくることなどから,こちらのガイドは毎年更新してくれるのでありがたいです.なによりカラーでこの値段,お手頃です.

様々な検査値等から糖尿病診断し,どのような薬剤が使われていくのか,どういった薬物治療が行われているのかというのを体系的に学ぶには,とてもわかりやすく値段も手頃です.

ぜひ数年に1度はアップデートする意味で見ておくのもいいかもしれません.薬局に1冊あるといいと思います.

 

この中では,血糖コントロール目標として,合併症予防のためのヘモグロビンA1cの目標値等から始まり,病態に合わせた血糖降下薬の選択方法など,薬剤に関しても非常にわかりやすくまとめられています.

 

私が薬剤師として勤務し始めた頃に比べ,糖尿病薬は新しい系統の薬剤が増えました.ここ数年で開発されてきています.

古くから,メトホルミンのような優れた薬もあります.

糖尿病薬は,血糖を下げることが大きな目的の1つになっていますので,血糖下げる力が強い薬剤ほど,その副作用として低血糖のリスクがあるというのが従来から懸念されていた問題の1つでした.

 

このガイドの中でも,糖尿病,特に2型に関しては,その病態により作用機序などから適切な薬剤が推奨されています.

 

2型糖尿病においては,米国糖尿病学会,欧州糖尿病学会から管理についての報告がなされています.日本とは違い,肥満などの方が多いといった,国の事情もあるでしょうか,第一選択薬はメトホルミンが強く推奨されています.

 

Diabetes Care. 2018 Dec;41(12):2669-2701.

Management of Hyperglycemia in Type 2 Diabetes, 2018. A Consensus Report by the American Diabetes Association (ADA) and the European Association for the Study of Diabetes (EASD).

PMID: 30291106

 

以前のADAのガイドラインでも,推奨と共に有効性(Highest,high,Intermediate),低血糖リスク(high,moderate risk,Low),体重(gain,neoutral,loss),副作用,値段(high,low)などの記載もあり,分かりやすかったのを覚えています.メトホルミンはすべての薬剤より優先する位置づけとなっています.日本のガイドと比べると,米国は,第一選択が非常にクリアカットに書かれています.

 

Diabetes Care. 2015 Jan;38(1):140-9.

Management of hyperglycemia in type 2 diabetes, 2015: a patient-centered approach: update to a position statement of the American Diabetes Association and the European Association for the Study of Diabetes.

PMID: 25538310

 

海外の資料と併せて日本のガイドラインと見比べてみますと,糖尿病の薬物治療のちょっとした違いが分かります.日本では,その病態に応じた薬剤選択が可能となっています.

 

病態に合わせた経口血糖降下薬の選択が,国内のガイドラインに記載があります.

これは,2型糖尿病の病態を医師がしっかり診断し,それによる治療が行われることになりますので,国内の方が,欧米よりは第一選択としての薬剤の選択の幅があるという事になります.

 

国内のガイドでも,その機序から3種類に分けられ,さらに種類別に分類,7種類となっています.

主な作用も示してあり,病態によって分けられているのは納得いくものになっています.

 

しかし,病態に応じても種類がいくつかあります.一つではないでしょうし,複数の因子がある方もいらっしゃるかもしれません.

 

糖尿病は薬剤以外の因子,生活習慣も含めて治療が継続されていきますが,やはりコントロールが難しくなると,別な系統の薬剤を追加したり,増量しながら治療が行われています.

これは糖尿病治療の経験のある医師が行うことになるので,特にそれに対しての疑問は発生しないかと思いますが,

これだけ種類,銘柄があると,糖尿病薬の併用や,どの薬を始めに投与した方がよいのかなど,疑問や興味は湧いてきます.

 

今回の報道は,そういった治療に関して,AIによる学習モデルを使うことにより,糖尿病治療による経口血糖降下薬の処方を最適化できるのではないか,ということが札幌医大から報告されています.

 

AIへの期待

AIは様々な学習モデル能力から,これからの医療に革命的なイノベーションを引き起こすものと期待されています.

それは,人ではなかなかなし得ることができないような,様々な経験などをデータ化することによって,最適な治療を導く医師の経験などをAIに学ばせるといったことで,これからは治療の決定に有用なのではないかというのは,様々なニュースで出ています.

 

この札幌医大の報告では,やはりそれをシステム的なところでしっかりバックアップできるため,こういった取り組みはこれから医療でも次々に進んでいくものと思われます.

 

札幌医大情報部のホームページにも,今回の取り組み,処方最適化に関する研究についての説明を見ることができます.

医療情報部 |中央部門案内 |札幌医科大学附属病院

 

今回の糖尿病治療のほかに,B型肝炎再活性化防止に関する研究についての資料もあり,興味深いHpです.

 

これから期待してしまうこと

糖尿病患者は,日々増加していること,様々な取り組みを行っているにもかかわらず,未だ糖尿病患者を減らせていないといった観点から,

糖尿病治療と共に研究はこれからも継続されていかなくてはいけない領域,であることは確かです.

 

糖尿病患者さんに,薬剤の説明をすることは日々の業務でありますが,上記のように薬剤も様々であり,

特にSGLT-2阻害薬は発売時,薬価も同じ,服用方法も同じで,違いについて明確な指標などがなく(体内動態など少しはありましたが),

どの薬剤を病院として準備すべきかで病院内の委員会で話題となりました.

 

とても注目度が高い薬剤であることに変わりはありません.

 

また,血糖降下薬をどのような順番で処方すれば良いのか,というのは,患者さん個々に合わせたものになりますが,これについての個別化治療というのは,まだまだ確立していないというところからお話が出てきているようです.

 

対象の方も含め,まだ研究として始まる段階ですが,これからの結果は,実に興味深い内容となると思われます.

 

化学的な根拠を持った治療は,糖尿病以外もそうですが,どのような疾患でも最も求められている事かと思われます.

それは先人の研究であり,そして医師の臨床経験であり,それらをその患者さんに当てはめて最もよい治療が選択されています.

 

医療は進歩しています.しかし,わかっているようで,まだまだ分かっていないことが多い領域です.人に対して行われるからであり,倫理的な配慮が常になされているからです.

薬もそうです.成人と同じように治療してよいのか?といった観点から,高齢者の糖尿病治療の目標なども変わってきています.

 

上記糖尿病ガイドとは別に,高齢者のためのもの発刊されました.これも意外ですが,発刊されたのは比較的最近です.

 

 

 

今後このような研究が他にも進んでくるでしょう.

 

当たり前の事,当たり前の治療,薬を服用することは正しいことでしょう.しかし,意外にも,まだまだ未解決な問題や,不明な事というのは,まだまだ医療にはたくさんあります.

 

先は長いですが,私たち人間に関わることです.こういった疑問を,AIなどを用いた技術によって,少しでも解決してくれるような未来が来ることを願っています.

 

薬に関する,治療に関する話題として,医師ではないですが,非常に興味深い報道だったので,すこし紹介させていただきました.