病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

薬剤師国家試験の合格率をいろいろとみてみよう

104回薬剤師国家試験が終了,発表がありました.

 

第97回からの結果も厚生労働省から公開されています.

薬剤師国家試験のページ |厚生労働省

 

 

毎年やきもきした気持ちで発表日を迎えていますが,過去の色々な公開されている数字から,独断と偏見で,薬剤師国家試験の数字を眺めてみたいと思います.

 

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試験

 

 

薬剤師国家試験は難しいのか

 これに対する回答を,私は持ち合わせていません.何をもって難しいかという事と,合格した人からすれば難しくはないのではないか,など色々とあるからです.

 

過去の合格率は,全体で70%程度です.6年学んだ学生がチャレンジする薬剤師国家試験.簡単なものではないでしょう.

 

ちなみに,お恥ずかしい話ですが,私も毎年見ていますが,実務などに関してはほぼ問題ないのですが,基礎系の問題は解けないものも…

 

そして国家試験の勉強が,全て働いたときに使われる知識なのか?というのもよく問題になります.

働いたとき,というのも就職先が様々なため,もちろん全ての職種に対応したものとはなりえないわけですが,

この治療に対する薬物療法,もうほぼ行われてないけど,といったものを学生が一生懸命勉強しているのも見かけます.

 

それだけ現場の医療は,めまぐるしく変化していることも意味します.

 

当然,国家試験を通り,薬剤師免許を取得する,というのは通過点であり,目的ではないと思います.その後の職業によって,常に新しい情報を収集,自己研鑽が必要で,その最低限の質を担保する試験といえるのではないかと思います.

 

国家試験に合格し,働き始める方がいらっしゃいましたら,ぜひこちらも見てみて下さい.

www.riquartette.tokyo

 

 

薬剤師国家試験の合格率を見てみよう

 これからの資料は,上記で記載した通り,全て厚生労働省の数字によるものです.

ですので,基本的には間違っていないかと思いますが,一部私が集計したものも含まれます.あまり信じ切らないように,お願いいたします.

 

あくまで数字を見ながら,なんとなく眺めてみましょう.合格率が全てではないでしょうが,やはり気になる数字です.

 

過去5回の薬剤師国家試験の数字を眺めてみると

 

男女差はあるのでしょうか?

 

薬学部は女性が多い印象です.

半々くらいという大学もあるかと思います.私の周りでも,女性が多いですが,私の職場では,女性薬剤師がいなくては成り立たない職場です.しっかりお仕事いただけますし,何よりよく気づく方が多い.アンサングシンデレラのイメージがあるかと思いますが,まさしく病院はその通りの状況です.

その点,私を含む男性は…

特に私などのようなものは….申し訳ないです….

 

過去の合格率を見てみましょう.

 

全体の合格率

 

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男女差
 
 
 

全体を通して女子の方が,合格率が高い.なんとなく納得できますね.103,104回でその差は縮まってきています.ガンバレ薬学男子!!

  

新卒

過去5回では,新卒は男子の方がわずかですが,合格率は高いようです.ほぼ同じですね.新卒男子,希望を持とう!

 

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新卒男女差

既卒

既卒になると女子の方が,合格率が高い傾向です.これが全体の合格率の男女差になっています.ガンバレ既卒薬学男子!

 

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既卒男女差

合格率は全体を見ても,あまり男女差はないように見えます.

新卒男子は結構頑張っているんですね.

私が学生の時の成績は,私はともかく,上位はほぼ女性でした.

そして今の職場も,女性に助けてもらってばかりです.

既卒男子の合格率が低いのが気になります.ぜひ頑張っていただきたいです.

 

設置主体別の合格率は?

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設置主体別

国公立は安定した合格率となっています.ほぼ同率の割合で,非常に優秀です.

入学時の偏差値も私立に比べて高く,一般的にいわれている優秀な方がそのまま卒業まで学力を維持されているのでしょう.

その一方で,ここ2回においては,私立は合格率70%を切っています.全体的に合格率が低かった第100回もそうですが,国公立との差が出てしまっています.大学も多いですし,一概にまとめるのは良くないかもしれませんが.

 

国公立の薬学部出身者は,薬剤師免許がなくても,就職に特に影響が大きくないということ,数年前まではよく聞いていました.その点,私立は薬剤師国家試験合格は大きな目標となっているため,少し乖離がでてきているのかもしれません.

 

新卒,既卒の差は?

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新卒既卒差

6年生の新卒,既卒を見てみますと,新卒は100回を除くと概ね85%の合格率となっています.その一方で,既卒を見ると,徐々に合格率が下がっているのが分かります.

既卒の予備校の教育と,新卒の大学教育の差が大きいとはあまり思えません.

 

当然既卒の方は,一度トライしていることもあり,学力の影響かと思われるのですが,それでも合格率が低下傾向なのは気になります.

ここ2回,新卒は80%以上を維持しているのに対して,既卒者の合格率は50%を切っています.

これは何を意味するのでしょうか?

 

薬剤師国家試験のための予備校は,そこに特化しているため,少しお話を聞いたことがありますが,大学の国家試験対策よりも,むしろ優れているのではないかと感じました.

もちろん大学の差はあるかと思います.

そして,この数字は,一度目に合格できなかった場合の厳しさを,突き付けられているのではないかと思います.

再度トライする方は,とにかくぬかりなく,油断なく.傾向は変わるかもしれませんが,それだけを理由にせず,努力を怠らないように,努めていただきたいです.

 

 

ちょっと気になる数字が…

 

もともと気になっていたのですが,この数字を見てみて下さい.

 

出願者数 受験者数について

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出願者数と受験者数
出願しても,国家試験を受験していないひとがいる

出願しても受験していない人が,結構いることがわかります.

出願するなら受ければいいのに,と思っていましたが,

受ける,という事は大学の合格率にも影響するため,何らかの規制がかかっているのでは,などと考えてしまいます.

 

104回を例にとりますと,15,796人が出願,14,376人が受験,10,194が合格,合格率70.91%となっています.

つまり,15,796-14,376=1,420人もの人が受験をしていません.約9%が受験をしていないという事になります.これは大きな数字なのではないでしょうか.

 

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未受験者数

 

100回では2000人以上,101回以降も未受験数は毎年1200-1700人に及びます.

全受験数の10%程度にあたります.10人に1人は出願して,受験していないという事になります.

 

 

出願しても受験しない人たちというのは…

割合としては新卒の未受験数が多いです.新卒で1000人くらいの方が毎年国家試験を出願して受けていないという事になります.

下記のとおりになりますが,全体の約10%にあたり,受けていない人は新卒の方が多い(70-80%)になっています.

 

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未受験者における新卒の割合

既卒やそのほかの受験資格がある方の,未受験の割合は新卒が7割のため,残りの2-3割となっています.

せっかく薬学部6年生になり,新卒で薬剤師国家試験を受けようと出願したものの,

受験できていない新卒薬学生が毎年1000人に及ぶ(約10%),という事は,何を意味しているのでしょうか.

卒業できていなければ,新卒,という言葉は適切ではないかもしれませんが.

 

6年生になり,いざ国家試験を受ける,というときに受けれない状況,ということになるのですが,おそらくその大きな理由の一つに,卒業試験を合格できず,卒業できないため国家試験を受験できない,という事があるのではないかと思います.

 

過去5年間の薬剤師国家試験,未受験率が高い大学は…

 

大学名は伏せますが,過去5年分の資料から,ちょっとした資料を作成してみました.

・先ほどの国家試験の合格率で差が出ている私立大学のみに限定

・国家試験の出願をしたものの,試験を受けていない学生(未受験率)を算出

・上位と下位のトップ10大学の成績を作成(平均合格率含む)

 

 

大学名は調べようと思えば調べられると思いますが,過去5年で出願したけど受験していない人数が200人を超えている大学もあります.

もちろん大学の定員にもよりますが,最も高いところは未受験の割合が37%もありました.新卒の方でも国家試験を受験すらできていないかたが30%を超えるという状況です.

 

すごい状況です.

 

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未受験率が高い大学

 

その一方で,未受験率が低い大学は,平均しても10%を下回っており,ほぼ受験に至っている大学も多くあります.当日の体調不良などもあるので,100%は難しいかもしれませんが,上記とはずいぶん離れた数字になっています.

 

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未受験率が低い大学

未受験となる,受験しないで留年になる,というのは,すなわち国家試験を受験する人が,より優秀な人になるであろうと考えられるため,大学の合格率は上昇しそうな気がします.

 

ところが,平均をとってみると,

未受験率が高い大学では過去5回の新卒の合格率の平均は73.7%,

一方でほぼ受験に至っている大学の合格率は82.1%となりました.

 

国家試験の出願をし,そして国家試験の受験までに振り分けられ,受験できなかった(留年,もしくは卒業できない),というような大学は,そのようなことを行わなかった大学に比べて,薬剤師国家試験の過去5年の平均の合格率が高いどころか,逆に低くなっている傾向になりました.

 

これも何を意味するのでしょうか.

 

・国家試験の出願後に,卒業試験などで受験の有無を振り分けることが行われている

 (タイミングとしてそれは妥当な時期なのか)

・6年生の段階で,多数の留年者,卒業延期者が多く出ているのは,大学の問題では?

・国家試験の出願をし,その後未受験となっても,合格率が決して高いわけではない.それを行う意味は果たしてあるのか(行わないともっと低くなってしまうかもしれませんが)

・そもそもその大学は,薬剤師国家試験に耐えうるような教育を行えているのか,もしくはその学生の資質も問われているのではないか,という疑問も

 

薬剤師国家試験は,6年間勉強をして合格できる,とてもつらい勉強の上に成り立つ国家資格だと思っています.

生半可な気持ちでの受験では,合格は難しいでしょう.

そして高い質を保つための,これからの未来を担う薬剤師教育を行うべき大学も,もしかしたらその存在意義を再確認するところに来ているのかもしれません.

 

薬剤師の不足から,薬学が地元にあれば,というお話はよく聞きますし,それもよく分かります.しかしながら,その質,教育を保てなければ,大学の存在意義が危うくなるのは必定です.

 

もちろん国家試験だけが目的ではないですし,とって終わりでもないです.

 

しかしながら,私立の高額な学費を支払い,薬剤師に慣れないというのは,やはり教育の方法やシステムに何かひずみが出ているのではないかと,蚊帳の外からですが考えてしまいます.

 

これからの薬学教育は,どこへ向かっていくのでしょうか.

 

学生の質もそうですが,大学の教育,指導者側も含め,色々なところが変革の時期に来ているという事なのでしょう.

6年生の教育は,4年生より素晴らしいとは思いますが,それを実証する時期にも来ています.

優れた薬剤師を生みだす,そしてその質を担保する,薬剤師国家試験を合格することができるための基礎学力を培う大学の意味が,再度問われている,という事かもしれません.