病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

当直中のビビった処方(ブプレノルフィン)

 

当直業務を行うにあたり,若かりし自分が,ちょっと戸惑った処方を紹介していきたいと思います.

簡単なものから色々と.

薬学生のかた,普段注射調剤に関わっていない方から,病院で当直することになりそうな方まで,ご参考になさってください.

 

第1回ヤクガクテキ処方箋鑑査

 

初めての第1回目はこちらです.

 

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レペタン注0.3mg 4A

生食500mL

1日2回

 

この処方を当直中受け取ったワタクシ.

経験のある方はピンとくるかもしれません.

 

当直中だったのでとりあえずビビりました.

 

レペタンは,第2種の向精神薬です.

痛みがあったときに,単回での投与の処方箋しか見たことがありませんでした.

経験がなかったのです.管理はしっかりしていますよね.私の病院でも管理簿をつけて残確認もしっかり行っています.

 

薬局における向精神薬取扱いの手引 平成24年2月 厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/dl/kouseishinyaku_02.pdf

 

レペタン注添付文書(2014年12月改訂)には,下記のような用法用量があります.

 

用法及び用量

  1. 鎮痛を目的とする場合

術後、各種癌

通常成人には、ブプレノルフィンとして1回0.2mg~0.3mg(体重当り4μg/kg~6μg/kg)を筋肉内に注射する。なお、初回量は0.2mgとすることが望ましい。その後必要に応じて約6~8時間ごとに反復注射する。症状に応じて適宜増減する。

心筋梗塞症

通常成人には、ブプレノルフィンとして1回0.2mgを徐々に静脈内に注射する。症状に応じて適宜増減する。

  1. 麻酔補助を目的とする場合

通常成人には、ブプレノルフィンとして0.2mg~0.4mg(体重当り4μg/kg~8μg/kg)を麻酔導入時に徐々に静脈内に注射する。症状、手術時間、併用薬などに応じて適宜増減する。

 

添付文書の通常の使用方法だと,1. 鎮痛を目的とする場合 として考えますでしょうか.

適宜増減があるとしても,1日0.3mgを8本って,ちょっと多すぎません???

 

レペタンIF(2014 年 12 月(改訂第 11 版))より,薬剤の特徴です.

 

①強い鎮痛効果を有する。

②鎮痛効果は長時間持続する。

③ブプレノルフィンは WHO 方式がん疼痛治療法(1996 年改訂)において、モルヒネ(中等度から高度の強さの痛みに用いるオピオイド)と同じ段階に位置づけられている。

④副作用発現症例率は 9.62%(767/7,974 例)で、主な副作用は悪心 3.69%、嘔吐 3.15%、口渇 2.03%、発汗 1.58%、呼吸抑制 1.39%等であった(承認時及び再審査終了時)。

なお、重大な副作用として、呼吸抑制、呼吸困難、舌根沈下、ショック、せん妄、妄想、依存性、急性肺水腫及び血圧低下から失神に至った症例が報告されている。

 

慎重投与には,

胆道疾患のある患者[動物実験(イヌ)において高用量(0.1mg/kg i.v.以上)でOddi筋の収縮がみられる。]

などと高用量はまずいのではないかという情報ばかりが目に入ってくる.

 

当時の私はパニックでした.①②③は良いのですが,④の重大な副作用,呼吸抑制あたりが気になってしまって・・・.

結局救急担当の薬剤師に聞いてしまいました.

 

処方医に確認すると,急性膵炎でした.

まだ電子カルテも導入されていなかったので(知識のなさの方が問題なのですが)

いやな汗がたくさん出たのを覚えています.

 

本処方の解説です.

 

 

 

 

急性膵炎診療ガイドライン2015 - 日本膵臓学会

www.suizou.org/APCGL2010/APCGL2015.pdf

 

フリーで見られます.私が見たときはもう少し前のガイドラインでした.全233ページのガイドラインをフリーで公開されています.

 

                                    

薬物療法

鎮痛薬 

CQ23 急性膵炎に対する鎮痛は必要か?

急性膵炎における疼痛は,激しく持続的であり,十分なコントロールが必要である.

推奨度1,エビデンスレベルB

 

・急性膵炎における疼痛は,激しく持続的

・疼痛が患者を不安に陥れ,臨床経過に悪影響を及ぼす可能性

・軽症から中等症の急性膵炎におけるRCTではブプレノルフィン初回0.3mg,続いて2.4mg/日の持続静脈投与は除痛効果に優れている.Oddi括約筋の収縮作用による病態の悪化もなし,アトロピンの併用(Oddi括約筋弛緩作用あり)も必要なかった.急性膵炎の疼痛コントロールに有用

・過鎮静に注意

 

とガイドラインに記載があります.

 

元論文はアブストラクトしか見れませんが

Buprenorphine or procaine for pain relief in acute pancreatitis. A prospective randomized study.

Jakobs R, Adamek MU, von Bubnoff AC, Riemann JF.

Scand J Gastroenterol. 2000 Dec;35(12):1319-23.

PMID: 11199374

 

・急性膵炎患者におけるブプレノルフィンおよびプロカインの鎮痛効果および副作用を評価

・膵炎患者40名,前向き調査

・ブプレノルフィン群で追加の鎮痛薬を必要とする割合が少なかった

・疼痛スコアの減少もブプレノルフィンが良好

・副作用は同等

 

2000年の論文なので,ずいぶん前の論文ですが.

他にも下記の報告があるが,モルヒネ,ペチジン,フェンタニルなども含め,どの鎮痛剤がよいという結果には至っていないようです.

 

Pancreatology. 2013 May-Jun;13(3):201-6.

Parenteral analgesics for pain relief in acute pancreatitis: a systematic review.

Meng W, Yuan J, Zhang C, Bai Z, Zhou W, Yan J, Li X.

PMID: 23719588

 

Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jul 26;(7):CD009179.

Opioids for acute pancreatitis pain.

Basurto Ona X, Rigau Comas D, Urrútia G.

PMID: 23888429

 

投与された方の経緯を後日確認したが,疼痛コントロールは比較的良好であった.急性膵炎の疼痛は,上記ガイドラインの通り,かなり苦痛を伴う.処方箋鑑査と病棟までの連絡に,少し時間がかかってしまって,その間の痛みをがまんされていたのかが気になった.

 

幸い,このガイドライン通り,初回投与済,継続処方だったため,担当看護師より投与まで少し時間があったので,問題がなかったことを確認できて,ほっとしたのを覚えている.

 

自分の知識のなさが,患者さんに不利益を与えてしまうかもしれないという経験をしました.痛みを我慢させてしまうのは医療従事者失格である.処方せんで焦っている場合ではないですよね.

その後救急の担当薬剤師になったときも,消化器の医師,研修医に上記処方についてよく情報提供を行いました.除痛に対して,なるべく早く適切な治療を,という思いからです.

  

ちなみに,

治療薬マニュアル2018では,

ブプレノルフィン塩酸塩

急性膵炎の疼痛緩和:初回0.3mg静注,続いて2.4mg/日の持続静注.

という記載がされている.

今は一般的な使用方法になっているという認識でしょうか.この本を持っていれば,悩まなかったであろうか?そこを見ている余裕が数年前にあったか?それは分かりません.

 

治療薬マニュアルか,今日の治療薬か.この2冊はいつも購入で迷う.治療薬マニュアルは分厚い分,情報がありますよね.

毎年新しいのを購入しているが,それぞれを隔年で購入している.セコイですかね.

 

自分の経験した苦い思い出です.皆様に少しでもお役に立てればと思います.

 

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