病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

【薬のお勉強】チラーヂンSと吸収について

先日の医療薬学会で話があったようで,チラーヂンSと食事の影響ってあるの?という話を若者がしていた.以前確認した情報と再確認も含めて,あまりまとまりませんでしたが.

 

チラーヂンS

誰もが一度はチラーン,と書いてしまう,一度は指摘されたことがある薬.

 

販売名:チラーヂンS

一般的名称: 日局 レボチロキシンナトリウム水和物

製造販売元:あすか製薬株式会社

用法及び用量:レボチロキシンナトリウムとして通常,成人25~400μgを1日1回経口投与する.

一般に,投与開始量には25~100μg,維持量には100~400μgを投与することが多い.

なお,年齢,症状により適宜増減する.

薬価:12.5,25,50,75μgは9.60円(薬価同じ) ,100μgは11.40円

名称の由来:Thyroid(甲状腺)より THYRADIN とし、Synthesis(合成)より-S とした。

 

THYRADIN,なので,チラーンです.覚えておきましょう.

 

添付文書上(2015年 1 月最終改訂)では,経口投与,となっており,特に食事の影響などの記載はない.

併用注意には,コレスチラミン,コレスチミド,鉄剤,アルミニウム含有制酸剤,

炭酸カルシウム ,炭酸ランタン水和物,セベラマー塩酸塩が挙げられており,その理由は,消化管内で結合し吸収を抑制すると考えられている,となっている.

 

IF上の,食事・併用薬の影響の項では,該当資料なしとなっている.

 

チラーヂンの特徴は下記になります.

 

(1)T 4 製剤は合成品で効力が一定であり、服用後の血中 T 4、T 3 濃度が比較的一定である点から、甲状腺ホルモン補充療法時の第一選択薬として用いられる。

(2)半減期が長いため 1 日 1 回の投与により常に安定した血中濃度を保つことができる。

(3)チラーヂン S 錠は 1 錠中に日局レボチロキシンナトリウム水和物をレボチロキシンナトリウムとして 12.5μg、25μg、50μg、75μg 及び 100μg 含有する製剤で、細やかな投与量の調節が必要となる調剤の簡便性向上に寄与できる。

(4)チラーヂン S 散 0.01%は乳幼児患者への投与量の調節が容易な散剤であり、造粒散剤のため飛散性が少なく、流動性にすぐれている。

(5)重大な副作用として、狭心症、肝機能障害、黄疸、副腎クリーゼ、晩期循環不全が報告されている。また、類薬の重大な副作用として、ショック、うっ血性心不全が報告されている。(いずれも頻度不明)

 

半減期が長い,という特徴がポイントでしょうか.

 

Up to date を見てみます.

Administration の項に

・空腹時投与,少なくとも食事の30-60分前までに,もしくは最終の夕食後3-4時間後に服用

・カルシウム,鉄剤は4時間以内に投与しない

 

となっています.

 

下記論文も.

Levothyroxine absorption in health and disease, and new therapeutic perspectives.

Eur Rev Med Pharmacol Sci 2014; 18 (4): 451-456

 

・食物繊維,ブドウ,大豆,パパイヤおよびコーヒーは,吸収を低下させる

・薬剤では,PPI,制酸剤,スクラルファートなど

・腸の壁障害,胃酸を損なう疾患などでは,バイオアベイラビリティが変化する可能性

・液体製剤,ソフトゲル製剤などの製剤が提案されている

 

これらの資料を見ると,やはり影響があると考えるのが普通であろう.

 

国内でも下記の報告がある.

1例報告ではあるが

食事及びコーヒー摂取によりチラーヂンSの吸収が著明に低下した1例,

幸喜 毅ほか,日本内分泌学会雑誌,93巻4号 Page1161(2017.12)

 

400μgまで増量,その後内服後のコーヒーをずらすことで減量,朝食前に変更して

125-137.5μgで安定しているという報告である.

 

この発表の結論としては,大量のチラーヂンS内服で甲状腺機能の改善を認めない場合には,内服方法や食事や嗜好品の内容を確認することが必要,となっている.

 

実際はどうであろうか.

 

当施設の甲状腺疾患の担当医師に以前確認したことがある.

その際に話していたことは,

・昔からある薬で,落ち着いている患者さんはそのまま

・服用が長期になるので,服用し忘れない飲みかたで(入院導入された方に話した際,寝る前だと圧倒的に忘れる方が多かった),個々に検討

甲状腺疾患を扱っている医師の中では常識的

・検査値が分かるので,許容範囲であればあえて変更はしない.増量が必要な際などは確認することが多い

半減期長いし

 

といった内容であった.

 

確かに以前からある薬剤で,服用期間も長い人が多い.新たに導入するケースとしては,心疾患で入院,甲状腺機能低下が発覚し,導入となるケースも多かった.その際は薬剤が多数あったり,吸収の問題より,服用時間をずらすことによるアドヒアランスが問題になりそうな人が多かったのも事実であった.

 

半減期はIFより

T 4 の半減期:正常者  6~7 日

        甲状腺機能低下症  9~10 日

となっており,かなり長い.

 

なかなかまとめるのが難しいのですが

半減期が長く,TSHやfT3,fT4が測定できるので,長期服用している方は特に気にする必要はないのかもしれない.飲み忘れをしない服用方法で.

吸収に問題のある薬剤などを服用している場合は服用時間の変更提案を.

新規の場合は,アドヒアランスを含めた考慮を.

増量し,増えている方には,食事の状況や服用方法などを確認し,主治医へ提案

 

といった状況であろうか.

 

50μg錠は1964年から発売されている.東日本震災の時は供給が滞りそうになり,海外から輸入した.それでも過去から今まで必要とされている薬である.

服用アドヒアランスなどを確認,提案できるのは薬剤師の仕事であろう.

 

画一的に全て服用方法を統一,というわけではない薬だが,状況によっては主治医へ確認,特に甲状腺の専門領域ではない医師の処方の際などは,上手に情報提供を行っていきたい.