病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

高齢者の薬剤投与には要注意

 

高齢者に注意する医薬品はいくつかあります.75歳以上の後期高齢者も増加し,その治療に関しては現実的な問題が出てきているのを感じます.

 

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高齢者

 

 

高齢者の薬物療法

高齢者に関しては,適切な医療が提供できるよう,老年医学会から,「高齢者に対する適切な医療提供の指針」が発表されております.

 

https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/proposal/sisin.html

 

そして薬物療法に関しては,ガイドラインも出ています.

高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015

 


 

 

  

当施設に入院された方

(なお,今回の内容は,個人情報の事もありますので,内容はモディファイしてあります.整合性がない部分があるかもしれませんが,ご了承ください.)

 

先日のお話しですが,90代の女性の方が入院されました.

 

明け方ふらつき,転倒,骨折してしまったとの事でした.

 

不眠が続いており,かかりつけではない医師に,睡眠薬を出してもらった,との事でした.

 

いくつか処方があったのですが,気になったのは下記の処方です.

 

ゾルピデム錠10mg 1錠 不眠時

 

お薬手帳もお持ちで,どちらの薬局で調剤されていたのかもわかる状況でした.

 

他にもたくさんの処方があったのですが,今回このゾルピデムが追加されていました.

 

高齢者と薬

ゾルピデムは初めてのようでした.不眠が続いていたようで,転倒する前日に服用したようでした.

 

国内の添付文書です.服用されていたのは後発品でしたが,代表として先発品の情報となります.

 

マイスリー錠添付文書 2018年10月改訂(第27版)

 

効能又は効果

不眠症(統合失調症及び躁うつ病に伴う不眠症は除く)

 

用法及び用量

通常、成人にはゾルピデム酒石酸塩として1回5~10mgを就寝直前に経口投与する。なお、高齢者には1回5mgから投与を開始する。年齢、症状、疾患により適宜増減するが、1日10mgを超えないこととする。

 

用法及び用量に関連する使用上の注意

1.本剤に対する反応には個人差があり、また、もうろう状態、睡眠随伴症状(夢遊症状等)は用量依存的にあらわれるので、本剤を投与する場合には少量(1回5mg)から投与を開始すること。やむを得ず増量する場合は観察を十分に行いながら慎重に投与すること。ただし、10mgを超えないこととし、症状の改善に伴って減量に努めること。

 

高齢者への投与

運動失調が起こりやすい。また、副作用が発現しやすいので、少量(1回5mg)から投与を開始し、1回10mgを超えないこと。(「薬物動態」の項参照)

 

薬物動態

  1. 血漿中濃度

(2) 高齢患者

高齢患者7例(67~80歳、平均75歳)にゾルピデム酒石酸塩錠5mgを就寝直前に経口投与したところ、高齢患者の方が健康成人に比べてCmaxで2.1、最高血漿中濃度到達時間Tmax)で1.8倍、AUCで5.1倍、t1/2で2.2倍大きかった

 

 

添付文書では,高齢者は5mgからの開始とされています.

 

米国の情報

 

詳細なリンクはきえているので,車の運転に関する記述になりますが,

2013年1月10日にゾルピデムに関しての情報をFDAが出しています.

 

http://www.fda.gov/downloads/Drugs/DrugSafety/UCM335007.pdf

 

欧米の女性は日本人と比べて,体格も大きいイメージがあると思いますが,

 

The recommended initial dose for women should be lowered from 10 mg to 5 mg, immediately before bedtime. 

 

という記載もある通り,今まで10mgとされていたゾルピデムの開始用量を,女性は5mgとすべきとされています.

 

米国は車社会なので,運転に関する情報には比較的ナイーブかと思われます.

 

FDAのデータの根拠

 

こちらも上記資料からになりますが,

 

・ゾルピデムの血中濃度が50ng/mlを超えると,自動車運転に危険を及ぼす可能性

・250名の男女に10mgのゾルピデムを投与した試験で,15%の女性,3%の男性が,投与8時間後で50ng/mLをこえる濃度を示した

・8時間後の濃度で,女性3名,男性1名が,90ng/mlを超えていた

 

 

国内では徐放製剤はありませんが,同様に高い値となったとされています.女性の方が影響を受けやすいとされています.

 

 

ゾルピデムと転倒

ゾルピデム,Z-drugsは,色々と報告が出ています.転倒,骨折は様々な因子があると思いますが,眠剤もその一つとして考えておくべきかと思われます.

 

J Hosp Med. 2013 Jan;8(1):1-6. Zolpidem is independently associated with increased risk of inpatient falls. PMID: 23165956

 

Age Ageing. 2018 Mar 1;47(2):201-208. Z-drugs and risk for falls and fractures in older adults-a systematic review and meta-analysis. PMID: 29077902

 

J Clin Psychiatry. 2018 May/Jun;79(3). Sedative Hypnotics and the Risk of Falls and Fractures in the Elderly. PMID: 29873951

 

Yakugaku Zasshi. 2016;136(5):769-76. Relationship of Prescribed Drugs with the Risk of Fall in Inpatients. PMID: 27150933

 

最後の薬学雑誌の報告はフリーで見ることができます.

転倒・転落は,加齢や疾患による身体機能の低下によるものもありますが,脳血管疾患や,ゾルピデム,Ca拮抗薬も因子とされています.

 

まとめ

 

国内の添付文書では,眠剤について,ほとんどの薬剤が低用量からの開始となっています.

その理由は上記の通り,安全性の面からです.これを再認識する必要があると思います.

 

2013年のゾルピデムの,減量に関する米国の警告では,実はすでに日本では減量が添付文書上になされていました.

色々な情報が,米国FDAの方が早い印象ですが,この件については,日本の添付文書はすでに反映されており,高齢者の方への適切な治療が推奨されているのです.

この情報を見た国内の医療従事者は,それもう知っているよ,という対応で,特に国内では大きく取り上げられていなかったと思います.

 

そうです,その情報を,すでに私たちは知っているのです.

 

ただ,減量すべきという内容と対象を,必ず確認する必要があると思います.

 

 

今回の情報のみでは,因果関係も不明ですし,色々な条件があると思います.

今まで眠れなかったこともあって,ご本人が要望した可能性もありますし,転倒の理由は1つだけではないと思います.

  

転倒転落は,病院内ではかなり注意されていますし,より慎重な対応がなされています.しかしながら,病院内だけで気をつけておけばよい問題ではありません.

 

入院している期間より,自宅での生活が長い人がほとんどかと思います.

 

外来の調剤時,その時でも,より注意を払い,患者さんのQOLが低下しないような,高齢者にあった薬物療法がなされることを願っています.

 

高齢化している現在の日本,薬剤師がやらなくてはいけないものは,まだまだ,たくさんあるのではないかと感じています.

 

まずは日々の業務から.薬剤師として.

 

自戒を込めて.

 

 

※なお,今回の内容は,個人情報の事もありますので,モディファイしてあります.

より注意喚起をすると共に,日々の業務を見直す必要性を提示したかったためです.ご了承ください.