薬事日報の調査で,下記の記事がありました.
【薬事日報調査】薬大入学者、約4割が定員割れ‐13年度ピークに減少続く|薬事日報ウェブサイト
タイトルを見ると,その通りですが,4割が定員割れを起こしている,というのは
衝撃的ですね.少し考えてみたいと思います.
定員の削減が行われている薬学部
なんかこの話だけで,理解に苦しみますね.
薬学部の大学が地方も含め設置されている一方で,定員の削減が行われています.
大学を新設するより,整理した方が,はるかに良い気がしてしまうと感じるのは私だけでしょうか.
地方に薬学部,というのは,色々な状況を考えても必要なのかもしれませんが,
それ以上に,日本国内での動向を考える必要があるかと思います.
大学を新設しても,学生に魅力的な教育を提示できなければ,維持も難しいでしょう.
地方はそれなりのニーズがあるというのは,錯覚なのかもしれません.
大学を新設しても,4割の薬学部が定員を割り込んでいるというのは,今のニーズとマッチしているとは言えないのではないでしょうか.
定員設定がおかしい気もします.
薬事日報の無料の範囲で確認できる情報では,
昨年度(2018年度)は定員1万2940人,
本年度(2019年度)は定員1万2835人と,
105人減,実際の入学者数は300人ほど減少したとされています.
定員は削減されていますが,大学は増えている.
そして今後新設予定の大学があるのも驚きです.
薬学6年生になって,一体薬学部はどこに向かっているのでしょうか.
医学部の定員は,やはり国の医療の中心を担い,医療政策などにも関連するため,
過去より様々な検討がなされています.以下文部科学省のHpです.
医学部の定員をめぐる動向
検討会が行われ,需給の見通しなどから,2022年に需要と供給が均衡するとなっています.
これが今の医師不足の現状から,どこまで近づくかなど詳細を私が推測することはできませんし,意見を述べられる立場ではないのですがが,医学部の設置については,このような議論が国として行われているとうのが事実です.
色々なところでニュースになっているので,ご存知の方も多いでしょう.
医学部と比べるのは失礼かもしれませんが,薬学は…
定員の現実をのぞいてみる
今回の薬事日報の記事では,有料の登録で記事の確認ができますが,
それをここで記事とすることはできないので,昨年度(平成30年度)の状況が文部科学省のHpから確認できます.
各大学における入学試験・6年制学科生の修学状況を確認することができます.
各大学における入学試験・6年制学科生の修学状況等
各大学における入学試験・6年制学科生の修学状況等:文部科学省
PDFで確認できますので,眺めてみましょう.
平成30年度の倍率と充足率が一覧となっています.平成30年度倍率・充足率というところになります.
国立大学
まだ6年制と4年制の教育が行われている大学が多いですが,
倍率は1.7倍から5.5倍となっています.
入学定員充足率もすべてが100%を超えています.
100%ピッタリの大学もありますが,いずれも優秀な国立大学の現状となっています.
公立大学
平成30年度から新たに設立された,山口東京理科大学(公立です)も含む4大学となっています.
その山口東京理科大学の入学定員充足率が,99.2%となっておりますが,その他の公立大学も100%の大学を含め,全てが100%以上となっています.
倍率は2.4倍から6倍と,狭き門となっている現状です.
私立大学
授業料が1000万円をこえるような私立薬科大学の6年生.
入学は狭き門ではないのでしょうか.全国56大学の状況が一覧となっています.
倍率ですが…,1.0倍から8.7倍と,大きく差が開いています.
そして倍率が1倍の大学….6年生,4年制あわせて3大学もあります.
そして1.1倍,1.2倍というところも多数あります.
2倍未満の大学ですが,26大学ほどあります(すみません,目視なのでずれているかもしれません).
この倍率をみると,想像通りなのですが,2倍未満の大学は,都市部以外の大学がほとんどです.
地方での薬学部の新設は,その地域のために,というようなことも数年前は聞かれましたが,この現状を見ると,本当にこのままでよいのか,疑問しか残りません.
入試の状況が全てではないですし,倍率が全てではありません.しかし,気になる状況かと思います.
都市部の人気というものが,如実に出ている結果かと思います.
入学定員充足率を見てみましょう.40%台の大学もあります.
4年制と6年生で倍率,入学定員充足率も異なりますが,
40%台の大学が6大学もあります.
50%台は3大学,60%台は5大学あります.
4年制と6年生が両方80%を切っている大学もあります.
充足率がどの程度でよいのかは分かりませんが,私立大学の12大学(私立大学の20%にあたる)は,80%の定員を満たしていないという現実です.
大学の入学の状況と定員充足率,入試の倍率.新設薬科大学の状況など,色々の部分が見えてきます.
どうなのでしょうか,学部として.
自分も薬学部の出身で,母校などの数字を見ていると,
心穏やかになれないところもありますが,私立薬科大学全体として,
定員の80%も満たしていない大学が,私立大学の2割程度ある薬学部,そして40%台のところも存在する.
大学には,教員が必要でしょう.研究もおこなわれるでしょう.
大学教員は学生が少ない方が,きめ細やかな教育ができる,などと考えている人は少ないでしょう.
定員はそれで決まっているわけであって,定員に満たないというのは,純粋に考えて,大学の魅力がないという事に他なりません.
これだけの薬学部を作ってしまったという,日本の行政の方に
お伝えした方が良いのでしょうか.
文部科学省の方はとうの昔から知っている事実だと思います.
それでも薬科大学がこの日本に,これ以上必要なのでしょうか.
合併した方がよい状況なのではないでしょうか.
それがこの数字を見ていると,どうしても考えてしまいます.
5年次進級率はどうなのか
こちらも全ての大学のデータがあるわけではないですが,少し眺めてみましょう.
平成24年度入学生,平成30年度に薬剤師国家試験を受験できた,学生さんたちのデータです.
平成24年度入学生の,左から3つ目,5年次進級率の部分です.
国立大学
1つの大学が70%台ですが,100%の大学音含め,ほぼ進級できている状況です.
公立大学
2大学のデータしかないですが,80%台となっています.
私立大学
国公立の数字を見ているとその違いに愕然とします.80-90%台の大学もありますが,やはり低いところが気になります.
なんと最も低いところは,29.9%となっています.
他にも30-40%台の大学も複数あります.
薬学部は授業料が高騰しています.
6年生で1000万円を超える大学も多いことから,一度の留年は金額的にも相当な負担となっているに違いありません.
私立の薬学部は,入っておしまいではなく,卒業までがかなり大学によって異なっているようです.
1年生の時に入学した仲間が,6年生の時に1/3になっている,というのは,学生の問題かもしれませんが,大学の方にも問題はないのでしょうか?
このような数字がオープンになることで,わかる問題もあるかと思います.
私立薬科大学は,その存在意義も,問われているのではないでしょうか?
先日,下記のブログを書きました.色々な見方でみると,一般の目線からは
特殊な状況で,それは決して正常な状態ではないのではないかと感じています.
私立薬学部がなくなってしまうような状況が,もう目の前に来ているのではないかと,私は感じています.
それは悪いことではないかもしれませんし,この状況を見て,やはり正常ではないのではないかという見解を持つことも,大切なのではないでしょうか.
卒業してしまって,しばらくたつと,薬剤師国家試験の問題もあまり見たくなくなりますし,
嫌なことは忘れたい私は,母校にもそうですが,なるべく近づかないで,
ひっそり生活を送りたいと感じていた時もありました.
これは人それぞれでしょうが.
色々なひずみを,このような資料を眺めていると,感じてしまいます.
そして薬剤師国家試験合格率は…
これは薬学部として厳しい現実として受け止めなくてはいけない問題かと思っています.
合格率だけが全てではないです.
でも,合格するのとしないのは,雲泥の差があるのはご存じのとおりです.
例え1点でも,合格点を上回るかそうでないのか.薬剤師になれるのかなれないのか.
もちろん,その後は自らの自己研鑽に委ねられるので,試験を通って,そのままになってしまう人もいるかもしれません.
色々な苦い経験をした方が,薬剤師として,素晴らしく成長している方を何人も見ていますが,〇か✖か,というのは厳しい現実となって,大学側にもたらされます.
同様に平成24年度の入学者のうちの,国家試験合格率を見てみましょう.
平成24年度入学というところの,一番右のカラム,合格率の部分です.
国立大学
数字が出ていないところもありますが,最も高い九州大学は96.9%と驚きの数字です.入学して全てが5年生に進み,1名のみが卒業できず,その他の学生はすべて薬剤師国家試験に合格しています.
最も低くても70%となっています.
公立大学
2校のみのデータとなっています.いずれも70%台となっています.
国立,公立の薬学部に入学できても,ストレートで薬剤師国家試験に合格できる割合は,最も低くて70%,
すなわち優秀であるこれらの学生でも,
3割の学生さんたちは何らかの形で,ストレートの6年で薬剤師国家試験を
合格できていないという厳しい現実があります.
これは医学部などと比べると,低い数字ではないかもしれませんが,決して高い数字ではないという,厳しい現実があると思います.
私立大学
私立大学に目を向けてみると,ここも本当に差があります.
大学進学を目指す際には,この数字を見るのが現実的でしょう.
最も高いのは北里大学で85.8%となっています.
そして大学名は伏せますが,最も低い数字となっていたのは27.4%という数字でした.この数字には驚きました.
1年制として入学し,6年間勉強して国家試験に合格できたのが,27.4%.
3割を切っています.
国公立大学と異なり,7割の学生が,ストレートで薬剤師国家試験を合格できないというのは,実に心が痛みます.
これは学生の質,というだけで済む問題なのでしょうか.
学生や親の気持ちを考えると,とても切なくなります.
厳しいようですが,大学として,今後成り立っていくのでしょうか.
国家試験合格率からみる,高い合格率となっている私立大学は…
合格率が高い私立薬学部を抜粋してみます.
毎年薬剤師国家試験の合格率が発表されますが,それは受けた人によって違いが出ている事も考えられます.
よろしければ下記もどうぞ.
薬剤師国家試験の合格率をいろいろとみてみよう - 病院薬剤師のブログ
受ける人を制限しているようであれば,合格率は違ってきます.
今回は,平成24年度に入学した学生のうち,
どの程度がストレートで薬剤師国家試験を合格したのか,という事になる資料のため,
より参考となるでしょう.
上記の通り,私立大学薬学部で,現役ストレートで薬剤師国家試験の合格率最も高いのは北里大学です.
その他,北里大学を除く,上記の国公立大学と同様の70%を超える大学は下記です.
東京理科大学,慶應義塾大学,昭和大学,東京薬科大学,星薬科大学,武蔵野大学,明治薬科大学,京都薬科大学,福岡大学となっています.
この70%という数字もあいまいですが,これらの大学はストレートで薬剤師になれる,という意味では優秀な大学なのだと思います.
そして,お気づきでしょうか.
この大学のほとんどが,都市部にある大学となっています.そしてこれらの大学の卒業率もあわせて少し表としてみました.
ちょっと強引ですが...
5年次の進級率も高く,入学してから,しっかりとした教育がなされているのでしょう.
平成24年度の入学に関する情報がここではなかったのですが,
少し強引に平成30年の数字を入れてみますと,
入学時の倍率も高く,人気があるという事も分かりますし,その大学の定員もある程度充足していることが分かります.
当たり前なのかもしれませんが,
当たり前のことができる大学を選んで入学することが,薬剤師国家試験の合格を目指すのであれば,最も近道となるでしょう.
全てが当たり前の数字になっているのかもしれません.
これで何かが言えるわけではないですが,
もしかしたら,薬学のゴールの一つである薬剤師国家試験を,
ストレート合格を目指すのであれば,やはり大学をしっかり見極めなければならないのかもしれません.
しかしながら,勉強するのは本人です.
周りの環境のせいにもできませんし,実際30%台であっても,
30%の方は合格しています.大学だけの問題ではないですし,
学ぶ側の問題もあるかと思います.
しかしながら,下記のように,日本の教育として,薬学部は今,
岐路に立っているのは事実です.
薬学部,色々と闇が深い気がします.
薬学部,という得体のしれない学部について考えてみる - 病院薬剤師のブログ
大学経営もお金がかかりますし,日本の国としての補助もあるでしょう.
薬学部がどのようになっていくべきなのか,というのが,まさしく今問われている気がします.
薬学部に未来はあるのか
それでも薬学を志す,若き未来のある学生たちに,薬学部を選んでくれてよかったと思ってもらえる日は来るのでしょうか.
そんな明るい未来を期待したいですし,それを期待できない大学は,将来的に淘汰されても致し方ないのでしょう.
そしてそれが刻一刻と近づいているのかもしれません.
薬剤師になった人も,これからなる人も,薬剤師としての真価が問われるような時代になってきています.
そして,その時代に合う,社会から認められた薬剤師になりたいものです.
皆さんの未来は明るいでしょうか?
色々なことに躓いている時間はないのです.
社会から必要とされない薬剤師に,向かってはいないでしょうか.
そしてこれは,大いに自戒と反省を込めて,です.