病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

AIを活用した医薬品情報提供に思う

いよいよ病院の医薬品情報室でも,AIによる大きな波がきているのを感じる.
ミクスのニュースでは,施設の枠組みを超えてデータベースを構築したという部分のインパクトが大きかった.

 

国がん AI活用で効率的な医薬品情報の提供目指す 木村情報とシステム開発
https://www.mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/65678/Default.aspx

 

医薬品情報学会でも,AIと医薬品情報の話題はすでに議論になっていた.
IT専門の薬剤師,医療情報技師などの今後活躍が見込まれている.今後はSEさんのようなスキルを持った薬剤師が活躍する日がくるのであろう.同時に薬剤師としてどのようなことをすべきか,考えておく必要がある.

 

【医薬品情報学会】AI時代の薬剤師業務議論‐情報整理、ケア注力が重要
https://www.yakuji.co.jp/entry59202.html

 

現在の医療機関における医薬品情報室では,様々な業務の一つとして,問い合わせに対する回答を行う業務がある.
医薬品の情報は日々更新され,新しい薬剤に関する情報,現在使用している情報について,医師,看護師から問い合わせを受ける.薬剤に関することなので,薬剤師が対応する.
当然なのだが,病院では薬は人に投与するので,使用する薬剤を何も知らないまま投与されることは極めて危険で,その危険性を知っている医療従事者が,薬剤に対しての疑問を確認することは,ごく普通のことで,病院の薬剤に関する安全性が保たれている.

その部分に大きく関与しているのが薬剤師なのであるが,その情報収集方法と対応については,限界がある.多くは時間の問題だが,質の問題も存在する.
回答する内容については,現時点では残念ながら経験,スキルなどによって異なる.
それが臨床に影響することから,その重要性を認識している薬剤師と,そうではない薬剤師が存在しているのも事実である.

 

自分が情報室担当になる前のイメージは,薬剤部の頭脳が集まっている,というものだった.なんせ,医師や看護師をはじめとする医療スタッフに,医薬品に関する情報を伝え,疑問点について回答する.当時の自分にはストレスフルな場所ではないかと想像していた.当然その時点では,臨床に影響する薬剤師の情報提供の重さについては,あまり深く考えていなかった.上記で言うと,明らかに後者であった.

 

医薬情報室の担当者になった際,今でもそうなのだが,上記の経験,スキルによる回答への影響については,常に悩み,永遠の課題かと考えていた.
すなわち,自分が対応しなかったら,もっと良い状況になるのではないか,という点である.
Bestの回答が導きだせなくても,状況によってはBetterな回答で十分である場合もあるということを,実際の業務を行いながら,また先輩から教えていただいた.

 

そう考えると,今の業務は,経験,スキルによる影響がある程度発生してしまう.上手くいっていないシステムと考えたほうがよいのかもしれない.経験やスキルだけに頼っている部分では,いずれ破綻する.

 

病院の中の問い合わせ,特に医薬品情報に関する部分は,個々の患者に応じてというものが多い.治療の根本となるものは,まれな疾患ではない限りガイドライン等が整備されているものは,その標準治療に準じて行われる.

 

添付文書には,医薬品情報の必要最低限が記載されている.多すぎても見ないし,情報量が多すぎるものは,日々確認する資料としては適さない.
ただ,投与する際には,添付文書情報だけでは情報が足りないのも事実である.

情報室への問い合わせは,院内の情報システムがあった上での問い合わせなので,当然即答できるような質疑はほとんどこない.いろいろと悩んだ結果,もう少し情報があるかなど,新たな情報などを頼っての問い合わせになる.当然患者さんごとの状況で問い合わせ内容も変わるし,同じような問い合わせはあるが,全く同じ問い合わせは少ない.

 

それ故,院内の問い合わせの履歴やシステムを,他施設で共同する場合は,かなり配慮が必要になる.情報は常に更新されるため,過去の対応がすべて現時点でマッチしているかは疾患などによっても大きく変わる.

薬剤の情報を提供する場合にあたっても,誰に向けての回答なのかで,ニュアンスは変わる.医師であれば回答をすぐ求められている場合が多いので,正確に,具体的に,端的に.
看護師やほかのスタッフであれば,専門用語にとらわれず,丁寧に.
患者であれば,説明し,理解いただける言葉でゆっくりと,必要あれば何回か説明する.
といった具合である.

病棟からの問い合わせであれば,病棟担当薬剤師と連携する.

 

特に経験のない人にとっては,当直時の問い合わせなどは恐怖を感じているようである.そのためのデータベースなどもあり,過去の問い合わせ記録は有意義に使用すべきではあるが,その情報をもって回答するというより,どのような調査を行ったか,それによってどうなったか,という部分をしっかり確認して用いる必要がある.
そのデータベースも,新規の薬剤が開発されている中で,10年以上前の問い合わせ記録が全てではない.現在,今の状況に合わせて回答しなくてはいけない.

 

以上の事より,医薬品の問い合わせなどに関する回答は,個々の状況に左右されるので,データベースを作成しても,それを使う側の注意も必要である.
必然的に薬剤師のみが見られるようなシステム,自施設のみのシステムとなっていることが多い.通常から考えると,効率的ではない.

 

今回のAIによるシステムは,この部分も向上できるという期待があるようだ.すなわち,多数の問い合わせ情報を覚えさせることができれば,おそらく人間が対応するよりはるかに有用なツールとなるであろう.

 

以前より,AIを用いた診断についての話は話題となっている.
今に始まった話ではない.過日のIBMが開発しているワトソンのニュースは衝撃的であった.

AI、がん治療法助言 白血病のタイプ見抜く
日本経済新聞2016/8/4
https://www.nikkei.com/article/DGXLZO05697850U6A800C1000000/

人工知能はどこまで医師をサポートできるのか
日経メディカル2016/10/17
https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/feature/15/327441/101400132/?ST=health

AIが切り拓く医療の新時代「そうだ!Watson君に聞いてみよう!」
M3.com 2017年1月20日
https://www.m3.com/news/iryoishin/492254

 

医学では今後もAIが進歩し,診断も含めた技術が進歩するであろう.医薬品情報においても同様で,より効率的に,様々な情報が使えるようになる時代がそこまで迫ってきている.

 

薬剤師の業務,医薬品情報に関する薬剤師の業務も大きく変わるであろう.非効率な部分は効率化される.これはまたとないチャンスである.

薬剤師が行うべきことは何であろうか.患者さんの薬学的なケアを,それらの情報を駆使して行う,AIが導いてくれる情報ばかりを鵜呑みにせず,情報を使いこなせるような薬剤師が求められているのであろう.