病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインについて思う

平成30年9月25日,厚生労働省医薬・生活衛生局長より,
医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドラインについて が公開された.
出てからしばらくたつので,内容を確認されて方も多いと思う.

http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000176038

 

 

ガイドラインの概要

最も大切な,基本的考え方 から少しづつ確認していきたい.
以下引用.

1 目的
医療用医薬品の適正な情報提供に向け、安全対策の観点からの対応(添付文
書等)に加えて、広告及び広告に類する行為への対応(適正広告基準等)も実
施されることにより、医療用医薬品の適正使用の確保が図られている。しかし
ながら、販売情報提供活動においては、証拠が残りにくい行為(口頭説明等)、
明確な虚偽誇大とまではいえないものの不適正使用を助長すると考えられる
行為、企業側の関与が直ちに判別しにくく広告該当性の判断が難しいもの(研
究論文等)を提供する行為等が行われ、医療用医薬品の適正使用に影響を及ぼ
す場合がある。本ガイドラインは、医薬品製造販売業者等が医療用医薬品の販
売情報提供活動において行う広告又は広告に類する行為を適正化することに
より、医療用医薬品の適正使用を確保し、もって保健衛生の向上を図ることを
目的とする。


このガイドラインを読む前は,これは企業の方のためのものであって,自分には関係ないものという認識が大きかった.
ガイドラインの内容も,文字ばかりで(あまり人のことは言えないが),全部読み切れるの?という認識だったのだが,

これは,そもそも自分にも言える事ではないか,自分に当てはめてみると,と考えると,如何に自分の行っていることのレベルが低いかが分かってしまった.

 

過去の事例などを見ても,薬の情報提供の仕方が,如何に影響が大きいかというのがわかる.

ディオバン事件 - Wikipedia

 

薬と利益

薬は病のある人に使うものなので,そこに発生する販売利益は,本来は倫理的に公表することがよいのか,私には判断できない.

一般的に,企業は良いものを生み出せば,それが社会に出て,評価を受ければ売り上げも伸びるし,企業の利益もあがる.製薬会社も本来は同様であろう.
素晴らしい薬剤の開発なくして,医療の進歩はあり得ない.革新的な発明や開発が,人類に及ぼす影響は大きい.

 

疾患を診断し,治療を決定するのは,医師に与えられた責務である.これは誰もが疑わないし,それだけ医師は責任ある仕事であることは,だれもが知っている事であろう.

日々の努力も含め,私たちが健康に過ごせているのは,医師の力に他ならない.
その治療に際しては,様々な選択肢がある.いかに多くの治療法があるか,これしかない,という治療で効果がなかったりする場合は,その後の治療が難しくなることから,色々なオプションがあるのは良いことだと思う.

 

一般的な治療の選択肢として挙がるのが,薬剤になる.医薬品は投与すると薬効を示し,疾患の治療に有効なもののみが医薬品として認可されている.

どの薬剤を選択するのは,医師の裁量による.治療上最もよい選択するために,医師は日々研鑽している.主治医が必要と判断した薬剤での治療が行われる.

 

専門領域の医師は,たかが数名のプロモーションなどではその処方に大きな影響は出ないであろう.高い倫理観を持っている医師であれば,本来我々が抱いている“お医者様”という領域で医療を担っている.

日本の医療水準は非常に優れている.疑う余地はないと思う.私の周りでも,尊敬できる医師は非常に多い.

高い倫理観と知識を持った人が,人の人生を左右するような,過酷な治療という道を一緒に歩んでくれているのである.

 

専門領域,とは広範囲の領域をある程度修めた上に成り立つもの,と私は認識している.
その領域に物申せる医療従事者など,ほとんどいないであろう.それほど今の医療は高度で,何人もの医師がカンファレンスで決定した治療方法に対して,それ以上のものを出せる機会はほとんどないと思われる.

 

プロモーションの影響

医療が高度化,専門化してくると,それなりに忘れられている領域,温度差が出てくる.
その領域で,その領域の薬剤が,憶測で万人に有効であるかのようなプロモーションを行うことは,大きな危険性がある.

 

限られた時間で,わかりやすいプレゼンテーション,本来,医療は分からないことだらけで,いい方は悪いが,プラセボと比べるとこの薬の方が少しはよいという程度とみられてもおかしくないような疾患があるのも事実である.薬は万能ではないし,治せない疾患の方が多い.

 

時間がない中で知識を得るためには,印象的でクリアカットなプレゼンテーションは,確かにある意味有効であろう.

そこで,何らかのプロモーションが入る,それは処方に影響されるかもしれない.

また,最近は患者さんの方からの要望も多い.わかりやすいプレゼンテーションは,複雑な疾患においては,時に思考停止を起こし,より分かりやすい結論を求めるようになってしまう.

 

薬のプロモーションは,聞く側としては,結論を分かりやすくなるべく端的に求めてしまうのも事実である.

A4用紙の2枚程度に最低限の,大きな文字で分かりやすく記載されたパンフレットは,そこに記載されていないような情報よりはるかに頭に入るし,短時間で特徴を理解するには有用であると思える.

 

製薬会社のプロモ―ションがすべて悪いと言っているのではない.上記の通り,有用なことの方が多い.しかし,受け入れる側としては,時に単純化しすぎた,理解しやすいための情報として受け取ってしまう.
これが人の治療に使われる薬というものであれば,やはりある程度の規定は必要であろう.われわれ受け取る側にも,質が問われていることになる.

 

薬を扱うものとしての心得


薬剤師も医薬品情報を取り扱うことが多いので,この部分はしっかりと認識しておきたい.
医師に情報提供をする,という意味では同様の認識を持つ必要がある.
製薬企業がこれを守っているので,同様以上に薬剤師も対応すべきと考える.

病棟で医師や看護師などに薬剤について聞かれた際に,これを超えて情報提供していないか.また少なくともここにあるような項目をしっかり確認して行っているか.
個人的な経験のみで行っていないか,という部分はよく見直す必要がある(自戒を込めて)
以下引用.

 

(1)販売情報提供活動は、次に掲げる要件を全て満たすものであること。
① 提供する医療用医薬品の効能・効果、用法・用量等の情報は、承認され
た範囲内のものであること。
② 医療用医薬品の有効性のみではなく、副作用を含む安全性等の必要な
情報についても提供し、提供する情報を恣意的に選択しないこと。
③ 提供する情報は、科学的及び客観的な根拠に基づくものであり、その根
拠を示すことができる正確な内容のものであること。その科学的根拠は、
元データを含め、第三者による客観的評価及び検証が可能なもの、又は第
三者による適正性の審査(論文の査読等)を経たもの(承認審査に用いら
れた評価資料や審査報告書を含む。)であること。
④ 販売情報提供活動の資材等に引用される情報は、その引用元が明記さ
れたものであること。また、社外の調査研究について、その調査研究の実
施や論文等の作成に関して医薬品製造販売業者等による物品、金銭、労務
等の提供があった場合には、その具体的内容も明記されたものであるこ
と。なお、社外の調査研究については、「臨床研究法」(平成 29 年法律第
16 号)、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成 26 年文部
科学省・厚生労働省告示第3号)その他これらに準ずる指針等を遵守した
もののみを使用すること。

 

いかがであろうか.
どれもすべて文章でみると,当たり前のことかもしれない.日々の業務で当たり前のことができているであろうか?

 

薬剤師という立場上,製薬企業と同様に,情報提供するという立場においては,同じであると考えている.


①は,最も原則的なことになる.これを超えた情報を行ってはいけない.不幸にも副作用が出た場合などは,副作用救済制度の対象にもならない.厳として慎むべきである.
②は,意外と難しいが,医療従事者にこそ,有効性ではなく安全性についてしっかり提供すべきと考えている.
患者さんにとっては,全ての情報は不要かもしれない.すべての副作用をすべて説明,となると,おそらく自分でも薬は飲みたくなくなると思う.
しかし,使用する側においては,極力必要な情報は,細かくなっても提供すべきであると考える.知らなかったから,ということが許されない場面もあるからである.
③④は,実は私も含め,薬剤師の情報提供において,最も危惧している部分である.
なんとなくあのブログにあったから,まとめのサイトにあったから,という,ノリで情報を提供してはいないか.


その情報は,少なくとも通常の人が見て,根拠となるべき客観的な情報であるか.
この質が担保できないと,いくら病棟や窓口で仕事がしたい,といっても,それは難しいであろう.


その情報提供の仕方が,臨床に大きく影響する,これは責任が大きいことを認識すべきである.それによる処方がなされ,問題になったとき,果たして薬剤師の責任はないのか?それはNoなのである.

 

このガイドラインを薬剤師としてどのように生かすか?

 

この文章は,医療用医薬品の販売情報提供活動におけるガイドラインとなっている.
目を通してみると,とても基本的な,医薬品の情報提供を行う際に必要なことがちりばめられている.
適正に医薬品が使用されることに対して,努力を行うこと.我々薬剤師の責務であると考える.
薬の情報を扱う,医師だけでなく患者さん,医療スタッフに薬剤師として接する際には,心得ておくべきことが多いガイドラインではないだろうか.