病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

造影剤アレルギーの怖さ

造影剤アレルギーの報道がありました.

 

アレルギーある男性、不要なCT検査で死亡 病院が謝罪:朝日新聞デジタル

 

不要な検査で男性死亡 獨協医大病院 腹部CT 伝達ミスなど認める |社会,県内主要|下野新聞「SOON」ニュース|下野新聞 SOON(スーン)

 

独協医科大学病院で発生した医療事故として,公表されております.

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CT

 

 

 

まずはじめに

この記事についての私見を書くにあたり,

まず本件で亡くなられたかたのご冥福をお祈りするとともに,

この内容について公表することに同意されたご家族に感謝申し上げます.

 

残念ながら,亡くなった方はかえってこられませんが,

このようなことを再度防止するために,

なぜ起こったのか,

そしてどのように防ぐべきかを考える必要があります.

 

病院は医療を提供する場所,

そして限りある資源(人的,物資的)の中で,

医療従事者は疲弊しながらも,一生懸命努力しながら現場に立っています.

 

そのような医療従事者が医療を行う中で,

起こりうる様々なヒヤリハットなども,未然に防がれています.

残念ながら,信じられないことに,

このような大きな大学病院で起こってしまったという事実を,

再認識する必要があります.

 

独協医科大学病院より公表されている資料

確認してみます.

 

インフォメーション | 獨協医科大学病院

 

 詳細はその中に書かれています.具体的な薬剤も書かれています.

 

Up to dateなどに,造影剤アレルギーの頻度が出ていましたので,

少し整理してみます.

 

今回対象となっているヨード造影剤の急性反応は,0.15-07%とされ,

死に至るまでのものは,100万回の投与あたり2-9程度とされています.

 

過去に使用されていたイオン性のものに比べると,

現在,主に用いられている非イオン性のものは,安全性が高められています.

 

今回アレルギーが起こってしまったのは事実です.

頻度などは起こってしまった方からすれば関係ないかと思います.

頻度は少なくても,起きてしまう可能性を0にすることはできず,

そして診断のためにヨード造影剤が必要な検査となっているのも事実です.

 

難しい造影剤アレルギーの評価

今回はオムニパークという薬剤で発赤が出現し,

その際も抗ヒスタミン剤で症状が改善しています.

今回は,このアレルギー歴を,担当医が電子カルテ上,

確認できていなかったとされています.

 

一度目に致死的に近い副作用があった場合は,

当然ですが,この薬剤を用いた造影が優先されることは少ないでしょう.

ただ,軽微であった場合は,なかなか難しい判断になるかと思います.

 

造影剤アレルギーとして登録すること,

それはその造影剤を用いた診断を,できなくしてしまうことになってしまうわけです.

 

当施設でも難しい判断となりますが,

ヨード造影剤を別薬品に変えてみる,

ステロイドの投与を試みる,

そのほかとして,ヨードではないガドリウム製剤が,しっかりとした説明のもと,

用いられることもあります.

 

それだけ診断には必要な薬剤のため,

アレルギーが疑われたからハイ全部使えません,

というわけにはいかない薬剤になります.

 

今回の件で学ぶこと

報告書を見ていると,当施設でもおそらく同様な手順で行われるであろう,

各職種と対応は,大きく医療事故として取りざたされるような

手順ではないように見えます.

 

造影剤アレルギーの確認をせずに造影CTを依頼する,

ということは,もちろん手順として

抜けてはいけないところかと思います.

 

ただ,通常の施設では,そのようなことが抜けてしまうことがあるのか,

私は申し上げる立場ではないのですが,

この問題はしっかり解決する方向で報告書は書かれています.

 

造影剤アレルギーの登録は,上記の通り,

判断なども難しいことも多く,

確認しなかったことに問題はあるかと思いますが,

確認していてもどうするか,というのは難しい問題かもしれません.

 

そして個人的に気になっているのは,

この報告書の問題点として挙がっている,

造影剤の必要がないオーダがキャンセルされていなかった,

必要性が確認できずに検査されてしまった,という点です.

 

造影剤のアレルギーを評価する

本報告書では,その状況を,副作用の状況に応じて

3段階でチェックする方法がとられています.

簡単に○×で判断できるような状況ではない,ということになるかと思います.

 

診断のために必要な薬剤を使えなくする,というのは,

とても難しい選択になります.

 

薬剤師も含め,様々な医療スタッフが,薬剤のアレルギー歴については

気を使っています.

当施設でも,大きな問題になる前に対応できたのですが,

薬剤のオーダ部分で禁忌設定しても,

病院の別のシステムを使用して造影CTが行われていると,

その連携がうまくいっていない場合,禁忌項目がチェックできない,

などの事例が発生する可能性があるようです.

 

そしてそのようなことが起こりうるという認識は,

システムを立ち上げた人などの一部,

知っている人しか知らなかったりします.

 

当然そんなことはチェックできるだろうと,通常の人は思うからです.

医療安全は,最も医療従事者に課せられた,守るべきものの一つです.

 

今回起こってしまったことが,この施設の設備に問題,とか

コミュニケーション不足だけが問題,とか,

医療従事者の質が...

などと片づけてはいけない問題かと感じています.

 

増える検査数,安全管理は保てるか

当施設においても,土曜日などで働いている方が,

平日休めないとのことで,CTを希望されるケースが増えてきていると,

放射線部の方から聞きました.

確かに自分が日々働いていると,

なかなか検査のために平日休んで,という気持ちもわかります.

検査数も機械を導入すると,飛躍的に増えています.

 

当施設は,造影剤を用いる場合は必ず医師が常駐,

対応できる状況で行うことが定められています.

そのような不測の事態にも,しっかり対応できる中での検査が必要だからです.

 

私もβブロッカー服用中の方の,造影剤による血圧低下時に,

グルカゴンを走って届けたこともあります.

いろいろな状況に備えている必要があります.

 

それであっても,今回のような,必要がなくなった検査が,

電子カルテオーダを速やかに削除しなかった場合,

同様のことが防げるか,というところを

よく考えなくてはいけないのかもしれません.

 

その一つはコミュニケーションになるかもしれませんが,

それも限界があるでしょう.

検査が増えて,安全がおろそかになっては元も子もありません.

 

優れたICT技術が,身の回りで進んでいるのを,日々実感していますが,

そういったことも踏まえ,医療機関でのICT化は,まだ発展途上だと感じます.

 

使ってはいけない薬を登録,同様の薬剤が選択されたときに

アラートも出ないようなシステムというのは,

果たして電子カルテシステムといえるのでしょうか.

 

上記のように,医療は○×で必ずしも判断できないことが

往々にしてありますし,その限界も分かっているつもりですが,

もう少しこのような,ICTを用いたチェックシステムや

運用などが進むことを祈っています.

 

人だけでのチェックだけでは限界で,

そして時間も限られている以上,

何らかのシステム的なものも導入し,

チェック体制を構築している必要があると思います.

 

今回の報道を見て感じること

決して起こるべくして起こった問題で自分には関係ない,

この施設特有の問題なので自施設では起こりえない,

として簡単に思考を停止せず,

今一度自施設の対応を再考し,

このようなことが起こらないような方法を再考する,

自施設のシステムも含めた手順を確認,実践するしかないと考えています.

 

CTを撮像する部門では,

当施設でも放射線科の医師を中心として,

細やかなマニュアルが定められています.

 

私も実際造影剤を用いた検査を

してもらったことがありますが,

血管から薬剤を投与された際の

何とも言えない違和感,熱感,そしてCT室という特殊な状況.

あまり何度も行いたいと思う方は,多くはないでしょう.

 

薬剤師は,薬剤があるところに

積極的にかかわる必要があると感じています.

 

今回の報道を見て,自分になにができるか.

 

自問自答しながら,

二度とこのようなことが起こらないようなことを願っております.