うれしいニュースがありました.耐性菌対策における,新薬に関するニュースです.武田薬品,エーザイ,頑張ってください!!
ミクスより
武田薬品とエーザイ 化合物ライブラリー提供で新規抗菌薬開発目指す AMR対策でGARDPと | 国内ニュース | ニュース | ミクスOnline
今回のニュースは,武田薬品とエーザイの化合物が,国を超えて,世界的な新規抗菌薬の開発につながるのではないか,という期待をいだかせるような,素晴らしいニュースです.
抗菌薬は,使用すると,相手が微生物である以上,耐性化を来すことは分かっているため,なるべく治療が終了すれば,速やかに中止すべきである薬のため,長期の投与が行われにくいのです.
それは,耐性菌を生み出さないために,当然のことではあるのですが,開発する企業にとっては,使用量が減るわけで,また耐性化してしまえば薬剤は使用できないという,メリットを感じられない薬剤となってしまっています.
国が,公的に薬剤の開発ができるのであれば,このような問題はないのかもしれません.しかしながら,製薬会社は営利企業であるため,その企業倫理をもってしても,赤字の薬剤を継続して発売,開発することはできないのが実情でしょう.これを責めることは誰もできないと思います.抗菌薬は,ペニシリンが開発されてから,そのような運命を持っているのです.
下記にWHOの資料を示します.開発が低迷しているというのは日本だけではないことが分かります.
Antimicrobial resistance: global report on surveillance 2014
横が年です.その時代に開発された薬が書かれています.1990年以降は・・・
発売されてくる薬がなかなかなく,現在では,過去に開発された,(まだ完全に)耐性化していない薬を使っているということになります.
一部は耐性化しているかもしれません.それはすなわち,今の薬剤が耐性化してしまうと,使える薬がなくなるという事になります.
今回のニュースは,開発されにくい抗菌薬の領域に,新しい風が吹こうとしていることを意味すると思います.
武田薬品でもエーザイの社員でもないですし,株も持ってはいませんが,ぜひこの事業を進めていただきたい,と思います.
抗菌薬の開発が,全く進んでいないか,というと,そうではないです.
ただ,開発から承認,実臨床への使用となると,多くの時間がかかるのは事実です.
医薬ジャーナル 増刊号 新薬展望2018(Vol.54 S-1) p95(495)ー p101(501)
松元先生らの報告では,現在開発されている,新規抗菌薬についてのまとめられています.
期待をこめて,新しい作用機序の薬剤がいくつか紹介されています.まだ先になるであろうが,期待されている抗菌薬も確かに存在します.
しかしながら,新しい薬剤は,必ず耐性菌の問題をかかえているということを忘れてはいけないと思います.
発売されてからも,その薬剤を大切に使う,耐性化しないようにするためにはどのようにしたらよいかを考えながら使用する必要があります.
薬物の血中濃度を測定することにより,有用性が保てるのであれば,そういった基準をつくり,大切に使うといったことが現時点では求められてきています.副作用だけではなく,有効性を考慮したTDMも今後盛んにおこなわれるようになることでしょう.
抗菌薬は,抗がん剤領域と比べて,はるかに薬剤開発が進んでいない領域であるのは,現在のところ誰もが認めることだと思う.
その中では,将来的に薬剤耐性菌で起因する死亡者が,がん患者以上となる可能性を秘めているという報告から考えると,とても今の状況を続けていてよいわけがないと思います.今も大切です.しかし,未来に備えるのも我々の責務だと思います.
現在増え続けているがん患者より,数年後には薬剤耐性菌による死亡が増えるかもしれないという事実は,現実的に受け入れられるのでしょうか?下記もWHOの資料です.
右上の数字の通り,耐性菌によるものが,がんをこえている予測になっています.私もこの話を聞いたとき,どう考えてもがん患者の方が,と思っていました.
しかし,最近の新薬,がん治療の進歩はめざましいことを思い返してみます.ノーベル賞の本庶 佑先生の発表を見ても,それは理解できるのではないでしょうか.
そうすると,薬の開発,耐性菌の増加など,微生物による脅威の方が,私たちを脅かすのではないかと考えても,不思議ではなくなります.
同様にWHOから,薬剤耐性菌に対し,新しい薬剤が必要な微生物が提示されています.
緊急性が非常に高いもの
カルバペネム耐性アシネドバクター・緑膿菌・腸内細菌科細菌
緊急性が高いもの
腸球菌(VCM耐性),クラリスロマイシン耐性のピロリ菌,キノロン耐性サルモネラ菌,メチシリン耐性・バンコマイシン体制黄色ブドウ球菌,キノロン耐性キャンピロバクター,第3世代・キノロン耐性淋菌
緊急度中間程度
ペニシリン耐性肺炎球菌,アンピシリン耐性インフルエンザ菌,キノロン耐性赤痢菌
などになります.他にも,結核の耐性なども問題となっています.どれもあまり見たくない,手ごわそうなバイキンたちです.
そのため,AMRアクションプランが本邦でも策定され,本邦でも取り組みが始まっています.
かしこく治して、明日につなぐ~抗菌薬を上手に使って薬剤耐性(AMR)対策~
がん治療における根治を目的とした,手術,にあたるものが感染症ではない場合も多いです.もちろん臓器の感染症による外科的処置は有用ではありますが,全ての感染症に,というわけではありません.
あくまで病原微生物がターゲットになるため,やはり抗菌薬の開発は,その根底になると思われます.
上記の通り,抗菌薬開発はなかなか思うようにはいかず,かなり停滞気味であるのは間違いない事実であると思います.
そんな中での今回のニュース,今後どうなるかもわからないのですが,とても前向きな,よいニュースではないでしょうか.
日本企業のソコヂカラ,みたいなものを期待しております.
ガンバレ武田薬品,エーザイ!!