病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

薬局薬剤師の介入効果について考える.これからのあるべき薬剤師像の一つとして.

2018年11月5日 (月)の薬事日報に

介入効果のエビデンス構築を‐薬局薬剤師の業務拡大に重要

https://www.yakuji.co.jp/entry68295.html

 という記事が掲載された.以下引用する.

 

エビデンスを自ら構築して薬局薬剤師の業務範囲を広げていくべきだ――。カナダ、ドイツ、日本など各国の大学研究者らは、このほど京都大学が主催した国際シンポジウム「薬局での患者ケア」に登壇し、こう口を揃えた。薬局薬剤師の介入によって、症状の緩和や早期回復が促進され、医療費を抑制するという各国のエビデンスを提示。現状では薬局薬剤師の業務は狭い範囲に限定されているため、薬剤師の介入効果を示すエビデンスを充実させて、職務領域の拡大に取り組むよう訴えた。

薬剤師に処方権が付与されているカナダのアルバータ州アルバータ大学で医学部薬理学部門長を務めるロス・ツユキ教授と、同研究室研究員のヤジード・アル・ハマネ博士は

「薬局薬剤師の業務範囲はエビデンスによって定義されるべきだ」と強調した。

 

薬局薬剤師の介入とは,ということについて考えてみる.

先日も紹介したが,カナダ,アルバート大学は,おそらく私が知る限りで,最も優れた薬剤師教育,業務を行っている大学だと思う.

 

自分の行っている業務と比べると,レベルも違うし,比べることすら恥ずかしいが,

目標となるものがあるというのは非常に心強い.

 

Tsuyuki先生らの論文は,すでに多くのものが発表されている.

その中でも特筆すべきものは

Randomized Trial of the Effect of Pharmacist Prescribing on Improving Blood Pressure in the Community: The Alberta Clinical Trial in Optimizing Hypertension (RxACTION).

Circulation. 2015 Jul 14;132(2):93-100.

こちらの論文であろう.掲載されている雑誌もすごい.

 

既にカナダで処方権がある薬局での取り組みになる.

 

・高血圧のコントロールは依然として最適ではない

・23件の薬局で実施

・カナダの高血圧教育プログラム,ガイドラインに基づいた評価

・必要に応じ専門家へ

・薬剤師によるリスク評価,カウンセリング,高血圧薬のレニュー,薬剤の処方,血圧測定,生活指導のアドバイス,情報の記録

プライマリケア医へ報告

・コントロール群に比べ収縮期血圧を6.6mmHg下げた

 

 

f:id:RIQuartette:20181107212541p:plain

結論

高血圧患者に対する薬剤師の処方は,臨床的に重要かつ統計的に有意な血圧の低下をもたらした.政策立案者は,高血圧の負担に対処するために,処方を含めた薬剤師の役割の拡大を考慮する必要がある.

 

この論文,発表されたときはスゴイ以外,何も考えられなかった.

これができているのは,日々の業務と共にその領域に特化した教育,バックアップ体制だと思う.すべての薬局で可能なことではない.

 

教育,バックアップがない,というのは確かに大きな問題であろう.その分野に特化しないとここまでの結果はできないと思う.薬剤師はジェネラリストであるべき,という観点から考えると,無理なのではないかと思う.

 

しかしながら,これからの高齢化社会において,医師の数は足りるのであろうか.今のうちから準備をすべきではないか,とも感じる.過疎化が進む地域では,それはもっと現実的かと思う.大きな地域での取り組みが必要であるし,その時に取り組むことができるスキルやモチベーションも持ち合わせていなくてはいけない.特区などで検証も必要だろう.

 

これはカナダの話,日本でできるわけがないよ,と言ってしまったら,それ以上は進まない.このブログで紹介した理由もない.

 

下記に,京都医療センターの岡田先生らの報告がある.

 

COMmunity Pharmacists ASSist for Blood Pressure(COMPASS-BP)無作為化試験(Effects of lifestyle advice provided by pharmacists on blood pressure: The COMmunity Pharmacists ASSist for Blood Pressure(COMPASS-BP) randomized trial)

Biosci Trends. 2018 Jan 9;11(6):632-639.

高血圧患者に対する薬剤師による生活習慣改善支援プログラムの有効性を評価するため、COMPASS-BP(保険薬局薬剤師による高血圧患者への生活習慣改善支援に関する研究)を行った。この非盲検クラスター無作為化比較試験では、全国都道府県の73薬局(クラスター)における20~75歳の高血圧患者(介入群64例、対照群61例)を対象とした。介入群には通常の服薬指導に加えて12週間にわたってパンフレットと健康的な生活習慣に関する助言を行い、対照群には通常の服薬指導のみを行った。主要評価項目は12週までの早朝家庭収縮期血圧(SBP)のベースラインから変化とした。その結果、介入群は対照群に比べて早朝家庭SBPが6.0mmHg低下した。反復測定分析の混合効果モデルでは早朝家庭SBP低下における群間差は-4.5mmHgであった。薬局での生活習慣改善支援プログラムは実施可能であり、血圧を低下させる可能性があることが示された。

 

本邦でも同様な発表がなされている.

国内でもアウトカムが出てきているのである.

 

以下,岡田先生のお話しを抜粋.

「薬剤師が行動を起こせばアウトカムは改善する。その内容を数値化して、エビデンスとして示す必要がある」

 

これからの薬剤師が目指すもの,が一つ見えた気がした.

 

2018年10月31日 (水)

【長崎大病院/県薬】電話で副作用を早期発見‐薬局薬剤師の介入効果を検証

https://www.yakuji.co.jp/entry68216.html

次々にこのようなニュースが出てくるのはうれしい限りである.

 

基礎研究と比べて,業務に関連した研究は,バイアスなども含めて研究価値は高くないかもしれない.いま行っているものを,数字化してみよう.なるべく数字になるものを探してみる.病院との連携も必要かもしれない.地域の薬剤師会や病院薬剤部などの交流から,薬剤師としてのエビデンスを発信する.

 

給与ややりがいの話は,ポジティブからネガティブまで,色々な意見もあり,それぞれの取り方であろう.愚痴ばかりでは楽しくないと思う.

保険算定の条件が見直しされる際には,その裏付けになるデータが必ずあるものである.それの提示なくして環境が良くなるとは考えられない.

 

業務報告でもよい,本来は周到な準備が必要で,研究はプロトコールを作成しないと無駄なものになってしまう.ただ,それが敷居となっていて,何もできないようであれば,とりあえずデータを出してみよう.

 

発表することで,色々な人の目に留まる.中には専門知識を生かして共同で研究をしてみたいと言ってくれる研究者がいるかもしれない.大学の母校に久しぶりに行ってみよう,となるかもしれない.

 

薬剤師は,ただ調剤をすべきではないと考える.薬に関する現場のサイエンスを作る.

病院薬剤師であっても保険薬局薬剤師であっても.

薬剤師の未来が明るくない,というのは,あまり信じたくないし,そんな事ばかり考えていたら,つまらないですよね.