抗インフルエンザ薬,毎年どの程度の方に投与されているか,想像したことはありますでしょうか?
厚生労働省の下記の資料によりますと,
2017/2018シーズンの抗インフルエンザ薬の処方患者の推計(企業提出資料による)として
公表されています.
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000377869.pdf
先日私のブログでも,インフルエンザに関して少し記事を書きました.こちらもよろしければご覧ください.
- 2017/2018シーズンの抗インフルエンザ薬の処方患者の推計
- タミフルの処方金額(薬価)
- リレンザの処方金額(薬価)
- ラピアクタの処方金額(薬価)
- イナビルの処方金額(薬価)
- ゾフルーザの処方金額(薬価)
- 抗インフルエンザ薬の処方金額(薬価)の合計は・・・
- ゾフルーザの影響は?
2017/2018シーズンの抗インフルエンザ薬の処方患者の推計
オセルタミビルリン酸塩(タミフル)約377万人
ザナミビル水和物(リレンザ)約270万人
ペラミビル水和物(ラピアクタ)約32万人
ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(イナビル)約612万人
バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)約3.7万人
とされています.
1シーズンに複数の抗インフルエンザ薬を投与された方もいらっしゃるかと思いますが,
この数を見ると,合計で1294.7万人に及びます.
現在の日本の人口は1.268億人(1億2680万人)とされています.
実に10人に1人の割合に投与されている,という事になります.
患者さんばかりを見ていると,もっと多いような気もしますが,昨シーズンの推計はこのようになっております.
欧米などと比べても,日本の使用が多いとされている,抗インフルエンザ薬.
もちろん有用性も証明されていますが,これだけの方に使用されているとなると
薬剤費もかなりの数になると予測されます.
試算してみます.
タミフルの処方金額(薬価)
0-9歳
上記の資料より
タミフルは0-9歳の小児に投与されています.計162万人に投与されていますので,
平均的に分布しているとして,0歳から9歳がそれぞれ16万人ずつ投与されたとします.
タミフルの投与は
幼小児の場合
2mg/kg(ドライシロップ剤として66.7mg/kg)
新生児、乳児の場合
3mg/kg(ドライシロップ剤として100mg/kg)
となっています.
平均体重.comより
子供 平均体重 | 平均体重≪女性の平均体重から子供・赤ちゃんまで≫情報サイト!平均体重.com
各年齢の平均体重などから用量を試算,約160万人に使用された用量から
試算すると,378405万円(約37億円)と推測できました.
10-19歳
7.8万人に投与されていたので1治療当たりの試算をすると
7.8万人×2720=212160万円(21億円)となりました.
10代でも結構投与されているのですね.
20歳以上
全部で377万人への投与となっているので
377-162-7.8=207.2万人に投与されたことになります.
同様に試算すると
207.2万人×2720=563584万円(56億円)となりました.
概算でタミフルは合計115億円と推測されます.
リレンザの処方金額(薬価)
同様に
270万人×2942=794340万円(79億円)となりました.
ラピアクタの処方金額(薬価)
300mgバッグを1回使用したと仮定して試算しました.
同様に
32万人×6216=198912万円(20億円)となりました.
イナビルの処方金額(薬価)
同様に
612万人×4279.8=2619238万円(261億円)となりました.
ゾフルーザの処方金額(薬価)
20mgを2錠服用すると仮定して試算しました.
同様に
3.7万人×4789=17719万円(1.7億円)となりました.
抗インフルエンザ薬の処方金額(薬価)の合計は・・・
478億円となりました.
金額が大きくて,適正な値なのかもよく分かりません.
ゾフルーザの影響は?
上記の薬剤の割合を示しますと
2017/2018シーズン推定処方患者割合
タミフルカプセル75 29%
リレンザ 21%
ラピアクタ点滴静注液 2%
イナビル吸入粉末剤 47%
ゾフルーザ錠20mg 0%
オセルタミビルカプセル75mg 0%
となっています.
イナビルが半分くらい使用されていた状況となっております.
厚生労働省のインフルエンザ薬供給状況というものが毎月出ています.
10-12月分を集計しますと
2018/2019シーズン推定処方患者割合
タミフルカプセル75 17%
リレンザ 4%
ラピアクタ点滴静注液 2%
イナビル吸入粉末剤 18%
ゾフルーザ錠20mg 47%
オセルタミビルカプセル75mg 12%
となっており,半数がゾフルーザです.イナビルが減少,タミフル+オセルタミビルは昨年と同様の割合です.
上記の割合などから,昨年と同じ処方人数に使用されたとすると,薬価などを試算してみます.
タミフルは後発品が出て,1治療当たりの薬価差は1360円となっています.先発品の半分の値段です.
その分安くなると試算しても,オセルタミビルとして91億円,
リレンザは15億円,ラピアクタは変わらず20億円,イナビルは100億円,
ゾフルーザは278億円と推測されます.
合計は504億円程度と予測されます.
あくまで昨年度と同じ量を,今年の使用人数に割り当てての試算なので
正確なものではなりません.
今年は昨年度以上の使用になるかもしれません.
試算では,差額は約26億円となりました.
ゾフルーザが高く,たくさん出ていますが,昨年度まで使用の多かったイナビルの薬価がゾフルーザと近いため,予想していたよりは大きな金額になっていませんでした.
ただ,イナビルもご存知の通り,根拠,という意味では強くないです.特に海外での状況(未発売)という事を考えても,お分かりになるかと思います.
ここで考えなくてはいけないことは,治療が1回で終わるというあやふやさ,であると私は考えています.
以前より,服用日数が短い薬剤が汎用されています.
ゾフルーザの臨床試験のデータや,タミフルの比較の試験より,単回服用の利便性のみが強調されてしまっている結果なのではないかと感じています.
そして,それはゾフルーザだけではなく,イナビルも同様なのかもしれません.
医療費が高騰していて,保健医療の破綻が叫ばれている中,果たして単回吸入,服用の薬剤の利便性のみが強調されているのは,医療を受ける側の私たちの方にも問題を投げかけているのではないかと思います.
1回の治療で終わると,それですぐ熱が下がらなかったことでクレームが出たり,再受診したりする.
熱が下がったら,すぐ元気になったと思って出かけてしまう.これはウイルスを広げてしまう事にもなり兼ねないと思います.
抗インフルエンザ薬を服用する5日間程度は,自宅で休養する,それができない社会も問題なのかもしれません.
インフルエンザは冬季の流行を必ず起こす,とても伝播力の強い疾患です.そのためにワクチンを行い,日々かからないような予防をしても,ある程度の割合でかかってしまう.
薬に頼るだけではない,なにかよい方法はないのでしょうか?
高価なインフルエンザの治療薬を服用しなかった人が,メリットを感じることのできる制度,などです.もちろん医師の診断など,様々な問題があるかと思います.
自宅休養を最優先として,薬剤投与の選択も自分の意志と,医師の診断があれば,薬剤の服用なしでの治療を,もう少し選びやすくする方法など,これからは必要になってくるのではないかと感じます.もちろん,医師の診断で,抗インフルエンザ薬は不要と診断されれば,服用しないケースもあると思います.
その薬が不要,という診断をした際に,何か評価できるもの,という事なのです.
ちなみに,当施設でも,インフルエンザ罹患時には,届出を行います.その際に,インフルエンザの診断などと共に,薬剤の服用状況も提出します.
抗インフルエンザ薬を服用していれば,インフルエンザの治療を行っている,という認識が強すぎるのかもしれません.
インフルエンザはワクチンと適度な休養が最も大切であると言われています.そしてそれでも罹患した場合に投与する抗インフルエンザ薬の服薬指導は,確かにリレンザよりイナビル,イナビルよりタミフル,タミフルよりゾフルーザのほうが楽でしょう.
薬剤師としてもその有用性は感じることも多いです.高熱を呈している方への説明は,なるべく簡便で,確実なものがよいことも理解しています.
最近話題のゾフルーザの耐性についての論文がオープンとなっていたので拝見しました.
Euro Surveill. 2019 Jan;24(3). doi: 10.2807/1560-7917.ES.2019.24.3.1800698.
Detection of influenza A(H3N2) viruses exhibiting reduced susceptibility to the novel cap-dependent endonuclease inhibitor baloxavir in Japan, December 2018.
PMID: 30670142 DOI: 10.2807/1560-7917.ES.2019.24.3.1800698
この論文のアクセプトと公開日が下記です.
Article submitted on 21 Dec 2018 / accepted on 16 Jan 2019 / published on 17 Jan 2019
私が知っている中でもかなり早い対応です.内容もフリーで読むことができます.
それだけ多くの人が知っておく,公開すべき内容という事なのでしょう.
非常に注目度が高い論文です.薬剤を適切に使う.今後も上手に薬剤を使い続けるために,新しい薬剤の情報はとても大切です.
薬は,必ずしも良い面だけではないこと,デメリットもあることを,薬を扱うものとして認識しておきたいと感じています.
インフルエンザシーズン,何とか体調を崩さないように乗り切りたいですね.