病院薬剤師のブログ

徒然なるままに。少しづつ勉強していきましょう。

当直中のビビった処方(注射用アミオダロン)

当直業務を行うにあたり,若かりし自分が,ちょっと戸惑った処方を紹介していきたいと思います.
簡単なものから色々と.
薬学生のかた,普段注射調剤に関わっていない方から,病院で当直することになりそうな方まで,ご参考になさってください.

第3回ヤクガクテキ処方箋鑑査

先日に続きまして第3回目はこちらです.
ちょっと昔のことで,スミマセン.あと,当直中ではなく今回は日勤帯の出来事です.
それではどうぞ. 

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「心停止の患者さん来るよ」
「そこの薬剤師!アンカロンの注射,数本確認しておいて.静注する準備!」

というわけで,今回は処方されることになるであろう,下記の処方です.

 

アンカロン注150 1本
5%ブドウ糖 10~20mL
静注 (無理であれば骨髄内投与)


え,アンカロンをワンショット静注?
毒薬だし(当時は),そんな使い方あるの???

当時はビビりました.というより固まりました.

 

 

 


こちらも現在では適応が追加になっています.
アンカロン注150添付文書 2018年6月改訂(第12版)

電気的除細動抵抗性の心室細動あるいは無脈性心室頻拍による心停止(2013年5月31日効能効果追加)
アミオダロン塩酸塩として300mg(6mL)又は5mg/kg(体重)を5%ブドウ糖液20mLに加え、静脈内へボーラス投与する。心室性不整脈が持続する場合には、150mg(3mL)又は2.5mg/kg(体重)を5%ブドウ糖液10mLに加え、追加投与することができる。

この適応は平成25年5月に承認となっています.
医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議での検討結果を受けて開発企業の募集又は開発要請を行った医薬品のリストの中にあり,日本蘇生協議会からの要望を受け,海外のエビデンスもある薬剤として承認されています.

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/kaihatsuyousei/list120423.html


アミオダロンの特徴をまとめてみます.

アンカロン注150 IF2018 年 6 月改訂(改訂第 7 版)より
・急性作用と慢性作用とで作用するチャネルが異なり,急性作用では Na + ,Ca 2+ ,K + チャネルが,慢性作用では K + チャネル及び交感神経α受容体,β受容体が主な標的分子であり幅広く作用する

・生命に危険があり難治性かつ緊急を要する心室細動、血行動態不安定な心室頻拍に対し有効性を示す
・心肺蘇生時の二次救命処置で電気的除細動抵抗性の心室細動あるいは無脈性心室頻拍による心停止患者に使用される不整脈治療剤
・重大な副作用として間質性肺炎肝炎,肝機能障害,黄疸,肝不全,既存の不整脈の重度の悪化,Torsades de pointes,心停止,血圧低下,徐脈,心不全,甲状腺機能亢進症,無顆粒球症,白血球減少が報告されている

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併用禁忌も併用注意も多く,副作用も多いし,構造式にヨウ素(I)を含有している,通常使用は負荷投与必要,半減期長い(血清からの消失半減期は平均14.6±7.9日),毒薬冷所保管(当時),DEHPのルートは避ける,単独投与,生食と混ぜると沈殿,粘調性高い,などなど手ごわい注射薬のトップ3くらいに君臨している薬剤であります.

 

とにかくいろいろなところに働くので,他の不整脈薬で効かない際にも有用である,という薬剤で,その分取り扱いが難しい,まさしく毒薬の中の毒薬,というイメージでした.

下記の報告があり,古い報告ですが,その有用性が既に報告されています.
N Engl J Med. 1999 Sep 16;341(12):871-8.
Amiodarone for resuscitation after out-of-hospital cardiac arrest due to ventricular fibrillation.
Kudenchuk PJ, Cobb LA, Copass MK, Cummins RO, Doherty AM, Fahrenbruch CE, Hallstrom AP, Murray WA, Olsufka M, Walsh T.
PMID: 10486418
心室細動による院外心停止後の蘇生のためのアミオダロン
・病院外心停止患者,300mgのアミオダロン群(246例)とプラセボ(258例)の比較,二重盲検試験
・入院時の生存率がアミオダロンの方が高い(アミオダロン44%,プラセボ33%)
・退院までの生存に及ぶかさらなる検討が必要

 

当時は冷蔵保管の毒薬という事もあって,初期対応する治療室に在庫するか議論になっていました.ただ,この適応追加後に毒薬から劇薬に変更(!)現在は劇薬となっています.

過去にも,規制区分が変更になった薬剤としては
ケタラール(新たに麻薬に指定!)2007年1月
ロキソプロフェン(劇薬解除!)2010年1月(OTC販売も踏まえて)
などがあります.

 

その後もアンカロン注射は何回か使用されました.

 

先ほどアンカロンの注射には禁忌項目,特に併用禁忌があると記載しました.電子カルテシステムを導入している際は,併用禁忌は絶対で,使用することはできません.それだけ併用禁忌というのは厳しい設定となっています.アンカロンの併用禁忌薬も多数あります.特にQT延長を増強する薬剤については禁忌となっています.

しかしながら,心停止できた方に,服用薬剤のチェックなどの時間はあるでしょうか?
下記は添付文書上の禁忌薬です.これだけあります.

リトナビル,サキナビル,サキナビルメシル酸塩,インジナビル硫酸塩,ネルフィナビルメシル酸塩,プロカインアミド,キニジン等,ソタロール,ニフェカラント,ベプリジル塩酸塩水和物,エリスロマイシン(注射剤),ペンタミジンイセチオン酸塩,スパルフロキサシン,モキシフロキサシン塩酸塩,トレミフェンクエン酸塩,テラプレビル,フィンゴリモド塩酸塩,エリグルスタット酒石酸塩


審査報告書にもありますが,

「本申請での本薬の使用は、心肺停止の緊急を要する状況であり、救命が優先される状況であること、既往歴や薬剤服用状況の確認が困難な場合も十分に想定され、結果的にこれらの既往歴や薬剤の服用歴のあることが投与後に判明する症例の存在も否定できないことを踏まえると、申請者の記載案のように、本申請の対象患者については、既承認効能・効果で禁忌とされている上記の患者を禁忌から除外することが適切と判断する」

 

とあり,上記併用禁忌薬は,この適応で投与する場合において,「ただし、心停止時はこの限りでない。」という条件が適応される

 

何事にも人命を優先する,という強い意識が感じられる一文かと思います.


その後,2016年に海外から下記の報告が出ています.
N Engl J Med. 2016 May 5;374(18):1711-22.
Amiodarone, Lidocaine, or Placebo in Out-of-Hospital Cardiac Arrest.
Kudenchuk PJ, et al. 
PMID: 27043165

院外心停止に対するアミオダロン,リドカイン,プラセボの比較試験
・北米10施設で行われた無作為化二重盲検試験
・非外傷性の院外心停止,DCを1回以上行っても無効であった心室細動,または無脈性心室頻拍患者
・アミオダロン群(974 例),リドカイン群(993 例),プラセボ群(1,059 例)で比較
・生存退院率は,アミオダロン群24.4%,リドカイン群23.7%,プラセボ群21.0%
・生存率,神経学的転帰に差はなし

NEJMの大規模な試験です.このような論文が出ているので,これからもどうなるかというのは分かりませんが,今後の状況を確認していきたいと思います.

 

この論文を見たとき,心停止で運ばれてきた人の初期治療に関する臨床研究などできるのか,というような自分の一般的だと考えていた常識が,あっさり吹き飛ばされた論文だったのを覚えています.
各郡が約1000例づつも対象となっている.日本国内でも同様な試験はできるのでしょうか?プラセボの割り付けが,倫理的にできるのかは難しい問題かと思いました.

 

今回は,人命は何よりも重い.どんな状況でもあきらめずに治療を行う,という救急医の一言を感じた一瞬でした.知識が無くて当時は固まりました.
薬剤師がただ薬剤の準備をすることすらスムーズにできなかったと思うと,知識や経験のなさというのは本当に恐ろしいと感じました.
同時に,一つ一つ経験をとにかく積み重ねていくことの必要性を強く感じました.

 

薬学教育は,救急領域の勉強って少ないんですよね.なぜでしょうか?医師は一番大切な救急領域を必須にしています.

人の命に係わる,大切なところだと思うのですが,いかがでしょうか? 

 

私はこちらの書籍から勉強を始めました.

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