本年度から本格的にゾフルーザが使用可能となりました。
様々な報告が最近出てきているが、病院薬剤師の立場から少し考えてみたい。
あえて2018から2019年シーズン、病院薬剤師の立場から、と書いた理由については、現時点での情報ということと(来シーズン以降は変わることになりうる可能性を含む)、それぞれの立場があると思うので、今回は病院薬剤師からの視点という事でご容赦いただきたいと思います。
ゾフルーザの有用性
ゾフルーザは、その有効性が過日のNEJMの報告、
N Engl J Med 2018; 379:913-923
Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents
で報告されています。
NEJMは、世界の医学雑誌の中でも最も権威のある雑誌であり、私が何か言える立場ではないのだが、本文のみでは少し理解できない部分も多い。色々なところで指摘されているが、自分なりにまとめてみました。
本論文のポイントは
・10代を含む健康な成人が対象(基礎疾患があるハイリスク患者は除外)
・プラセボに比べて症状緩和までの時間が約1日程度早い
・タミフルに比べてウイルス排泄日数を短縮(2日程度)
あたりででしょうか。
自分で読んだあと、下記の記事を見つけることができた。
福家良太先生(東北医科薬科大学病院)の記事が良くまとめられています。こちらもご一読いただきたい。というよりこちらをお読みいただければすべて、なのですが。
上記福家先生の内容を、全ての医療従事者が理解いただければ、おそらく本年度のインフルエンザ治療についてのコンセンサスが得られると思います。
薬剤師からの視点
今回は、あえて病院薬剤師の視点から考察してみます。
薬価
個人的に気になったのは、やはり薬価です。
ゾフルーザは加算もついているため、他の薬剤と比較すると、高額となっている。タミフルの後発品も発売され、薬価は圧倒的にオセルタミビルが安い。タミフルの後発品も、現時点では十分量を供給できるとされています(2019年1月現在)。現在の医療費などを考慮すると、従来の薬剤も十分ではないかと考えられる。
体内動態
次は、半減期100時間という長さをどう考えるか、です。
安全性では特に目立ったものは報告されていないので、気にしすぎなのかもしれないが、何か副作用が出てきたときに、半減期の長さは問題となりうる。
実際使用されるケースでは、2回目の受診はどうなるのであろうか。
タミフル、イナビル(特にイナビルの場合)服用後に、安全性の情報の収集がなかなかうまく出来なかった現状がある(就業規制などのために再度来院しなければ、どうなったかが分からないため)。
この疾患特有かもしれません。
安全性
新しい作用機序、新薬となると、気になるのはやはり安全性ではないでしょうか?
過去にも新しい作用機序で、臨床試験が優れており、少し意図と異なった使用が多かったためか、ブルーレターが発行されている薬剤が存在する。DPP-4とSU剤なども記憶に新しいです。
ビクトーザ
https://www.pmda.go.jp/files/000143373.pdf
プラザキサ
https://www.pmda.go.jp/files/000143273.pdf
ランマーク
https://www.pmda.go.jp/files/000148439.pdf
新しい作用機序の薬剤というのは、実臨床においては、より安全な使用が望まれると考えられます。
2019/1/10追記
ゾフルーザの製造販売後調査の中間報告をいただきました.
実臨床での調査となりますので,まさしくリアルワールドの報告となります.
915例を収集,安全性評価対象900例(結構集めましたね),有効性評価対象897例
安全性評価対象の症例のうち小児が多め(15歳未満)291例,32.3%となっています.
昨シーズン(2018年)からの資料のためかもしれません.
詳細は今後発表があるかと思いますが,
副作用の発言割合は11.33%とされています.ほぼ非重篤で,下痢6.22%,頭痛1.78%となっており,重篤なものは今のところ少なさそうです.
薬剤師の視点からすると,半減期が長く,タンパク結合も高い薬剤であることから,何か副作用が出てしまうと長引いてしまう,という心配はありましたが,今のところ大きな問題にはなっていないようです.
単回投与の薬剤,それもインフルエンザで,投与後の安全性の確認を治験ではなく実臨床で行うのは無理ではないかと思っていました.
本調査は,開業医の先生が中心になっていたようですが,投与後ご自宅に電話での確認を行って調査したとの事でした.
表になっていますが,副作用の種類別重篤性,発現時期,転帰,回復又は軽快までの期間が記載されています.
この情報は非常にありがたいです.安全性に関する発現時期は,服用したばかりの時が最も多いかと思われます.発生した副作用と,その症状が回復した時期までの傾向が分かるので,貴重な情報です.ご協力された先生方に感謝いたします.
簡易懸濁が可能
ちなみに簡易懸濁が可能なようです.55℃で5分,8Frを通過するとの事です.
経管からの投与をどれだけ行う場面があるかわかりませんが,情報として知っておくとよいでしょう.
院内はラピアクタになるかと思います.
耐性は・・・
耐性の問題も気になります.
成人の臨床試験では、370例中36例(9.7%)で変異が認められたとされている。小児の試験では77例中18例(23.3%)でアミノ酸変異株が認められています。
耐性ではなく低感受性であるといったこと
変異によりウイルス増殖能が低下する
変異が生じた状況でウイルスが他の人へ伝搬するウイルス量なのか
など、この問題については様々な議論があるかと思います。
この点に関しては気になる部分ですが、専門家などの意見などを聞きながら、今後の状況を確認していく必要があるかと思われます。
なにせ、インフルエンザウイルスは、薬の開発から比べるとずいぶん昔から流行しているわけで、そう簡単に答えが出るものではないとも感じます。
以上を、病院薬剤師の視点でまとめてみます。当院ICT医師と確認した事項もあります。
今シーズンでのゾフルーザの位置づけは?
①病院内でインフルエンザが流行したとき、ゾフルーザは必要となるタイミングがあるか?
現時点での試験がCAPSTONE-1のみの現状であるため、健康成人での有効性となる。病院内で健康成人は入院しているであろうか?
②ウイルス量を減らす、という事であれば、院内で発生した際、まず確定した人に服用させる可能性は?
これも上記CAPSTONE-1のみの結果では、判断できない。DPC病院では厳しいと言わざるを得ないのではないかと考える。
③病院職員であれば服用できるのでは?
服用可能かと考えられるが、自宅療養となるため、ウイルス排泄量や自覚症状などの差はあまり大きな影響にならないのではないか、とも考えられる。薬価の面からもタミフルでよいのではないだろうか。
④小児患者は?
顆粒が発売されたが、日本小児科学会、2018/2019 シーズンのインフルエンザ治療指針より、今シーズンの推奨はされていない。
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2018_2019_influenza_all.pdf
2018/11/22追記
塩野義 抗インフルエンザ薬ゾフルーザの顆粒剤、今冬は発売せず 適応外使用のリスク回避 | 薬食審・薬価収載 | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnline
小児領域の使用は, 20kg未満の小児への適応外使用のリスク回避のため,本年度は発売しないとの事.来シーズン以降へ.
病院薬剤師の立場から
CAPSTONE-1の結果のみでは、今シーズンはゾフルーザの出番は少ないように思われます。
入院患者、外来患者さんも、大学病院の外来にかかる患者さんの基礎疾患などを考えると、です。
医療スタッフも、現時点で高額な薬剤を服用するメリットがあるのかは判断できません。
病院薬剤師、と書いた理由は、開業されている医師や保険薬局の薬剤師の立場では少し異なるのではないかと考えたためです。
これだけマスコミが、1回服用の新薬、と報道していると、
おそらく一般の方は、1回服用して治るなら、それが欲しい、と要望するであろうことが予想できます。
開業されている先生方は,その意見を無視するわけにもいかないだろうと想像がつくからであり、さらに合併症をもっていない患者さんの診察にもあたっているためで、背景が少し異なっているためです。
インフル薬「ゾフルーザ」シェア1位に 負担軽く人気
https://www.sankei.com/economy/news/181106/ecn1811060023-n1.html
インフル新治療薬ゾフルーザは1回のむだけ|日テレNEWS24
www.news24.jp/articles/2018/11/08/07408784.html
インフルエンザが早くも大流行の兆し 新薬「ゾフルーザ」は予防薬となる可能性も
インフルエンザが早くも大流行の兆し 新薬「ゾフルーザ」は予防薬となる可能性も|ニフティニュース
この薬剤がダメ、使うべきではない、という話ではないです。
論文化されていないのでまだ未定だが、CAPSTONE-2のポジティブな情報も挙がってきています。
2018 年 10 月 4 日 塩野義製薬株式会社
バロキサビル マルボキシルの臨床試験結果の学会発表について
http://www.shionogi.co.jp/company/news/qdv9fu000001ecme-att/181004.pdf
この情報が公的に周知されるであろう来シーズンは、さらに状況が変わるかもしれない。それゆえ2018-2019シーズンと限定しました。
インフルエンザに関する誤解
インフルエンザについては、以前からいろいろな誤解がありました。
インフルエンザのキットの結果が陽性でないと、薬はダメなのではないかという混乱もあったり(下記は臨床所見等、医師が総合的に判断するという連絡文書)、
https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei/2009/09/dl/info0915-01.pdf
現在のゾフルーザのアピールの仕方が、数年前のラピアクタに関する塩野義製薬のプロモーションに近く、嫌悪感を持つ医師や薬剤師もいる事、は事実かもしれません。
EARLの医学ノート 参照
塩野義製薬のインフルエンザの啓蒙CM・サイトについて
塩野義製薬のインフルエンザの啓蒙CM・サイトについて : EARLの医学ノート
そもそも抗インフルエンザ薬が必要でないケースもあるわけで、これは医師にその判断が委ねられているわけです。
当然、異常行動の確認や、何よりインフルエンザワクチンの接種の大切さが様々なところで大きく取りあげられている。
それらの情報をしっかり収集し、薬剤師としてICTと連携し、しっかり病院内へ周知することが大切かと考えられます。
ゾフルーザを理解する
最後に、下記塩野義製薬のホームページに、ゾフルーザの作用機序も含めた動画が視聴できる。
医療関係者確認 | 医療関係者の皆さま | シオノギ製薬(塩野義製薬)
今分かっているインフルエンザウイルスについての情報が分かりやすく解説されている。
7分程度で視聴できるので、ぜひ一度見ておくことをお勧めします。
これからのインフルエンザ治療
インフルエンザに対して、タミフルもなかった時代、も当然ありました。
タミフル発売が2001年と記憶しています。
それまではアマンタジンを当時は適応外で使ったり、対症療法だけでした。
今は、色々な選択肢が増えた、と考えて、それぞれの特徴を知っておきたいと思います。
医師がそれぞれの立場で診断、治療をする際に、薬剤師として補助的な役割を担う必要があると考えています。
なるべくであれば流行してほしくはないインフルエンザ。
注意していても思わぬところで、基礎疾患がない人も感染する。
人にうつさない、という認識も大切で、予防や休息も重要であるにも関わらず、
それに比べて治療薬剤の話が先行しすぎてしまう。
単回の抗インフルエンザ薬の社会へ与える恩恵は大きいと考えます。
しかしながら、新薬は慎重に使用すべきであり、守らなくてはいけないのも事実であるでしょう。
今後の処方動向や耐性化、流行状況なども確認しつつ、こういった薬剤が、適切に処方がなされることを願います。
2019/01/10更新