毎年クリスマスが近づくと,ちょっとそわそわしますよね?町は華やかになり,クリスマス一色,楽しい音楽も流れています.1年で一番ワクワクする季節がやってきます.
そして職場の勤務表の,12/24の当直に上司があたっていたのを見つけてしまったりします.残業などでも同様の意味です.
理由は聞かずに交代を申し出るか,いやはや何も言わずじっとしているか.判断が迫られます.いつもとは違った緊張感.
予定がありますよね,と聞いていいのかダメなのか.今までの人生経験など,全ての情報を寄せ集め,試される時期になります.
そうです,10代のころに感じていたあの時とは違う,妙なドキドキを感じながら,大人はクリスマスを迎えていくのです.私だけでしょうか?いや,世の中の社会人はみな同じ経験をしていると思います.そんな方々に捧げる論文をご紹介いたします.
英国医学雑誌,BMJから,クリスマスや祝祭日,スポーツイベントなど際の,心筋梗塞の発生についての研究発表が出ています.
BMJは,ご存知の通り,世界5大医学雑誌の一つです.その内容は臨床に大きく影響する論文とされています.
そのBMJが,クリスマス時期になると,面白論文を掲載してくれます.それもかなり凝っています.
過去にも,病棟に置いたチョコレートケーキの生存率(!?),どの職種に食べられているかという研究や,ETを治療する,など,刺激的なものが多く掲載されています.私が論文読むのって楽しい,と感じたのは,実はこのBMJのクリスマス論文からです.
今年は,比較的真面目な内容が多い印象です.今回私が読んでみたのは,心臓のイベント発生のピークが,色々なイベントの影響を受けるか,というものです.
Christmas, national holidays, sport events, and time factors as triggers of acute myocardial infarction: SWEDEHEART observational study 1998-2013
BMJ 2018; 363 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.k4811 (Published 12 December 2018)
Cite this as: BMJ 2018;363:k4811
いつもBMJ読むときは,ちょっと緊張気味で読みます.ですが,今回はのんびり読めました.
この研究は1998年から2013年の間の,スウェーデンにおける心筋梗塞の症例についての調査となっています.冠動脈のケアユニットに入院する,心筋梗塞などの患者が,ここでは登録されています.体重や喫煙の状況,心電図所見や,その他の合併症などがデータとして収集されています.
休日についても記載されています.
スウェーデンの状況です.
クリスマスは12月24日が,お祝いのメインの日で,25日がクリスマスデー,Boxing Dayという26日まで,お祝いが続くと書かれています.日本では24, 25日が多いかと思いますが,スウェーデンでは26日までお祝いされているというのは知りませんでした.
新年はどこでも12/31,1/1になりますが,新年のお祝いするために,食べ物やアルコール飲料をたくさん取り,また夜中に花火をする,というお祝いと書かれています.
日本でもお祝いしますが,なんとなくゆく年くる年をみて,除夜の鐘(ちょっと昭和感出し過ぎでしょうか?)聞いて,新年を迎えるという日本人がほとんどという事(?)を考えると,スウェーデンは結構過激ですね.
年末年始に花火で大騒ぎするのが通常とは思いませんでした.スウェーデンの方はノリがいいのでしょう.間違っていたらゴメンナサイ.
イースターのお祝いと言うのは,日本では,なじみがないですよね.私も恥ずかしながら,実はお祝いしたことはありません.卵をよく食べているといったことや,子供やイースターの魔女として服を着ているといったことが書かれています.なんだか楽しそうなイベントですね.
スウェーデンではクリスマスを除いて,夏の休みというのは重要な日のようです.西欧は夏も涼しそうでうらやましいですよね.夏も歌ったり食べたり飲んだり,大騒ぎしているようなことが記載をされています.これだけ見ると,スウェーデンの方は楽しむのが上手そうです.
調査の結果を見ると,ST上昇と非ST上昇型の心筋梗塞は,両方ともクリスマスにリスクが高くなっています.大晦日よりお正月でリスクが高かったとされています.
その中でも,クリスマスイブの日の心筋梗塞のリスクが,他の休日よりも高かったとされています.クリスマスイブは要注意ですね.当直している場合ではありません.これで断る理由ができますね(?).どうせ何もないくせに,って言われるのは分かっていますけど…
イベントの発生時間を見ると,こちらは朝8時が最も高いと言う結果となっています.
クリスマスイブだけで見てみると,その発症時間から最も高い時間は午後10時が高いとされています.
今回の研究は,様々な休みの日の用いた心筋梗塞に関する16年間のデータを用いて,心筋梗塞のリスクと,休日の関係を調べてみた研究になります.
スポーツイベントも心筋梗塞の高いリスクとされていますが,今回の調査では関係は少ないという結果となっていました.
これらの結果は過去のデータと同じような傾向であったとされています.
クリスマスイブの日に心筋梗塞のリスクが高いとされていますが,心筋梗塞は前述の通り,朝の時間よりも少しピークがずれて午後の10時にピークがあるとされています.
様々なストレスにより,急性心筋梗塞のリスクを高めるとされています.クリスマスイブの日には,色々な感情が起こっている影響なのでしょうか.
そうすると,リスクの高い人は,クリスマスイブの時に,1泊だけ入院した方が心筋梗塞のリスクが減るんではないか,と思ったりもしてしまいますが,それは本来おかしな話ですよね.むしろその時に入院していたら,その時期だけ一時帰宅したい,と考えると思います.
この調査では,スポーツイベントに関しては,リスクの上昇はあまりなかったとされています.
別論文になりますが.2008年のNEJMの論文(Cardiovascular events during World Cup soccer.N Engl J Med. 2008 Jan 31;358(5):475-83. PMID: 18234752)では,2006年,ドイツワールドカップでの報告で,スポーツイベント,特にサッカーワールドカップの,ドイツチームについての報告がされています.
ドイツ開催でドイツ人のイベント発生をみたら,それは勝負に国全体でヒートアップするし,イベント増えるのは分かりますよね.
強い心理的なストレスが,心筋梗塞を誘発すると言う事は分かっていますが,今回のクリスマスの研究においては,関連するようなリスクというのは見られなかったとされています.
スポーツイベントを見る事は,安全ではないかと言うような形でこの論文はまとめられています.よかったです.
最も高いリスクとしては,クリスマスイブの,22:00前後, 75歳以上の高齢者,糖尿病,冠動脈疾患の既往を持つ方,という,言われてみれば納得いくような内容となっているかと思います.
当然冬は寒くなったりもしますし,環境の変化もあるかと思います.ただそれ以上に,年末年始,クリスマスなどで暴飲暴食や,不規則な食事や,睡眠が不十分であるといったことは,やはり心臓にはよろしくないのではないかと言うことを考えると,この論文は納得できるような内容ではないかと思います.
適度にお休みをお祝いし,楽しく過ごせるのが,最も大切なことではないかと考えます.この研究は,少なくともスポーツイベントは,あまり影響は無いのではないか,ということも示唆されました.
自分がいざ,同じようなリスクを持つようになったとしても,少しでも楽しく,自分らしく,クリスマスや年末年始を過ごしたいなと思います.とても興味深い論文でした.
というわけで,クリスマスイブに当直をするのは,やはりよろしくなさそうです.先輩,お願いいたします.
というか,若者が変わるべきな気がしてきました.答えはないですね.仕事はほどほどに.
大切な人には22:00頃に生存確認をしましょう.お酒,食事も取り過ぎず,ほどほどに.睡眠をしっかりとって,体を大切に.スポーツイベントに多少一喜一憂するのもいいでしょう.
皆さまが,ステキなクリスマスを迎えられるのをお祈りしております.