薬学生と話をしていると
「将来専門薬剤師を目指したいのですが、どうしたらなれますか?」
という話をよく聞かれる。
それだけ今は認知されているのだろうか?
世間は専門医制度が話題だが、
薬剤師領域の、専門薬剤師について、私見を述べさせていただこうと思います。
- 専門薬剤師の現状
- なぜ目指すのであろうか
- 取得後について
1.専門薬剤師の現状
少し古い資料になるが、
月刊薬事2015年7月臨時増刊号(Vol.57 No.8)専門・認定薬剤師ガイド がでています。
発刊時、これも別冊になるのか、と感じたました。
当時自施設でも熱心に読んでいる薬剤師が多かった。
2015年時点であるが、33の専門・認定制度が設定されている。
以下そちらから引用
認定制度の内容
- 多領域の知識・技能
日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師
日本医療薬学会認定薬剤師/日本医療薬学会指導薬剤師
日病薬病院薬学認定薬剤師
薬物療法専門薬剤師/薬物療法指導薬剤師
- 悪性腫瘍
がん専門薬剤師/がん指導薬剤師
がん薬物療法認定薬剤師
外来がん治療認定薬剤師
緩和薬物療法認定薬剤師
- 感染症
感染制御認定薬剤師/感染制御専門薬剤師
HIV感染症薬物療法認定薬剤師/HIV感染症専門薬剤師
抗菌化学療法認定薬剤師
インフェクションコントロールドクター(ICD)
- 腎疾患
腎臓病薬物療法認定薬剤師/腎臓病薬物療法専門薬剤師
- 内分泌・代謝疾患
日本糖尿病療養指導士
骨粗鬆症マネージャー
- 免疫疾患
リウマチ財団登録薬剤師
- 皮膚科疾患
日本褥瘡学会認定師(認定褥瘡薬剤師)/日本褥瘡学会在宅褥瘡予防・管理師
- 精神科疾患
精神科薬物療法認定薬剤師/精神科専門薬剤師
- 産科・婦人科領域
妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師/妊婦・授乳婦専門薬剤師
- 小児科疾患
小児薬物療法認定薬剤師
- 栄養療法
栄養サポートチーム専門療法士(NST専門療法士)
NR・サプリメントアドバイザー
- 救急・中毒医療
救急認定薬剤師
認定クリニカル・トキシコロジスト
- プライマリケア・在宅医療
プライマリ・ケア認定薬剤師
日本禁煙学会認定指導者/日本禁煙学会認定専門指導者
在宅療養支援認定薬剤師
- 医薬品情報・医療システム
医薬品情報専門薬剤師
医療情報技師/上級医療情報技師
- 臨床薬理・臨床試験
日本臨床薬理学会認定CRC
日本臨床薬理学会認定薬剤師/日本臨床薬理学会指導薬剤師
- その他
漢方薬・生薬認定薬剤師
公認スポーツファーマシスト
もはや把握できないくらい乱立していると感じるのは私だけであろうか?
私が取得しているのは
日本医療薬学会指導薬剤師、感染制御専門薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師
のみなので、それ以外の詳細はよくわからないので、取得済みの薬剤師に聞いてみたりした。
大きく、
専門学会や論文が必要なもの
症例報告が必要なもの
学会への参加のみ等で取得が可能なもの
にわけられます。
個人的に、取得が最も難しいと思われそうなものはがん専門薬剤師、日本医療薬学会指導薬剤師、日本臨床薬理学会指導薬剤師、あたりであろうか。
認定よりは専門、指導といったほうが当然ハードルは高くなる。
症例提出などに関しては、病院薬剤師向けの認定のように感じてしまうが、保険薬局の薬剤師でも取得している方もいる。
2.なぜ目指すのであろうか
私が取得を目指した理由は、今取り組んでいるものを研究結果としてまとめ、それを論文投稿していた経緯から、取得が可能となった時点で申請しようかと思ったため、という、非常にあいまいな理由でした。
このような認定制度が動き始めた時であったので、どれを目指そう、というより、今自分で取得できるものを、という状況だった。あまり参考にならず、申し訳ない。
定期的に当職員にも専門薬剤師や認定薬剤師への取得希望を確認しています。
病棟業務で必要に迫られる領域は、自然と勉強することになるし、そのような領域から選ぶのが自然と考えられます。
どの領域も、ある程度の研鑽をしたうえで、さらにその専門性を高めるという位置づけのものという認識は持っていたほうが良い。
若いうちから目指しすぎると、思わぬ弊害になりかねない(後述)。
“専門領域”というからには、当然その疾患も含め、対象の患者さんが入院していなかったりすれば、難しい領域もあり、それはどうしようもない領域となる。
HIVや日本糖尿病療養指導士(日本糖尿病学会専門医がいる施設のみ)、精神科、小児、救急あたりであろうか。
日本医療薬学会は、施設内に指導薬剤師がいないと取得ができない。
薬物療法も同様。
施設としての登録も必要となるので、管理者は定期的に人材を育成しないと、異動、退職に伴い、施設認定が継続できないという事態も発生する。
目指すのは自由、ただ、申請の段階にあたっては、色々と配慮しないといけない状況もあったりする。取得して終わりというわけではないため、後輩の指導や更新も,である。
現時点では、色々と目指すより、まずは基本となるべきものを取得しながら、というほうが良いと思います。
具体的には、日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師、日本医療薬学会認定薬剤師、日病薬病院薬学認定薬剤師あたりになるかと思う。
日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師
研修参加ごとにシールをもらい、認定を更新する。Webでも一部認められているので、勉強会などに参加できない場合でもある程度目指すことができる。知人のママさん薬剤師も、うまくWebを利用して取得している。保険薬剤師向け。以前取得していたが、諸事情(詳細は以下)あって継続が現在はできなくなってしまった。継続したシールの取得が必要。
日本医療薬学会認定薬剤師
医療薬学会が認定するもので、病院薬剤師ではこちらを取得するのが一人前の証、みたいな風潮がある。施設内の指導者や施設登録、論文、試験が必要になってくる。医療薬学会に入会後5年という事も必須条件となるため、基本的に当施設では病院入職後に入会してもらっている。以前より論文の数などが緩和されている。
日病薬病院薬学認定薬剤師
近年始まった制度。私は取得していないのでコメントはあまりできないが、この制度ができてから、病院薬剤師は上記の研修センターの取得をあきらめ、こちらを取得し始めている人が多い。
e-ラーニングの他、まんべんなく単位を取得しなくてはいけないのと、日病薬の認定、専門の取得の単位と一緒にできないなど、導入時は当施設でもかなり混乱があった。病院薬剤師であれば、こちらを通常目指すことになると思われる。
まず、これらの認定を目指してみるのが良いと思う。若いうちにスペシャリストになってしまうと、その分野には非常に強くなるが、合わせて全体的なこともしっかり学んでおかないと、そのあと苦労することになってしまう(自戒を込めて)。
薬剤師の業務は、ある程度分担することもあるが、医師ほどその分野に特化するわけではない。病棟配置の変更などで担当診療科も変わるであろうし、日々の調剤業務は、偏った知識では行うことはできないからだ。
3.取得後について
実は、取得より継続が難しい。ある一定数の施設で、薬剤師も限られている以上、がん領域ばかりが増えてしまっても、その後の症例提出や継続などで、いろいろと問題となる。
また、認定、専門を取得した場合には、当然その領域の業務につくべきというように取得した本人は考えるが、上記の通り、人数的な問題もあると難しい場面もあると思う。
認定を取得した後、残念ながらその領域での業務につくことができず、数年後の更新ができないという結果になる人も存在する。
薬剤師領域の専門、特に診療科に特化したものは、今後の配置や人事などにも大きな影響が出てくる。上記の通り、取って終わり、ではないため、どのように生かすか、という事まで考えなくてはいけないと思う。
そのため、個人的には、ある一定の業務経験を持ち、組織として、本人と相談しながら、今後どのようなキャリアプランを策定していくか、というところで決めていくという方法が最も良いと考えられる。
勘違いをしてしまいやすいのが、あらゆる専門領域の申請についても、
その職場で業務を行っていなければ、申請できない、という事を認識すべきである。
本人のモチベーションが最も大切な要因ではあるが、取得するまでの行程は、自分がそのことを行えている、目指すことができる、それに相当するに値する薬剤師になったという認識で臨むべきかと思う。
こんなくどくど書く理由は、勘違いする人が出やすいから、という事につきる。以下、自戒を込めて記載する。
専門薬剤師をとることが目的となっていないか?
取得までの道は、上記の通り、モチベーションの他、金銭的な負担の他、いろいろと必要なものが多い。それだけ取得した後の喜びも大きい。ただ、取得した後、どうするか、というのが最も大切である。
自分の後の後輩の指導にあたれるか、また、取得したのを、転職の武器としてあからさまに取得したいという人もいるわけで、それは組織としてコントロールする必要がある。
こっちの専門をとったから、次はあっち、などと、認定、専門コレクターにはなっていないか?
更新するためには、学会や講習会への参加が必須となる場合が多い。
それはその施設の業務に全く負担とならないわけではない。交通費は出ないとしても、休日であれば、別な人に業務を依頼して参加することになる以上、個人的なもので取得できたという考えは持つべきではないと感じる。
とはいえ、取得できた時の喜びや、その仕事に対しての責任感、色々な方とのつながり、教育面も含めて、影響は大きい。
部署に掲示することや、若い人たちのモチベーションUpにもつながる。
Hpなどで公表したりもできるし、もしかしたらそれを見た方が就職などで選んでくれるかもしれない。
医療薬学会の薬物療法専門薬剤師制度が発足したとき、少し違和感を覚えるといった人が多かった。
薬剤師はすべて、”薬物療法の専門家”ではないのか?という観点からであった。私も初めは同様であった。
医療薬学会の認定は当初論文が3報必要だった(と思う)。通常の業務をしていて、ハードルが高い。医療薬学会の認定は現場の薬剤師ではなく、大学の教員のほうが取得できやすくなっていた。そこで発足したという経緯と聞いている。
今は少しづつ認定者が増えてきている。サマリーが必要で、更新も大変そうではあるが、病棟業務を行っている薬剤師はぜひ目指していただきたいものである。
目指せる環境があれば、ぜひ取得を目指していただきたい。より深い知識と経験を持った薬剤師が世の中で活躍することを願う。