病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

ガンマグロブリンの適応などを少し考えてみる.

当施設はヴェノグロブリンに加え,新たにベニロンも供給に制限がかかってきました.

今回の件なども踏まえて,以前書きましたので,ご興味ある方はご参照ください.

限られた献血の中から製造される,血漿分画製剤のため,リコンビナントの製剤などができない限りは,しばらく同様の状況が続くのではないか,と危惧しております.

 

f:id:RIQuartette:20190722204954j:plain

治療

 

以前の記事はコチラ

www.riquartette.tokyo

 

グロブリン製剤ですが,国内品,海外品問わず全体的にあるもので治療いただく,という方向に当施設はシフトしています.

あるものを上手に使用いただく,適応をみながら上手に選択いただくというスタンスです.

ホントはなるべく数を確保したいのですが,今まで以上の買い込みは,

他施設への影響もありますので,抗菌薬の事も踏まえて,

このような対応としております.

 

 

 

 

 

 

今回考えてみるのは…

ガンマグロブリンの適応は多岐に及びます.

今まで当施設でも,投与されたことがないと思われる適応も含め,

献血ヴェノグロブリンIHでは現時点(2019年7月)時点で12の適応となっています.

 

 

今まで発売されている,多くのグロブリンの適応は,

無又は低ガンマグロブリン血症と,

静注製剤であれば,重症感染症における抗生物質との併用があります.

これから発売されるものも含め,

微妙に適応が異なっているので,各医薬品の最新の添付文書でご確認ください.

 

専門の先生がいらっしゃる施設では,

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎へのグロブリン投与は,多く行われていると思います.

今回は,この疾患への投与が行われる部分に,少し焦点を絞ってまとめてみました.

 

あまりなじみのない疾患かと思います.

当施設では,神経内科領域においては,比較的この疾患で

投与されている方も多くなっています.

1回の投与量も多いため,

この疾患に使用しているグロブリンを,いかに欠品させないように準備するか,という事になってきています.

 

急性疾患での使用と慢性疾患での使用

重症感染症における抗生物質との併用,で用いられる場合は,

通常5000mg/日を3日程度です.

そして疾患の重篤さなどから,どのグロブリンを,ということで

ゆっくり選択している場合ではないですし,

命を失ってしまうような状況でもあります.

なにより重症感染症との併用であれば,

何度も繰り返し投与するような状況は,あまり多くありません.

 

ですので,ほぼどのグロブリンでも適応があれば,

その投与に際しては,あまり銘柄は大きな問題になることはないと考えられます.

 

しかしながら,ガンマグロブリン製剤の他の適応は,

多くは慢性の難病疾患であることも多く,何度も投与されることがある疾患もあります.

 

その疾患で用いられていて,問題なく治療が行えているグロブリンを,他の銘柄で治療する,というのにはかなり抵抗があるかと思います.

現在落ち着いている方,治療がその薬剤のおかげで滞りなく進んでいる方は,その薬剤で継続治療できることが望ましいのです.

これはどの治療においても同様の事かと思います.

 

このグロブリンがないから,今回だけこれ,といった治療は,あまり望ましくないです.

今の状況でなければ,選択したくない状況なのは事実です.

何らかの副作用などの問題で,

その銘柄を使用しているなどの場合もあるため,なおさらです.

 

そうすると,他の代替品で対応が可能な方には,

特に新規治療の方にはそのような薬剤があるのであれば,

上手に選択いただき,全体的な治療を滞りなく行うために努力をするのも,

薬剤師の業務の一つではないかと感じています.

 

慢性炎症性脱髄性多発神経炎とは

難病の一つとされています.詳細は難病情報センターのHpが分かりやすいです.

以下一部引用させていただきます.

 

http://www.nanbyou.or.jp/entry/4089

 

・慢性炎症性脱髄性多発神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy: CIDP)とは、2ヶ月以上にわたり進行性または再発性の経過で、四肢の筋力低下やしびれ感をきたす末梢神経の疾患(神経炎)

・発症する原因は現在もなお不明

・2008年の報告では有病率は人口10万にあたり1.61人,現在はより感度のよい診断基準が用いられるようになっておりますので、おそらく数千人ほどの患者さんがいると推定される

本邦ではIVIg療法がCIDPにおける治療の第一選択となっている

 

 

本疾患の治療においては,

ガンマグロブリン製剤(IVIG)が重要な位置を占めており,

欠品を起こしてはいけない薬剤であることが分かります.

 

 

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の適応について

ここからさらに漢字が続きます.分かりづらくてすみません.

 

献血ヴェノグロブリンIH,グロベニンIでは,

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(多巣性運動ニューロパチーを含む)の運動機能低下の進行抑制1日投与の適応が追加になりました(ヴェノグロブリンでは2018年2月).

 

以前までは,慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(多巣性運動ニューロパチーを含む)の筋力低下の改善,という適応で投与されていました.進行抑制で用いる場合であっても,

 

通常,1日に人免疫グロブリンGとして400mg(8mL)/kg体重を5日間連日点滴静注又は直接静注する.なお,年齢及び症状に応じて適宜減量する.

 

という用法用量に従うと,5日間の投与となっていました.

5日間の連続点滴というのは,結構大変な治療です.新しく分類され,1日で投与が終わる用法用量が追記になったのはとても良い情報でした.

 

運動機能低下での用法用量は下記です.

 

通常,人免疫グロブリンGとして「1,000mg(20mL)/kg体重を1日」又は「500mg(10mL)/kg体重を2日間連日」を3週間隔で点滴静注する.

 

 

単純に比較できないですが

筋力低下の改善は5日間で400mg/kg×5 = 2000mg/kgの投与

運動機能低下の進行抑制は1日であれば1000mg/kg,

2日連続であれば500mg/kg×2となるため,進行抑制は半分の用量となります.

 

ただ,この運動機能低下の進行抑制の適応は,臨床試験が3週間毎となっていたため,その記載が残っています.

 

実際当施設での治療されている方は,今までも3週間隔の方はいませんでした.

 

きっちり3週ごとの投与ができないかもしれないといったこと,

今までの治療の状況などから,

当施設ではなかなかこの用法用量への移行があまり行えていません.

その大きな理由の一つが,高額な薬剤となってしまうため,

保険査定をされた場合の影響が大きい,という事もあります.

 

実際のところ,どうなんでしょうか.

 

運動機能低下の進行抑制,ということであれば,諸事情あって3週ごとの方ばかりではない気がします.

3週ごとの治療は,結構大変です.4週となると,少し変わるかと思いますが.

 

そして今回,国内のグロブリンの供給が色々と厳しくなってきている現状で,海外製品の薬剤も注目されています.

 

皮下注製剤などの適応追加

2019年3月に,ハイゼントラ20%皮下注が,

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の運動機能低下の進行抑制(筋力低下の改善が認められた場合)の適応を取得しています.

 

ハイゼントラ20%皮下注

ハイゼントラ20%皮下注1g/5mL/ハイゼントラ20%皮下注2g/10mL/ハイゼントラ20%皮下注4g/20mL

 

無又は低ガンマグロブリン血症の適応も持っております.この薬剤は,γグロブリン製剤では珍しく,皮下投与,自己注射が可能な薬剤です.

 

 

本剤による治療開始後,医師により適用が妥当と判断された患者については,自己投与も可能,となっています.

 

持続のシリンジポンプでの投与が行われるため,

かなり煩雑な投与になることが予想されますが,

在宅での自己注射による治療というのは,とても有用な投与方法だと考えられます.

 

ただ,適応が,

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の運動機能低下の進行抑制(筋力低下の改善が認められた場合)となっています.

 

間違え探しをするみたいですが,献血ヴェノグロブリンIHの適応は下記です.

 

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(多巣性運動ニューロパチー を含む)の運動機能低下の進行抑制(筋力低下の改善が認められた場合)

 

ハイゼントラは,多巣性運動ニューロパチー が含まれると,適応とはならないという事になります.

臨床試験の行い方かと思うのですが,全く同じではなく,

これも混乱しやすい状況です.

本疾患の診断,治療は,専門医がおこなうので,

このような部分では大きな問題ではないかもしれませんが,グロブリン製剤の適応は本当に難しいです.

 

そして上記の通り,運動機能低下の進行抑制の適応となっているため,

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の筋力低下の改善,の適応はない状況です.

 

何だか書いていて訳が分からなくなってきました.

 

個人的には,

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の筋力低下の改善は,比較的急性期のイメージで,

静注製剤での適応,と認識しています.間違っていたらゴメンナサイ.

 

今回のグロブリンの供給制限問題に際し,

このような皮下注射の製剤を用いる事ができるのかで,

その施設のガンマグロブリン製剤の状況を,うまく緩和できる可能性もあります.

 

点滴静注薬も追加発売(予定)

ピリヴィジェン10%点滴静注

ピリヴィジェン10%点滴静注5g/50mL/ピリヴィジェン10%点滴静注10g/100mL/ピリヴィジェン10%点滴静注20g/200mL

の情報がございましたので,少し見てみたいと思います.

 

こちらは8月中に発売と聞いておりますが,今回のグロブリン製剤の供給の問題から,秋から冬の時期に供給が安定するようです.

 

上記の通り,一度始めたら,なかなか別の銘柄に変えるのは大変かと思いますので,

 供給が落ち着いてきたら,随時,という方向になるでしょう.

 

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(多巣性運動ニューロパチーを含む)の筋力低下の改善

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(多巣性運動ニューロパチー を含む)の運動機能低下の進行抑制(筋力低下の改善が認められた場合)

 の適応です.

 

現在では敗血症などの適応は取得されていません.

 

ただ,この製剤は,

10%製剤であることも,今回期待できる薬剤という事になります.

5%より10%製剤の方が投与液量も少なくなりますし,利便性もあがります.

今回5%から10%製剤へ移行予定がわかっている,献血ヴェノグロブリンIHも,

高濃度とすることにより,水分負荷も抑えられますので,

高濃度製剤はこれから主流になっていくでしょう.

 

そして適応も増えていくと予想されます.

 

今回のグロブリン供給に関しては,欠品に至っている状況ではない,

といったことから,適応がないグロブリンの投与は,認められていません.

 

以前,熊本の化血研でのベニロンが問題になった際に,

欠品が免れないといった状況から,ベニロンしか適応のない部分は,

他のガンマグロブリン製剤での使用を,認めていただいた経緯があります.

 

しかしながら,今回はそのような状況ではないことから,供給如何にかかわらず,

添付文書を確認し,適応が認められたものを使用するという形は変わりないです.

ここは間違えないようにしたいところです.

 

追加の情報

献血ベニロン−I静注用の適応で,2019年8月1日に第一部会が行われるとあります.

 

「慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(多巣性運動ニューロパチーを含む)の筋力低下の改善」を効能・効果に追加する新効能・新用量医薬品。

薬食審 8月1日に第一部会 初の鼓膜穿孔治療薬など審議へ | ニュース | ミクスOnline

 

こちらでは,審議が終わり,承認されれば,ベニロンでも用いる事ができるようになります.

国内製品のため,他のグロブリンと同様,多巣性運動ニューロパチーを含む,の記載となりそうな状況です.

 

適応が追加されたら,一覧をどなたかが作っていただけると助かります.

 

血液由来の血漿分画製剤は,なくてはならない医薬品の一つです.

アルブミン製剤は一時期より供給状況が懸念事項となり,適正使用のための

資料などが作成され,今に至っています.

当施設でもトルバプタンの採用と共にアルブミン製剤は,だいぶ減ってきています.

 

それに加え,今まで供給不安定にほとんど陥ってこなかったグロブリン製剤が,

今後の状況を踏まえると,需要と供給のバランスが破綻しかかっているのは

事実かと思います.

 

国内の献血に依存している以上,その対象の年齢の献血に依存してしまう事から,

新たなことを考える必要がある時期に来ているのではないかと感じます.

 

それは日本国内だけで,供給を考えているだけでは,もう間に合わないのかもしれません.

そしてその準備を,本当に供給が滞ってしまうようなことになる前に,対応しておかなくてはいけないのです.

 

そのための情報を収集し,今できる事とやってはいけないことを,うまく振り分けて,この状況を乗り切っていきたいです.