病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

FDAのフェブキソスタットの警告について薬剤師として考えてみる

 

本内容については,まだ国内の厚生労働省の発表がないため,服用されている方は,ご自分の判断で勝手に服用を中止するなどされないようにお願いいたします.

 

2019/2/21に,米国FDAよりフェブキソスタットの警告がでています.国内ではフェブリク錠(非プリン型選択的キサンチンオキシダーゼ阻害剤/高尿酸血症治療剤)として発売されています.

 

米国FDAの警告となりますが,本邦でもその影響を受けて変更することもあるため(キノロンの大動脈瘤,大動脈解離やサムスカの肝障害など),確認しておく必要があると思います.

 

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痛風

 

 

今回までの経緯

 

こちらは目新しいというものではなく,2017/11/15に,FDAより安全性の試験が,同効薬のアロプリノールと比較して,心臓関連死亡リスクの増加を示すことが警告されています.

米国では,この医薬品を承認した際に,安全性試験を行うことを課しています.

www.fda.gov

 

・フェブキソスタットは,アロプリノールと比較して,心血管イベントのリスクは増加させなかった

・しかしながら,フェブキソスタットは,心臓に関連した死亡のリスクを増加させた.

・6000人を超える症例の解析

 

 

もとになっている試験は

Cardiovascular Safety of Febuxostat or Allopurinol in Patients with Gout.

White WB, Saag KG, Becker MA, Borer JS, Gorelick PB, Whelton A, Hunt B, Castillo M, Gunawardhana L; CARES Investigators.

N Engl J Med. 2018 Mar 29;378(13):1200-1210.

PMID: 29527974

 

こちらはフリーで読むことができます.

この論文について,FDAでも根拠となっているので,とやかく言うことはないのですが,試験計画が56.6%で中止されていること,45%で追跡調査を中止と,少し多い気がします.

 

全死亡でアロプリノール群に比べてフェブキソスタット群で高い(ハザード比1.22[95%CI,1.01-1.47]).心血管死亡も1.34[95% CI, 1.03 - 1.73]となっています.

 

FDAでは2018/8/22にも検討しているとし,そして今回(2019/2/21),黒枠の警告(ブラックボックスの警告,最高級の警告)としています.

www.fda.gov

 

 

上記で,FDAは,アロプリノールと比較して,フェブキソスタットによる死亡リスクが高いと結論付けています.

 

安全性について

 

上記の通り,痛風の治療でこの薬剤を使用するメリットとリスクについての確認が,今後本邦でも必要になってくるでしょう.

FDAでは,フェブキソスタットを服用している患者さんで,下記の症状

 

・胸の痛み

・息切れ

・早いもしくは不規則な心拍,動悸

・体の片側のしびれや脱力

・めまい

・会話困難

・突然の激しい頭痛

 

が出た場合は(心血管の症状),救急処置を受けることが推奨されています.

 

ここでも書かれていることは,

痛風を悪化させることがあるので,自己中断しないこと が注意点として挙げられています.

 

英国でも

 

日本,米国以外でも発売されていますが,英国でも

虚血性心疾患またはうっ血性心不全の患者でのフェブキソスタットによる治療は推奨しない.

という記載になっています.

 

国内の用法は

 *痛風、高尿酸血症

通常、成人にはフェブキソスタットとして1日10mgより開始し、1日1回経口投与する。その後は血中尿酸値を確認しながら必要に応じて徐々に増量する。維持量は通常1日1回40mgで、患者の状態に応じて適宜増減するが、最大投与量は1日1回60mgとする。

 

ちなみに,米国では

高尿酸血症として

初期:1日1回40 mg.2週間後に血清尿酸値が6 mg / dL未満にならない患者では,1日1回80 mgまで増量が可能.用量はさらに1日1回120mgに増量も可能.

 

日本での使用量は米国に比べて少ないですね.もちろん体格の問題もありますし,それで安全とも言えません.

 

 

日本国内では…

 

上記の通り,フェブリクは,2016年5月改訂(第8版、効能追加等に伴う改訂)に改訂された後,現時点(2019/2/25)まで変更されていません.

 

添付文書上では,

重大な副作用/その他の副作用の項に

  1. 心臓 動悸(頻度不明)
  2. 心臓 心電図異常(1%未満 )

 

となっていますが,今回の件も含め,まだ注意喚起はなされていません.

 

RMPや審査報告書を見てみましょう

 

RMP

フェブリク錠 10 ㎎/20 ㎎/40 ㎎ に係る医薬品リスク管理計画書を見ることができます.

https://medical.teijin-pharma.co.jp/materials/iyaku/detail/fcn28e00000037rw.html

その中には,心血管系の事象の項があります.

以下引用です.

 

 

重要な潜在的リスクとした理由:

国内の製造販売後(2011 年 1 月 21 日~2015 年 4 月 20 日)において、心血管系に関連する因果関係が否定できない有害事象(非重篤を含む)が集積されているが、痛風・高尿酸血症患者には心血管系リスクを有する患者が多く、背景疾患との関連性が考えられるなど、本剤との因果関係は十分に示されていない。

また、海外で実施された臨床試験で心血管系イベントが増加したとの報告事例はあるものの因果関係は明らかとなっていない。上記のとおり、背景疾患との関連性が考えられるなど、個々の症例の解析を併せて考慮すると、本剤との因果関係は十分に示されておらず、潜在的なリスクと考えた。

国内の製造販売後(2011 年 1 月 21 日~2015 年 4 月 20 日)の因果関係が否定できない有害事象では、「脳梗塞」死亡 1 例を含む 4 例、「心不全」死亡 1 例を含む 2 例、「心筋梗塞」死亡 1 例、「心室性不整脈」死亡 1 例、「心突然死」1 例等の重篤な症例が収集されており、背景情報が少ないながら死亡に至った例も報告されている。海外の臨床試験及び製造販売後においても心血管系の事象に関連する重篤な症例が報告されている。なお、海外では心血管系リスクの高い痛風患者を対象に、本剤の心血管系に対する安全性を評価する

製造販売後臨床試験を実施中である。

上記のとおり、国内の製造販売後の非重篤を含めた発現状況の集積はあるものの、背景疾患との関連が考えられるなど本剤との因果関係は十分に示されていない一方、重篤な症例や重大な転帰となった症例が収集されていることから、重要な潜在的リスクとして設定した。

 

 

心血管リスクについても記載があり,潜在的なリスクとして注意が必要となっています.

 

審査報告書

http://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/

 

平成22年の資料になりますが,フェブリクの審査報告書88ページに心血管系リスクについての記載があり,PMDAとの審査の際に,この項目について話し合われたことが記載されています.

一部黒塗りで詳細が全てわからないですが,この時点までの心血管リスクについて海外データなどについても考察されています.

本邦における心血管イベントの情報を収集することが記載されています.

上記RMPにつながっているものと考えられます.

 

ちょっと蛇足ですが・・・

審査報告書,これは古いものなので仕方ないのかもしれませんが,全94ページある中からPDF内の文字検索ができないのがちょっと・・・

検索できないPDFファイルって,どうすればいいんですかね.

頑張ってみていましたが,途中くじけそうになりました.

 

今後は検索できるような資料を提示いただけると助かります!!

 

国内のガイドラインは

高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン - 日本痛風・核酸代謝学会 を見ることができます.

http://www.tukaku.jp/wp-content/uploads/2013/06/tufu-GL2.pdf

 

一部抜粋させていただきます.

 

血清尿酸値の高値が独立した心血管系疾患の危険因子か否かに関して,前向きコホート研究結果が数多く発表されているが,相反する報告がなされている.

 

生活習慣病に伴う血清尿酸値の変化が心血管イベントに影響を与えるとする報告は,降圧療法ならびに脂質低下療法の介入試験後,新たに血清尿酸値を説明変数に設定したサブ解析に限られる.

 

尿酸が心血管イベントのリスクであると考えるためには,血清尿酸値低下の治療介入が心血管イベントに与える影響を検討したRCTの結果を待つ必要がある.

 

 

このガイドラインは2012年のため,改訂される際にはFDAの情報なども加味されると予想されます.

 

これらの情報から,どう対応するか(薬剤師として)

今回のFDAの警告は,世界的にみても大きな判断だったと予想されます.

おそらく国内も,何らかの対応が今後とられるでしょう.添付文書にどのような形で記載されるかによって,国内の対応は変わってくるかと思います.

 

今回の警告は,突然のものではなく,数年前から試験の結果などを鑑みて,少しづつアップデートされてきた印象があります.

既に前回のFDAの情報の際に,私たちの施設では循環器内科医と話をし,当薬剤部でも情報共有をしています.突然どうする,という話ではないのです.

 

それにしても,実際服用している方は,当施設でも非常に多くの方にのぼります.これをみた,服用している方は,心臓による死亡が上昇,という言葉だけで服用したくないという事になるのは事実かと思います.

 

患者さんをいたずらに不安にさせるような情報は,医療従事者としては行ってはいけないことです.当施設でも,上記の通り,説明をされている人もいることが予想されます.

FDAの資料に示されていた,心臓の何らかの異常を感じるような予兆などを感じた際には注意すること,また,尿酸の値の急激な変化も問題となりますので,自分で勝手に薬を中止するようなことは避ける,医師の判断を必ず仰ぐとお話しすることは必要でしょう.

患者さんの治療に責任をもって診察,処方しているのは主治医です.その関係を破綻するような情報を流すことはあってはなりません.

 

しかしながら,国内の添付文書を見た限りでは,確かに心血管イベントに関する注意などが読み取りにくいのではないでしょうか?そのためのRMPでもありますが,それですらまだ周知され,生かされている状況とはいえないのが現状でしょう.

 

代替する薬剤も,アロプリノールは重篤な副作用,腎機能による調節が必要です(ここまで厳しくしなくてもよいのではという意見もありますが).

トピロリックは処方量もまだそれほど多くなく,今回比較するような処方状況ではなく,安全であるかの情報は完全には不明です.

 

ただ危ないかもしれない,という情報だけでは,混乱してしまいます.

 

このFDAの情報は,知っておくべき情報なのは間違いありません.患者さんの中では,当然自分で調べて,私たちより詳しく知っている人もいるでしょう.

 

少し話は変わりますが,国内では,

脳心腎血管疾患リスクを有する高齢者を対象とした試験が,まだ論文にはなっていないようですが発表されています.

そこでは1000例を超える報告で,フェブキソスタットの服用で,全死亡などを含むハードエンドポイントで,フェブキソスタットに期待ができるような報告となっています.

フェブキソスタットに腎イベント抑制効果|医療ニュース|Medical Tribune

 

 

フェブキソスタットが,ただ悪者になるだけで話を完結しようとするのは,最も好ましくない対応ではないでしょうか?

 

今後アロプリノールが使えない方に,このフェブキソスタットが,という事になるかもしれませんが,現時点ではまだ判断できません.

 

相反する情報もあるため,現在服用している方に,すぐやめたほうがよいかの判断を迫るのも時期早々でしょう.生活習慣の見直しなども含め,そのような指導を再度行う事も必要でしょう.

 

それぞれの,自分の意見を持っておくべき,かと思います.

 国内の厚生労働省の判断を待ちたいと思います.