ここ数日、AIと医療についての話題がでている。薬剤師業務について考えてみたいと思う。
人工知能(AI)により薬局の調剤業務を効率化
The AI Times 2018年11月12日
https://aitimes.media/2018/11/12/915/
AI活用でカルテ音声自動入力…横須賀の病院
YOMIURI ONLINE 2018年11月13日
https://www.yomiuri.co.jp/local/kanagawa/news/20181113-OYTNT50140.html?from=tw
癌の早期発見で、医療AIが専門医に勝てる理由
Newsweek 2018年11月14日(水)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2018/11/ai-43.php
薬剤師業務とAI、以前より大部分がAIにとってかわられる時が来るかもしれない、という話は出ていた。それはほぼ正解だろうが、完全には正解ではないであろう(大部分という意味では正解かも知れないが)。
今行っている業務が、本当に薬剤師でなければ行えないものか、考えたことはあるだろうか。
私は日ごろから医薬品情報に接することが多いので、日常からよく考えることが多い。この領域は、薬剤師業務の中で、最もAIの恩恵を受ける部分が大きいと思う。
病棟業務や投薬業務などの、対患者業務では、おそらく薬剤師本来の業務としてこれからも必要な部分であろうし、AIが進化して、とてもスマートなロボットがでてくれば別(?)だが、人と人はやはり薬剤師業務の根底にあるものだと思う。
そうすると、人との関係が苦手な薬剤師は、これからは言い訳を言っていられなくなる時が迫っている、という事になる。私も苦手なのだが、どうしたものであろうか?
医療、特に診断という、医師の最も重要であろう部分でも、AIについての有用性が報告されている。上記Newsweekの記事の通りだが、皮膚がんの診断に際しても、今後大きく環境が変わる可能性を秘めている。
将棋の世界でも、AIがプロ棋士に勝利した、というニュースは、当時は衝撃的であったが、もはや今となっては驚くようなニュースとはならなくなってしまった。同様のことが医療においても少しずつ起こってきている、という事になる。
薬剤師業務に話を戻すと、上記The AI Timesの中では、オランダの報告がされている。
基本的な調剤業務をAIに任せ、薬剤師がチェックをする。それによりより患者とのコミュニケーションに力を入れることができる。
私たちが考えているより、さらに進んでいるのかもしれない。
pharmacy management systemというもので、次世代のものは薬局のシステムや他の外部システムからえられる患者データに基づき、タイムリーに薬剤関連の問題を識別する。
具体的なものは詳細な記載はないが、薬剤師の業務のうち、重要な薬物関連の問題に関する負担を軽減する、ようである。
医薬ジャーナル 2018年4月号
これからの医療を担うのは,AIか人か?
政田幹夫先生の寄稿がある。
https://www.iyaku-j.com/iyakuj/system/dc8/index.php?trgid=34347
以下一部引用。
AIがそれら全ての情報を元に,診断から治療方針の決定,調剤,監査,一般的な注意事項の説明,検査値のモニタリングなどを行い,副作用の可能性を示唆することなどが予想される。そして,これは決して遠い未来の話ではなく,具体的なイメージができるほどに近い将来のことである。
さて,その時に医療を担う人材として活躍できる自信とスキルを備えている薬剤師はどれほどいるだろうか?
自分はどうであろうか?薬剤師として、自身もスキルもあるであろうか?
2017年末の規制改革推進会議において,厚生労働省は“薬剤師でなければできない業務”,“調剤という行為の範囲”について,「処方せんの受付から疑義照会,薬の取り揃え,監査までを“狭義の調剤”とし,“調剤は薬剤師が行わなければならない”とまでは考えていない。ただし,内容により“個別の整理”が必要である」との見解を示している。(規制改革推進会議 医療・介護ワーキンググループ 12月5日 議事録)。調剤テクニシャンやアシスタント制の導入を暗に認めるような表現である。
とある。すでに調剤は、薬剤師だけのものではない、という認識を持たないと、次なるステップへは進めないのである。
調剤助手、テクニシャンを導入している病院薬剤部は私も知っているし、見学にも行っている。綿密なマニュアル、テストなどのカリキュラムを整備すれば、われわれ薬剤師側にメリットがある。ただ、調剤業務に関しては、いまだ薬剤師のものであるという束縛から脱し切れていない薬剤師も存在する。
上記The AI Timesの中の記事、Forbesの記事によると
薬剤師の中には新しい技術を導入することに抵抗を感じる人も少なからずいるようだ。しかし、業務を自動化するために必要なコストも年々減少する傾向があり、AIの参入によって薬剤師業務はさらに効率的になるだろうと予想している。
とある。
実際読んでみても、実に論理的に書かれている。
The Growing Trend Of Pharmacy Automation
・AIの進化は、より小さな薬局でも利用可能になっている。
・薬局はビジネスとしては古い方法を維持している
・自動化により、自動化が不可能な業務に時間を使える
・人は間違いを起こすが、自動化することで大幅に軽減
・自動化の新しい技術が開発されることによって、薬局は効率的で、安全になる
米国でのドラッグストアの情報を聞いた時、スーパーに変わるものになるのでは、という予感がした。日本で間もなく導入され、現在に至っている。個人薬局でOTCを扱っていた薬局で研修もしたが、今はもう存在していない。米国の状況がすぐに日本に受け入れられるかは分からないが、すぐそこまで迫ってきていることと、新しい情報を取り入れる、という必要性はあると思う。
再度政田先生の記事より
カナダの薬剤師とテクニシャン・スタッフの話を例に,「日本の薬剤師業務の95%は,カナダでは非薬剤師が実施できる」と言い切っている。「処方監査・処方提案など,医師とのやり取り等の対人業務や高度な臨床判断と医療行為ができない,あるいは,したくない薬剤師が対物業務を担えばよい。重い責任を負えずに医療人としての職能から目を背ける薬剤師が出てくることも考えられる」とも言う。薬剤師の二極化を推奨しているようにとらえられる表現には反対の意見を持つ人も少なくないと思うが,反論する前に,現状の医療現場の薬剤師,教育現場の薬剤師を俯瞰してみるべきであろう。捻れ,歪みが見えたのではないだろうか。
薬剤師は人手が足りない、というのは、どこも同じであろう。病院もそうだし、薬局もそうであろう。人手が足りない、というのは今、なのだろうが、今後のことを考えて、色々なことを考えておかなくてはいけないと思う。人を雇う、という事はその人の人生にも影響することで、一度雇ったらしっかり働き続けてもらいたいし、そうあってほしい。
しかし、新しい薬剤師が来た時に、やはり未来ある仕事をしてほしい、というのは我々が考えるべきことであろう。
錠剤を一つ残らず間違えずに、とにかく早く集める、というのが求められているのはどこも同じであろうが、それだけではない時代も迫ってきている。経営者や管理者が、次なる薬局のビジョンをもたず、現在のみを考えているような職場であってはほしくないと思う。
病棟薬剤師業務の時間を圧迫しているものの中に、電子カルテを導入していても、指導記録の記載、という時間がある。医師のサマリーの記載や看護師の看護記録の記載も同様である。保険薬局での記載も同様である。
時間がない、というのは誰もが感じるし、特に病院では問題点の立て方やプランなどについて、詳細に記載する場合が多い。テンプレートを用いる場合もあるが、それ以上にオリジナルの記載を求められる場合も多い。
数名にあっていると、その場で残さないと、何を話していたか忘れてしまうこともしばしば経験した。
上記、YOMIURI ONLINE、AI活用でカルテ音声自動入力…横須賀の病院の記事を見てもわかる通り、患者に説明を行う際に、大抵は自分の声で行っている。筆談になる場合もあるが、基本的には話して説明することが多い。その発している言葉をそのまま記録に残せればよいわけで、音声認識技術もこれだけ進歩しているので、大きく変わると思う。当施設でも一部の部門では採用されているし、開業されていて、在宅診療を行っている医師も同様に音声入力を用いているところは見たことがあるが、スムーズに行っていた。複雑な医学用語にも対応しているようである。早く導入できないものかと思う。
薬剤師がいない、時間が足りない、記録はしっかり記載しなくてはいけない。それがこのような技術で解決に進むかもしれない。すぐにではないが。自分の話した言葉がそのまま記録に残るとなると、もう少し分かりやすく、しっかしたことを伝えなくてはいけないかもしれない。いい加減なことは言えなくなるし、質も向上するかもしれない。
このような時代はもうすぐそこまで来ている。私も含め、雇われる側は、薬剤師として、次世代に向けて、覚悟はできているか。その時代に見合った医療を提供できるか。AIが担ってくれる部分を的確に判断し、薬剤師が行える業務は何かを自分で考え、そのスキルを磨いておく。すべての薬剤師に、頭の片隅に置いておいてほしい。