2006年から薬学部は6年生となった.当時すでに就職していた身としては,6年生になる必要があるのか?というのは疑問であった.自分が6年間も薬学を勉強できるのか,という点からだけの狭い意見にはなるが.
今回思うことを書くことになったニュースはこちらから.
薬事日報 2018年11月30日
6年制教育、「質」懸念の声相次ぐ‐定員含め総合的検討が必要
https://www.yakuji.co.jp/entry68813.html
先日,薬学教育についての事を書いたが,6年生教育について,様々な問題点が出てきているという事のようである.
https://blog.hatena.ne.jp/RIQuartette/riquartette.hatenablog.com/edit?entry=10257846132663271183
とはいっても,古い時代の我々が受けていた4年生の教育よりは,はるかに良いものになっているのではないかと思うのだが.
この新薬剤師養成問題懇談会での議論は,6年生が導入されてすでに12年,今後の6年制教育の「あり方を考える時期に来ている」ことのようです.
私はあまり認識がなかったのだが,
日本病院薬剤師会の木平健治会長のコメントが掲載されている.
6年制に移行する際の目的の一つは
研究マインドを持った薬剤師の養成であった
しかし,国試対策に多くの時間を費やし、研究をしないということになっているのであれば,もう一度原点に立ち帰るべき,というコメントがある.
今の薬学実習,教育を見ていると,研究に関しての時間は十分とはいえない.大学側の先生とお話しをすると,研究室も薬学生の教育の時間が増え,自らの研究の時間が無くなっているという話もよく聞く.
実際6年生教育を受けた,受けている学生さんたちはどう感じているであろうか.
そもそも,研究を考えた学生生活を送っているのであろうか.
医薬ジャーナル 2017年1月号p23―25(Vol.53 No.1)に
前田健一郎 先生より
転機を迎えた薬学教育6年制ー薬学教育学会設立でレベル向上に期待ー
という論壇が掲載されている.
薬学6年生教育に至る経緯なども踏まえて記載されている.
そこでの指摘で,気になった部分は
再教育の必要が出てきた6年制卒業生
・2006年にスタートした6年制教育が,始まって10年足らずでコアカリキュラムの改訂に迫られている
・生命科学領域の進歩は著しいため
・旧カリキュラムで教育を受けた6年制第1期生が,社会に巣立ってわずか1年で,早くも自らの受けた教育が古くなってしまっている
大学の教育全てが即実践で役に立つと考えている学生は,殆どいないであろう.
実習時点でも
「現在の大学の授業では学んでいないことが」
と発言する学生も多いわけで,日々進歩している医療との乖離はどんどん大きくなっている.
学生の勉強している状況を確認しても,現場ではもはや使われそうもない医薬品の情報を勉強している.国家試験のためには仕方のない事であろうが,やはりもったいないという印象だ.
薬学のカリキュラムの改定は時間と労力がかかるであろうことは容易に想像できる.しかしながら現場で働いている身としては,数年で薬物治療は大きく変わるのをどの薬剤師も感じていると思う.
先日の学会も含め,薬剤師は業務以外にも日々勉強をしている.自己研鑽を怠っている薬剤師は現場では役に立たず,役に立たないどころか患者さんの迷惑になることを知っているからだ.
知らないことを,恥ずかしがらず,勉強する姿勢を持っているものだけが現場で勤務できると私は考えている.
卒前の教育は,ある程度担保されるべきで,学生は勉強をするために大学に通っているわけであるので,そのカリキュラム的な問題というのはあまりに影響が大きい.
薬学の教育を受ける人は,薬学生だけではない.我々社会人も同様である.
また,学生を教育している実務家教員も,そのモチベーションと質の担保がよく話題に挙がる.実務家教員は,当然ではあるが,学生を教育できるのはもちろん,実務も理解していることが求められる.これは薬学だけの問題ではなく,看護師でもよく聞かれる.
定期的な実務家教員の,実務への研修期間を計画的に行うなどしないと,上記のカリキュラムと同様,新しい,現場に沿った教育はできないと考える.
上記前田先生の論壇によると,これらの教育,研究などの提供を行うために,薬学養育学会が発足したとある.
薬学教育協議会
2016年の発足で,こちらの協議会はとても期待をしている.
実際学生指導をする立場としては,
残念ながら教育するべき職員であっても,自らの業務を優先している傾向が強い.それは当たり前としてとっている薬剤師も少なくない.
自らが教育を受けてきていることは忘れている,というのは悲しいことではあるが,それも好きでそうなっているわけではなく,日々の業務の多忙さゆえの事なので,責めることもできない.これは自戒も込めて,ではある.
薬事日報の記事では,
国家試験までストレートに合格できている学生が少ないことについても指摘されている.
4年生から6年生になって,教育面の充実と,時間が伸びた分,余裕ができたのではないかと感じていたが,実際は異なっているようである.
カリキュラムに追われた実習になっているようにも見えてしまう.
文部科学省から,薬学系大学の就学状況が出ている.
http://www.mext.go.jp/a_menu/01_d/1361518.htm
あまり気にしたことはなかったのだが,国家試験合格率はもちろん話題になるが,
薬学部に入学してストレートで国家試験を合格する割合というのも見ているとびっくりする.
大学在籍中に,留年,退学する友人もいた.詳しくは覚えていないが,大学はそんなところだと思っていた.
いざ,数字をみてみると結構衝撃的ではある.
平成24年度の入学生の資料にはなるが
国公立大学は低くても卒業率は77%程度,合格率も70%であるが,
私立は卒業率では27%~90%,合格率は18%~85%と差がある.
国公立大学はもともと研究者になるのが主で,国家試験合格はあまり気にしていないという認識だったのだが,現実は異なっている.
私学に入学し,大学によっては,入学時の学生の2割しかストレートで薬剤師になれないというのは,大学として教育のカリキュラム以外にも問題はないのかと考えてしまう.
入学時の偏差値なども影響しているのであろうか,学生自身もそうではあるが,親の気持ちも考えるとどうにかしてあげたくなってしまう.
通常考えると,薬学部として存在できるのか,という意見が出てくるのも不思議ではない.
細かい数字も公開されているので,ぜひ母校の状況なども踏まえて眺めてみるのもよいかもしれない.
国家試験,卒業もそうだが,実習の修了率ですら3割を切っている大学というのは,見ていてとても悲しい.
大学の進級の事情は,それぞれ異なっているのであろうし,そこにいない私には到底理解はできないことなのだが,それでも未来ある薬学生の現状が厳しいというのは憂慮すべき問題と思われる.
持論を出すのは失礼にあたるが,ここまで好きなことを書いているのでもう少し.
学生時代,1年目の基礎的な教科の履修は苦痛だった.大学で薬学を学びに来ているはずが,なぜ数学などを学ぶのか,と当時は考えていた.浅はかではあったが.
その1年目で目的が見えず,退学した友人もいる.
とりあえず,という気持ちで学んでいたが,今思えばここが一番自分にとっては乗り切るポイントだった.
その後の実習や専門科目も,この考え方も浅はかなのだが,一つ一つ薬剤師への階段を着実に登っていけるようで,薬理などは本当に授業を聞いているのが刺激的であった.今思えば,確実に痛い薬学生であったと思う.
今と違って,しっかり教育的なものを,筋道を立ててくれるような授業ばかりではなかった(と勝手に思う).好きな研究などを話してばかりの先生もいて,色々だったけども,それなりに薬学を学ぶことができている楽しみを,当時は感じることができていた.
薬剤師国家試験程度しか大きなイベントがなく,卒業,進級試験も通常通りの勉強であればそれほど問題にはならなかった時代だからこそ,こんな悠長なことを言えるのだろうと思う.
今の薬学生は6年生になった時点から,私たち4年生薬剤師とは異なり,より高いものを求められる使命を追っている,と考えている.実習もそうである.
それだけ医療が進歩していて,実践能力が必要とされている.
学ぶことに終わりはないわけで,6年生のカリキュラムが大幅に改訂になること自体も,それほどびっくりすることではない.卒業して終わるわけではないし,一生涯勉強し続けなくてはいけない.それを学生の時に感じることができるような教育システムができるとよいのではないかと感じる.
これからの未来ある薬学生に,少しでも有用な教育が施されるようなシステムづくりが進むことを願っている.