病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

【読書感想文】薬局 2019年1月号 特集 「Evidence Update 2019 ― 最新の薬物治療のエビデンスを付加的に利用する ― 」

薬局 2019年1月号 特集 「Evidence Update 2019 ― 最新の薬物治療のエビデンスを付加的に利用する ― 」を読んでみました.

 

薬局の昨年に続く特集です.1月号のEvidence Update 2019.

最新の薬物療法のエビデンスを付加的に利用する,とあります.

この特集,人気ありますね.私も昨年のものをこの間まで近くにおいていました.

 

f:id:RIQuartette:20190112170429j:plain

エビ

 それにしてもこの写真、おいしそうです.

 

こちらです. 

 

 

ページをめくってみると・・・

本書をめくると,エビデンス界の神様,名郷先生のページから始まります.

2018年論文ベスト10として,紹介されています.

プライマリケア領域としての選択となっているようです.NEJM,JAMAなどで話題になった論文が紹介されています.高齢者のアスピリンの一次予防の論文は話題になりました.

 

N Engl J Med. 2018 Oct 18;379(16):1499-1508. doi: 10.1056/NEJMoa1800722. Epub 2018 Sep 16.Effect of Aspirin on Disability-free Survival in the Healthy Elderly.

PMID: 30221596

 

個人的には,NEJMは比較的チェックしているつもりですが,やはり数々の論文を読んでいる先生が紹介していただける論文は興味深いです.どれも話題性があったものなので,再確認しておきたいですね.

 

本書の概要

本書は全体的には200ページ程度ですが,31疾患についての最近のエビデンスについて紹介されています.

著書は各パート,薬剤師で執筆されている先生もいます。皆様一流の先生方ですね。

医師だけではなく,本項目を薬剤師が解説してくれているのがありがたいです.

医師の目線と薬剤師の目線は若干異なる,と私は思っています.どちらがいいというのはくらべられませんが,本書は薬局,なので,薬剤師目線の項目がある,それも最新の,エビデンスを紹介している,というのは心強いです.

  


 

  

さて,このエキスパートたちが注目する最新のエビデンスは,循環器疾患から始まり,呼吸器系疾患,消化器,糖尿病,脂質異常症から腎臓病,うつ病といったところから,抗菌薬,抗真菌薬,最後は抗腫瘍薬に至るまでの情報が,アップデートされています.薬剤師の方は,どの著者の方も,一度は聞いたことのある先生方ばかりです.おお、となりますよ.

 

本書は2018年にもでていますので,この1年間の新しい情報を少しずつアップデートするには,非常に有用な内容となっています.

 

本書の作り

本書の作りとしては,Evidence Update,という事もあり,どれも近年話題になった論文が紹介されていますが,文末の引用文献はPMIDも掲載されているので,気になった論文はそのまま元論文に自らあたることができます.さすがですね.配慮がありがたいです.

 

論文の解釈は,読む人とそのシチュエーションで,それぞれ異なると思います.

同等性でよいのか,優越性なのか.

プラセボと安全性が変わらなければよいし,有効性が変わらないと薬としての意味合いは微妙となってきます.

 

自分が読んだ論文が,本当にその解釈でよいのか,という事にも日々悩む事になるのですが,本書でのエキスパートたちの解説が確認できると,自分の論文の解釈に少し自信が持てたりもします.

もちろん,「こう考えるんだー」と思う事のほうが多いですけどね.

  

  

読み進めてみると,いきなり・・・

名郷先生に続くのは,神戸大学薬剤部の先生で,薬剤師介入のエビデンスについて書かれています.

入院患者における臨床薬剤師の多面的な介入,再入院率が減少するとあります.これは海外の薬剤師の報告ですが,本邦においても薬剤師が今後このような結果,エビデンスを残していく必要があると思われるので,大いに参考としたいですね.

 

何よりこんな冒頭で,薬剤師の方が筆を執っているのが,とても心強く感じます.

 

理髪店で,薬剤師が高血圧の治療に介入することにより,血圧コントロールが改善する,という報告は知りませんでした.そもそも理髪店に薬剤師はいるんでしょうか.

日本だと考えにくいですね.美容室はたくさんありますが,薬局とのコラボなどあるのでしょうか.いきなり興味をひかれます.

 

理髪店論文では,成人男性の高血圧患者で定期的に面談を行い,降圧薬を処方するとともに血圧測定,生活習慣改善についての指導を行ったとなっています.カリフォルニア大学の研究ですが,処方できたりするのですね.

 

海外ではしっかり訓練を受けた薬剤師,循環器内科医と連携してしっかり報告するなどの条件で処方できる州があるとのことですが,すごい発表ですね.NEJMですが,理髪店論文は見逃していました.

N Engl J Med. 2018 Apr 5;378(14):1291-1301. doi: 10.1056/NEJMoa1717250. Epub 2018 Mar 12.

A Cluster-Randomized Trial of Blood-Pressure Reduction in Black Barbershops.

 

その後の,黄色ブドウ球菌菌血症に対する薬剤師の介入の論文は,とても興味深かったです.感染症医のコンサルトはもちろん必要ですが,なかなか専門医がいるところは多くはないので,薬剤師もその一端を担い,チームとして治療に参画することは必須となっています.

そしてそのアウトカムを出す,という事が求められています

 

本邦でも化療雑誌に下記の報告がなされています.

国内も負けてないですね.がんばっていただきたいです(完全に人任せです).

 

薬剤師による治療支援がStaphylococcus aureus菌血症治療に及ぼす効果

田中 大, 大隅 智之, 稲葉 洋介, 柴原 美也子, 水堂 祐広, 吉本 昇, 喜古 康博

日化療会誌 66 (5): 578-586, 2018

 

薬剤師主導の抗菌薬適正使用支援活動を通じたStaphylococcus aureus菌血症に対する診療支援の有用性に関する検討

佐村 優, 廣瀬 直樹, 倉田 武徳, 石井 淳一, 南雲 史雄, 高田 啓介, 腰岡 桜, 内田 仁樹, 山本 隼也, 井上 純樹, 関根 寿一, 石田 明, 國香 則文, 國島 広之

日化療会誌 66 (5): 587-599, 2018

  

 

 

この書籍,私は購入していますが,

もし,ですよ,

もし,

ちょっと購入するのためらうなぁ~,とあれば、立ち読みしてみましょう.

私はこの初めの部分だけでも,価値があるのではないかと思っています.

 

でも、こんなにたくさんのUpdateはできないかも・・・

本書は,自分がよく読む論文や,よく読む領域では,そのエビデンスが,このエキスパートの先生たちと同じようなものがチェックできている,ということで安心につながると思われます.

 

しかしながら,本書で最も有用なものは,やはり自分が苦手な領域について,そのエビデンスを自分でアップデートするのはなかなか難しいと思われるところを,エキスパートの方々が,解説してくれていることにあると思われます.

 

そもそも,この特集に掲載されている領域の論文を網羅できる人なんて,いるわけないですよね.なので,それは別にいいと思います.

 

でもですね,医薬情報室に配属されたり,もしくはある程度若者を指導する立場になると,ですが,

「この領域さっぱり治療も薬も分からないです」

なんてことが言えなくなってしまうのが大人社会なのです.

 

「え,薬剤師って薬のことが専門でしょ?薬のことは薬剤師に,とか言ってるけど,そんなことあるの?」

なんて他職種も含め,真顔で聞かれます.そうなんです,そういうことなのです.

 

特に癌領域などでは,その臓器別の病棟,診療科になっていて,他の癌腫の化学療法までなかなか学ぶことができないと,若い薬剤師から相談を受けることもあります.

 

もちろん標準治療などの理解は必要ですが,そういった意味で,分かる範囲でほかの領域の最新情報に触れることができるのは,本書の最も有用な生かし方であると考えます.

  

でも,そうはいっても,ですね,やはりあまり踏み込んだことのない領域,というのは気が引けますよね.

  

 

こんなに幅広く、理解できるの?

もうそういう部分は斜め読みでもいいです.ぶっちゃけ最新の英語論文の概要を知るだけでも非常に良い書籍です.日本語で解説してくれているわけです.

 

そこから気になる論文を読み直しながら,原本にあたってみるといいと思います.

部内のジャーナルクラブで読もうと思っている論文に迷ったら,エキスパートが選んでいるものを参考にするのもいいでしょう.

そういった使い方でもよいかと思います.

 

Evidence は進化している

Evidence は日々更新しています.本書は2018となっていますので,すでに2019年,新たな論文が出てきます.

 

本書は,エビデンス,という言葉で,少し気が引ける方もいらっしゃるでしょう.なんか直視できない言葉のオーラが存在する気がしませんか?

 

本書に書かれた,エビデンスの意味を理解する

本書の前書きに,名郷先生のメッセージがあります.とても心強いお言葉なので,こちらを紹介させていただいて,本書の書籍紹介とさせていただきます.

 

・論文を「読む」から「使う」へ

・エビデンスを継続的に付け加えて勉強し続ける

・エビデンスのあいまいさを認識する

 

「日々のEBMの実践にあたって,本特集が継続的な勉強のきっかけとなり,あいまいなエビデンスを個別の患者に使えるようになる一助になれば幸いです」

 

いかがでしょうか.

エビデンスを知り尽くした先生が書かれている言葉ですが,上記の項目が私は心に留まりました.

読むだけではだめです.

勉強し続ける事,そしてエビデンスだけが全てではなく,

その弱さ,あいまいさを理解して使う,ということなのです

 

エビデンス,と聞くと,

「ははぁ~、おっしゃる通りで」

と脊髄反射的に対応していませんでしょうか.

 

私の理解は下記です.雑多ですみません.

全ては患者さんのよりよい治療のために,という事を忘れてはならず,

医療従事者として,少しでもよい治療が行えるために,

患者さんが少しでも良くなるために,

あいまいなものから,少しでも目の前の患者さんに,根拠のある情報を適応できないかを、自ら考える.

 

これは,医療従事者の責務であることも忘れてはいけないと思います.

 

2020年の年明けの、この時期に,Evidence Update 2019が読めることを期待しています.

そしてそれまでに,エキスパートの方たちが読むであろう論文を予想しながら,楽しみに過ごしたいと思います.